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月からの来訪者

~プロローグ~


今日も、俺は満月の夜に願いをかけた……。


暖かな光で見守る優しいそれに、俺は囁きかける。それは隣人に話すような日常のものとは異なるもので、一方的な要望。平たくいってしまえば願いだ。本来ならば、流星に願いを叶えて貰うのが本当の姿なのだが、俺の願いはいつの頃からか月へと語りかけるようになった。


「俺の……」


言葉が喉の奥にへばりつき、外に出ることを拒んだ。なんとかして放出したいものだが、そんな勇気すら持たない自分に嫌気を覚えつつ、喉につかえるしこりを唾と一緒に飲み込んでやる。

本物の固形物飲み込んでいるわけではないが、こいつはとても不味く嫌な味がした。


俺は、一体いくらこいつを飲み込めばいいんだろう?


感嘆なため息がこぼれていた。


(昔はよかったな……)


感傷的になっている自分がいた。それなら、瞼を閉じて昔の自分を連想する。無垢だった自分、周りの全てがキラキラ輝いていた毎日。そして、そんな自分の側にいた大切な人。

その人を思い出すと、胸の奥がつんとした。でも、思い出のその人は、いつも笑顔で、暖かくて、小さかった俺を包み込んでくれて、太陽みたいな人で……。そして、夜空が大好きな人だった。

小学生に上がる少し前。幼い俺にその人は、流れ星に三回願いを言えれば願い事が叶うと教えてくれた。その話を教えて貰った時、めちゃくちゃ嬉しくて幸せで。とにかく、宝箱が目の前にあらわれたような気分になった。だから当時の俺は、毎晩のように流れ星を探し、願いを叶えて貰おうと、目を皿にして星空を眺めたんだ。

ところが、流れ星を見つけては嬉しさのあまり興奮して願い事を忘れたり、しどろもどろしてしまったり、傍観者になってみたり。でも、はっと我に返って、慌てて願い事を口ずさむ。


「あたらしいおもちゃがほしい。あたらしいおもちゃがほしい。あたら……」


流れ星は願い事を最後まで言えないうちに遥か彼方へと掛けていく。

それでも、何とか願いを叶えて貰いたいと、毎晩夜空を見上げては流れ星を探しをしていた。しかし、何度と挑戦してみても、流れ星は俺の願いを最後まで聞いてくれる事はなかった。今にして思えば、特別ほしいおもちゃなんて一つもなかった気がする。

だったら、何であんなに一生懸命流れ星を探していたんだろう。と、思い返してみても、答えらしい答えはなかった。

あの人はどうだったのであろう。ぼんやり浮かぶあの人は、幾度訪ねてみても、柔らかく微笑むだけで教えてはくれず、去年の秋口に天命を迎えた。死人に口無しとはよく言ったものだ。

そして、中学三年となった俺は今夜も夜空を眺めている。


(月......綺麗だな......)


俺はぼんやりと月を眺めていた。どこか優しくて暖かな光。そして、どこか眩しい光。夜空には他にも白鳥座やその他の星座がキラキラと輝いていたが、月の光は特別。上手く言葉には出来ないが、見ているだけで人を安心させる。そんな力が込められていて、それは都会にも均等に注がれていた。


(はぁ……)


月を見ていると、穢れが浄化されていくように心が軽くなる。そうすると俺は、中学の三年間どこまでクラスに馴染む事が出来たのだろう。と頭を過る事が度々あった。

友達と呼べる存在もいるし、バカをやって笑いあえる仲間だっているし、片思いしている女子生徒だってもいる。


 ーーそれでも、いつだって心に穴がいつでも開いていた……


今の生活に不満なんてない。むしろ、中学生らしい日常だったといいきる自信もある。しかし、いつからか心に穴の空いた感覚を覚えていた。はっきりと気がついたのは中学二年の頃。部活に勉強と明け暮れていた頃、突然の事だった。


誰も俺の事を必要としてないのではないだろうか……


二限の半ばに差し掛かった時まで俺は授業を受けていた。先生が黒板にチョークで問題を記し、その問題の解き方を考えるふりを繰り返す。そんな時、頭の中に誰とも異なる声に囁かれた。自分の中にあった漠然とした不安が、声に聞こえたのかもしれない。

それからというもの俺の生活は一変した。

日々、風船のような不安はつきまとい膨らんでは縮んでく。それでも最初の頃は、時間が経てば今までの生活に戻れるなんて楽天的に考えていた。しかし、月日が流れ、冬に入る頃には漠然としていた不安は一気に俺の心を蝕んでいた。他人に何かされたのでも、したのでもなく、人に対しての拒絶反応が毎日起こり消えていく。

学校も家も全てが嫌でたまらなくなった俺は、部屋から出られなくなった。それでも、あの人から教わったからなのか、長年の習慣からか毎晩夜空を見上げては流れ星を探す癖は消える事はなかった。

しばらくすると月の光を見ていると、心が少しずつ満たされていくような感覚を覚えるようになった。すると、少しずつではあるが確実に拒絶反応はあらわれなくなり、元の生活を取り戻していった。しかし、後遺症として心に穴が空き今でも残っている。日常生活の中で忘れる事も出来たが、ふとした瞬間、再び穴は開き俺を苦しめる。


(俺の……)


「私が叶えてあげる」

「え……?」


頭の中に直接声が聞こえてくる。そんな気がした。今まで聞いた事のない優しくて暖かい声。そして、どこまでも澄んでいてしなやかな声は誰とも異なるものだった。つい、俺の口からこぼれた声はどこか間の抜けた情けないものだったから恥ずかしい。


「貴方の側に御使いします」

「はい?」


再び声がした。すると、今度はリアルな感覚までもが体から脳へと伝わってくる。後ろ頭にぶつかる二つの何か、抱きしめられた感触、彼女から漂う甘い匂い。全てが現実のものだが、現実離れした現象に、俺の全てが機能停止宣言を発表していた。

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