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銀河戦國史 (褒美を求めて百光年)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第6話 御棟梁! 一難去ってまた一難で御座います

 盗賊にさらわれた捕虜の身では当然だが、他を差し置いての厳しい冷遇は、理由を知りたかった。

 問いただす機会は、程なく訪れた。盗賊の2人連れが、我らの数日分の食料を運んで来た時だ。


「お前ら2人が、名も無い庶民を装って実は、どこかの名のある門閥の者かも知れぬと、こいつが言うもんだからな。

 後でじっくり調べようと、隔離してあるんだよ。なあ、バークよ」


「応よ。搾り取る財産のある身かどうか、後で身ぐるみ剥いで歯型から骨から内臓から、あれこれ調べてデーター照合する算段さ。

 ここならそれが、やり易いんだよ。俺は、名声や財産のあるヤツが大嫌いだから、けちょんけちょんにいじくりまわしてやるぜ。ひゃっはっはっはっは・・・・・・」


「それで、財産があると分かれば根こそぎにするし、無いと分かればとっとと殺る。

 まあいずれにしても、そんなに長くかかることじゃないから、安心してていいぜ。キャッハッハッハ・・・・・・。

 さて、こいつらのことは後に回して、勝利の祝杯と行こうぜ、バークよ」


「いいね。奪った酒で一杯やるのは、盗賊稼業最大の至福だからなぁ。うっひゃっひゃっひゃっひゃ・・・・・・」


 我らの所領でも、外部の医師にメディカルチェックを受けたことくらいはあるので、その時のデーターが流出でもしていれば、我らは素性を知られてしまうだろう。

 知られて、寂しい我が一門の財布から、更になけなしの財産を搾り取られるか、知られずにただ殺されるか。財産を搾り取られた上で殺される可能性もある。

 いずれにしろ、お先真っ暗な気分で、無重力のモジュールを泳ぎ去って行く盗賊2人を見送った。


 すぐにでも、身ぐるみ剥がされる検査が行われるのかと怯えて過ごしたが、50時間ほど放置された。

 その間誰も、姿も見せないので、盗賊どもの様子も思惑も知る術がない。


 主は、ほとんどを寝て過ごしていた。

 こんな状況で爆睡できる図太い神経を羨みながら、わずかには怒りも燃やしながら、私は考えに沈んでいた。

 ここにあるものを使って、脱出する方法はないものか。盗賊どもの、次の行動を予測できないか。奴らの一人を、適当な儲け話で丸め込んで、仲間に引き込めないか。


 と、突然の爆発音。強烈なG。目が回るような回転。宇宙船が急回頭したのか・・・・・・いや、宇宙船サイズの物体が、こんな速度で回転するものか。

 Gの感じからしても、宇宙船にはあり得ない急加速らしい。

 まるで、モジュールだけが宇宙船から切り離されて、吹き飛ばされたような・・・・・・と考えていたら、その通りだった。


 沈黙していたコンソールに突如灯が入り、いくつものディスプレーやモニターが明滅したり、画像を表示したりし始めた。

 モニターに映る複数の模式図は、我らのいるモジュールが、宇宙船から回転しながら離れて行く様子を告げていた。


 レーダー解析図によれば、回転速度も離脱の加速度も、かなりのものだ。

 熱源分布の様子は、爆発直後の特徴を示している。爆発事故でモジュールが吹き飛ばされたと考えると、辻褄が合う。


「う・・・・・・何事だ? なんの騒動だ、ツルムよ」

 今頃目覚めた主に驚きつつ、あの爆発音と強烈なGの中で、5分間くらい眠り続けられる図太さに感心しつつ、今わかる範囲のことを私は報告した。


「なんと、漂流しておるのか。我らはどこに、流れ着くのだろうかのう・・・・・・」

 どこにも流れつかない可能性が圧倒的に高いことを、分かっているのだろうか?

