結界
大量のスライムを前に立ちすくむ俺を見て、イリアが俺にある提案をしてきた。
「根本的な解決策では無いのだが、1つ、方法を知っている。」
「…なんすか?」
「結界を張るんだ。」
「結界…?結界ってあの魔物が通れなくなったりするやつです?」
質問してみる。
そういえば結界に関する記憶は譲渡されていないようだ。
手当たり次第に情報を渡してきているくせに、情報に穴があるようだ。
「まぁ、結界の効果はそれだけじゃないんだがな。あちこちに分散している魔力によって生まれる魔物をちまちま処理するより、一カ所にスポーン地点を集めてしまった方が楽だろうって考え方だ。」
「良いじゃないっすか!それ!!どうして早く言ってくんないんすか!!」
興奮気味になる。
というかそんな心折れてる俺を見てすぐに思い出すって事は、絶対前々から頭の中にあったよな。早く言えよ。
そんな卑屈な事を考えながらも、イリアの提案に即ノリノリになる俺。
「あ、うーん…メリットだけしか無い訳じゃ無いんだ。」
歯切れ悪そうにイリアが言う。
「確かに魔物の生み出される地点を一カ所に集めてしまえば、エコに対策を取れる。」
でもね。とイリアの話は続く。
「その分魔力を一点に集中させる事によって、強力な魔物が生み出されるようになるんだ。【無限魔力】なんてそうそう何処にでもあるスキルでは無いから、研究も進んじゃいない。不確定要素が多い中で、さらに不確定な要素を追加するのは危険じゃないかと思ってたんだ。」
らしくない事を言う。
魔法をさんざん俺にぶつけたりなんだりして遊んでたくせに、危険とか言い出したのだ。
まぁ…心配してくれている様でありがたい。
「つまりは例えるならば、豆鉄砲を毎日10回づつ食らうか、月に1回野球ボールをぶつけられるか選べ、みたいな事でしょ?」
「例えが独特な気がするが、そうだ。」
え、これ独特か?
「なら俺は多少危険でも野球ボールを選ぶね!常に何かしらに追いかけられるとか気が狂うぞ!」
「あ、発狂の心配は無いから大丈夫だぞ。」
とかなんとか話し合い、結局結界を張るという決断に至った。
結界を張るという決断に至ってからのイリアの動きはそれはそれはテキパキと見事な物である。
多分これは結界張りたくてしょうが無かったけど、俺に反対されると思ってた感じだな。
ゴーサインが出て張り切っちゃった感じだろう。
いつの間にかイリアは、何処から取り出したんだと思うくらいの(おそらく収納系スキルだろう)大量の色とりどりの液体の入った瓶や、何かの動物?の角とかを取り出して地面に並べ始めた。
さっきまでゴニョゴニョ言ってた癖に、
「そもそも私は魔法学者だが、専門分野は結界学なんだ!そんじょそこらの結界のレベルとは訳が違うぞ!感謝しろ!」
とか言いだし、ノリノリになっている始末である。
結界が完成していく様は横から見ていて面白かった。
まず、何の液体なのか分からないが、瓶に入った液体を半径5メートル程の円になるようにまいたのだ。
適当に撒いたように見えたのだが、液体のこぼれた跡を見るとそれはそれは精巧に円形の形で撒かれていた。
おそらくだが、【魔力行使補正】の応用だろう。
撒いた水の跡に、大小様々な、黒魔術的グッズの数々を置いていく。
何かの角しかり、何かの干物しかり…。
今度は何かをブツブツと呟き、呪文の様な物を唱え始める。
自分でも最近、魔力の流れが分かるようになってきたんだが、鳥肌が立った。
全方向、全ての魔力が円の中に集結していったのだ。
15分後、俺が付近で感知できる魔力量は0となった。
イリアの方を見るとめちゃくちゃ汗だくだった。
「あと!ちょっとで終わる!!ぞ!!!」
ぐったりしながらも元気を振り絞って進捗報告をしてくれる。
ありがたい事です。
そう思っていると、突然、ドンッ!という轟音と共に、地面に置かれていた様々な黒魔術的グッズや、液体が無くなり、
代わりに約、半径5メートル、高さ3メートル程の半透明のドームが誕生した。
「…完成したぞ…。」
そう言ってイリアは倒れ込んだのだった…。