タイムスリップにハマって重課金したせいで婚約破棄されたので、異世界でグルメなスローライフを送ります!
「君とはやっていけない」
苦々しい彼の言葉を、私はどこか他人事のように聞いた。
今、婚約破棄を宣言されているところ。ちなみに私はゲームの悪役令嬢ではなく、普通の世界の会社員26歳だ。
デートは割り勘、ブランド物は持っていない。
地味で堅実で、彼からすれば『嫁向き』だったのだろう。借金が、バレるまでは。
「金銭感覚が無さすぎるよ」
ごもっとも。だって私の金銭感覚は、ソレの魅力の虜になって以来、崩壊してしまったのだから。
今や、重課金のために極限までした借金が返しきれず、カードの経歴はブラックに染まっている。
それでもやめられないのだ。
この『タイムスリップガチャ』は……!
次元科学が発展した現代ならではの、気軽な遊び。
専用のガチャ機で1回10分程度、過去のどこかに行ける。
いつ彼と別れたのかも思い出せないまま、私はフラフラとゲームセンターへ向かった。
財布の中には、最後の五百円。
(今度こそ、帝政ローマ時代に行けますように!)
願いを込めてコインを投入し、ガチャ機に飛び込む。
次の瞬間、私は光に包まれながら闇の中へと落ちていった。
「うっ。ここは!?」
私は腰をしたたかに打って目を覚まし、周囲を見回してバンザイした。
「やったぁ!」
最後でツキがきたぜ!これも重課金の賜物。
トーガを纏い、談笑しつつテルマエに向かう人々。
憧れの、古代ローマだ!
ところが。
「ぎゃあああっ」すごい悲鳴とともに現れたのは、モンスターたち!
……どうやら、事故って異世界に飛ばされたらしい……
「やぁぁっ!」「氷炎!」「烈風拳っ」
勇者たちにより、あっという間に倒されたモンスター。
この世界では食べないそうだが、借金苦で最後はティッシュに醤油つけて食ってた私には、ご馳走に見えた。
譲り受けたバイコーンを、ステーキにする。ワインを豪快にかけてフランベすると、周囲から「おおっ」と歓声が上がった。美味い。
マンドラゴラのポタージュ。美味い。
コカトリスの焼き鳥。美味い。
「もっと食べたいよコレ!」「俺もっ」「あたしもー!」
「「「開業資金は任せろ!」」」
豪気な勇者様たちのおかげで、店を持つことができた。
「おぅっまた来たぜ!」「このワイバーンで何か作ってね!」
「好きだ!」「ごめんなさいっ」
冒険皆無、恋愛少々の穏やかなスローライフを経て、いつの間にか貯金ができていた。
その額は。
魔道タイムスリップガチャの開発に投資できる、程だ。
7/2 全面的に改稿しました。賽子ちい華さま、アドバイスありがとうございます!