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異世界転移事故事例14号  作者: 北見鷹多
Ⅱ 社会
9/14

Ⅰ-Ⅷ 交渉-①

 月が沈み、太陽が昇る前の午前3時30分ごろ。世界はこの頃が最も暗くなる。明り取りの天窓からも星明り程度しか光が差し込まず、俺の目でもトニトリウスの姿はぼんやりとしか捉えられないでいる。

 しかし、彼の発する奇妙な威圧感は、それだけで肌が粟立つほどのもの。彼からは、長年の戦働きで染み付いた血の匂いと、命令することに慣れた威圧感が漂ってくるのが分かる。

 これが皇帝。

 これが王者。

 涼やかながらも重い声が、事務的に問うてくる。


「今一度問うぞ。お前たちは何者か」


 ――気圧されるな。

 気持ちで負けていては、勝てる相手にも負けてしまう。元より相手は俺より上だ、決して気持ちで負けてはならない。

 俺は宣誓するように、しかし実態はただ威圧感を振り払うために、胸を叩いて名乗りを上げた。


「私はアキラ」


「私はプラスタグスの子、エスィルトと申します」


「プラスタグスの子、エスィルトか。ではアキラ。お前の氏族名ノーメン家族名コグノーメンは何と言う」


 薄々感づいては居たが、エスィルトに聞くまでは確信が持てなかった事に、マーレの民の命名規則がある。

 マーレの民は古代ローマ人と同じように、個別名プラエノーメン氏族名ノーメン家門名コグノーメンから成る、3つの節で構成された名を持っているのだ。

 氏族名ノーメンはゴブリウスやオルクスなど、氏族を表す第二名。家門名コグノーメンは、その者が属する家門の名を示す第三名。

 貴族パトリキならば貴族の、平民プレブスならば平民の家門名を持つ。第二、第三名を聞けば出自が分かるのだ。

 トニトリウスの問いは、平たく言えば『お前の出自を答えろ』に他ならない。


「私に、それはありません」


 だが、俺はノーメンとコグノーメンを持たない。個別名のみの名を持つ者はマーレの民ではないという事に――蛮族出身であるという事になる。

 立場は明白にした。

 交渉はここからだ。


「蛮族か。まあよい。朝も早くに何用であるか。手早く申せ」


 相も変わらず、涼やかで重い声が、感情を出さず、事務的な誰何を重ねてくる。


「我々を、トニトリウス帝の子分クリエンテスにして頂きたい」


 ――トニトリウス帝の庇護を得るなら、子分クリエンテスになっちゃうのが一番だね。

 野営の間、作戦を練っている俺に、エスィルトはそんなことを言って来た。

 このマーレ帝国という政体において、私的な縁故関係こそが強い意味を持つという。

 警察組織と言えるものは存在しない。基底現実の分類で言うならば、マーレ帝国は極めて小さな政府と言えるだろう。軍隊は国境や属州を守るだけで、マーレ本土に至っては軍団の進入さえ禁じられているらしいのだ。


 ならば、私的な紛争はどうするか。

 案件を親分パトロネスが預かり、親分同士で調停するようになっているのだ。

 逆に言えば、親分がいなければ、係争では非常に不利になる。自費で弁護者を雇わなければならず、自力で助からなければならない。

 だから、マーレの民は有力者に贈賄をしてでも子分になろうとするのだという。そうしなければ、自分の財産どころか命を守る事さえ難しいから。

 俺の思い付きは、この政体の中でも的を外したモノではなかったのだ。マーレ帝国で最も力を持つ皇帝の庇護を得れば、エスィルトに手を出そうとする者は居なくなる。これこそが現状から脱するための最善の一手だと、今では確信している。


「ほう。だが、私は皇帝だ。この国家全体の親分である私が、私的に子分を迎える必要がどこにある?」


「今、私がここにいる事。それが必要性の証明になるかと存じます」


 彼の言う事はもっともだ。マーレ帝国の皇帝アウグストゥスであり、第一者プリンケプスであり、軍事最高責任者インペラトルであるトニトリウスは、多くの子分に守られている。

