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授業というものは、実につまらない構造でできている。
教師が一方的黒板に問題を示し、生徒がそれを模写していく。そしてタイミングを見計らい、教師は教科書に記された公式を説明し、実際に解いてみせることで、生徒ははじめて『なるほど』と理解に似た関心を抱く。それから今度は、自ら解くよう促され繰り返す事で、学習し、自分の知識として身につけていく。
言い換えてしまえば、学習というものは、理解、分解、再構築。いわば、錬金術のようなもので、生徒は皆錬金術師の愛弟子のようなものだ。従って師匠の教えは、なにがなんでも身につけるのが弟子の勤めといえる。ところが、今の俺は今朝の事が頭から離れずにいた。
彼女の表情、仕草、言葉。全てが俺の能力に焼き付いている。彼女は俺と目があった瞬間体をビクッと強張らせたもの、一つ一つ言葉を選び紡いでいた。にも関わらず、俺は逃げ腰を決めこんでいて、最初から聞く耳すら持ち合わせていなくって。初めて出逢った人間だったからかもしれない。しかし、耳は言葉を受け取り、脳もしっかりと記憶していた。
「昨夜のあの丘で……」
彼女の声が脳の奥底から蘇っては波のように、俺の脳裏で広がっては心地よく耳の裏へと解け、再び広がり、また解けていく。
(まぁ、仕方がないか……)
今ここで考えていたとしても何もわからない。だったら、今やるべき事のみに集中するのが一番だ。本当は、手持ちの情報の整理といきたいところだが手札が少なすぎた。大きく頭を振り今ここにいる授業へと集中した。