プロローグ
13作品目の投稿となります。「銀河戦國史」シリーズとしても、13作品目です。
今回は、本編においては一人称形式の作品です。
以前にも一人称形式の作品を書いていて(8作品目、「宇宙の片隅で、誇りにまみれて、転転転・・・」)、もう一つ一人称形式のがあるのでいずれ投稿しますと、7作品目のエピローグの後書きで言及していたのが、この作品です。
こんなことは、ご記憶の方がおられれば奇跡と言ったところですが、とにかく有言実行しましたということで。
シリーズの中では短めの作品ではありますが、中編と言えるくらいの長さには、ギリギリ達しているのではないかと思います。
何話という数字は明言しませんが、2022年の夏ごろには終わります。
日本人なら誰でも知っている有名な史実の後日談にあたる、あまり知る人の多くないであろう史実を土台にしています。
有名な方の史実は何だろうとか、その後にこんなことがあったのか、などと思いながら読んで頂けたら望外の幸せです。
では、過去12作品で続けて来たのと同様に、エリス少年の登場する恒久平和実現後の銀河系を舞台とするプロローグから、物語をスタートします。
プロローグ終了後、数千年の時間を遡って、本編を描くのもいつも通りです。
よろしくお願い致します。
「安全航路と不安全航路がございます。どちらになさいますか? 」
こんな問いに、迷わず不安全を選ばざるを得なかった過日の誰かを、エリスは想い描いていた。
長旅を終えて歩み寄る父の、安心しきっている笑顔を出迎えている時だ。暗い宇宙にポツンと浮かぶ、円筒形建造物のなかでのこと。
2千光年もの彼方で催された学会から、3種類の超光速移動を駆って帰って来た歴史学者の父と、タキオントレインのターミナル施設で少年は待ち合わせていた。
危険など全く恐れず旅ができる今を実感したとたん、安全なんて顧みていられなかった歴史の中の旅行者を、少年は期せずして想起したのだ。
遠い時代に苦難の旅を越えた誰かが、旅の起点に聞かされた言葉らしい。どんな史料にも残されていない言葉なのだが。
旅そのものの記録や、旅をした人物のプロフィールなどは、史料としてしっかり残っている。
それに基づいて父が話した、ある星団国家のエピソードの一つを、少年は記憶している。
だが、今彼が思い描いた問いは、どの史料にも、父の話にも無いのだ。
この記憶から別の記憶を、連想したのだろうか。それとも、記憶をもとに少年が紡ぎあげた、想像だろうか。そうかもしれない。でも、そうではないかもしれない。
無茶に過ぎる旅の支度を主に命じられた家臣が、超光速星間航行船を手配する際に受けた問いなど、10歳の少年に想像できるものだろうか。
「お帰り、父さん。5時間もタキオントレインに乗っていたのに、ずいぶんとくつろいだ顔だね」
駆け寄る少年の言い草に、穏やかな笑顔をやや右に傾けた父が応じる。
「そりゃそうさ。当たり前だろう? エリスだって、何回も乗ったことあるじゃないか、タキオントレインには。
あんな快適な乗り物で、くつろがないヤツなんていないだろう」
「あはは、確かに、そう言えばそうだね、ははは」
妙な発言と自覚した少年は、少し照れたように笑う。「前に乗った時も、すごくのんびりできたもんね。
この前聞いた、昔の人の旅を思い出したものだから、くつろいでる父さんが不思議に思えちゃったんだ」
「へえ、どの話だ? いつ話したやつだ? 漂流星団にまつわるやつか? それとも、ヘラクレス航路群にあるどれかの国の話か? でなければ、銀河暗黒時代に関するもの? 」
「ちがう、ちがう。うーん、確かあれは・・・・・・半年・・・・・・いや、1年くらい前に話してくれたやつ・・・・・・だったかな? 」
「そんな前に話したことを、思い出していたのか。我が息子の歴史好きも、いよいよ堂に入ってきたものだな、あはは。で、どんな話だっけ? 」
「あのねえ・・・・・・確か、封建的な国の領主が、褒美をもらうためにした・・・・・・」
「ああ、あれか!『宇宙系』が創った星団国家での、戦功褒賞の催促をしようとした封建領主の、旅の記録だな。3年ほど前にやっと史料の解析が成って、判明したやつだ。それの話をしたなあ、ずいぶん前に」
「そうそう、『宇宙系人類』の国の話・・・・・・」
ここまで来ると、この親子の会話を理解するのには、少し説明が必要となる。
この時代から振り返ればおよそ1万年前に、人類発祥の惑星である「地球」で、全面核戦争が起こった。
未熟な航宙技術で、戦禍からの一か八かでの逃避をはかった者たちがいたのだが、その末裔がエリスたちの口にしている「宇宙系人類」だ。
数万の宇宙船に乗り込んだ数千万人が、宇宙へと散り散りに逃げ去ったと言われている。
それらのほとんどは、虚空を彷徨った末に命脈を途絶えさせてしまったらしいのだが、2%ほどは生き残り、銀河系のあちこちで繁栄の途に就いたと考えられている。
しかし生存に成功した者たちも、小集団での長らくの宇宙放浪を経ることで、科学技術や社会制度を大きく後退させてしまった。
彼らの創った国は、封建的や独裁的と言われる、時代を遡ったかのような体制になってしまう場合も多かった。
一方で全面核戦争後の地球にのこり、放射能汚染などによる絶望的荒廃から奇跡の復興をとげ、「宇宙系」に5百年ほどおくれて宇宙に歩を進めた人々の末裔が、「地球系人類」と呼ばれている。
