説明
金髪の美少女がこちらに歩み寄ってくる。
「お前はここを夢だと思っているようだが、残念ながらここは現実だ。」
金髪少女は開口一番に俺の淡い希望を打ち砕くような事を言ってくる。
「私の名前はイリア アイオン。学者であり、お前のその体の持ち主だ。」
落ち着いた動作で自己紹介をしてくる。確かにその余裕のある動作は、まさに大人って感じだ。ぼさぼさした長い髪にメガネを掛けた、本来ぱっとしないはずの見た目を覆す美人具合だし。
それで、だ。急に性別まで変わってたから混乱するしか無かったけど、この人はさっき俺が入っていた肉体の元の持ち主らしい。
相手にだけ自己紹介させるのはなんか失礼な気もするので、俺も自己紹介しようとする。
「俺の名前は…あれ」
名前が思い出せない
俺の自己紹介を手で遮りイリアが語り始める。
「名前が思い出せないのだろう?仕方が無い事だ。本来名前というのは住所のような物でな、名前はその世界に帰属している。世界を渡って来たことによって元の世界との繋がりが切れてしまい、名前を思い出せなくなったのだろう。」
流暢に俺が名前を思い出せない理由を語るイリア。
そうか・・学者と名乗ってたけどそういう饒舌に喋れるタイプの人なのか・・
正直イリアの語る説明はよくわかんなかった。
それにしても、自分の名前が思い出せないという事にかなり不思議な気分になる。
見ていたはずの夢を思い出せない。
そんな気分に近い。
説明でなんとなく分かったのは、イリアの言葉を全面的に信用するならば、異世界に来てしまったという事。
確かにもうここまできたら夢ってよりかは信じられる。
信じたくないけど。
疑問は溢れる程有る。
この世界において唯一の頼れる人に縋りつくように質問を投げかける。
「名前を思い出せなくてすいません。悪魔はどうなったんですか?ここは何処ですか?それから…」
質問攻めをする俺の言葉を手で遮り、落ち着いて話し始めるイリア。
「こんな環境だ、お互いを呼ぶ時に名前は必要無いだろう。とりあえず落ち着け。時間は腐るほどある。」
腐るほど?
「質問に答えよう。一つ目のお前の質問、【悪魔はどうなったか】だ。今もお前の体のそばに居る。…が、現状ヤツからお前に対して危害を加える事は出来ない。こちらから見れば外界の時間は完全に停止しているのだ。」
イリアの説明は続いた。
ざっとかいつまんで話すと、俺の魂を刈り取ろうとする悪魔の気が緩んだ瞬間に悪魔の魂を経路として魔王の魂に侵入してレアアイテムを泥棒したお陰でなんとか現状生きてるよって話だった。
魔王相手に泥棒とかクレイジーも良いところだと思う。
「魔王から盗み出したアイテムの名前は【永遠の牢獄】だ。自分も初めて目にするアイテムだったが、まぁ…理不尽な程に強力なアイテムなんだな。」
そう言ってイリアは俺に対して【永遠の牢獄】について説明をする。
イリアの説明をざっとまとめるとこんな感じになった。
【永遠の牢獄】
現実世界とは隔離された精神世界に対象者を5億年の間閉じ込める。閉じ込められた対象者は、死亡、発狂する事は出来ない。
5億年後自動的に永遠の牢獄が生み出した世界は破壊されると同時に、対象者の魂は消滅する。
何というか…5億年ボタンのような物だなぁ…
つまりはアイテムを使用した瞬間に俺達から見れば5億年間俺達以外の存在は時間停止になっているようなものらしい。
停止させられた側は時間が停止したなんて一切感じないらしいが。
「おそらく元々は魔王が誰かしらを拷問&消滅させる用に持っていた物なのだろう。」
存在としての強度が強いモンスター等は、簡単に消滅させる事は難しいらしい。じわじわと時間をかけて存在強度を消耗させ、消滅させる為のアイテムだと聞いた。
凶悪極まりない。
確かに5億年間誰も何も無い環境に閉じ込められるなんて相当の苦痛だろう。あげく最後には消滅・・・
今回は俺達を対象としてイリアは【永遠の牢獄】を使用したらしい。
「え…これってあの悪魔に使えば良かったんじゃないですか…?」
俺はイリアに質問する。
「あの悪魔を消滅させど、後ろには魔王が控えてる。戦ったとして勝ち目は無いだろう。」
ごもっともです…。
「だが、完全に勝ち目が無い訳では無い。」
そう言ってイリアは俺を見る。
イリアの作戦はこうだった。
異世界より召喚されてきた人間は往々にして種の限界を超えた強力な能力を持つらしい。
ここはテンプレのような異世界事情だな。
ここで長い時を経ながら、俺を強力な能力に目覚めさせる。
そして、5億年後この精神世界が崩壊してしまう前に脱出し、キレてる悪魔、魔王共々俺に殺してもらおうという作戦らしい。
無理だろ。
完全に人任せだ。
しかも魔王殺しって・・・。
というか脱出に失敗した場合俺達は共々消滅?
どっちに転んだとしても地獄すぎる。
「まぁ…なんとかなるんじゃね?」
イリアはクソ脳天気にそう語る。
「とりあえずお前の能力を確認してから作戦を練るか…」
そう言ってイリアは俺をじっと見る。
「何してるんすか?」
「あぁ、【鑑定】してるんだよ。」
スキル的なのが存在する世界なのか。
楽しそう。
普段のゲームやそういった物でスキルとかの文化には割と違和感を感じなかった。
俺を鑑定していたイリアの顔が一瞬曇る。
「お…?」
「かなり強力なスキルを持ちやがったな…」
「え!?どんなやつっすか!教えて下さい!!」
強力なスキル等と言われて興奮しない訳が無い。俺はイリアにどんなスキルなのか問い詰める。
「お前のスキルは【無限魔力】だ。」
「なんか格好いい名前っすね!!」
興奮からかボキャ貧になってしまう。
イリアは顔を曇らせたままだ。
「確かにこのスキルは、全スキルの中で1,2を争う強力な物だが、な。【無限魔力】の保持者は世界中の法において無条件に死刑の対象となる。」
「え・・?」
そういってイリアは【無限魔力】の解説を始めた。