 だが、そこには穴があると――俺にかかっては穴に過ぎないと教えてやるのだ。

 俺という脅威があると知らしめることで、俺たちを子分として売り込む。この侵入はそのための策である。

 俺は、身体能力チートを利用したとはいえ、堅固なエボラクム要塞の、最も厳重に警備されたトニトリウス帝の寝所に侵入してのけた。その事実が、改めて俺を評価の俎上に上げるだろう。

 トニトリウス帝は現実的な男だ。彼は膨大な知識に基づいて考えているはず。今、彼の頭の中では様々な考えが渦巻いているのだろう。例えば、この蛮族は誰の手によるものなのか。蛮族なのは分かったが、出身はどこだろう? ブリタンニア北方の蛮族? ガリア属州の無頼者? それとも、『巨大樹の森』の北方に散逸した、ダキア王国の残党か?

 どれもありうるだろう。マーレ帝国には敵が多すぎる。それこそが、俺の正体に対しては効果的な欺瞞チャフになる――。


「お前は逃亡奴隷だろう。恐らくは親が奴隷の2世代目」


 心臓が爆発するかと思った。

 汗が噴き出す。心臓が早鐘を打つ。口がカラカラに渇くのが分かる。

 ――なぜバレた?


「蛮族であるならば、氏族名、家門名が定まっておらずとも、誰々の子であると名乗るものだ。名乗らぬのは、氏族の誇りも家門の誇りも失った奴隷ばかりよ」


 想定外。くそ、性交で繁殖する時代だと名乗りの仕方にまで前世代が絡んでくるのか。なんて面倒な。基底現実の子供工場チャイルドファクトリー方式の方がよほど効率的なのに。エスィルトの名乗り方にはそういう意味があったのか。思考が四方八方にブレる。

 思考を分散させるな。意識を集中させろ。俺が相対しているのはこの帝国の主であることを忘れるな。

 逃亡奴隷だと露見したことは良くないが、最悪の状態ではない。特に、彼が俺の事を第2世代の奴隷だと誤解しているという所が絶妙だ。

 前世代の形質は基本的に子に遺伝する。そして俺の能力は既に見せている。前時代から有能だったと印象付けられているだろう。そんな者が、今世代になっても解放奴隷になれずに奴隷のまま。それは主がケチであるという事を意味する。

 費やされるべきものには費やすべき。それがマーレの美徳だとセクストゥスが言った。

 俺たちは、あるべき美徳の恩恵を受けられなかった被害者だ。――トニトリウスの誤解に基づけば、そういう事になる。

 事態はまだ破綻していない。天秤は、未だ俺の方向に傾いている。


「そうです。私は逃亡奴隷です。吝嗇の主から逃げて参りました」


「マーレに、お前のような奴隷を救済する法は無い。逃げ出すのも理解はできる。不法行為だがな。話の次第によっては、お前たちを主の元に返すことになるだろう」


「我々の要求は先に述べた通り、あなたの子分にしていただくことです。それが叶わないのであれば、逃げる他ありますまい」


 ――乗って来た。脅し文句は足元を見ているがゆえであり、足元を見ているということは買う意思があるということだ。

 それも当たり前だ。

 仮に、俺をここで雇わないとする。俺たちはもちろん逃げる。トニトリウスもそれは分かっているだろう。そうしたらどうなる?

 トニトリウスは、命が危うくなると考えるはず。なぜならば、いついかなる状況でも侵入出来てしまうと、このエボラクム要塞への侵入が証明しているからだ。

 ここでアキラを長衣の襞に納めなかったとしよう。

 そうすると、俺が元老院や蛮族の手先になった場合にどうする? いかにトニトリウスが強くとも、生物には睡眠が必要だ。寝首を搔かれてはひとたまりもない。

 殺すか、さもなくば手に入れるか。二つに一つだ。

 だが、逃亡奴隷として来ているという事は庇護を必要としているということ。何故? 単独で、どこでも生きていけるであろうこの者が、どうして庇護を求めるのだろう?

