2.ウブすぎる小鳥チャン
「ここ、か…?」
生徒証に書かれた住所と、目の前のアパートを見比べてそう呟く。
普通の家だ。
(それにしても、まさかこんなことになるとはね…)
弁当をぶちまけて、押し倒して、さらに気ぃ失って家まで運んでもらうなんて。
これはかなりの貸しだよ、星宮茉維チャン。
まぁ、最後のはちょっかい出した俺もちょっとは悪いけど。
――いや、やっぱり、茉維がウブすぎんのが悪い。
あの様子からすると、見た目結構かわいーのも無自覚だし。
しかも、校内でそこそこ有名な俺のことを知らなかったっていうのも珍しい。ってゆ〜か、先輩じゃないし?同学年なんですけど。
「茉維がチビすぎるだけだよ」
そう呟いて、胸に抱えた彼女のほっぺたをふに〜っと伸ばす。
ピーンポーン
ドアベルを押してしばらくし、出てきたのは、茉維の大人っぽいバージョンのような綺麗なお母さん。
「あら、こんにちは。茉維、もう彼氏できたの?しかもこんな美形な…。私に言ってくれたっていいのに…。まぁいいわ、とりあえず上がって!」
お、結構喋るね。
娘がなんで俺に抱えられてるのかは聞かないのかしら。
しかも、彼氏じゃないんだけどな〜…。まぁいっか、実際、気になるコではあるし。
俺は『おじゃまします』と外面の笑みを見せて、さわやか好青年モードに入る。
こういうのは何回もやってるから慣れてるはずなんだけど――。
「無理に笑顔なんか作らなくていいのよ?子供のうちは自分に正直に生きなさい」
「え」
つい心の声が漏れてしまう。
は…?
なんでわかんの…?
「ずっとそうしてたら、いつか疲れて精神崩壊するわよ〜」
呆然と立ち尽くす俺の腕から茉維を抱え上げ、右の部屋へと運ぶお母さん。
ほの〜んとした口調で言っていたものの、その指摘はとても鋭いものだった。
…なんで、なんでバレた?
自分では普通にできていたつもりだったけど、実はひきつってた、とか…?
いやまさか、そんなわけない。
俺はこれをもう何年間もやってきてるんだから、すっかりベテランだ。
だとすると、単に茉維のお母さんが異常に鋭かっただけ、か。
やばいな、もうちょっと精度上げないと…。
っつーか、茉維はじゃあなんであんな天然で鈍いわけ?てっきり親もそうなのかと思ってたわ。
もう本当、調子狂う…。
そんなことをごちゃごちゃ考えていると、気づいたら茉維のお母さんが目の前にいて。
はっと顔を上げると、
「折角だから上がっていったら〜?ミルクレープあるわよ」
と誘惑の強い誘いを。
う〜ん、ミルクレープは食べたいけど…。
これ以上本性を見抜かれるわけにはいかないからな。一時退散と行くか。
「ありがとうございます、でも今日は遠慮しておきます」
また笑顔の裏を見られるのが怖くて、真顔でそう断る。
「…そう、じゃあ気をつけて帰ってね。わざわざありがとう、これからも茉維をよろしくお願いします」
急に頭を下げられたことに驚き、慌てて『いえいえ』と手を横に振る。
「あの子、ちょっと…いや、大分抜けてるところがあるけど、素直でいい子だから」
うわやばっ、なんか完全に付き合ってる感じになってるし…!
茉維が余計なこと言ったらどうしよ。明日一応口封じとくか。
では、と軽く会釈して、アパートの廊下に出る。
「はぁ……」
なんか今日疲れたわ、早く帰って寝よ。
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