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銀河戦國史 (褒美を求めて百光年)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第9話 御棟梁! 到着で御座います

「なんだと。国の体制の外側でアウトサイダーどもが、かように強大な力を持っているとな。

 俄かには信じられぬ話だが、もしそれが本当だとしたら、この国はいつか、アウトサイダーによって滅ぼされてしまうのかも知れぬ。

 いやアウトサイダー自体が国崩しをせずとも、国が内乱に陥った際には、アウトサイダーを味方に付けた陣営が、勝者となるという可能性はあるだろうな」


「誰かを不幸の中に置き去りにするような国は、置き去りにしてしまった誰かに、滅ぼされてしまうのが運命なのかも、しれませんね、旦那様」


「うむ、そうだな。

 私たちも、自分の一門や所領のことばかり考えていないで、体制からこぼれアウトサイダーに身をやつしてしまった、バーク殿のような者たちにも、救いの手を差し伸べて行かねば、ならないのであろうな。

 誰かを虐げた者には、いつか虐げた誰かの牙に、引き裂かれてしまう日が、来るかもしれないのだからな

 食邑の経営に苦慮していて、領民を満足に食べさせることもできていない、今の我が一門には、アウトサイダーを救っている余裕はない。

 だが、もし首尾よく褒美を得られ、多少なりともゆとりが出て来たなら、バーク殿のような盗賊たちに対しても、何らかの救済策を講じるように努めよう」


 盗賊を撃退した後は、何の支障もなく、乗組員たちに全て任せきりにしておいて構わない戦闘艦の中で、私は新妻との夫婦の時間を堪能しながら、そんなことを話し合ったりもしたのだった。


 盗賊に身をやつすしかなかった、バークのようなアウトサイダーの多いことを知って、憂慮に沈みはしたが、我ら主従は苦も無く政府機関のある要塞まで辿り着けた。



 政府機関の入っている宇宙要塞は、戦時ともなれば難攻不落で、入るどころか近づくことも困難だ。

 青色超巨星から放たれる強烈な恒星風等が、絶壁のごとくに接近を阻んでいる。


“ スリット ”と呼ばれる、細長い宇宙回廊のみが、接近可能なルートとなっている。

 巨大なガス惑星が青色超巨星の近くを周回していることで、その影となる部分では恒星風等が遮られており、細長い回廊を形成している。惑星の公転にともなって、渦を巻きながら星系外縁へと延びる回廊だ。


 スリットを通れば接近は可能だが、それ以外からでは極めて困難で、不可能とすら言い得るという条件が、自然に生じているわけだ。

 守る側は、スリットだけに防衛戦力を集中できるから、難攻不落になる。

 接近ルートが、細い一本道だけに限られているという条件により、政府の最重要機関をおくにはふさわしい場所となっているのだ。


 その宇宙要塞は、巨大ガス惑星の公転周期と同調できる軌道で惑星を周回しているので、常に青色超巨星からは陰となる場所に位置を占めている。

 近づく者を阻む恒星風が、要塞の住人を責めさいなむことは、ない理屈だ。


 旅路の前半で使ったタキオントンネルのターミナル施設と同じく円筒形だが、それを数百倍したくらいに巨大な宙空建造物が、政府機関を内包した人工衛星であり、要塞でもあるのだった。


 我らの一行も当然のごとく、スリットを通って要塞へと入る。

 破産寸前の貧乏一門とはいえ、スリットへの侵入を簡単に許されるくらいには、我らは政府への覚えがめでたかった。


「当然であるぞ、ツルムよ。先の戦役で、あれだけの手柄を立てた我が一門を、政府がないがしろになどできるはずがないのだ」

 我が主に言わせればそうなるのだが、手柄の有無に関わらず、政府に食邑を与えられている門閥なのだから、政府機関への出入りを認められるのも、当然だというべきだろう。

 我らの働きより、ご先祖様たちからの恩恵であると考えるべきかもしれない。


 とにかく要塞内に入りこむことができた上に、円筒形の巨大宙空建造物であるそれの中に、無償の宿舎なども与えてもらえたが、政府要人への目通りはなかなか許可されなかった。