 ああ、そうか――分かった。

 エスィルト。この者が鍵だ。

 その者の保護を確約すれば、いかようにでも篭絡できよう。


 ああ、そうだ。その通り。俺はエスィルトを守りたい。守ってほしい。その思考こそが俺の辿ってほしい思考なのだ。

 思考がそこに至れば、トニトリウスの中から俺を雇わないという選択肢は消えているはずだ。

 心臓がドクンと脈を打つのが分かる。読み違えてはいないか? トニトリウスの考えている事は想定の通りか? 俺の読み通りなら、次に来る言葉は裏切り防止の確証を要求してくるはず。


「よかろう。だが、アキラ。お前が裏切らないという確証が欲しいな」


 ――当たった。心の中で快哉を叫ぶ。

 事態は依然、俺の読んだとおりに進んでいる。

 俺は安心して、エスィルトを示しながら、淀みなく続ける。


「エスィルトは、私にとって大切な方です。彼女を傷つけられたなら、私は何をするか分からないでしょう」


「その女の安全を確保すれば、お前は私の言うとおりに動くという事だな?」


「その通りです」


「うむ――ダメだな」


 ダメ? どうして? いや、駄目ならばエスィルトを抱えて逃げるしかない――。

 しかし、帝王の威圧がその即断を押し留める。曰く言い難い重圧が俺をその場に縫い付ける。

 暗闇の中で、トニトリウスが立ち上がるのが分かる。

 話を始めて10分も経っていない。だから明るさは変わっていない。

 なのに、トニトリウスの姿が、ぼんやりと浮き上がって見えるのだ。比喩ではない。静電気の爆ぜる光が、暗闇にトニトリウスを浮き出させている。

 静電気。たしかに今は冬でここは北だ。帯電は十分に起こりうる。

 だが、なぜ急に爆ぜだしたのか。それが分からなくて。

 何より、トニトリウスが、どうして俺の提案を断ったのか分からなくて、固まったまま動けない。


「アキラよ、古今東西を問わず、帝王というものはな」


 急に俺の目の前に飛び出してきたトニトリウスが、俺の体勢を崩して、床に突き飛ばした。

 複数の驚きが同時に来て、成すべき反射的回避すらもできずに固まってしまう。

 何に驚けばいい? 俺の動体視力で追いつけない速度? 俺の体幹を軽々崩してのける技術? 床に突き飛ばす腕力? いや、それよりも疑問について考えるべき。

 ――俺を明り取りの窓の下に投げ飛ばしたのは何故だ?

 そして、疑問が浮かんだ瞬間に答えが来た。


「策を弄する者をこそ、最も嫌うのだ」


 雲一つない星空から、夜闇を切り裂いた雷が俺へと降り落ちた。

 脳天を貫く10億ジュールの電撃が、俺の全身を電熱で焼く。血流に乗った大電流が、血管沿いのあらゆる細胞が沸騰させる。脳機能の大部分が麻痺。神経伝達が途絶。視界が暗転した。





 聴覚だけが生きている。


「元より、名を聞いた時にお前は助けるつもりだったのだ。プラスタグスの子、エスィルトよ」


 心室細動を起こした心臓が不整脈を起こすが、そもそも焦げた血管は血液を上手く送り出せない。行き先のない動脈血が胸の辺りで滞留し、肺を突き破って口からあふれた。

 思考ができている事に気付く。俺の体は脳の再生が最優先らしい。視覚、嗅覚、痛覚が蘇る。

 焦げた腕の神経が繋がる。右手を胸に突っ込んで心臓を握り潰し、その再生によって疑似的な除細動を行う。


「何故。何故アキラを殺したのですか」


 暗闇の中で俺が蠢いている事に、2人は気付いていない。

 それはそうだ。俺の体はまだ死体と変わらない。


「皇帝を操作しようとしたからだ。奴は私に、お前を保護するように考えを誘導しようとした。この帝国に責任を負う私は、私の思ったように事を成すべきだ。操作されてはならない。操作しようとする者を許してはならない。よって処罰した」


