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銀河戦國史 (褒美を求めて百光年)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第8話 御棟梁! 再出立で御座います

「おい、ツルムよ」

 いつにない真顔で、我が主が語る。「面子など、何ほどのことがあるというのだ。

 わしの大切な家宰に惚れてくれた女がいて、家宰の方も女を愛おしく思っているのだぞ。こんな二人を添いとげさせるという一大事を前にすれば、一門の面子など、問題にもならぬわ」

「ご・・・・・・御棟梁ぉぉぉ」


 領主にとって最も重要なのは、食邑の経営を軌道に乗せることだ。

 家臣や領民たちといった、多くの人々のくらしや命を、背負っているのだから。家宰のプライベートに立ち入って世話を焼くなど、二の次三の次のはず。


 領民たちを飢えさせておいて、家宰の嫁取りに首を突っ込むなんて、的外れもはなはだしい。

 食邑の経営のために他の一門を頼るのは、一門の面子を潰すから嫌で、家宰の嫁取りのためなら構わないというのも、あまりにも現実をふまえない身勝手な言い草だ。


 そんな理屈をいくつ並べてみても、主への感謝の気持ちは、抑え切れるものではなかった。

 こんなにも愛くるしい嫁を得た喜びと共に、主への感激が、留まるところを知らなかった。


 にくたらしいわがままを百個口にする合間に、こんなうれしいことを1つやってのける。

 それでこちらは、この人の為なら命も惜しくはない、なんて思わされてしまう。

 翌日から私は、いっそう張り切って探索に繰り出した。上手く乗せられたとの思いも、少し抱えながら、そのことにすら、幸せを感じながら。


 だが移動手段は、この直後に、あっさりと確保できた。

「何? この所領を知行している一門が、保有しておるタキオントンネルを無償で使わせてくれると言っておるのか? 」

「はい、ツルム様・・・・・・いえ、旦那様。実は・・・・・・」


 娘―—ではなく、我が新妻が言うには、つい先日まで奉公先であった件の有力家臣が、内密で都合を付けてくれたのだという。

 我が一門の、先の戦役における “一番ミサイル” の功を知って感服し、そんなわが一門と親交を築くことを、彼の一門にとっても有意義なものであると受け止めて、独断で決定してくれたとのことだ。


「それに、小型の戦闘艦もひとつ、操艦に必要な乗組員を付けて、貸与していただけるそうで。

 貸与といっても、返却に関して条件はありませんから、事実上は頂いたと言ってもよいでしょう」


「我らの一門を、それだけ高く評価して下さっているということか。

 家宰である私と、使用人であったお前が結婚したことがきっかけとなって、そんなにも手厚く遇していただけるようになるなんて」


 主が素性を名乗ったといっても、我々が政府機関への移動手段を捜索していることまで、明かしてしまったわけではない。

 だが、領主が自ら内密に他所の所領に入りこむという危険を冒している事実から、移動手段を提供する必要性を、感じとってくれたのだろう。


 なかなかに卓抜した慧眼といったところだが、おかげで助かった。

 絶望しかけていた移動手段の確保が、苦もなく達成されたのだから。


「おい、ツルムよ」

 我が主も、諸手をあげんばかりの喜びようだ。「よくやってくれた。こんな見ず知らずの異邦の宙域で、超光速の移動手段を確保するなどという難儀な使命を、よくぞ成し遂げてくれた。

 やはり持つべきは、優秀な家宰であるな。褒めて遣わすぞ」


 どれだけ不満を持とうとも、何度怒りや恨みの感情をいだかされようとも、主からこうやって直々に褒められれば、飛びあがるくらいにうれしくなってしまうのが家宰というものの性だ。涙まで、出そうになってしまう。

