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銀河戦國史 (褒美を求めて百光年)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第5話 御棟梁! 虜囚に墜して御座います

 タキオントンネルのターミナル施設を利用する過程でも、我らは困難な作業に酷使された。

 我らの乗る交易船を、三倍ほど大きくしたくらいの容積の、円筒形をした施設だった。


 片方の端からタキオン粒子を照射している、ほぼ空洞と言っていいものだ。

 それの、タキオン粒子が照射されていない側の端から、適切な姿勢や位置で侵入させたり、タキオン粒子を補足して商船のベクトルと同調させたりしなければならないのだが、これが至難だった。


 小刻みに揺さぶられる船内で、レーダー観測やスラスターの制御に僅かの誤差も生じていないことを確認する検査を、百回近くも繰り返して実施しなければならない作業には、神経をすり減らされた。


 同乗の先輩船員たちからの冷遇も、我ら主従を苦しめた。

 些細なミスをあげつらっては、日に何度も叱り飛ばされ、怒鳴り散らされた。

 私だけでなく、わが主までもが、尻を蹴り上げられ、頭をはたかれ、背中をつねられ、こめかみをグリグリとやられた。


 野蛮な体罰であったと、言っていいだろう。

 精神的にも、チクチクと痛めつけられるような悪意のある言葉をぶつけられながら、酷使されまくった。


 肉体労働重労働の連続に、手足につくった肉刺を何度もつぶし、汗まみれに加えて毎日、血まみれにまでなって、我ら主従は交易船の中での苦役に励んだのだった。


「おい、ツルムよ」

 疲れ切った体で、無理矢理な笑顔を作る我が主。「棟梁の身分は伏せておるから、何があっても、我が一門の名誉に傷がつくことはない。

 怒鳴られようが、蹴り飛ばされようが、死の恐怖に打ち震えようが、そんなものは今だけの辛抱にすぎぬのだ。

 だから、お前が気に病むようなことは、何もないのだぞ。」


 初めて、主を尊敬した。

 こんな苦役や恐怖に耐え得る強い心があるのなら、他の一門に頼みこんで力を借りるくらい、何でもないとも思えるのだが、我が主には、こちらの方がマシなようだ。


「おい、ツルムよ」

 汗まみれでの作業中に、主が聞かせてくれたことだ。「他の一門に借りを作るというのは、後にどんな禍根を残すか分からないのだ。

 弱みを見せるとか、隙を作るとかは、門閥の間では命取りになりかねないことである故、厳禁なのだ。

 それに比べれば、一時の重労働など、いくらやっても、一門の面子がけがれることはない。だから、これで、よいのだぞ。」

「ご・・・・・・御棟梁っ!」


 食邑の経営について、何も知らない主だが、私の知らない大切なことを、たくさん知っておられる。

 経営の方も、分かっていてもらわないと困るのだが、それも棟梁の重要な責務のはずなのだが、それでも私は、この時ばかりは、我が主の見識をさすがだと思った。


 こんな地獄の船内生活が2か月に及んだ頃、その絶望はやって来た。


「おい、ツルムよ」

 激務の最中に、顔色を変えた主が叫んだ。「この交易船に、盗賊が襲い掛かって来たなどと乗組員どもが騒いでおるぞ。百艘もの戦闘艇が、向かって来ておるそうで、船内は蜂の巣をつついたような大混乱だ」

「な・・・・何ですと! しまった。やはり、こうなってしまったか」

 蜂という生き物など見たことも無い我ら主従だが、この状況には動揺した。


 案じていたことが現実となった。「不安全」の意味はやはり、生きて辿り着ければ奇跡というレベルの危険が、あるということだったのだ。

 しかし、そんな危険を冒さなければ、どうしても移動手段を見つけられそうになかったのも事実だ。


 貧苦にあえぐ領民を見かね、背に腹は代えられぬと、そう滅多なことは起きないだろうと、高を括って受け入れを決断したが、盗賊の襲来を知らされた途端に、決断への後悔が沸き起こった。


