【緊急】婚約破棄阻止職員会議
インケルタ王国に数ある高等学園の中でも長い伝統と高い学識、教鞭をとる類を見ない碩学陣を擁し、そして何よりも自由な校風で知られ、周辺諸国でも名高い名門男女共学校『メディオクリタース貴族学園』。
代々の王族がこの学園を学び舎とし国外からの留学生も積極的に受け入れ、また庶民であっても難関である入学試験を潜り抜けた有能な者には、奨学金制度や学生寮の使用など各種補助を行い、多くの王侯貴族や官僚などがここから巣立って行った。
そのメディオクリタース貴族学園の一角を占める職員棟。
放課後のさらに遅い、もはや深夜といっていい時間帯にも関わらず中央に位置する会議室に全職員が顔を揃え、時ならぬ重苦しい空気が漂っていた。
「……もう一度確認するが確かなのだね、エミリアン司書教諭?」
ジェラール教頭の苦し気な――ウソであって欲しいとすがるような確認の――声に、年配の司書であるエミリアン司書教諭は沈痛な表情で無情にも首を縦に振った。
「確かです、ジェラール教頭。ベルトルド王太子殿下は来月開催される卒業パーティーの会場で、婚約者であるマルケッティ侯爵家令嬢であるクレメンティーナ嬢との婚約を独断で破棄し、聖銀月教団公認聖女であるジュスタ嬢と改めて婚約する……という杜撰な計画を、放課後の図書室で乳繰り合――失礼、睦み合いながら寝物語に話しておりました」
まったく、静謐な図書室を連れ込み宿代わりに使うとは、と最後に憤懣やる方ない口調で嘆いて話を締めくくるエミリアン司書教諭。
「「「「「「「「「「――む……うっ」」」」」」」」」
途端、その場に集まっていた教諭たちが一斉に呻いた。
そんな彼ら、彼女らを見渡して、テーブルの上座に座っていた初老の男性――オーギュスト校長が、苦渋の表情で口を開く。
「諸君、これは座視できぬ事態であります。これまでの(ベルトルド王太子)殿下の所業は、まあ若気の至りとして静観してきましたが、ことここに至っては看過できぬ問題となりました! 何となれば卒業式当日とはいえ学園に籍を置く次期国王が、学園の敷地内で門閥貴族筆頭であるマルケッティ侯爵家の令嬢を吊し上げ、あろうことか勝手に聖女を後釜に据えるなど正気の沙汰ではありません! このようなことが断行されれば、問題の擦り付け合いの挙句、王家と侯爵家、そして教団側は責任の所在を我らの管理責任へと転嫁させるのは明白です。結果、関係者全員の退職金なしの馘首処分は確実。当然再就職先など望むべくもないでしょう」
「「「「「「「「「「――うぬぬぬぬぬ……っ!!!」」」」」」」」」
先ほどよりもより深刻で切羽詰まった呻き声が沸き上がる。
「……よりにもよって、なんでまだ学園に籍を置いている卒業パーティーの式場で行うのかなぁ。卒業してからにすればいいものを」
学年主任のマクシミリアン教諭の嘆き節に、歴史教諭のロザリー女史が肩をすくめながら答えた。
「大方、卒業証書を受け取れば即卒業、自由、ならばこの一時の解放の瞬間に面倒事を片付けてやるぜ~! といったカタルシスにでも浸かっているのではないのですか? 実際には月末までは学園生として籍は残っていると、学生証にも卒業証書にも書いてあるのですが……」
「……目を通しているわけがないよなぁ、あの殿下と聖女様に限って」
文学担当のセレスタン教諭が遠い目をしてしみじみと呟いた。
毎回試験では互いに学園創設以来の赤点記録を更新し、王家と教団に忖度した学園側の配慮で、再試験の代わりに(やるだけ無駄なため)レポートの提出でお茶を濁し(レポートの筆跡とか見ないフリをして)、下駄を履かせるどころか職員全員で御輿に乗せて、どうにかこうにか――〝後は野となれ山となれ”とばかり――卒業までたどり着けた二人である。
学生証どころか教科書さえ満足に目を通していない可能性すらあった。