 結局は、主に褒められてなんぼの存在なのだった。


 とはいえ、今回の件は、主が自身で目的を達成したようなものだ。娘を嫁にもらうための労を、主がとってくださったことで、移動手段が転がり込んできたのだから。

「御棟梁。お褒めいただくには至りません。私の活動ではなく、御棟梁の御英断こそが、決め手になったのですから」


「おい、ツルムよ」

 状況を理解しているのかいないのか、よく分からない主の見解。「お前に命じたことが成し遂げられて、お前の手柄でないわけがあるか。

 わしの行動がどんな影響を与えたとしても、そんなことは関係ないのだ。

 お前は素直に、褒められておけばいいのだ」


 そんな言葉にも有頂天にさせられた数日後に、私たちは、当宙域からの出立の時をむかえた。

 戦闘艦を動かすために頂戴した操艦要員と我が新妻を、新たな旅の仲間に加えて。


 旅が再開すると、我が主は再び、旧態依然の役立たずに戻った。

 戦闘艦の司令官席でふんぞり返っているだけで、何もしないし何もできないし、何も分かっていない。


 だが、そのことはいささかも、旅の支障にはならなかった。

 艦とともに頂戴した操艦要員は皆、プロフェッショナルな働きぶりを見せてくれた。

 最小限の指示だけで、てきぱきと業務が遂行されていく。3年前の戦役の時より、はるかに楽に艦を操れた。


 加速時も、苦痛をともなわない範囲での、最大限のスラスター噴射を実施してくれ、スピードと快適性を両立してくれた。主につらい思いをさせることなく、先を急ぐことができた。

 加速から減速への移行時も、航宙指揮室そのものを、タイミングよく回転させることで天井と床が入れ替わらないようにしてくれたので、一瞬体が浮き上がりそうな感覚を味わったくらいで、大きな苦労もなく乗りこえられた。


 タキオントンネルのターミナル施設を利用する行程も、全く問題なく済んだ。

 食邑からの出発直後に利用したものより、小規模である今回の施設に入りこむのも、繊細で難儀な操艦の連続であるはずのところだったのだが、それを感じさせなかった。


 円筒形ですらない、蜘蛛の巣のような網目構造を持つ円盤形のターミナル施設へのランデブーから、ターミナル内の移動、タキオン粒子の補足と同調、光速の千倍の速度への加速という、誰もが苦労するはずの作業が、航宙指揮官である私が気付きもしないうちに、いつの間にか終わってしまっていた。


 我が愛妻も、嫁という立場とは思えない働きぶりで、私の操艦業務を補佐してくれた。

 副艦長と言っていい存在感を発揮し、操艦要員の仕事に目を配っていた。

 ここに来るまでとは、隔世の感があるほどの快適な旅を、私も主も楽しめたのだった。


 たった一つ起こったトラブルは、出発してからタキオントンネルのターミナルに至るまでの移動時に、またしても、盗賊に襲われたことだった。

 しかしこれも、優秀な操艦要員たちが、たちまちにして撃退してくれた。


 ど素人ばかりの駆る、たった12艘の戦闘艇団だけで迎え撃った前回とは、全く違った。

 操艦要員がプロフェッショナルの集まりであるのに加え、高性能なミサイルを使うこともできたので、私などは、高みの見物をしていれば良かった。


 散開弾という、金属片を高密度に、且つ広範囲にばらまくタイプのミサイルで、すばしっこい戦闘艇の群れを一網打尽に、撃破できるのだ。


 こちらの放ったミサイルが、内部炸薬を炸裂させて展開し、金属片がばらまかれるのを察知するや否や、襲って来た盗賊は回れ右をした。そして、前回はお目にかかれなかった素晴らしい逃げ足を、見せつけながら去って行った。

 盗賊にとって、最も必要な能力なのだろう。


「ミサイル一つで、襲撃を断念せねばならなくなるようでは、彼らの稼ぎも、高が知れているのだろうな。

 バーク殿たちもそのような境遇にあるのかと思うと、同情の念を禁じ得ないな」


「まあ、旦那様。何とお優しいこと。

 確かに、そうでございますね。襲撃に失敗して逃げ帰った後の、あの人たちの暮らしぶりというのは、想像するだけで心苦しいものがありますわ」


「襲撃を受ける頻度から考えても、ああいったみじめな生活をしている者たちが、この国には溢れておるのかな」


「ええ。わたくしが奉公しておりました一門でも、所領の中や周辺に、とても多くの盗賊の存在を、認知しておりましたわ。

 その多くは、元はどこかの所領の、住民だった者たちだそうです。

 一門が滅亡するとか、経営難から所領の一部が放棄されるとかいったことが原因で、頼るものが無くなってしまった人たちだとか。国の体制からはぐれてしまっていることから、『アウトサイダー』などと呼ばれているとも、聞いたことがあります」