 盗賊によって殺されたり、奴隷として売り飛ばされたりという事件の報は、毎日のように耳にする時勢ではあった。

 やはり軽率な決断だったとの、自責の念に苛まれた。


 私などがどうなっても、大した問題ではないが、我が主がそんな目に合ってしまえば、一門も断絶と滅亡を避けられない。

 取り返しのつかない失態を、私はしでかしたことになってしまう。


「おい、ツルムよ」

 この事態に、主は案外落ち着いていた。少なくとも私よりは。「乗組員どもが、迎撃のための臨時戦隊を編成すると、喚いておるぞ。

 この船に十数艘ほど積んである戦闘艇の、パイロットを募っているようだ。

 ここは我らも打って出ようぞ! 」

「ご・・・・・・御棟梁、御棟梁、御棟梁っ! な・・・・・・何をおっしゃいますか! 御棟梁にそのような危険かつ過酷な事を、させるわけには・・・・」


 戦うと言って聞かぬ主を、諫める努力はしたのだが、しばしのすったもんだの後に、とうとう主の強弁に私は押し切られてしまった。

 主従揃って、我らは戦闘艇で出陣するハメになった。


 主は、戦闘艇はおろか宇宙艇の操縦経験も、ごく僅かのはずだ。

 戦うどころか、動かすのが精一杯で、この宇宙船から発進するだけですら、スムーズにできるかどうか怪しい。

 それにも関わらずに出撃を主張して見せたことに、呆れる想いにもなる一方で、その勇気や行動力や心意気には、感服するものもあった。


 主にこんな心意気を見せられて、家宰の私が奮起しない訳にはいかない。

 本来一人乗りの仕様となっている戦争艇に、無理矢理二人で乗り込んで、主には武装の操作だけを担当してもらうことにして、我らは出撃した。

 結果などはこの際気にせず、ともかくめいっぱい戦ってやろうと、私は悲壮な決意を固めていた。


 一人から数人で操り、宇宙において様々な作業するための乗り物が、宇宙艇だ。

 そして戦闘という作業を専門とする宇宙艇が特に、戦闘艇と呼ばれる。


 私も、汎用の宇宙艇ならば、食邑を経営し管理するめに日常的に使っているので、操縦経験は豊富なのだ。

 だが、戦闘艇は、未経験だった。


 動かし方は、だいたいわかるが、武装の操作方法には自信がない。

 ましてや、すばしっこく動き回るであろう敵戦闘艇に、ミサイルやレーザーを命中させるなどというのは、まあまず不可能だろうと思われた。


 我らの時代、ミサイルもレーザーも、基本的にはレーダーとコンピューターの連動によって、自動的に操作される割合が高い。

 宇宙での戦闘というのは、人が照準を定めて発射ボタンを押す、なんてことで命中するなんて、あり得ない距離や速度で行われるのだから。


 武装をフルオートにしておけば、パイロットは何もしなくても攻撃は実施されるだろう。

 だが、それでは命中は、あまり期待できない。


 フルオートの攻撃では、レーダーで観測した敵の運動状態が、それからも継続されると仮定して単純計算した、敵の未来予測位置を指向して、実施されるのだ。

 しかし敵は当然、加減速や進路変更を実施するはずだ。


 三次元の広がりを持つ宇宙での戦闘だから、進路選択の自由度も高くなるので、単純な計算による予測位置を攻撃しても、滅多に命中するはずがない。


 攻撃を命中させるためには、パイロットの予想に基づいて、レーダーやコンピューターが予測した位置から、攻撃場所を修正しなければならない。

 相手パイロットの思考を“ 読む ”必要が、あるというわけだ。人間の “読み”の能力が、命中率を上げる決め手なのだ。


 読みには、豊富な実戦経験が必要となるのだが、私にはそれはない。

 先の戦役でも、戦闘艦の艦長というのが、私の役回りだった。

 戦闘艇に指揮命令を発する立場ではあったが、戦闘艇そのものを操縦する機会など、これまでに一度もなかったのだ。


 武装については操作するだけでも不案内な私が、敵の動きを読んで適切な修正を実施するなど、まず不可能と言わねばならない。

 だから、武装の運用に関しては、主の直感と運に全て委ねることにして、私はそれらの基本操作の主への指示と戦闘艇の制動に、専念させてもらうことにした。


 攻撃を命中させるのは、我ら主従には無理だろう。

 でも、敵の前に立ちはだかることはできる。

 敵の攻撃を食らわぬように動き回りながら、我が主の直感と運に任せた攻撃を繰り出せば、命中しないまでも牽制にはなるだろう。盗賊の交易船への接近を妨害するだけなら、短時間なら、できるはずだ。

