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詩「雨」

作者: 有原悠二

二年。ぶりに父と会った。二年。の間に変わ

ったものと、変わらなかったものが、一人し

か乗客のいない田舎のバス。遠くに見える煙

の匂いが懐かしくて、空を見上げる。父は、

老けた。ぼくは、痩せた。二人で、温泉に入

って、カタンカタン、外を見ると、雹。ここ

には誰もいない。ここに、ぼくはいない。露

天につかりながら、目の前で跳ねる湯を眺め

ながら、その音に耳を盗まれながら。……ポ

                   チ

                   ャ

                   ン

                    、

                    、

                    、

                   ポ

                    、

                 ポチャ

                    、

                    、

                   ポ

                   チ

                   ャ

                   ン

                    。



   「雨、か……




ポ……、ポ……、ポ…チャン、ポ…ポチャン、

ポチャ、ポチャン、ポチャ、ポチャ、ポチャ

ン、ポチャ、ポチャ、ポチャン、ポチャン、

ポチャン、ポチャ、―――――――――――

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――


(田舎に向かって走るバスは、都会に向かっ

て走るバスだ。都会に出たぼくは、田舎にい

るぼくで、父は、いつでも、ぼくの父だ)


――雨。が激しくなるたびに、水柱が槍のよ

うにぼくたちを刺す。思い出が殺されていく。

輪廻転生。生まれ変わりの果てにここに来た。

かのように、顔を沈めて、天を射る雨。に溺

れながら、そっと息を止める。消えていく。

二年。たったの二年。ぼくたちは、まだ、生

きている。生かされている。父は、丸い背中

をより丸くして、手のひらで雨を受け止める

しぐさをして、薄くなった頭髪。ぼくはなに

を見つめていたらいいのか分からず、目の前

の水柱と、苔の生えそうな岩と、自身の驚く

ほど成長していない心。と――




   ポチャン




 雨音は止まない。鼓動は止まらない。家で

は母が待っている。ぼくは腹を空かせている。

父はいつの間にか湯から上がっていた。雨が

徐々に緩やかになって、そうして、止んだ。

違和感のないただの曇り空。…違和感。もう、

なにも降らないのか、もう、なにも起こらな

いのか、世界、あっ。――日常。ぼくは急い

で湯から出る。背後から幽かに雨。音が聞こ

えた気がする。それはとても悲しくて、それ

 はとても愛おしい。

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