「――何しに学園に来ておるんだ、あの二人は?」
不快気に武術教諭であるガストン教諭が巌のような厳つい顔を歪めた。
「つかの間の逢瀬を愉しむためでしょう。当初は保健室のベッドを勝手に占有していましたが、半年ほど前に老巧化――毎年修理点検は行っていて問題ないとされていたのですが――を理由に、王族専用控室にそれはもう豪華な天蓋付きのベッドが搬入されましたし」
それに対して養護教諭のマリエル女史が、白衣の胸ポケットからシガレットケースを取り出して、細身の紙巻き煙草を一本口に咥えて、指先を軽く弾いて生活魔術の『点火』で火をつけ、一息で三分の一ほどを吸って、ふ~~~っ……と、長々と煙を吐き出す。
「そこまであからさまで、これまで苦言を呈する者はいなかったのかね?」
ジェラール教頭のイラついた問いかけに、ほとんどの教師が疲れたため息を放った。
それに対して数学のランベール教諭が全員の所感を代弁する。
「無論の事、ジュスタ嬢が教団の横車で編入してきて以来、この二年間に心ある生徒や正義感にあふれた生徒会役員、クレメンティーナ嬢に同情的な女生徒などが諫言を行いましたが、結果は王家の圧力でないことないことでっち上げられ、良くて退学、ひどい時には一族郎党処刑という事例があり、もはや腫れ物を扱うも同然で、触れないようにしている感じですね」
「――ま、それは我々学園側の対応も同じですが」
即座に皮肉っぽい口調で倫理学のフェリクス教諭が合の手を入れた。
「仕方なかろう。学び舎は学問や芸術、マナーを教える場所だ。発情した子供のしつけなど親の管轄だろう?」
ジェラール教頭にひと睨みされたフェリクス教諭は、ひょうげた仕草で軽く手を開いて見せる。
その意味を斟酌したオーギュスト校長が、先ほどから現実逃避気味のジェラール教頭を一瞥して、重々しい口調で断言するのだった。
「……だが、その道理が王家や教団、娘の面子を潰されたマルケッティ侯爵家に通用するわけもない。間違いなく連中は責任逃れの結果、我らに泥をかぶせてトカゲの尻尾切りを行うだろう」
「「「「「「「「「「――ぐっ……!!!!」」」」」」」」」
「何とかなりませんか、オーギュスト校長。学園の権威や卒業生の有志に力を募って……」
すがるようなジェラール教頭の問いかけに、しばし考え込んだオーギュスト校長だが、ややあって錆びついたように首を横に振った。
「時間がなさすぎる。それにどれか一つだけならばともかく、王家、教団、門閥貴族筆頭が揃って糾弾する側に回るとなると、メディオクリタース貴族学園の権威などいかほどの価値もないだろう」
「ならばせめてマルケッティ侯爵家を味方につけるのはどうでしょう? その三者の中で実際の実行力があるのは、古臭い権威ばかりの王家でも斜陽の聖銀月教団でもなく、門閥貴族筆頭のマルケッティ侯爵家であるのは自明の理です。そして侯爵閣下の愛娘であるクレメンティーナ嬢は今回の件では被害者であるのですから、事前に事の次第と詳細を学園側から注進すれば、侯爵閣下であれば王家と教団を相手取って手玉に取ることすら可能でしょう」
ロザリー女史の提案を聞いた瞬間、暗闇に明かりが灯ったかのように一同の目が輝いた。
「「「いや、どうだろう……」」」
対照的に眼窩の奥がどんよりと澱んだ目つきになるオーギュスト校長、ジェラール教頭、マクシミリアン学年主任。
「なぜですか? かなり妥当な策だと思いますが……」
首を傾げるロザリー女史。
「証拠はすでに十分。ファイルしてるあの二人の不適切な関係についての資料は、司法の場でも十二分に証拠として使えるはずです。また、我々教師陣の証言もつけるという条件で、侯爵閣下から譲歩を引き出すことも可能でしょう」
そう言って分厚いファイルを取り出して、順に手渡しで校長まで回すランベール教諭。