 そういう事だったか。なるほど、確かにこれは俺の失敗だ。暴君でもあるトニトリウスの性格を見誤っていた。

 心臓から流れた血液が全身を巡る。血管に沿って細胞が再生されていく。静脈を通って帰って来た血液に含まれる呼気が、肺に詰まった血の中に気泡を作り出す。

 ごぼごぼ。気管を通るその気泡が音を立てる。苦しい。俺の血で溺れてしまった。

 トニトリウスが俺を振り向いた。


「何故生きている」


 胸に突っ込んだ右手で両肺を、上方向に引き抜く。気管と食道を道連れに、ごっそりと呼吸系を引っこ抜いた形だ。

 人体の許容できる苦痛には限界がある。俺の感じている苦痛は既に限度を超えていて、だから、もはや大した痛みは感じていない。引き抜いた内臓を部屋の片隅に投げ捨て、再生を待つ。

 トニトリウスは、得体が知れないものに触れたくないのか? 攻撃を仕掛けては来ない。

 助かる。数10秒で再生が終わり、呼吸が戻ってきた。


「俺には、再生能力があるからさ」


「再生の……神威を持っているだと? 貴様、ただの逃亡奴隷ではあるまい、いったいどこの何者だ」


 トニトリウスの声は揺れていた。鈴のような重い声に、驚きと怒りの色が見える。

 ――怒るべきは俺の方だろうが。


「黙れよ」


 静かに、しかし怒気を込めて命令を放つ。

 トニトリウスが、慄くように体を硬直させ――それを振り払うように、腰に差していた剣を抜いた。

 鞘走りの音に応じるように、俺もまた、両手を口元に、前傾姿勢のピーカブースタイルを取る。


「基底現実世界からの来訪者。お前が異世界で皇帝になるのはルール違反だろう」


 先ほどの雷は自然現象ではない。

 雷とは雲の中の氷の摩擦によって生じる現象。雲が無い所に雷は生まれない。星空が綺麗な雲一つない空から雷が落ちるなど、自然には起こりえない。

 ならば、あれはトニトリウスの意図による落雷なのだ。俺を明り取りの下に投げ飛ばしたのも証拠の一つに数えていいだろう。

 総合的に判断して、トニトリウスはチート持ちだ。

 別の基底現実からの来訪者――俺と同じ転移事故者なのだ。

 雷無しで脳が焼けた。怒りのあまり血液が沸騰しそうになる。ふざけるな。

 基底現実の者は異世界とは異なる行動規範を持つ。それがチートを振るって異世界を統治だと? ありえない。あってはならない。


異世界アリウム・ムンドゥム? 貴様、先ほどから一体何を言っているのだ」


 しらばっくれやがる。俺は彼の声掛けを無視することにした。元よりここで殺す他ないのだ。


「アウェンティネンシス帝こそが最悪のクソ野郎だと思ったが、お前もそうらしいなトニトリウス。あァ――雷帝トニトリウス。そのチートに相応しい偽名だな!」


 大きく一歩を踏み込み、トニトリウスの顔の位置へと、左で拳打を放つ。ジャブだ。トニトリウスと俺との間合いを測るための牽制の一手。

 俺は基底現実人の帝王など許すつもりはない。ルール違反だからだ。何がなんでもトニトリウスをここで殺す。国家の舵取りは元老院に委ね、エスィルトの身柄を預かってくれる貴族を探すまでが俺の仕事。

 そういえば、このままだとエスィルトを盾にされるか? それは危険だ。隠れて貰わなければ。


「エスィルト、トニトリウスは頼れなくなりました! 部屋を出て待っていてください!」


「アキラ、待って! なんで戦う必要があるの?」


「後で説明します! いいから早く!」


 勿論、彼女に説明する気はない。この理由は基底現実における先進文明の存在が前提となる。

 トニトリウスを殺した後はどうするか。考えながら、首を狙って来た突きを躱す。あれが神鉄で出来ていた場合、被撃を許せば俺は斬首されてしまう。再生にも少し時間がかかり、その間にエスィルトを攫われたら終わりだ。

