表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河戦國史 (褒美を求めて百光年)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
11/12

第10話 御棟梁! 褒賞ゲットで御座います (本編最終話)

 どうしても政府要人に、例のデーターを直々に見てもらう必要がある。

 私は粘り強く方々を駆けまわって、それをなし遂げようとしたが、空振りとなった。


 私なんかの奔走より、愛妻の人脈の方が、先に成果をもたらしたからだ。

 知人であるという政府関係者が、要人へと、そのデーターを届けてくれたそうだ。


「いやはや私ごときより、よっぽど優秀だな、我が妻は。

 おかげで、褒美が横取りされる事態は回避できそうだ。

 あのデーターを見てもらいさえすれば、戦場にいなかった軍閥に褒賞が下されるなどということは、ないはずだ」


「やめて下さいな、旦那様。優秀だなんて言われると、こそばゆくてかないません。

 偶然、以前の仕事で見知った方々が、手を貸してくださっただけですもの」

 そんな会話で愛妻と笑い合った数日後、政府から我が主に、前の戦役の功に対する褒賞を下すとの通知が、もたらされた。


 戦役への出征命令を受け取っておきながら戦場にいなかった門閥は、厳しい場合では裏切り行為とみなされ、一門の取り潰しと全所領の没収という罰が与えられた。


 私たちの提出したデーターを端緒に、政府が更に調べを進めてみると、戦役への不参加どころか、敵を利するような行動をとっていた門閥もあったことが、4年近くを経た今になって明るみに出たのだ。


 スペースコーム内にある星系の、警備が手薄になる時期についての情報が、事前に敵に漏れていたと分かった。いくつかの門閥が、情報を敵に売っていたからだ。

 まさかあれほどの大規模侵攻を仕掛けて来るとは思わず、それらの門閥の家臣どもは、目先の利益に目がくらんで短絡的に、情報を売り渡してしまったのだろう。


 しかし、深刻な結末を、国にも自分たち自身にも、もたらしてしまう愚かな行為となったのだった。


 戦闘に先立って、棟梁の座上艦どうしによる一対一の対決をやりたがるという、我が国の伝統的な習慣も、とある一つの軍閥に抱えられている裏切り者の家臣が、事前に敵に教えてしまっていたらしい。


 それが、我が国の無知でも勇敢だった幾人もの将兵を、無駄に死なせる結果に繋がったのだから、取り潰しや財産没収の厳罰を受けるのも、仕方のないことだったろう。


 取り潰しとまではいかなくても、命令違反や職務怠慢との裁定を受けたことで、所領の一部没収や高額の罰金の支払いを命じられた門閥が、いくつも出てきた。

 そしてそこから得られた収益で、政府はようやく、戦功者を賞するための原資を確保できたのだった。


「おい、ツルムよ」

 久しぶりに見る、我が主のホクホクした顔だ。「望外なほどに、多額の褒賞を賜ったぞ。

 やはり一番ミサイルの功は、何にもまして評されるのだ。あの時の我らの勇猛さが、ようやく政府に理解されたのだ。

 わしは誇らしいぞ。努力してきた甲斐があったというものだ。苦労が報われて、感慨ひとしおであるな」


 努力や苦労は私や妻がやったことで、言っている本人は何をしたわけでもない。

 毎日宿舎でふんぞり返ったり寝そべったりしていただけなのだ。

 その姿を思い出すと、不満が頭をよぎってしまうのではあったが、私は喜ぶべき面へと考えをむけた。


 その褒美で、破産の危機にあった我が食邑も、持ち直すだろう。

 苦労をかけた領民たちにも、ようやく安寧を与えてやれる。

 戦役で散っていった数々の御霊にも、報いることができる。


 所領の内外で難儀な暮らしをしている、バーグのような「アウトサイダー」たちにも、ある程度ならば、救済の手を差し伸べてやれそうだ。

 そういう金の使い方に異を唱えず、自身の贅沢ばかりを最優先に考えたりしないのが、我が主の数少ない美徳であるから、前途は明るいと言えた。


「よかった。本当に良かった。苦しい想いをしてきた者たちが、救われることになりそうだ」

「ええ、そうですわね、旦那様」

 私も愛妻と手を取りあって、褒賞の下賜を寿いだのだったが、更に数日後、驚くべき申し出を私は政府から受け取った。


 戦役に不参加だった門閥を、決定的な証拠とともに告発した私の行動は、思いのほか高く政府要人に評価されたらしい。

 政府も、数多の門閥から褒賞の催促が雨あられと降り注いでいるのに、それに応えられないでいる状況に、ずいぶんと苦慮していたということだ。


 それらの催促の半分くらいが不当なものだったと分かり、残りの半分には満足のいく答えを返してやれる形になったのだから、政府には大助かりだったのだ。面子は守られるし、苦しかった台所事情も改善した。


 それらが、私がしっかりと収集し保存しておいたデーターによるものだったのだから、政府としても評価しないわけにはいかないというわけだ。


 更に、どこからどう漏れ伝わったものか、先の戦役で私が、電子機器の異常が原因とみられる異国部隊の索敵網のアナを看破して、一番ミサイルの戦果につなげたことも、政府の知るところとなっていた。