「ほう、ジュスタ嬢が編入してきて三日目で子爵家の嫡男を篭絡、その後、次々に男を乗り換え、伯爵子、軍務卿の嫡男、宰相家の次男ときて、半年で王太子殿下を陥落させましたか。ハニートラップのお手本にしたいような鮮やかなやり口ですなぁ」
ファイルの内容を流し読みしたフェリクス教諭が、感服したとばかり賛嘆の声を上げた。
「なるほど、交友関係を伝手にして最短で殿下を釣り上げた。さしずめ〝友釣り”戦法といったところでしょうか」
釣りが趣味なセレスタン教諭が私見を述べる。
「いや、次々とレベルアップしていくやり方は、まるでチェスのプロモーションのような鮮やかさですね~」
それに対してチェスの愛好者であるランベール教諭が異論を挟む。
もはや世にも珍しい珍獣を傍観する心境で、他人事のように語り合う二人。
対して軽くファイルの冒頭を目にしただけで、汚らわしいとばかり吐き捨てるガストン教諭。
「篭絡された男子生徒たちも不甲斐ないが、それ以上にこのようなふしだらな女を聖女と認めるとは、神聖なる聖女どころか路地裏の聖女ではないか! 神の目も腐っているとしか思えんなっ」
「ま、正確には教団が決めた聖女だけどね。自分たちが天国への最短距離を走っているつもりで、通行料を取り立てるのが聖職者の仕事だし、そのための広告塔にはちょうどいいんじゃないのジュスタ聖女。見た目だけは〝ザ・聖女”って感じだし」
どうでもいい口調で携帯用灰皿に吸った煙草を捨てながらマリエル女史が嘯き、ついでとばかり校長たちに水を向けた。
「――で、御三方はマルケッティ侯爵家側につくことに及び腰のようですけど、何か理由が?」
「理由か――」
オーギュスト校長が深々とため息をついた。
「諸君らは貴族、なかんずく門閥貴族を率いる者たちの恐ろしさを理解していない。彼らにあるのは自らの領地と貴族として権威をいかに守り、世に知らしめるかという徹底的な功利主義でしかない。ことに現マルケッティ侯爵はその権化のような人物――いや、怪物だ。彼にとってはクレメンティーナ嬢は『愛娘』という付加価値を付けた道具にしか過ぎん」
要するに血統の良い馬を入念に手入れをしているのも、高い値段で売るためでしかない。
「無論、貴族というものは大なり小なり娘を政略の道具として使うが、あれほど徹底的に『情』というものを理解しない人間はいない。その彼ならば間違いなく婚約破棄の計画を後押しする。そして最終的に自分たちだけが被害者として、王家と教団、そしてついでに学園も支配下に置こうと考えるだろう。なにしろここを押さえることは人材の占有と他国とのパイプを作るのに持ってこいだからね」
「「「「「「「「「「「うぬぬぬぬ……」」」」」」」」」」
再び議論が袋小路に陥る深夜の職員会議。
「卒業パーティを取りやめるというわけには――」
「どんな理由で? そもそも卒業パーティは生徒会の行事であるので、学園側は場所を提供するだけで不干渉を標榜していますぞ。それとも素直に『王太子殿下が婚約破棄を行うつもりなので取りやめて欲しい』とでも言いますか?」
口に出しかけたガストン教諭の安直な提案をマクシミリアン学年主任が一蹴した。
「こういう場合は市井の恋愛小説なら婚約破棄された令嬢が覚醒して、ドヤ顔の王太子を論破するか、突如登場した隣国の皇太子がその場で傷心の令嬢を口説いて落とすと相場が決まっているんですけどね」
半ば自棄のようにセレスタン教諭が夢物語を語る。
「阿呆らしい。そんな気概がある令嬢なら、二年間も婚約者が浮気しているのに手をこまねいてオロオロしているわけないでしょう」
良くも悪くも貴族の箱入り娘で、自分から何か行動を起こそうという発想すらないクレメンティーナ嬢の風が吹いても倒れそうな頼りない顔を思い出して、ロザリー女史が鼻を鳴らした。