 同時進行で思考も回す。これから行う俺の暴力は国家に与える影響が大きすぎる。基底現実からのサルベージが来るまで、人が居ない場所へと逃げ続けるしかあるまい。


 ――静電気のシルエットとして暗闇に浮かぶ、トニトリウスの顔へと右ストレート。だが、それも躱され、戻しの早い突きが次々と繰り出される。暗闇だというのに、俺への攻撃が的確だ。


 奥歯のタグはあくまで基底現実との相対座標を記録するためのもの。この異世界での座標を受け取るためには、この世界に転移し、俺に近い位置まで来ないと無理。300km半径の探索はサルベージ部隊との接触地点から起算して行われる。だから、逃げ出せばこの帝国での不行状が知られる可能性は低いはずだ。


 ――蹴りは行わない。攻撃するならあくまで手だ。足を切り取られたら機動力が下がる以上、そうせざるをえない。


 頭を冷やせ。戦闘は理詰めだ。屋内での戦闘において、彼の必殺は突き。俺の必殺も突き。突きを放ち、引き戻すためには体幹の盤石が必要である。

 ならば、まず狙うべきは胴体。腹筋を破壊し、動きを止める。相手がチート持ちである以上、俺と同じように身体強化も持っているはずだ。ならば腹筋の剛性で防御されるだろう。

 それで問題ない。少しでもダメージが入ればそれで良いのだ。首を狙った突きを屈み込み(ダッキング)で躱し、口元から離した右手で胴体にアッパーカット。

 トニトリウスの頑強チートな腹筋はやはり粉砕されることなく持ち堪える。しかし、ダメージが入ったのは確からしい。彼は苦悶の声を漏らし、殴られた勢いのまま、バックステップで寝室の外へと飛び出した。

 二つの意図を持った行動と即断。第一に逃走と体勢の立て直し。

 第二に――まずい。エスィルトを追っている。

 戦闘姿勢を崩し、ダッシュでトニトリウスを追いかける。

 だが、トニトリウスは急停止した気配がする。

 一瞬の判断。エスィルトを追いかけようとしたのはフェイク――突きに備えて左手を斜めに構えて盾とする。だが、それもフェイク。彼は俺の左腕を掴んで投げ飛ばした。くそ、妙な体術だ。それに投げ飛ばされた場所が悪い。

 回廊に囲われた中庭。

 ――空の下に引きずり出された。

 着地した次の瞬間、暗闇を割いて雷鳴が轟く。だが、来ると分かっている雷にそのまま打たれるほど俺は鈍くない。横っ飛びに雷撃を避ける。雷は地面に直撃している。これなら側撃雷のダメージも考えなくてよい。トニトリウスの次の一手を見極めようと、彼を見つめて。

 雷撃に照らされた彼の顔を見て、驚愕が来た。


 まず、身長は俺より低い。今まで出会ったトニトリウスの同族は誰も彼も高身長だったので、これは意外な事だった。就寝中だったからだろう、体には下衣しか纏っていない。しかし、それによって、彼がしなやかな筋肉に覆われている事がよく分かる。実用性に特化した、完成された戦士の体がそこにはあった。

 その顔立ちは美麗の一言に尽きる。白皙の美貌が雷光を受けて輝いている。

 金糸の如き金髪は、しかし酷い癖っ毛だ。短く切り揃えられてはいるが、まるで波がうねるようである。朱を引いたような鮮やかな唇は、硬い意志を示すように引き締められている。

 目は、アーモンドに似たぱっちりとした形。しかしその中にある瞳は翠玉エメラルドに似て、今は収縮している。驚いているのだ。

 しなやかな柳を思わせるその立ち姿は、完璧な容姿と言って差し支えが無い。

 そして何より、暗闇でもはっきりと分かる長い耳。

 ああ、なんだこれは。どういうことなんだ。

 ――トニトリウスはエルフだったのだ。

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