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銀河戦國史 (褒美を求めて百光年)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第4話 御棟梁! それは無茶で御座います

「おい、ツルムよ」

 主は、自信満々に断言する。「その我らに、いまだに褒賞が下されないなど、何かの間違いにきまっているのだ。もうとっくに、何らかの連絡が来ていなければいけないのだ。お前もそう思うであろう? 」


「そうでしょうか。他の門閥の方が高く評されている可能性も、あるのでは? 」


「おい、ツルムよ」

 胸を反り返らせて、主は強弁する。「我が一門は、百年近く前に今の政府が政権を奪取した際にも、多大なる貢献をしたのだぞ。

 それ以降もずっと、政府の期待にこたえ続けてきた歴史があるのだぞ。

 先の戦役だけではない功が、我が一門の上には積み上がっておるのだぞ。

 されば、他の門閥になど、決して後れをとるものか! 」


「はあ、しかし、来ないものは来ないので、生産性をあげる努力をするしか・・・・・・」

「いいや、そうではないぞ、ツルムよ! 我らは何としても、褒賞を頂かねばならないのだ」

「いや、でも・・・・・・、政府からはずっと、何も言っては来ないのでありますぞ」

「言って来ないなら、こちらからもらいに行くまでだ! 」

「え・・・・・・ええっ!? 」


「おい、ツルムよ」

 どこからその自信がわいてくるのだ、と思える顔。「今すぐに、出立の準備を整えろ。政府機関のある宇宙要塞にまで乗りつけて、直々に褒賞の催促をするのだっ! 」


「ご・・・・・・御棟梁、御棟梁、御棟梁ぅっ! お気を確かに。冷静に考えてください。

 政府機関のある宇宙要塞は、ここからおよそ百光年も彼方なのですぞ。光でも百年を要する距離です。

 なのにわが一門は、光より速く移動する手段を、ほとんど持ちあわせておらぬのですぞ。

 どうやって、そこまでたどり着くのですか!? 」


「おい、ツルムよ」

 嫌な予感しか、しなかった。「それはおぬしが、何とかせい」

「ええええええええっ!! 」


 我が主は、戦争以外には、何もやろうとしない人だった。

 何もしないから、何も知らない。何も知らないから、平気で無茶なことが言える。

 我らのような貧乏な一門が、超光速の移動手段を手に入れるなどと簡単に言ってのけるなんて、正気の沙汰ではない。


 考えられるとすれば、他の裕福な一門の保有する施設を使わせてもらうことなのだが、それができるくらいなら、そこから人手や設備を借りて食邑の生産性を高めればいいだけだ。

 それをあれだけ渋っているくらいなのだから、他の門閥を頼るという方法は使えそうにもない。


(いったい、どうすればいいのだ・・・・・・)

 食邑内の管理業務だけでも、目が回るくらいに忙しいのに、その合間を縫って私は、方々を走り回らなければならなかった。


 あっちの惑星を回っている人工市場衛星や、こっちの小惑星内に作りこんだ星間シャトル中継基地などを訪れ、とにかく手当たり次第に、色々な人に相談して、超光速の移動手段を探し求めた。


 超光速の移動手段といっても、政府機関のある宇宙要塞を目指すのなら、タキオントンネル航法以外にはあり得なかった。

 質量虚数の素粒子タキオンの、反則級に摩訶不思議な性質を利用する。

 それが照射されているトンネル状の空間では、なぜかは知らないが、光の千倍の速度で宇宙を駆けることが可能となってしまう。

 大半がスペースコームの外にある我が星団帝国においては、最も一般的な超光速の移動手段だ。


 およそ百光年という距離を移動するとなると、出発点と到着点の二カ所にタキオントンネルのターミナルを設置し、両方からタキオン粒子を照射する方式を利用しなければならない。

