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銀河戦國史 (褒美を求めて百光年)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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エピローグ

 歴史物語への旅を終えたとき、エリス少年は広い海原を眺めていた。

 セイリングハウスとも呼ばれる彼の自宅は、「エウロパ」星系第3惑星の洋上を高速で疾走している。


 テラフォーミングの際の手違いで水浸しになってしまった惑星において、30時間の自転周期であるにもかかわらず24時間周期の日々を送るために、彼の自宅は水面を蹴って走っている。

 だからリビングの窓へと目を向ければ、少年はいつでもテラスの向こうに横たわる広々とした海の景色を楽しむことができる。


 歴史へと心を解き放った直後には、たいていこの景色を、少年は楽しんだ。歴史学者を父にもつ少年には、3日と開かずにその機会が訪れる。


 背後のキッチンからは、父が母となかよく夕食の準備をしている、音や声が聞えてくる。2千光年の出張から帰って来たばかりなのに、元気なものだ。

 これほどにも、この時代の超光速旅行は、旅人に疲れを感じさせない。

 歴史物語のなかに出てきた、昔の人々の体験した旅と比べれば、隔世の感があった。


「たかだか、数十光年とか百光年とかの移動をする手段を見つけるのに、あんなにも苦労をしたのだものなあ。」

 2千光年の旅を提供してくれた施設から、少年たちは、たったの15分くらいで帰り着いたのだから、そんな感慨も深いものがあった。


 別に、タキオントンネル航法だけで、2千光年を移動したわけではない。タキオントンネルは、ワームホールのある宙域にまで延びていて、彼の父はそこまでは、ワームホールジャンプで移動してきたのだ。

 スペースコームジャンプとならんで、3種類の超光速移動の方法が、エリス少年の時代では利用されている。


 有人星系の間であれば、上記3つの移動手段を使うことで、どこからどこへでもたいていは、50時間以内には移動できるというほどに、彼の時代の銀河系には、発達した交通網が張りめぐらされている。


 直径が十万光年にも及ぶ銀河系円盤においてでさえ、このような状況に仕上げられた時代に生きているから、百光年の移動手段を手に入れるだけでさえ悪戦苦闘させられた、昔日の旅人の物語は、少年の好奇心をかきたてずにはおかないのだ。


「本当に、今の僕たちは、恵まれた環境にいるんだなぁ」

 そう思うと共に、現在の便利な環境が、歴史のなかの人々の努力や苦労の積み重ねの上に築かれていることにも、少年の想いは至る。

 少年の身の回りにある多くのことが、そうやって発展をとげた移動手段によって、成り立っていることにも。


 食材だって、銀河中のあちこちから色々なものが、彼の家への旅を遂げている。何千、何万光年のかなたで採れた食材が、新鮮なうちに彼の家にまで辿り着いている。

 銀河中の食材をたっぷり使って作られようとしている、今晩の少年の夕食は、漂ってきた臭いからすると、どうやらビーフシチューのようだ。


「どうだい」

「うん、おいしいわよ」

「そうか。やったね」

 味見をした母と、承認を得て喜ぶ父。キッチンからの楽しそうな気配。


 ハウスコンピューターに頼みさえすれば、全自動でどんな料理でもあっという間に作ってもらえる時代にあって、夫婦でならんでの手料理にこだわる彼の両親は、その手間ひまを存分に満喫している様子だ。