 広大な宇宙で漂流したのだから、死ぬまでにどこにも辿り着けない可能性が、ほぼ百%だと。

 宇宙を彷徨うモジュールの中で、餓死か凍死か窒息死を待つか、自殺をするかしか、選択肢が無くなってしまった現状を。


「我らの素性が判明せず、とっとと殺すという宣言が、実行に移されたのかもしれませぬ」

 苛立ちまぎれに、考え得る限り最悪の可能性をずけずけと言葉にした私は、コンソールが着信を告げていることに気が付いた。


「誰かと繋がっているのか? 助けてくれ。漂流しているらしい。救助を乞う! 」

 無駄だと思っても、やるだけのことはやらざるを得ない。絶望を押し殺し、声を大にして呼びかけた。


「漂流ではありませぬ。ご心配はご無用でございます、ツルム殿」

「その声、バークとか言った・・・・・・」

 食事を届けた盗賊が、前回聞いたのとは全く別人のような、盗賊らしからぬ言葉遣いで私を驚かせた。


「私は、先の星団防衛戦役において、一門が全滅してしまったことによって所領を追われ、盗賊に身をやつすに至った者に御座います。

 我が一門は武運つたなく滅亡し、こんなみっともない様を晒すハメに陥りましたが、あなたの一門が、敵に一番ミサイルを突き入れて味方を勝利に導いて下さったことは、存じております。

 我が主の仇を討ち、我が一門の無念を晴らしてくださったのです。我ら一門は、あなた方に絶大な恩義があるのです」

「そ・・・・・・そうでしたか」


「今の私は、この盗賊団以外に身を置くところも無い故、こんな形でしか、あなた方に恩返しができません。

 ですが、そのモジュールは、爆発事故で吹き飛んだように装って、約10日後にある有力門閥の所領に行き着くよう、軌道調整してあります。

 しばしの窮屈は、ご辛抱いただかねばなりませぬが、命を失う危険は御座いませぬ故、御安心召されますよう」


「バーク・・・・・・殿、かたじけない。このご恩は、終生忘れませぬ」

「これ以上は、盗賊どもに気取られてしまいます故、私はこれにて、御免! 」


 通信は切れた。12日間の無為という苦痛が、その後には待っていた。

 特に、食料の尽きた最後の5日は空腹にも苛まれ、もう辛抱も限界というところで、我らはある商船に救助された。


 バーク殿の言っていた門閥の所領の少し手前だったらしく、そこに向かっていた商船が、我らを偶然に見つけてくれたようだ。

 命拾いを確信した時には、改めてバーク殿への感謝が沸き上がった。主の命で成し遂げた武勲が、こんな形で、命を助けてくれることになるとは。私は少し、主を見直した。


 有力門閥の領内とは言え、私には初めて来る所だ。

 商船のたどり着いたこの見知らぬ場所で、私は再び走り回らなければならなくなった。

 ここから政府機関がある要塞への移動手段を、改めて確保しなければならない。


 こうなると我が主は、まったく使い物にならない。

 一時の尊敬がきれいさっぱり吹き飛ぶくらいに、主は何もしてくれなかった。

 着いた日に見つけたボロボロの安宿に、缶詰めにしておいても文句を言わないのが、唯一のとりえといった状態だった。


 虜囚からの脱出の果てに流れ着いた門閥の所領が、30個ほど内包している有人星系の一つが、“ 宿場星系 ”と呼ばれていた。

 この星系自体は、資源採取に不向きな “痩せた星系” に類するのだが、多くの “肥えた星系” に囲まれた中心部に位置することから、それらと他の門閥の所領などとを結ぶ、重要な中継拠点となっているのだった。


 両側に色とりどりの店が軒を連ねた、人ごみで賑わう通路を、私は歩いた。

“宿場星系” の最外殻をまわる第四惑星の衛星軌道上に浮かぶ、リング状の宇宙建造物の中に、そんな通路があるのだ。


 旅の商人たちに様々な品を売る店や、彼らを泊める宿屋などが、隙間なく並んでいる。

 客を呼び込む声が四方から聞こえ、さまざまな料理の香りも漂ってくる。

 活気にあふれた小商都が、リング状の宇宙建造物内に現出していた。


 ここでどうにか、移動手段を見つけなければならない。

 我が食邑から百光年を移動してきたらしく、距離だけなら、食邑と政府要塞とを隔てるのと同じくらいを越えたのだが、我々はまだ30光年以上も目的の場所から離れていると分かった。


