第六話 溺愛する大人達
ゲリラ豪雨が止んだ後に職場から外に出たら、メガネが一瞬で曇った。
気持ちはサウナに入った時の様だった:(;゛゜'ω゜'):
ブックマーク、読んでくれた皆様。
ありがとうございます(*'ω'*)
この世は実に不思議でいっぱいじゃ。
「この本……つまらんのう」
一冊の本を読み終えて、出た感想がこれじゃ。『中級者のための魔法学』どこに中級要素があったのじゃ?これならば初級者用の本が上級に見えるぞい。
「ふむ。違う本を探すかのう」
―こんこん
「入るのじゃ」
「失礼します。お嬢様、お爺様がお見えになりました」
「じいじが来ておるのか?では行かねばな」
本を持ち上げ本棚に……これ重たい。
「私が戻します」
「すまんのう。感謝する」
「……いえ」
この娘はワシの専属侍女である。名はジャムストーン。ワシが三歳の誕生日に祖父が専属にと頂いたのだが。
「お嬢様……この本読めるのですか?」
「読んだがつまらん内容じゃったぞ。これならば、じいじの話を聞いている方が百万倍為になると思うがの」
「左様ですか」
「ジャムも読むなら好きにすれば良いぞ」
「私は侍女なので」
「そんなの関係なかろう。ワシが良いと言って、ジャムは家族なのだから」
本を戻したジャムは、ワシの言葉を聞いて固まる。
「何をしておる。じいじが来ているのだろう?一緒に行くのだろう」
「……はい。お嬢様」
書斎を出てじいじのいる所に案内をして貰う。
「おぉ!ジュエル!今日もかわええのう!」
「じいじ。今朝も会ったであろう?」
「いつ会っても同じ事。いや、ジュエルの可愛さは日々磨きが掛かっておるか」
じいじは領主だったが、事業全てを父上に譲ったようじゃ。引退したからと孫娘のワシと一緒に住んでおる。今朝も早くから引き継ぎと出掛けておったが、帰って来てすぐにワシとの散歩が日課となっておる。
「して、今日も行くかの?」
「行くのじゃ!」
「では行こうか。ジャムは……」
「無論、お嬢様と共に参ります」
「偶にはじじいと孫娘水要らずと、気遣いしても良いのだぞ?」
「その選択肢は御座いません。バーン様に任せていたら、お嬢様に悪影響ですから」
「どこが悪影響なんじゃ?」
悪影響とな?ワシは何か間違っておるのだろうか?ジャムが何を言うのか聞いてみるとしよう。
「まずはその口調です」
「口調とな?」
「とな?」
「お嬢様は三歳で、もう時期四歳になられます」
「そうじゃの」
「じゃの」
はーっと溜息を吐くジャム。
「お嬢様なのに何故、じじい言葉なのでしょうか」
「ほむ。なぜじゃ?」
「なぜじゃ?」
「もっと分かり易く申しますと、お嬢様は女の子なんですよ?」
「知っておる。こんなべっぴんさんはそーおらんぞ」
「女の子が使う言葉では無いと言う事です」
なんと!?この言葉遣いはオナゴらしくないと!しかし父上も母上も、可愛いと言っておったぞ。
「ワシはへんかの?」
「……せめて『ワシ』はやめさせて下さい」
「ワシに言われてものう。オナゴはなんと言うのじゃ?」
「それは『私』とか『自分の名前』を言うのが普通では?」
「出来るかジュエル?」
「わ、わた……わたし!」
「かわええ!」
じいじがギュッと抱きしめてくる。これが正解なのかの。
「そうですね。私ならまだ女の子らしいかと」
「わし……私は変じゃないかの?」
「なんじゃ……物凄くミスマッチな感じじゃ」
「これは……お嬢様!ご自身の名前を!」
微妙な顔をする二人。これはもう一つの選択肢の自分の名じゃな!
