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最悪の事態と最高の援軍

 私なんかが生まれたから、人間たちは力を欲し、奪い合う。

 それは人間が臆病だから。 弱いと知ってるからこそ、力を頼るしかない。否、力‘に’頼るしかない……。 貴方なら、解ってくれると信じてる。他に方法が無いという事に、そして何より一人の犠牲を支払ってこの戦争を終わらせようとしている私を。

「………急がなきゃ」

 微かに見えた。龍宮時のいる拠点で出た水の球体は、私の目となり耳となっている。故に先刻見えた恐ろしい態度に、内心動揺していた。

 龍宮時がその水を通して、私がそちらを窺っているという事に気付いているからだ。

―白銀、黄金。仲介は可能だと思う?

―まぁまずムリだろうな。千歩譲って例え朱雀が同意しても、奴らは有り得ないだろな。んで逆もまた然り……ってな。 白銀は即答で返したが、正論だ。だが淡い希望が捨てられないのか、軽く黄金が反論する。

―確かにね、和解は難しいと思う。でも、可能性はゼロじゃないんじゃないかな……。

 すると、白銀が呆れたように黄金を叱咤した。

―お前なぁ……、お人好しも度が過ぎると孤立すっぞ!

「二人とも、揉めないで。とりあえず、先に朱雀のもとへ行くべき」

―そうだね……。ごめんよ。それと紅月、朱雀へ向かう前に、先に町へ戻った方がいい。何が起こるか分からないのだから、準備は整えておかないと。

―チィ……!確かにな…その意見に対しては俺も同感だぜ……。

 白銀も同意の意見を示すが、未だ不満の気持ちを隠せずにいるらしい。

 黄金は一区切りつけた所を見計らって、ただ…と再び口を開いた。

―研究者達の目的と朱雀の目的はまるで違うよ。彼らはただ、好奇心を満たす為に軍と手を組んでいる。


 ならば朱雀が相手をするべきなのは軍の方ではないのかな?……個人的な意見だけどね。今の僕らは、私情に突き動かされているんじゃないかな?

「軍と研究者の関係。……軍が目論んでいること。それを知るのが私のすべき最優先事項」

 黄金は黙って頷き、白銀はめんどくせえ、と悪態をついた。

―……とりあえずは町へ行こうか。 それもそうだ、と納得し私は町へ一度戻ることにした。 町には誰もおらず、どこかへ避難した様子が窺える。

 家や店…いや、この町全体に人気が無い。紅月はその事に対して大した疑念を抱かない。

 今は戦争中だ。避難勧告が出ていれば安全地帯へ避難するのが道理だろう。

 紅月は辺りを念入りに見回しながら、何かを探すかのように歩き始める。

「………見付けた」

 とある民家の前で紅月は、唐突に呟いた。反応を見せたのは、白銀。

―それ…式か?

 そう、と呟いて二人に説明する。

「この国の土地に存在する重要なツボは計五つ。式を発動し維持することで、この国は成り立っていた。国の要であり、大地を支える柱のようなもの。そして私が拉致された事によって、均衡に亀裂が生じた。私が維持していた式は中枢部分に当たる。そしてこの国の巫女は私を含め、現在は五人。丁度一人一つしか維持できず、力の供給が失われ今ではいつになく不安定」

 式とは、俗に言う術式・魔法陣のことである。力のある呪術師や巫女の大抵がこの式を使い、魔術や結界と言ったものを行使できる。五人の巫女とそれぞれの受け持つ式。中枢が脆くなった事により、その他の式も綻んだ。

 五人の巫女の内、紅月を除く四人の巫女は四角の頂点に式を配置し、対角線の交わる、言わばその四つの式の集束点で紅月のような姫巫女は任務を全うする。

 紅月はそこまで説明すると、黄金が続きを促した。

「巫女が維持する式の役割。それは人が持ちうる負の力の影響を軽減させる、一種の結界。けれど人数が少ない上に力も段々と弱まって来ていたことも知っていた。だから私がいなくなり、被害は甚大になった……。根拠のない推測だけれど十中八九、私以外の巫女も被検体として扱われ、この戦争に巻き込まれている」

―なるほどな。けど……俺はお前を責める気にはなれねぇぜ?

―うん。戦争なんて、お互いの価値観をぶつけあっているだけ。君はその被害者だ。責めるなんてこと、誰もしないし…させない。

 二人の明るく優しい言葉が紅月の心を揺さぶり、動揺を掻き立てる。

 そして黄金がふと気付いたのが、白銀にも正の感情が芽生えているという事だった。しかし紅月にはその事に対して、疑問を抱く余裕すらない。この事は今は伏せておこう、と黄金は沈黙した。

「……っ!今から式に術を施す。これは今まで三つの式にも施してきた術と同じ。本来ならば姫巫女ですら使ってはならない禁術。この術は姫巫女の称号を受け継ぎし者のみに伝えられる秘術。けれど“ある条件”が揃った時にのみ行使することを許される……」

―……その条件って?