 30光年くらいの移動手段なら、比較的小規模な門閥でも保有している場合が多い。

 ちょっと名が通っている程度の商人でも、当たってみる価値はある。

 この通路沿いの店を片端から回れば、手頃な移動手段を見つけられるはずだ、と私は期待をかけていた。


 だが、甘かったらしい。

 保有している者が、見つかるには見つかるのだが、どいつもこいつも高額の使用料をふっかけてきやがるからだ。


 宿場星系とは、商売っ気の強いやつらの、巣窟なのだった。

 常連客ではないということで、あから様に冷たい態度を見せる者も、少なくない。

 アウェーの不利を骨身に感じ、私は頭を抱えた。


 ちっとも仕事が進まず、困り果て途方にくれやけくそになり、その日の私は、何もかもを忘れて飲み明かすつもりになっていた。

 一件の飲み屋に居座って、次々に強目の酒をあおっていった。


「あの、ツルム様」

 いつの間にか隣にいた、見知らぬ娘に話しかけられた。「もうお酒は、そのへんにされた方が。お体に障りますわ」


 私は、ギョッとした。歳のころは私の半分、17・8くらいと見えた。

 美形とも言えぬが、ふっくらとした頬に包容力が宿り、真ん丸の瞳には愛嬌が輝いていた。


「なぜ、私の名を? 」

「うふふっ、さっきから、あちらこちらのお店や事務所で、名乗っておいでになるのを、何度もお見かけしましたもの。

 移動手段を探しあぐね、気を落されておられるご様子ですね」


 悪戦苦闘の私を、彼女はずっと見ていたようだ。

 始めは、娼婦か何かをやっている女が、良いカモを見つけたとばかりに荒稼ぎを目当てに、売りこみをかけてきたのかとも思ったのだが、そうではないようだった。

 話を聞けば聞くほど、彼女は私に、深く同情してくれていると分かった。


 ここの所領を知行している一門の、有力家臣に奉公しているという。

 役目柄、この小商都にある、あちこちの店に出入りする彼女が、それらをしらみ潰しにして探索をしていた私を何度も目撃するのは、必然だったと言える。


 そして、こちらの事情を詳しく聞いた彼女は、自分用の住まいとして与えられている建物の一角を、私たちの一行の宿泊先として提供すると申し出てくれた。

 そのおかげで私も、我が主を、ボロ宿での缶詰状態から、解放して差し上げることができたのだった。


 移動手段に関しても、直ぐにというのは無理だが、いくつか心当たりがあるので、話をつけてみてくれるということだった。


 主に居心地のいい滞在先を用意できたので、私の方も、これまでよりたくさんの時間をかけられる。

 腰を落ち着けてじっくりと、移動手段を探すことができるようになった。

 旅先で思いがけず出くわした善意に、その時の私は、心底から救われた気持ちだった。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/6/25  です。


「宿場星系」なんて言葉が出てきました。

 過去の作品でも出したことはあると思いますが、現実の歴史における「宿場町」を意識しているのは、間違いありません。


 作者も「宿場町」と過去に呼ばれた場所を、訪れたことがあります。

 有名な所では福島県会津の大内宿や福井県三方の熊川宿、そしてあまり有名でなないかも知れませんが富山県の朝日町などです。


 旅が便利になってしまった時代には無くなってしまった旅の醍醐味みたいなものが、こういう場所を訪れると感じられる気がしました。

 未来の宇宙を描く物語の中で、そういったものを表現できたらいいなと、上記の「宿場町」を散策しながら思ったものでした。


 旅が困難な時代だからこそ登場するのが「宿場町」でしょう。

 現在では空港施設や駅ビルの中に集約されてしまって、便利だけどかつての情緒は失われた形で、一部の機能が存続している場合もあるでしょう。


 多くの人から情報を集め、途中まで同行する仲間を募り、旅路に必要な道具などを買いそろえるといった、今ならスマホを使って数分でできてしまうようなことに何日も費やし、その間に深く心を通わせる人も出て来る。

 そうやって過ごしたのが、かつての宿場町だったのでしょう。


 宿場町での散策で、そんなことを感じ取り、「宿場星系」という発想に至りました。

 でも、なぜ星系?


 惑星などの一つの天体や人工建造物だけで、「宿場町」代わりになるものを創造することも可能でした。

 

 でも、作品中には描かなかった裏設定として、「宿場星系」内の天体を使ったスィングバイや物資・エネルギーの補給なども行われることになっており、星系全体で宿場としての機能を発揮しているわけです。


 天体の重力を使って方向転換を行ったり、天体の運動エネルギーを貰って加減速を行うのが、スィングバイです。

 木星に向かった探査機ガリレオが金星で、彗星の探査機であるISEE-3が月を使って5回にわたって加速スィングバイを実施し、速度を稼いだという実績があります。

 

 宇宙を旅するのに必須の手段と言えるでしょう。


 星系の主星=恒星の光や、惑星などに含まれる各種元素も、宇宙を旅する上では補給が必要でしょう。

 だから、宇宙時代の「宿場」は「星系」になるのだ、という作者のこじつけを、是非受け入れてください。

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