 主をここまで連れて来る途上で、盗賊の虜囚になるなどの苦難を乗り越え、政府機関に辿り着いたこともそうだった。

 これらが、私への評価をなお一層押し上げたらしい。


 政府は私に、ある門閥の棟梁の座とその食邑の知行権を、受け継がせてもよいとオファーしてきたのだ。


 対象となった門閥というのは、当代の棟梁が、後継者を残さないまま病の床に伏してしまい、昏睡状態になってしまっているらしい。

 誰か適当な者が、養子縁組をしてその棟梁の義子となり、棟梁の座と領主の職を引き継がなければ、深刻な混乱をまねく状況だというのだ。


 それも、一門や家臣の中の誰かを後継ぎとしたのでは、内部での分裂や抗争が、勃発してしまうのが確実と見られる状況らしい。

 だから是非とも、当該一門に利害や血縁関係を持たない外部の人物から、後継者を招きたいとの考えを、この一門から政府に伝え、助力も求めているのだそうだ。


 そして、その後継者として、何と政府は、この私に白羽の矢を立てたのだった。


「まあ、大変な出世ではないですか。すばらしいですわ。おめでとうございます、旦那様」

 愛妻の笑顔と称賛の言葉は、私には転げまわりそうな程にこそばゆかった。


「私は、何もしていないではないか。すべて、お前のおかげだったではないか。優秀な妻の、内助どころではない功のおかげで、こんな私が身にあまる評価を賜ってしまった。」

 愛妻と、またしても手を取りあって喜び合った。


 褒賞のおかげで、我が食邑は安泰だ。

 政府が責任を持ってそれを送り届けてくれるそうだし、領民たちも資金さえ手に入れば、自分たちだけで生活を立て直していけるだろう。「アウトサイダー」の救済も、手掛けてくれるだろう。

 だから私はもう、そちらに関しては何もしなくてもいい。


 私の方も、未知の所領であっても、しっかりと経営を継承し、発展もさせていく手腕は持っていると自負している。

 与えられた地位と所領で、愛妻にもたっぷりと裕福で快適なくらしを楽しませてあげられそうだ。


 皆に、多大なる幸福が訪れようとしている。八方が丸く治まり、ハッピーエンドが間近だ。

 が、一方で、我が主は・・・・・・。


 恐らく、私がいなくなってしまえば、自分だけでは、食邑に帰り着くことすらもできはしないだろう。


 戦闘艦の乗組員に適切な命令を出して、帰路を踏破するための運用をこなすなんてことは、あの人にはできるはずなどない。

 食邑の正確な座標や留意すべき天体等も、まったく頭に入っていないはずだから、たとえ戦闘艦を動かせたとしても、漂流に陥る可能性が高い。


 それどころか彼は、この政府機関のある要塞においてでさえ、私なしでは1日たりとて暮らせない人だ。

 今日の夕食を用意するところから、途方に暮れるありさまに違いない。


 私が政府に賜った所領を目指して出立してしまえば、あの人はたった一人馴染みの薄い場所で、頼れる者など誰もいない場所で、路頭に迷うしかなくなってしまうだろう。

 丸投げばかりしてきたツケが、今になって回ってきたようなものだ。


 ちなみに私は、昨日まで主だった人を今日からは家来として、手足のごとく上手に使いこなして見せることには、たっぷりの自信がある・・・・・・のだが、さあ、はてさて、どうしたものだろう。

 えっへへへへへへへ・・・・・・・・。


「お・・・・・・おい、ツルムよ・・・・・・」


 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/7/23  です。


 本シリーズの他作品を読んでくださっている方には、毎度おなじみの注意喚起ですが、本編の後にエピローグが続きます。

 ツルムとその主の旅に決着がついたからって、「終わったー」と気を抜くことなく、エピローグまで読んで頂きますよう、伏してお願い申し上げます。


 ツルムはどこかの軍閥の、棟梁の座をオファーされました。

「そんなことあり得るのか?」

 と思った方もおられるかもしれません。


 棟梁という重要なポストを、全くの赤の他人に任せるなんて、不思議に思えるかもしれません。


 ですが、現スウェーデン王家も、前王家が後継者に恵まれずに途絶えたことを受けて推戴された、フランスの軍人ベルナドットから始まったというのは有名な話です。

 王とか君主を、他所から招へいするというのは、それほど珍しいことではないみたいです。


 しかも、もとナポレオンの部下だったベルナドットが、スウェーデン王としてライプツィヒの戦いでナポレオンを打ち破る、なんてことが現実世界でも起こっているわけです。


 それを考えると、ツルムが無関係の軍閥の棟梁になり、路頭に迷った元主を家来として召し抱えるなんてシナリオも、それほど無茶なものではないでしょう。


 といっても、ツルムが結局どういう選択をしたのかは、うやむやのままに本編は終わっています。

 その先は、読者各位で想像を膨らませて頂くというのが、基本構想になっていますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