「そうか。私も、耳にしたことのある言葉だな。アウトサイダーか。

 属するべき一門も、頼るべき権門もない、宙ぶらりんの存在なのだな。

 それと比べれば、無理難題にこき使われる毎日とはいえ、寄るべき主を持つ私は、恵まれた立場なのかもしれぬな。

 この国にいる膨大なアウトサイダーの一部が、あんな盗賊団を作り、成功率の低く実入りの少ない盗賊行為で命脈を、細々とつないでいるのだな」


 想像を巡らせると、胸が締め付けられるばかりの現実だ。

 だが、わが新妻は、そんな思いを打ち消すかもしれぬ情報を、前の奉公先から得たものとして、教えてくれた。


「弱小な武装集団ばかりでは、無いそうでございますわ、旦那様。

 アウトサイダーの創り上げた集団の中には、とんでもなく高性能な戦闘艇などの武装と、高度な訓練を施されたパイロットをもっていて、無敵の戦いぶりを見せるものも、あるとか。

 散開弾が作り出した金属片群の壁を、一艘も損なうことなく突破できてしまうし、たった十数艘の戦闘艇だけで、戦闘艦を撃破してしまえるくらいの実力さえ、持っている集団もあるとか」


「な・・・・・・何と!

 戦闘艦を戦闘艇で撃破するには、50から百艘くらいが一丸となって挑みかかり、10から20艘くらいを犠牲にしてでなければ成し遂げられぬはずというのが、一般的な認識だぞ。

 それを、体制から零れ落ちた者たちの集まりでしかないはずのアウトサイダーが・・・・・・。

 そんな者たちに出くわしていたら、私たちはとっくに、命が無かったな」


「それだけでなく、自前の空母を持っているとか、どこかの所領において、領主の管理が行き届かぬ宙域に、強力な拠点施設を持っているとか、そんな情報も、未確認ながら伝わって来ておりました」

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/7/9  です。


 盗賊や傭兵をやっているアウトサイダーの中に、とてつもなく強力な一団がある、という今話の記述を見て、思い当たるものがある方もおられるかもしれません。


 本シリーズをずっと読んで頂いている方がもしおられれば、過去の作品に登場した盗賊団兼傭兵団を思い出して頂けるのではないかと思います。


 本作品は、過去のある作品のスピンオフ的な形で案出されており、その作品もこの作品も、共通したある歴史上の存在をモチーフにしています。


 過去の作品に登場した盗賊団兼傭兵団は、従来の政権の打倒に貢献しただけでなく、新政権の樹立にまで首を突っ込みました。

 もちろんそれは創作です。


 実際の歴史上に、新政権の樹立にまで首を突っ込んだアウトサイダーというのは、いたのでしょうか?

 想像すると楽しくなります。


 坂本龍馬というのも、土佐藩を脱藩した身でありながら明治新政府の樹立に貢献した、強力なアウトサイダーと言えるかもしれませんが、盗賊とか傭兵とかいうのには、縁が無かったのかもしれません。

 海援隊は、傭兵に近い活動はもしかしたらあったのかもしれませんが、盗賊稼業には手を染めていないというのが、作者の個人的な理解です、が、どうなのでしょう?


 同じことを何度も言うようですが、シリーズ全体や史実の方にも考えを巡らせながら読んで頂けると、より一層楽しめる、そんな作品作りを心掛けているつもりです。


「つもり」を現実にしていくには、まだまだ実力が足りていないのは自覚しておりますが、それでも、作者の「つもり」を念頭に置いていたけると、大変ありがたいです。

 なにとぞよろしくお願い致します。

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