「ジュエル。ジュエルへんかの?」
「先程よりは良いのじゃが。うーむ」
「…………」
自分の名を言うのは、どうも性に合わんな。背中がちっとばかしゾワっとするのう。そうなると……
「好きに言えば良いではないかの?ワシも私も一文字しか変わらんじゃろ」
「ジャム……だめかの?」
「っぐ。そんなの顔をしても……」
「ジャムぅ〜」
「あぁ……仕方がありませんね!大きくなったら自然に直るでしょう!」
「ジャム好き〜」
「はぅ」
「ほっほっほ。ジャムもジュエルには甘いのう」
ちょろいのじゃ……おっといかん。油断はいかんな。
しかしワシのこの口調は年紀が入っとるぞ。なんせ三度目の人生では、ほぼこの喋り方じゃったからのう。変と言われた事はあったが、ワシが男だったので直そうとはせんかった。
「ではこの問題はここまでじゃ。早速じゃが行くかの」
「行くのじゃ!」
「これはこれで可愛いのでしょうか?」
いつもの散歩へと、今日も三人で出掛ける。散歩と言っても三歳児にはあまり遠くへ行く事はできないのだがな。
「ここなら良いじゃろう」
「じいじ今日は何をするのじゃ?」
「そうじゃな……いつもの炎系統で訓練も良いのじゃが、少し変えてみようと思うのじゃ」
「なんじゃ?」
「それはのう……これじゃ」
―パチ
じいじの指と指の間に何かが光る。
「なんじゃ?光った」
「ほう。これが見えたか」
―パチ
これは光が指と指を通ったように見えたのう。しかし光と言うより……
「雷かのう?」
「正解じゃ。さすが三系統を使うだけの事はあるのう」
「そう言えば、今日も中級魔導書を読んでいましたね」
「ほう。あれを読んだか。どうじゃった?」
「つまらん本じゃった」
「じゃろう?あれは堅物が作った物じゃからな」
堅物のう……確かに学業の本のようにきっちりしすぎておったな。
「知識と魔力が見えるなら話は早いのう。見ておれジュエル」
―パチ……パチ……バリバリ!
じいじの体全体を這う様に、雷が走り回る。
「ふぅ……これが雷系統の初歩にして、最強の魔法じゃ」
「バーン様。また血圧が上がりますよ」
「ふん!ワシはまだまだ現役じゃ」
「それではなぜ当主をお辞めになったのですか?」
「そんなん決まっておる!」
じいじがドンと胸を張り……
「ジュエルと会う時間が減るからじゃ!」
「…………それ、領主様には言ってはいけませんよ」
「言わんよ。そしたら領主変わってもらえんじゃろ」
なんともまぁ……ワシは聞いてはならぬ事を聞いたもんじゃ。領主になった父上は、じいじに認めて貰えたって喜んでおったしのう。忙しく仕事をしておるが、どこか充実してそうな顔だった。
「お嬢様も内緒ですよ?」
「うむ。内緒じゃ!父上泣いてしまうからのう」
「そうですね……」
「なんじゃ、二人してワシを見て。実力は確と認めておるんじゃ。しかし、ジョリーは少し馬鹿だからのう……ミラージュさんがおるから、譲ったまでよ」
母上は何でも卒なくこなすしのう。父上はあれじゃ……ただ考えなしで突っ走るだけじゃ。
「お嬢様。くれぐれも内緒ですよ」
「言わんのじゃ!」
「ジュエルはええ子じゃのう」
ワシには甘い大人達じゃが。ジャムはこれでもかと念を押してくる。ワシが子供であっても、言っていい事とダメな事くらいわかるのじゃ。
気遣いは社会で働くには重要不可欠じゃからな!
ジョリー「親父はどこ行った!」
ミラージュ「ジュエルのところでしょう」
ジョリー「こんな雑なメモだけ残して何してんだ……俺もジュエルに!」
ミラージュ「ジョリー。この書類に目を通して」
ジョリー「……くそぉ!?もしかしかして親父……ジュエルに会う為に領主降りたんじゃ?」
ミラージュ「…………はい。次はこれね」
ジョリー「え?まさか本当に?」
ミラージュ「いくらジュエルが可愛いからって、そんな事は無いわよ…………」
ジョリー「そうだよな」
ミラージュ「たぶん」
ジョリー「ん?今何か……」
ミラージュ「はい。次はこれ」
ジョリー「お、おう。今は目の前の事をやるしか無いか」