―あまり芳しい話じゃなさそうだぜ?黄金。

「国の滅亡、民の危機。これらが揃った時にのみ、姫巫女の権限は発動する。風との誓いを違える訳にはいかない。大丈夫。最初から諦めて、自己犠牲で事を終わらせようなんて思ってない。備えあれば憂いなし」

―最終手段……てか?

 だまって頷く紅月に二人はやるせない気持ちのまま、かける言葉も見つからず紅月をみつめるだけだった。

「癒しの音色は風となりて大地を包み込む。静寂な空間は穢れを流す。サナンド・フォム」

 紅月の中から出てきたかの様に、フワリと心地よい風が生じる。そしてその風は式の上にまで下りて行くと、クルクルとそよ風のように円を描く。三、四週ほど回転を終えると、辺りに広がって行くかのように雪の上を這って行った。

―残りの三つも……か?

「最悪の事態を想定した上で、少し前から準備はしていた。急ごう、もう一刻の猶予も残

されてはいない」

 同時刻―。その頃の風は武器格納庫及び製造工場を偶然見つけ、驚きを隠せないでいた。

「ここにある物全てが……対能力者用の武器…!」

 紅月に使われていた威力重視の捕獲武器は勿論、術式を予め施している魔導書や催眠術。大量の血液に気分が悪くなっていると、突然凄まじい力で締め付ける様な頭痛が襲う。 あまりの痛みに耐え兼ねて小さく呻きながら、その場で前屈みになって倒れ込む。

 チラリと目に入る多くの試験管にある、赤い液体。

 風は倒れたまま目に映る血液を凝視し、思考回路を巡らせる。

「血…細胞……。情報…?っ!そうか!」

 ここはただの製造工場じゃない……!表向きは製造工場でも、ここは能力者の対抗策を考慮する場所でもあったんだ!だとすれば……研究者と軍は密接な関係にあると言う事!

「くっそ!みんな無事でいろよ……!」

 そう呟き痛みに耐え、息を切らしながら、すぐにその場から走り去った。

 風の姿が見えなくなる時を見計らって、工場の奥からスラリとした体型の女性が、雪を踏みしめながら出て来た。女性を囲うように配下と思しき者が数名並んでいる。

「製造工場が見つかったのは計算外だったけれど、得た情報があって良かったわ。それにしても……『締め縄の術』で苦しみながらも思考を働かすことが出来るなんてね……。転んでもタダじゃ起きない…流石と言った所かしら?」

 配下の一人である男が、女性の顔色を窺いながら、おずおずと訊ねる。

「クラル様は…朱雀に寝返るおつもりなのですか?」

 妖しく笑いながら、クラルは何故?と訊き返した。

 男はまた、言いにくそうにポツリポツリと言葉を紡いでいく。

「現段階でしている事の意図は……龍宮時達を引っ掻きまわすと言うこと。無論、それは軍にも影響を及ぼします。残る勢力は朱雀と…政府。クーデターを起こそうとする軍の目的は相手を助けると言うこと。ですが……朱雀が反乱分子となり、組織を立ち上げ今では三つ巴状態……。そして先程の発言では“得た情報があって良かった”と仰いました。政府に寝返るならば、そのような事は仰らないと思ったからです

術に関しては発動停止不可のものであり、工場は見付からない物として作られていた。

 ですがたまたま見付けたあの男が、時限式を作動させ長居し過ぎたせいで術が作動。

 消去法で行くと朱雀しか残っていません。自分の中では確信のない仮説だった故、お尋ねしました……」

 クラルは満足そうに微笑みながら、調べたんだ……と呟いた。男は女性と視線が合った途端に勢い良く、頭を下げた。

「政府と軍、そして朱雀の三つ巴は限られた者しか知らない極秘情報……。でもそうね。私も内乱を止めたいと思ってるもの……。出来る限りのサポートはするけれど、知られてはいけない。まぁ私も情報の漏洩、戦況の悪化を阻止。援護と救助。それ位しかしてあげられる事はないわ……。それよりも、そろそろ…テイト・リャン・スメラ!」

「はっ!」

 呼ばれた三人が声を揃えて返事をし、数人を引き連れて前に出る。

「表の舞台に上がるのは、アナタ達三班とするわ。作戦はテイトが国全体を把握しつつ、リャンとスメラの率いる班に通達。この時、朱雀の状況を優先して知らせなさい。

 リャンとスメラは、通達を聞いた上で式での移動をしつつ、援護及び救助に当たりなさい。各々状況に合った判断を下して。他の者達は私と共に裏からつつくわよ。作戦は以上。健闘を祈っているわ」

 部下達がそれぞれの配置へ動き出し一人になった時、クラルの妖しさが、一段と輝きを増した。空に視線をやり、そしてどこを見るでもなく、誰に言うでもなくただ呟いた。

「苦しむのは、軍と繋がってる者だけ。フフッ……!多くの研究施設にいる研究者の皆が同じ目的を持ってると思っている……。まさか魔術師が紛れ込んでいるだなんて……露程にも思ってはいないでしょうね……!」

 そう言って研究者達と同じ白衣を靡かせながら、クラルはゆっくりと立ち去って行った。

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