 ビーフシチューの芳醇な香りがかき立てた食い気は、歴史物語にまつわる少年のさまざまな想いを、一掃してしまった。

 急ぎ足でキッチンへと、少年はかけこんだ。

「いい香りだねぇ、父さん、母さん。僕も何か、手伝うよ! 」


 旅をしてきた父が、旅をしてきた食材で作ったビーフシチュー。

 それを食べた少年も、いつかは旅に出るだろう。

 父よりも食材よりも、そして歴史のなかの誰よりも、もっとすごい経験をともなう旅になるかもしれない。

 食材と歴史を血肉にかえた少年の未来には、無限の可能性があるのだから。


 素晴らしい未来に辿り着くために、早くビーフシチュウーを食べたい。

 そんな焦りもあるのか少年は、左手に積み上げた食器を、ダイニングテーブルに並べていく。

 危なっかしい手つきで。



 未来のためなのかビーフシチューのためなのか、とにかく自分にできることは何でもやろうとする少年の姿勢に、反省を促されている誰かの御霊が銀河系にたゆたっていた。


 人任せだった彼の生涯に、丸投げばかりだった彼の日々に、その御霊は軽い気恥ずかしさを覚えているのかもしてない。

 多くの命を、大きな責任を、生前の彼は背負っていたのに、戦争で功をあげること以外にはほとんど目を向けなかった。


 だから、眼前にしている少年の思いや行動は、余りにも眩しかった。

 せめて、追体験してくれた自分の旅の物語が、少年の心に成長をもたらしてくれることを、祈らずにいられない。


 彼の背後に、もう一つの御霊が気配を醸す。


 生前にはあれこれと不満をおぼえ、望外のオファーを受けた機会には、見限ってしまおうかという気になったかもしれない。


 だが、生前にも遂に変わることのなかった忠義が、肉体を脱した今でも息づいている、ようでもある・・・・・・・・なんてことは、確かめる術とてないが。 

 今回の投稿は、ここまでです。 そして本投稿作品は、ここで終了です。


 シリーズ内の全ての物語において、プロローグやエピローグで紹介しているエリス少年の時代に、関心を持ってくださっている読者様がいて欲しいと、常々作者は熱望しています。


 作者は死んだ後には、ここに転生するのだと自分に言い聞かせているくらい、自分にとっての理想郷を描いています。


 大海原の上を疾走し続ける家に住み、軌道上の様々な施設に手軽に出かけることができ、3種類の超光速移動で銀河系のあちこちにも、苦も無く旅ができてしまう。


 そして何より、この世界には興味深い歴史がたくさん詰まっていて、それらを探索して回るだけで退屈することが無い。

 居心地が良くて楽しみの尽きない、素晴らしい世界だと自負しています。


 多元宇宙論からすると、人の想像=別の宇宙の創造だとかいう説も聞いたことがあるし、ブラックホールを研究している学者さんの本を読むと、内容はほぼちんぷんかんぷんでも平行宇宙とかいうワードが当たり前に登場するしで、別の宇宙が実存することへの期待は膨らみます。


 人の思考は神経を流れる電気(=電子の流れ)としての解釈が可能(と作者は理解している)で、その電子と陽電子の対生成や対消滅などは、平行宇宙の存在を暗示している(と作者は期待している)のだから、人の想像が別宇宙を創造するというのも、荒唐無稽ではないはず(と作者は強弁して行くつもり)です。


 肉体が死を迎えると思念がこの宇宙から解放され、自分の想像が創造した別の宇宙へと旅立てる、というのも、それなりに可能性のある話ではないでしょうか(猛烈な飛躍やこじつけは承知してます)?


 そんなわけで、エリスの暮らす世界が自分の死後の暮らしの舞台である可能性を、作者は割と本気で信じつつ、そこを少しでも快適な場所にしようという意気込みで、執筆に取り組んでいます。


 つまり、このシリーズはまだまだ続くのです、ということで、次週からスタートする新作の宣伝にスムーズにたどり着くことに成功しました!


 次回作は、かなり長めです。作者としての最長を誇っていた「アウターファング、閃く」に匹敵するくらいの期間を掛けて、投稿する予定です。


 といっても、1回の投稿のボリュームが「ファング」より相当少なくなっているので、シリーズ全体としてのボリュームも「ファング」ほどではないのですが、投稿期間としては「ファング」に匹敵する(若干ショートするけども)作品となります。


 言い換えると、再来年の中頃まで続くことになる長編物語ですが、一人でも多くの方にお付き合い頂けることを願いつつ、ひとまずは、本作品を読了下さった方々に感謝申し上げます。

 有難う御座いました。そして、お疲れさまでした。

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