彼女は中流階級の出身ながら、女学校卒業後両親を説き伏せ、奨学金でメディオクリタース貴族学園。さらには年間二人か三人しか進学しない大学まで卒業した才媛である。
親の言いなりでほぼ無試験入学をした。学園を貴族の箔つけ、腰掛としか思っていない令息令嬢には、ことのほか辛辣であるのは自他ともに認めるところであった。
「他国の王侯貴族というのも実現性がないですね。そもそも他国で他人様の色恋ごとに首を突っ込むなど、自分も渦中に飛び込むような愚行ですし、また次代のインケルタ王国を担う王太子と門閥貴族筆頭令嬢、そして聖女の三人がポンコツだと知れば……あああっ、ここを先途とドサクサ紛れに周辺諸国によって国土が蚕食され、下手をしたら我々も情報漏洩を怠った売国奴として処刑されるかも知れません!」
ジェラール教頭が最近とみに薄くなってきた頭皮を掻きむしって見悶える。
にっちもさっちもいかなくなった職員会議。
すっかり深夜も過ぎた時間帯であることを、会議室に置いてある柱時計で確認したフェリクス教諭が冷笑を浮かべてボヤいた。
「何百人といる生徒もとばっちりですが、盆暗のせいで、我々教師陣が雁首揃えてサービス残業をしているとは誰も思わないでしょうな~」
もっとも教師としての責任感とか教育者としての自負とかまったく関係なく、ただただ自分たちの保身のためだけであるのだが……。
「肝心の王太子と聖女は、のん気に毎日ズッコンバッコンしているわけですが」
セレスタン教諭が学園にあってここだけは王宮の離宮扱いとなっていて、教職員であろうと許可なく立ち入れない王族専用控室がある方角を向いて恨み言を口にする。
「Mr.セレスタン。その言い方はいささか直截すぎるのではないですかな?」
軽く咳をしながら窘めるマクシミリアン学年主任。
「構わんでしょう。殺された死体の周りに薔薇の香りが充満していたからといって、殺人現場には変わりがないでしょう」
婉曲に擁護したエミリアン司書教諭。
そのやり取りを漠然と聞いていたオーギュスト校長の脳裏に、刹那天啓が奔った!
「それだ――!!」
思わず前のめりに椅子から立ち上がるオーギュスト校長。
「卒業パーティまでにベルトルド王太子殿下がお隠れになれば問題は解決するではないか!」
「「「「「「「「「「「えええええええええええええええええっ!?!?」」」」」」」」」」
校長追い詰められてついに錯乱したか!?
という目で凝視されながらもオーギュスト校長は堂々と言い放った。
「無論、ただ学園内における事故で殿下がお亡くなりになられた場合、我々の責任問題となるだろうが、幸いにして学園内には我々教職員ですら不可侵の領域がある」
「……王族専用控室ですか」
ごくりと唾を飲み込んでのジェラール教頭の念押しに、即座に頷くオーギュスト校長。
「左様。そこで起きた事故は王宮の管轄となる。しかも仮に……仮にだよ。婚約者がいる王太子が、事もあろうに庶民出の聖女と、ズッコンバッコンしているさなかに腹上死をしたとなれば、この醜聞を隠すために王家も教団も学園という藪をつつくわけにはいかなくなるだろう。クレメンティーナ嬢も合法的にバカと別れられるわけで、誰も損をしないたった一つの冴えたやり方という奴だね」
自画自賛をするオーギュスト校長に向かって、
「しかし、そんな簡単に一国の王太子を亡き者にできるものでしょうか……?」
なおも懐疑的なジェラール教頭。
「できる!」
それに対しても盤石たる自信のほどを覗かせるオーギュスト校長の視線が、まずは妖艶たる美貌の養護教諭であるマリエル女史へ向かった。
「Ms.マリエル。王都警察や王立医学部の専門家にバレない薬物を処方することは可能かね?」
