懺悔ミステイク -3-
「私は町でペンキ屋をしているのですが、ある時、隣町の家の屋根の塗りを頼まれました。」
「その家はかなり年季が入っていたもので、弱った屋根材を踏み抜いて穴を開けてしまう恐れがありましたし、雨漏りしている箇所もあったものですから、先に屋根を直した方が良いと家主に伝えたのです」
「そうすると、家主は貧しくて屋根を直す金まではないと言うんです。もうすぐ嫁ぐ娘が婚約者を連れてここへやって来る。その時にみすぼらしい家だと思われたくないんだ、そう家主は私に告げました」
「私は親に早く先立たれて、年頃の妹と二人で暮らしているものですから、そういう親心が良く知れてしまって...ここは一肌脱いで、屋根の修理まで請け負ってやろうと決めたのです」
「それは、とても尊い行いですね」
司祭は男に感心を覚えた。
「ですが、同じ大工仕事と言っても屋根を張り直すとなると腕に覚えがないものですから、私は知り合いの大工にやり方を尋ねたのです」
「その方にお願いされなかったのですか?」
「いえ、頼みたいのは山々なのですが、ひとつの稼ぎにもならない仕事に人を雇うことは出来ませんし、頼める義理もありません。」
「それに自分が請け負った仕事ですから、なるたけ自分の手で済ませなければなりません。ペンキ塗りとして男手一つで生計を立てている者ですから、そういう矜持を持ってしまっているのです」
「なるほど。ご立派なのですね」
司祭は姿を一度も見たことの無いこの男を、軽口をよく言うものだから飄々とした姿を想像していたが、話を聞くうちに逞しく力強い印象を覚える様になった。
「知人の話を聞くに屋根張りというのは、中々に骨が折れる作業でしてね。一度土瓦を全て取り外して、下地を張り直す必要があるのです。そのうえで土瓦を接着し直さなければなりません。また割れてしまっている土瓦の取り換えも行う必要があるのです」
「そう家屋の広くない古民家ではありましたが、知人でも一人でやれば3日、4日はかかるとのことで。...聞けば、家主の娘さんが婚約者を連れてくるのは三日後の話とのことで、私は無茶な依頼を引き受けてしまったと後悔しました」
「それは大変なことを引き受けてしまいましたね......」
「ええ。私は朝の明けきらぬ内から始めて、陽が沈むぎりぎりまで不休で作業を行いましたよ。」
「時折知人が助言をしに来てくれたりもしましてね.....何とか2日目の夕方には、形にすることが出来ました」
「すごい!やりましたね」
司祭は自分のことのように、男の偉業を喜んだ。
「.......ええ。ここまでは上手くいったと思っていたのですが......」
男の声の調子が重たくなったのを聞いて、司祭は不安を覚えた。
懺悔ミステイク -3- 終