人口の7割を失う惨禍と長期の停滞を経験したとはいえ、「地球系」は科学技術も社会制度も、多くを「宇宙系」より先進的なものに維持できていたし、集団規模もはるかに大きかった。
「地球系」と「宇宙系」の人類が宇宙で再会を果たしたのは、地球での全面核戦争から数えれば約4千年もが経過した後だったが、野蛮で好戦的な傾向の強い「宇宙系」を「地球系」が平定し、懐柔し、平和共存に導くというケースが多かった。
「地球系」が中心となって創設した「銀河連邦」という機関が主体となって、それらが推進された時代も長かった。
恒久平和という形で活動が実を結ぶのは、「再会」からでも6千年、「宇宙系」の銀河系進出からなら1万年という、長きにわたる紆余曲折を経た後だった。
「あの話は」
父は感慨にふける顔になっている。「私もよく覚えているよ。
何千年も前のものと計測された宇宙城砦遺跡から見つかった、ボロボロのデーターチップから復元された誰かの手記だったね。
ひどい損耗状態から、復元は不可能だと思われたデーターチップが、長年の努力で一部だけではあるけども、読み出しが可能となったのだからね。
内容が学会で発表された時には、銀河中の歴史学者が興奮したものだったよ」
「うん、そうなんだってね。『地球系』が残した史料は、比較的に保存状態が良い場合が多くて情報量が豊富だけど、『宇宙系』の史料は少ないものね。
特に銀河連邦が、遠すぎることが原因で、ほとんど関与できなかった国のものはね」
「うむ、たいていの古い『宇宙系』国家の実態は、『地球系』の残した少ない間接的史料から推測するしかないのだが、この復元成功で断片的にではあるけども、『宇宙系』の肉声を聞くことができたからね」
「面白い内容だったよね。貧乏な一門の家臣がさ、ものすごく費用のかかる旅の支度を命じられて、相当に無茶をして安上がりな宇宙船を手配したんだよね」
「あはは・・・・・・そうそう。一門の身の丈に合わない旅の指示に、手記を書いた人も、背に腹は代えられなかったのだろうね」
「今の時代ではさ、何万光年っていう旅だって、庶民でも簡単に出来ちゃうのにさ、その時代では百光年程度でも、名のある一門にとってすら手の届かないことだったんだよね。
そんなのを突然主から命じられたら、無茶でも安い宇宙船を手配するしかないよね」
「安全航路と不安全航路がございます。どちらになさいますか?」
話しながらエリスの中で反芻された問いかけは、しかし、解析されたデーターチップにも記されていないものだ。
父と並んで歩きだした少年は、表面では学会の模様を話す父に相槌を打っているのだが、心のなかでは、過日の誰かの旅を、追体験し始めている。
一年以上も前に父に聞いた、手記の記事を足掛かりに、想像を膨らませた追体験だ。
想像なのか、それ以上の何かなのか、少年は父の話から、その記憶から、驚くほど鮮明なイメージを紡ぎ出している。一つの問いかけなんかでは留まらない。
長い旅の一部始終が、そのさなかに生まれた波乱万丈が、悲喜交々が、艱難辛苦が、実体験であるかのごとくに思い描かれている。
しかし、史料にもない事柄がいくつも登場する追体験は、もしかすると、やはり、想像ではないかもしれない。
実は、少年は、時空を貫いて遠き日を、直に見ている・・・・・・・・・・なんて、まさか。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/5/14 です。
このプロローグは、最初に書き上げた段階では、タキオントレインのステーションである宇宙建造物の中に、人工的に雪化粧の施された街が築かれていて、そこにあるカフェでエリス少年が父の到着時間を待っている、というシーンから始まっていました。
それがあまりにくだくだしいかなと思えてきたので、バツッと切り詰めて上記のようになりました。
始まるや否や、一気に本編に導く形にして、スッキリしたのはいいけれど、エリスの時代の世界を余り描けなかった・・・・・・。
本来はプロローグで、平和で豊かで住み心地の良さそうな世界を描くことで、そんな時代を実現させた銀河の歴史とはどういうものだろう、という好奇心を掻き立てたいという意図があったのですが、これではプロローグを書いてる意味が無くなってしまったかもしれない・・・・・・。
多くの読者様に馴染みがあるであろう雪景色の街を描写して、それが宇宙建造物内にあると示して、旅に伴う時間つぶしの為だけにそんなものが作られているこの時代のゆとりや豊かさを演出して、なんてプロローグが、ただ長ったらしいと思われてしまうのか、作品世界への好奇心を少しは掻き立てることができるのか、作者は今でも悩んでいます。
短くシンプルな文章で、平和な世界を、それも長い戦乱の歴史の末に辿り着いたのだと実感できる穏やかで豊かな世界を、描き切れればいいのですが、どうすれば良いものやら暗中模索です。
他にもプロローグで表現したいことはあって、それらをも含めても、くだくだしくならならずに描き切れる文章力を、どうにか獲得したいと、作者は切に願っています。
努力もしようとは思っていますが、何をどうすれば努力したことになるのかすら分からない有様です。