 二基のターミナルに挟まれ、タキオン粒子に満たされたトンネル状の空間が、宇宙のハイウェイよろしく、超光速で人や物を運ばせてくれる。

 最大速度が、我らの時代では光速の約千倍だ。


 一光年くらいを走るだけなら、一基の小規模なターミナルでも何とかなる。

 私もそれで、食邑の中を毎日のように飛びまわっている。

 一つの星系だけでも、直径が一光年以上にまでおよぶ場合もあるのだから、12の星系を有する我らの食邑の管理にも、超光速移動は欠かせない。


 だが、百光年もの距離となると、大規模なターミナルが二基で挟むタイプが、ぜひとも必要なのだ。

 その規模のターミナル施設が、途方もなく高価なものであるという事情に加え、到着点にも設置しなければいけないという事情も、加わってくる。


 設置場所は当然のように、どこでも良いというわけではなく、重水素などが大量に採取できる天体の近くなど、条件が限定される。

 莫大なエネルギーを消費する施設なのだから、核融合施設を併設することでそれを都合できるというのは、必須の条件だ。


 そんな天体には、必ずと言っていいほどに、どこかの門閥などの利権が絡んでくる。

 重水素をたっぷり採取できる天体が、人々から放っておかれるなんてことは、ないのだから。

 誰かが、領有権を始めとして、何らかの権益を主張する天体の近くでないと、ターミナル施設は設置できないという道理だ。


 こういう事情だからターミナル施設の設置には、我が国の相当に広い範囲に対して、発言力なり影響力なりを及ぼし得るくらいの、絶大な権力を、もしくは財力を持っていなければならない。

 高位の権力者か大富豪でないと、長距離移動用のタキオントンネルなどは、敷設できないというわけだ。


 わが一門と親交のある近隣門閥や商人のどれも、それほどまでの権力や財力は、持っていない。

 政府機関にまで行けるようなタキオントンネルも、保有しているはずはない。

 他の一門を頼るのが嫌だという主のわがままを無視したとしても、長距離用のタキオントンネルなんてものは、使える目途すら立たないのだ。


 とはいえ、主に命じられたことだから、おいそれと投げ出すわけにも行かない。

 宇宙艇を駆って、全身が砕けそうな加速重力に何度もさらされながら、私はあちらこちらと飛びまわって、主の命に応えようとした。


「おい、ツルムよ」

 何てのんきな、そして嬉しそうな顔だろう。「超光速での政府機関への旅の、目途が立ったそうではないか」

「え・・・・・・ええ、ま・・・・・・まあ、一応は・・・・・・」


「そうか!よくやってくれた。ご苦労であった。では、直ぐにも出立いたそう! 」

「御棟梁、御棟梁、御棟梁っ! まずは、説明をお聞きください。

 移動手段が見つかったとは言いながら、それというのが・・・・その、御棟梁におかれましては、大変な苦痛を耐え忍んでいただかねばならない方法なのでございます」

「よい、よい。構わん。万難を排して、わしは政府に、褒賞を催促しにいかねばならんのだ」


 私が見つけた移動手段というのは、星間貿易を担う商人の保有する輸送船に、下働きの下級船員として潜り込むというものだった。


 使うことになるタキオントンネルのターミナルは、ある名門軍閥の保有しているものだが、その貿易商人は長年の付き合いによって、自由に使わせてもらえるらしい。

 商人の方も、かなりの歴史や伝統をほこる豪商として、国中に名が通っている。


 豪商に頼みこんで、門閥の棟梁とその一行であるという身分は隠すことで、とにかく航宙交易船に乗りこめるようには取り計らってもらえたのだが、その交易船の通る航路というのが大問題だった。