 会わない、と言われたわけではない。しばらく待つようにと言い渡されて以来、2か月3か月と待ち続けても、一向に音沙汰がないだけだ。


 そしてその状況に対しても、我が主は、極めて役立たずだった。

 棟梁ともなれば政府要人に、多少の知己はあるだろうに、そういう筋に口を利いてもらって事の進展を促そうなどとは、いっかな思し召してくれぬらしい。

 何らの努力も見せず、宿舎でふんぞり返っているか寝そべっているかの毎日だ。嫁取りの手配をしてくれた恩も、早晩忘れてしまいそうなお姿だった。


 一方で私は、八方を駆けまわって情報収集に当たった。

 政府への出入りが認められている御用商人や、下っ端の役人などを手当たり次第に捕まえて、情勢をさぐった。


 その結果によると、どうやら政府要人のもとには、陳情に訪れる者たちがひっきりなしの様子だ。

 順番待ちが数か月先にまで及んでいるのだ。我が主が待たされ続けているのも、それだけが原因だと、初めのうちは信じていた。


 だがそれにしても、3か月以上も待たされてなお音沙汰もなしというのも、腑に落ちない。

 4か月を過ぎて、いよいよおかしいと悟った私が、更に念入りに情報収集を進めてみると、政府の容易ならぬ内情というものが見えてくるようになった。


 先の戦役で褒美を与えるべき門閥が多すぎ、すっかり持て余しているらしい。

 従来は、ひとしきりの戦役が終わった後には、敵から勝ち取った領域や戦利品というものが、たっぷりと手のうちに残ったものだった。

 だから、それらを褒美として、功のあった門閥に与えることができたのだ。


 だが先の戦役においては、一方的に攻め込まれ追い払っただけだから、勝ち取った領域はなく戦利品もわずかだ。

 戦功をあげた門閥に差し出すものが、何も得られなかったのだ。


 それに、戦役に際して政府そのものも、あちらこちらからの借金を余儀なくされていて、それの返済ですらも、ままならないありさまに立ち至っているらしい。

 順番待ちの陳情団と思われたものも、よくよく調べてみれば、借金の返済を求めて訪ねてきた貸金業者というべき奴ばらが、多くを占めているようだ。

 政府の台所事情は、思いのほかに火の車だったのだ。


 いくら我が主が先の戦役での戦功をアピールしたところで、政府の台所事情がこのありさまでは、褒美など下されそうにもない。

 破産寸前の食邑と飢えに苦しむ領民を遠くに残し、あまりにも不安な状況に、我ら主従は追いつめられることになった。


「おい、ツルムよ」

 心配顔の私に、主は言うのだった。「借金の取り立て人などより、他のどの戦功者より、一番ミサイルの誉れのあるわが一門こそが、優先して褒美を下される権利を有しておるのだ。だから心配せずに、ドンと構えて待っておればよいのだ」


 主は単純に、そんな理屈を信じているようだが、私には気休めにもならなかった。

 一番ミサイルというのが他の戦功者に優先するものなのかも怪しいが、それ以上に政府がすってんてんでは、無い袖は振れないということになってしまう。


 我らが食邑も、破産してしまうかもしれない。

 せっかくもらった可愛い新妻を、養っていく目途も、立たなくなってしまうかもしれない。


 何とかしなくては、との思いでいっそう情報の収集に精を出してみると、政府に戦功の褒賞を催促している者たちの中に、先の戦役に参加していなかったはずの門閥の家臣などが、少なからず含まれていることに気がついた。


