継続
「ぐえぇえぇえ」
猛烈な吐き気がする。
吐く物など体の中には無いだろうに、体が嘔吐しようとする。
これで約60回目の記憶の譲渡。
ここに閉じ込められてから約3週間程経った。
以前のように気を失ったりはしなくなったが、それでもやはり完全に慣れる事は出来ない。
この約3週間、1日3回のペースで記憶の譲渡。
それと同時進行で体力作り等のトレーニングと、魔法に関する講義を受け続けてきた。
「ほら、落ち着いたら走ってこい。」
イリアが目の前で圧をかけてくる。
人の面をした悪魔め…。
最近は割と本気で俺の(正確にはイリアの)体に穴ポコを開けた悪魔とイリアのたちの悪さを比べれば、穴ポコ悪魔の方がまだ優しかったんじゃないだろうかと思う事もある。
でも逆らわないのだ。
一度、やってらんなくなりイリアの命令を完全に無視してみたのだが、痛い目を見た。
死ぬ心配が無い故に、遠慮無く大量の火球をぶつけてきやがったのだ。
その後ちゃんと回復してくれたり、明確に嫌だと意思表示したトレーニング等に関しては代替案を出してくれたりと、ちゃんと向き合ってくれはしたのだが…。
「じゃあ走ってきます…。」
「ほいよ。」
この3週間程で、記憶の譲渡や、トレーニングの成果等で結構な数のスキルを獲得する事が出来た。
以降現在俺が持っているスキル一覧だ。
【無限魔力】
スキル保持者の魂を中心として無限に魔力が生成され続ける。
【鑑定】
生物、非生物にかかわらず発動が可能であり、対象の情報を獲得する事が可能になる。
練度によって、獲得出来る情報量が変わる。
【計算補正】
脳内で計算する際、計算ミスが自動で補正され、正しい結果を導く事ができる。
【思考補正】
思考をする際、思考における前提条件が間違っていた場合スキル保持者に報告、任意での補正を行う。
【呪文攻撃耐性】
魔力の応用から生み出される呪文によって受ける身体的損傷を軽減する。
【精神攻撃耐性】
精神攻撃によって受ける精神的損傷を軽減する。
【記憶補助】
記憶の劣化、減少を防ぎ、学習する記憶の定着化を補助する。
【魔力行使補正】
魔力を行使する際、行使する魔力の補正を行い、魔力のコントロールを補助する。
現在合計で8つのスキルを獲得している。
新しく獲得している、【記憶補助】と【魔力行使補正】は記憶の譲渡によって獲得した。
【記憶補助】の方は【計算補正】、【思考補正】同様、学校に通っていた時に欲しかったと思った。
【呪文攻撃耐性】と【精神攻撃耐性】の方はイリアに火球をぶつけられまくった時に獲得した。
誰が判断しているのか知らないが、ちゃんとイリアのあの魔法は【呪文攻撃】であり、【精神攻撃】であると判断してくれたのが若干嬉しかった。
イリアにその事を話した所、普通は魔法をぶつけられた程度で耐性スキルを覚えるのは困難なのだと、興味深そうにしていた。
因みにその話をした後、
「【物理攻撃耐性】も獲得出来るのかどうか試させてくれ!」
と本気で殴られそうになったのだ。
なんとか殴られる事は回避したものの、あれこそが本物のマッドサイエンティストなんだろうな、と思った。
そんな事をぼやっと考えている間に指定された量のランニングが終わる。
座り込んで休憩を始めると、イリアが話しかけてきた。
「休憩が終わったら実技戦闘するぞ。感謝するが良い。私にマンツーマンで指導を受けれる等滅多に無いのだぞ?」
冗談交じりで言っているが、7割くらい本気で言っているのを俺は知っている。
この3週間程で理解した事。イリアは自己肯定感が滅茶苦茶強い。
多分本気で、世界は私を中心に回っている。とか思ってる気がする。
「ハイハイ。」
適当に流してみるが、イリアが凄い人なのは本当らしい。
記憶の譲渡によってイリアに対する理解も深まっていた。
魔導大国であるルーシャンという国の魔法技術に関する第一人者なんだそうだ。
最先端かつ、革新的な講義を行う事で有名であり、いつも講義はほぼ満員。
まぁ…その内の4割位はイリアの美貌に惹かれての物っぽいのだが…。
護衛付きで移動してたのも、これ程の人物なら納得って感じだ。
「それじゃあ始めようか。」
「了解です。」
休憩を終えるとお互いに動き出す。
実戦に近い形式の模擬戦を行うのだ。
イリアは指先をこちらに向け、バスケットボール程の大きさの火球を合計6個、バラバラのタイミングでこちらに向かって打ってくる。
6つ全部を避けるのは困難だったから俺も火球を2発飛ばし相殺、気合いで残りの4つはなんとか避ける事に成功する。
講義、と聞いていたからてっきり本を読んでどうのこうの…。というような物だと思っていたが、
「それは記憶の譲渡でなんとかなるから必要無い。お前に必要となるのは魔法の実践経験だ。」
との事だった。
よってここ最近はずっと魔法による実技戦闘が続いてる。
実技戦闘のお陰で魔法も打てるようになった。
今みたいに火球を打ったり、突風を巻き起こしたり水を噴射させたりする魔法が使えるようになった。
自分が一番興味深かったのは、魔法が体系別に分類されていて、それによって魔法のランク分けや命名がされていたりする事だった。
命名関連でいうと、例えばさっきイリアや、俺が打った火球の呪文の正式名称。
『火炎連弾』
この呪文でいくと、
〝火炎〟の部分で魔法の属性が判別でき、
〝連〟という部分で何発か同時に打たれる物だと判断できる。
で、〝弾〟の部分で魔法1発1発の形態が分かるようになっている。
こういう風にして初見の魔法でも、名前さえ分かればある程度どういった魔法なのかは判別できるようになっていた。
素晴らしいと思って、このアイデアを褒めちぎったらイリアは鼻を高くし、
「まぁな!私が考えたのだ!」
と言っていた。
イリア考案のアイデアだったらしい。
褒めなきゃ良かった。
なんでこんな名付けをわざわざやるのかっていうと、複数人で魔物を討伐する際、事前に魔法の名前さえ叫んでくれればおおよそどういった魔法を打とうとしているか分かり、連携出来るという事なんだそうだ。
そんなこんなでイリアとの実技戦闘も終わった。
当然勝てない。魔法の威力、精度、スピード全てにおいて圧倒的にイリアの方が上だった。
「良い感じに戦えるようになってきたじゃないか。」
「あざす。」
イリアとは以前よりも気軽に喋れるようになった。
今では唯一喋れる相手だから、俺のメンタル面の命綱と言っても過言ではない。
イリアは汗を拭きながら言う。
「そろそろ【無限魔力】のせいで低級の魔物が出てきそうだな…。」
「えぇ…会いたくないです…。」
だが、それも無理な話であった。