 敵に撃破されてしまうまでの、短時間ならば。


 そう自分に言い聞かせ、撃破され命を奪われる覚悟を固め、私は戦闘艇に乗り込んだ。

 志願者のパイロットからなる、十二艘だけの即席の戦闘艇団が出来上がり、出撃することとなった。

 百艘近くの戦闘艇を擁する盗賊に対抗するには、貧相すぎる迎撃部隊だ。


 訓練もしていなければ、作戦なんてものも、あるわけがない。

 盗賊と交易船の間に、陣形も連携もなく、ただ立ちふさがるだけの戦闘艇団だ。


 電磁カタパルト方式という、戦闘艇に積まれた噴射剤を消費することなく、早急に敵や戦闘宙域にアプローチするための射出を実現する装置も、この交易船には備えられている。

 だが、そんなものは、使わなかった。それの生み出す猛烈な加速重力に、即席パイロットたちは、誰も耐えられないのだから。


 宇宙艇の噴射剤を消費して、シュポッという感じで弱々しく、頼りなさげに飛び出した十二艘の戦闘艇の中に、我ら主従の駆るそれも加わっていた。

 発進のための操作と、武装の操作方法の主への伝達だけに忙殺されて、コックピットの中でキョロキョロしっぱなしだった私には、敵の動きを把握する余裕などなかった。


 こんな我らだったから、一時間ほど戦場をウロウロしたあげくに、何らの戦火を上げることも無く被弾した。

 数秒後の爆散をコンピューターに告げられ、大慌てで脱出。

 爆発の衝撃に煽られてもみくちゃになりながら、宇宙を彷徨っていたところを拾い上げてもらい、何とか命だけは繋がったが、我らを拾ったのは盗賊の戦闘艇だった。


 要するに、我らはあっさりと、盗賊の捕虜になってしまったわけだ。


「なんという屈辱的な冷遇だ! おい、ツルムよ! なぜ我らだけこのような狭苦しいモジュールに押し込まれなければならぬのか、あの盗賊どもに問いただして参れ! 」

「そんなこと申されましても、ご覧の通り、私も牢の中におりますので・・・・・・」


 何十人も捕らわれた中で、なぜか我らの主従だけが、盗賊の宇宙船の中でも一番端っこにある、一番居心地の悪そうなモジュールに投獄されていた。


 半ば分解された古めかしいデバイスなどが、所狭しと転がっている様子から見ると、物置きか何かに使っているモジュールのようだ。

 通信装置を備えたコンソールもあったが、どのスイッチを触っても何の反応も示さない。

 ガラクタばかりで無重力で、黴臭いし空調も貧弱な、最悪の環境だった。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/6/18  です。


 戦闘艦という単語と戦闘艇という単語が出てきて、読者様を混乱させてしまっているかもしれません。


 一文字しか違わないし、唯一異なる最後の文字にしたって、艦も艇も両方舟偏で画数の多い漢字だから、パッと見ただけでは混同してしまいそうです。


 もう少し分かり易く、「戦艦」と「戦闘機」にすればよかったのかもしれませんが、それだと現実世界のそれらのイメージが読者様の頭に浮かんでしまいそうで、作者としては忌避してしまいました。


 宇宙を飛ぶ戦闘艦は戦艦と違って、海面に接する船底も鐘楼などが乗った甲板なども無いはずで、作者としてはコッペパンの形状を思い浮かべています。


 宇宙を飛ぶ戦闘艇も、真空の中で使われるものだから翼なんかないはずだし、キャノピーなんて脆弱そうなものだけでパイロットと宇宙空間を隔てるイメージを持たれても困ります。

 小豆のような形状を作者はイメージしていますが、要するに戦闘艦も戦闘艇も、大きさが違うだけでだいたい楕円体に近い形状と考えています。


 役割や機能の面でも、戦艦と戦闘機ほど圧倒的な速度差があるわけでも無く、戦闘艇は戦闘機ほどの決定力は持っていないと、作者は認識しています。


 とはいえ、小さくて小回りが利き、相手が攻撃を命中させ難いであろう戦闘艇にも、重要な役割はでてきます。

 特に盗賊が宇宙船などから略奪をしようという場面では、戦闘艇は欠かせないでしょう。


 作者の想像をできるだけ正確に読者様に伝えるべく、作者なりに言葉を選んだつもりですが、いかがなものでしょうか?

 

 過去の作品で一隻二隻と数えていた戦闘艇を、一艘ニ艘と数えることで、混同のリスクを抑える努力もしたつもりですが、効果はあったでしょうか?


 分かりずらい要素が多々ある作品だとは思いますが、今後少しずつ改善して行くつもりですので、長い目で見てやって頂けると嬉しいです。

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