「安全航路と不安全航路がございますが、どちらになさいますか?」

 豪商の秘書とかいう女が、爽やかな笑顔で投げかけた身の毛もよだつ問いに、私は迷わず「不安全」を選ばざるを得なかったのだ。むろん、金銭的な理由で。


 強引なほど控えめに「不安全」の呼び名を冠せられた航路だが、それは、生きて辿り着けたら奇跡くらいに危険たっぷりな代物、ということかも知れない。

 下働きとしてこってりと使役される上に、こんなリスクをも背負わなくてはいけない旅路なわけだ。


「おい、ツルムよ」

 説明を終えた私は、主の声にビクリとした。「よくぞ手配してくれた。それで構わないから、さっそく出かけよう。」


 楽観的なのか度胸満点なのか、はたまた阿呆すぎるのか、こんなザルのような計画の一部始終を詳しく聞いてもなお、我が主はニコニコ顔で乗ってきた。

「不安全」を、言葉通り控えめに解釈してはいないだろうか。


 恐れた通りに、航宙交易船のなかで我ら主従は、苦痛激痛の連続となる過酷な肉体労働に、徹底的にこき使われた。新入りの下働きなのだから、当然だ。


 安全装置も付けさせてもらえず、事前に連絡もないままにに、とんでもない加速重力に何回もさらされた。

 頭や体のあちこちを、機材や工具や配管などで繰り返し繰り返し、したたかに打ち付けた。

 大げさでなく、命の危機さえも、感じたほどだ。打ち所が少し悪ければ死んでいた、と思われる場面さえもが、一度ならずあった。


 加速だけでなく、白色矮星と呼ばれる天体の、途方もない強重力を利用したスィングバイ、なんて荒業もやってのける宇宙船だったから、その際に生じたとんでもなく激烈な遠心力にも耐えなければならなかった。

 それも、じっと耐えるのではなく、作業をやらされながら耐えたのだから、たまらなかった。


 加速の後は、減速をしなければならない。その瞬間には、天と地が入れ替わる。加速時には床だった壁が、減速時には天井になる。

 油断していると、さっきまで床だった天井から、さっきまで天井だった床へと、叩き落されてしまう。


 気の利いた施設なら、部屋ごと上下が回転するとか、回天の直前に警報で知らせてくれるとか、するものなのだが、下働きにそんな丁寧な扱いがあるわけもない。

 私も主も、何度も、さっきまで天井だった床に叩き付けられる激痛を、繰りかえし食らわせられた。


 作業の方も、当然のごとく、半端でなくきつかった。

 灼熱に満たされた反物質動力炉付近での、滝のような汗にまみれてのメンテナンス作業もやった。

 宇宙空間の極寒に震えながらの、船外での外壁交換作業もやった。

 姿勢も重力方向も不安定な環境での重量物の運搬なども、数えきれないくらいやらされた。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、2022/6/11 です。


 できるだけ荒唐無稽を排除して書いているつもりの本シリーズですが、超光速移動については、徹底的に荒唐無稽です。


 シリーズの他作品を読んで頂いている方には、何度も繰り返している説明(言い訳?)になるかもしれませんが、タキオン粒子が照射されている空間内は光の千倍で走れる、なんて滅茶苦茶なトンデモ科学をでっちあげないと、銀河全域を舞台にした物語は成立しないのです。


 しかも、物語の都合上、このタキオントンネルなるものの設定が、ややこしくなってしまっています。


 1~2光年程度なら、一基だけでいけど、それ以上なら2基で挟む形で設置しなきゃいけない、ということになってます。


 一基の施設からタキオン粒子を、何もない空間に向けて照射することで、1~2光年なら超光速移動できますが、それ以上長い距離になるとタキオン粒子がヘタってしまう、みたいな理屈です。


 だから、もっと長い距離になると、二方向から照射しないといけない。到着する場所にも施設を作っておかなくちゃいけない。

 そんな条件になっていることを、一応念頭に置いておいて頂けると、後のストーリーが理解しやすいかと思います。


 考えれば考えるほど、滅茶苦茶な設定です。


 何十光年も先の一施設というピンポイントに、タキオン粒子を命中させるというだけでも、常軌を逸した条件設定です。

 周囲の天体の重力で、空間の歪み方が絶えず変化しているでしょうから、完全に不可能な事なのかもしれません。


 更には、何十光年も間に挟めば、小惑星などの障害物だって膨大な数があるはずで、タキオン粒子を届かせることすら不可能に思えます。


 それらに対する苦し紛れの言い訳も、本シリーズ内で一応述べています。無論全て、トンデモ科学です。

 ご興味のある方がもし、万が一、何かの奇跡で、おいでになられるようでしたら、「星々を駆る重武装宇宙商船『ウォタリングキグナス』」の要所要所で言及がありますので(第1話とか第40話とか)、読んで頂ければと思います。


 ですが、超光速移動以外については、一応、荒唐無稽な事は書いていないつもりでおりますので、本作品はハードSFであると、言い張っていこうと思っております。

 なにとぞ、ご了承ください。

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