「ふっ。私が研究した複数の種類の香料を使えば、激しい運動――ま、ズッコンバッコンは最適ですわね――によって心臓に過度の負担がかかって一気に心不全とすることが可能です。元が香料で、なおかつ別々に分けて嗅がせればいいので体内に残らないため、専門家を自称する素人どもには理解不能でしょうね」
二本目の煙草に火をつけながら自信満々で言い放ったマリエル女史の瞳を真正面から見据え、満足げに頷いたオーギュスト校長の視線が、次に会議室のテーブルの端に座ったまま、初っ端から一言も口を開かなかった小柄なフードの人物に向けられた。
魔法学教諭のヴァレリー女史である。
「だが念を入れて……ヴァレリー女史、王族専用控室に設置してある防御魔法陣を掻い潜り、宮廷魔術師たちにバレないように王太子殿下を呪殺することは可能かね?」
そんなオーギュスト校長の問いかけに、フードの下から空気の抜けるように含み笑いと、意外と若い声が漏れてきた。
「ふしゅ……ふしゅふしゅ。あ、あんな時代遅れの、アップデートもしていない魔法陣なんてザルもいいところ……きゅ、宮廷魔術師なんて言っても、た、ただ魔力量が多いのと、教科書を丸暗記しているだけの素人。も、も、問題ないどころか、なんならいけ好かない貴族連中の頭をツルッパゲにして、頬に一生消えない赤いグルグル巻き書いて、指の先全部をタコの吸盤みたいに、し、してやろうか……?」
「いや、まあそれは場合によってということで、まずは王太子と可能なら聖女をよろしく頼む」
「こ、心得た、校長。わ、わ、私としても、こんな居心地のいい職場を失いたくないからね……」
「うむ」
ヴァレリー女史の了解を得たオーギュスト校長は椅子に座り直すと、最後に誰もいない虚空に向かって呼びかけた。
「タイゲン」
「――はっ」
刹那、それまで誰もいなかった校長の背後に、気配もなく作業服の男が現われた。
唐突なその登場に、何人かの教師の口から「あ」とか「え?!」とかいう間抜けな声が漏れたが、いち早く気を取り直したガストン教諭の値踏みする視線が男の全身に向けられ、すぐに困惑へと変わった。
「あんたは確か用務員の――」
「タイゲン・モモチ。代々学園の雑務を取り仕切っている一族の代表で、ニンジャとかいう東の果てにある特殊な技を使う集団の棟梁でもある」
その場に片膝を突いて顔を伏せたまま黙して語らず。
頑なに口を噤んだままの本人に代わってオーギュスト校長が一堂に紹介方々説明をして、ついでとばかりタイゲンに命じた。
「聞いての通りだ。二重の策は講じたものの、念には念を入れろだ。おぬしなら王太子を警護する親衛騎士と王国の誇る暗部の裏をかいて、ベルトルド王太子殿下を自然死に見せかけて暗殺することは可能かな?」
そう言った途端、無表情ながらタイゲンの全身から一瞬、堪え切れない笑いの波動が漏れた気がした。
「騎士はもとより、王国暗部など我らに比べれば孺子の遊び、小僧の手習い。障害にもなりませんな」
絶対の自信――いや、事実の羅列を口にしているのだと、卒然とその場にいた全員が理解する。
「これで方針は決まりましたな。それでは皆様、ベルトルド王太子殿下の婚約破棄を阻止すべく、速やかに殿下並びに聖女の排除を行います。各自手はずを整え、来る日のためにくれぐれも生徒に異常を悟られないよう、今後とも一層の奮起を期待いたします!」
「「「「「「「「「「はい、オーギュスト校長!!」」」」」」」」」」
教職員たちが一斉に唱和し(タイゲンはいつの間にか煙のように消えていた)、席を立つと同時に誰に決められたわけでなく、自分の役割を担うために各自の判断で動き出すのだった。
目的はただ一つ。王族専用控室において、聖女ジュスタと合体中のベルトルド王太子を腹上死させることである。
そのためなら一切のためらいはない。
それが長い伝統と高い学識、教鞭をとる類を見ない碩学陣を擁し、そして何よりも自由な校風で知られる『メディオクリタース貴族学園』なのである。