 戦役の時に取得したデーターは、今でも保存してあり、手元の端末でいつでも確認できるようにしてある。

 自分たちの戦闘艦が観測したものに加え、記録係がかき集めて来た情報も合わせ、当時の戦場の状況は、蟻の這い出る隙も無いほどに把握され、記録されている。

 蟻という生き物は、見たことも無いのだが。


 あのとき、私たちの部隊の周囲にいた門閥部隊が発していた、識別信号の受信記録なども、膨大な量が保存されているのだから、ちゃんと調べてみさえすれば、戦役に参加した門閥と、していないものの見分けを、間違えるはずなどなかった。


「参加もしてない戦役での功を賞してもらおうなど、虫が良いにも程があるじゃないか」

 憤って言った私に、新妻が応じた。


「でも、戦役に出征するようにとの命令書は、受け取っていたそうですわ。

 その命令書を根拠として、それらの門閥の家臣たちは、褒賞を催促しているそうです」


「よく、そんなことを知っているものだな、お前は」

「ええ。以前の奉公先に、政府関係の方が何度か、お見えになったことがございまして、そのおかげで政府内に、いくらかの知人がいるのです」


「使用人の立場でありながら、そんな人脈を作っておったのか。大したものだな。その人脈を使って、お前の方でも情報を集めてくれていたのか。何と頼もしい妻だ」

「まあ、旦那様、お口が上手でらっしゃるわ。けしてそのようなことは」


 我が愛妻の内助に留まらぬ功に、私は目を丸め胸を熱くした。

「しかし命令書はあっても、実際に戦闘の現場にそれらの門閥がいなかったことは、間違いのない事実なのだ。

 戦闘時のデーターを示せば、いつでもそれを証明できる。その連中に褒美をもらう資格などは・・・・・・いや、それどころか、命令をもらったのに戦場にいなかったとなれば、命令違反ではないか。

 そこまでいかなくても、職務怠慢ということになるはず」


 前にも述べたように、戦場の記録を詳細に残すことは、我らにとっては死活問題ともいえるから、その点に抜かりはない。

 戦場にどの門閥がいたかは、疑う余地の無い完璧な立証が可能だ。


 我が一門も、ともに戦った他の門閥も、多大の犠牲を払ってあの戦役を戦い抜き、異国の強敵を追いかえしたのだ。

 その手柄を、命令に背き、参加すらもしなかった門閥が横取りしようとしているのだと考えると、私は腸が煮えくりかえる思いだった。


 私はさっそく、証拠となるデーターを政府要人の目に触れさせる為の行動にでた。

 褒賞がそんな連中に横取りされるのは、どんなことをしてでも防ぎたかった。


 とはいっても、下っ端の役人ならいざ知らず、多忙な政府要人に見せるというのも簡単ではない。

 だが下っ端に見せたところで、事態が動くとは思えない。

 悪知恵に長けたそれらの門閥どもに先回りをされて、握りつぶされてしまうかもしれない。

 巧みな言い訳を編み出したり、反証となるデーターを偽造されたり、ということも危惧される。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/7/16  です。


 作中に゛スリット" なるものが出てきました。

 惑星の陰になって恒星風が防がれている部分が、回廊状に伸びているというものでした。


 もちろんそれは創作で、恒星の近くに巨大ガス惑星があったとして、そんな回廊ができるのかどうか、作者には分かりません。

 ど素人なりの想像で、そんなモノがあってもいいのではないか、と考えたにすぎません。


 ですが、恒星のすぐ近くで巨大ガス惑星が周回しているというのは、実際に観測されていて、そんな惑星は「ホットジュピター」と呼ばれています。


 スリットが有り得るかどうか、専門家の見解をうかがいたいところではありますが、実際に観測して確かめることは、現代の科学では無理なのではないでしょうか。

 惑星自体が、トランジット法やドップラー法という特殊な技術を使い、ようやく存在が証明されたところなのですから。


 最新の科学的知見の延長線に、独自の想像を少し付け加えるというのが、SFの真骨頂だと作者は考えているので、こういった創作は今後も続けて行きたいです。


 こういうのを楽しいと思って頂ける読者様が、一人でも多いことを、切に願っています。

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