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休息

 その頃のテイトは作戦の指示通り、カニッシュ国全体の戦況把握に務めていた。小国と言えども、曲がりなりにも“国”だ。把握するには時間を要していた。八割方の状況が掴めた頃、テイトはよろめきながら歩く紅月、洞穴で霞と風と共に仲間が十数人休んでいるのを偶然発見した。急いでリャンとスメラの班に、式を行使し連絡を入れる。

「か細き声は道を通じ、言の葉に乗せ、かの者らに轟け……ロゥア・セィン!リャン、スメラ。救護に向かってくれ!行き先はリャン。お前は四時の方角へ、三百七十二キロ先の辺りにある泉だ!一人の女が重傷だ。肉体面もだが主に精神面のダメージが大きい!スメラは首都ミレイにある、山脈を越えた先の洞穴だ!お前の方は組織絡みか解らないが十数人の生体反応を確認した!二人共、忙しくなるぞ」

 テイトは焦りながらも、二人の班長に指示を出した。茶色く首筋にまで伸びた髪に、鋭い目つき。それが今では穏やかな状況じゃないだけに、拍車がかかっている。唇をキュッと引き結ぶが、その表情はすぐに哀愁が漂う。国全体の動きを把握していない限りテイトは、引き続き状況の把握に専念した。

そんなテイトの指示を受け、二人はいち早く班を率いて目標地点へと既に移動していた。

「うーっし、テメーらぁ!ったりーけど今聞いた所を目標地点として、今から移動だー。我を導かんとする黒き猫、誘いし蒼い蝶。手繰るべき見えぬ紐を、我に示し給え。ギッデミノ・トンティ!」

 ぐちぐちと文句を言いながら目的地へ向かったのは、スメラだ。彼は気だるそうな言葉づかいをする割には、仮面のような笑みを常に絶やさない青年だ。一つ一つの仕草も気だるさが見え隠れしている。身の丈に合わない杖を持ち、ざんばらな藍色の髪に、クリーム色のメッシュを入れている。くっきりした輪郭に、やる気のない様な一対のたれ目。白衣の内裾には、小さく浅葱色のシンボルマークを入れている。このシンボルマークはクラルの部下である証である。外見と、言動や仕草とのギャップが激しいのが、彼の特徴だろう。

 一方その頃のリャンはと言うと、班員を前に緊張しているようだった。

「え、えと。たった今、連絡があった通り私達は泉へ向かいます……。一人とのことですが、肉体と精 

 神。両面での影響が大きいとのこと!で、では行きましょう!我を導かんとする黒き猫、誘いし蒼い蝶。手繰るべき見えぬ紐を、我に示し給え。ギッデミノ・トンティ!」

 リャンは魔術師の中でも最年少の少女である。小柄な体格には大きすぎる白衣に袖を通し、見えない両腕で杖を抱えるようにして気弱な雰囲気が漂わせている。綺麗に揃った髪は、スメラと同じ藍色の髪色だ。整った顔立ちには緊張した表情が見受けられる。

スメラとリャンの率いる二班は、それぞれの目的地へと移動した。

スメラの率いる班は、霞が風を運んだ洞穴へと向かっていた。そこには霞や風の他に、朱雀の生き残りもいた。だが霞のことを良くないと思ってる者が大半で、霞と風は少し離れた場所で休んでいた。

スメラ達がいとも簡単に長距離を瞬時に移動出来た理由としては、研究者達の使用している、瞬間転移装置が絡んでくる。あれは研究者の作り上げたような科学的な物ではない。正確には科学と魔術の結晶体なのだ。そうなれば当然、仕組みも理解しなければならない。スメラとリャン、両班の人員はその仕組みを理解した上で式を行使し、移動することが出来た。理論上では構成を理解すれば、どんな魔術であっても行使するのは容易である。

 だがどんな魔術師でも、許容量はある。それらには個人差があり、更には術に使用する魔力の量も、度合いによって異なって来る。そこでより多くの術を行使させるのも式の役割である。式自体に術式を施し、それが複雑化すればするほど魔力の使用量は軽減する。

「霞殿…ですね?ったりーですけど、そちらの男性を診せてください。ご安心を、アナタ方に危害は一切加えませんよ。俺の名前はスメラです」

 霞は風を後ろに隠すかのように、庇いながらスメラを警戒した。その事を予想していたスメラは、一つ小さな溜息を吐き少し低い声色で霞に凄みかけた。

「こうして、ったりーことしてる内にも……その男は死ぬかもしれねぇぞ。今そいつは、生きてるとは言い難い状況だろーが」

 だが霞は直ぐには了承せず、敵では無いという証明をしろとだけ言うと、スメラは白衣の内裾にあるシンボルマークを見せた。円の縁に、金色の模様が刺繍されている。

「これはどこにも属さない、隠れた組織だ。名前はねーぞ?名は意味を持つからな……。さlてと!これでったりー説明も終わりだ!こちとらボス命令なんでね、さっさと診せろ」

 それまでスメラの貼り付いたかのような、その笑みが崩れる事は無かったが、どことなく苛立ちの雰囲気を醸し出していた。恐らく普段の口調より、荒々しいからだろう。

 スメラの言う、名は意味を持つという発言は、このカニッシュの文明によるものが大きい。カニッシュは遥か昔からの言い伝えで、名のあるモノには意味を持ち、力が宿るとされてきた。それを今でも信じている者は多い。だから真名は決して悟られぬよう、偽名を名乗っては真名を覆い隠す。

霞は渋々と言った感じで、庇っていた体を横に退いた。

 スメラの班員は、他の者の救護に当たっている。ったりーなー、といつもの様に気だるく言い放つと、大きな式を描き風の体を式の上へと運んだ。

「水面に映る望月は、ただただ陽を浴び朧に輝かん……。ダル・テーヤン」

詠唱し終えると、描かれていた式は、やがて淡い菫色に光り出す。その光が収縮され、小さな球体となって風の体内へと入って行く。その様を二人は静かに見守っていた。

すると呼吸すら微弱だった風は、安定し出した。

それを見て霞は安堵し、スメラに向かって謝罪と礼を述べた。

「そんなったりーこと、すんなよ!いつでも頼れ!微力ながら力になってやらぁ!それと一つ忠告な。完全治癒したわけじゃねぇ。さっきの術はな、光の球体が時間をかけ、徐々に治していく治癒術だ。当分の間、戦闘させないよう注意しとけ」

 そう言って懐から取り出したものを、霞に投げ渡した。霞はまじまじとソレを見つめた。

「それは雪時計だ。中に新雪が入っていて術で融けないようにしている。落ちていった量、新雪の全部の量。そういうの全部ひっくるめて、時間を計る道具だ。それが全部落ちて行くまで絶対安静!戦闘させるな」

「あ、あぁ……。わかった」

 少し勢いに押されながらも、霞が頷くのを見てスメラは満足げな笑顔を見せた。

―同時刻。

 その頃リャンはテイトに言われた通り、三百七十二キロ先の辺りにある泉へと入っていった。中にいたのは紅月一人。荒い呼吸で肩を上下させ、俯いているその顔は黒い長髪で隠れていた。

「誰……。何の…用…?」

 気配を感じた紅月は弱々しい声で訊ねた。その声が僅かに震えていたことに気付いたが、リャンはあえて伏せ、簡潔に紅月の問いに答える。

「わ、私はリャンと申します。仲間から連絡があり、あなたの傷を治しに参りました。見ただけでも重症なのは解ります」

 リャンが紅月に触れようとしたその瞬間、リャンの手は振り払われた。

「私に触れるな……。誰も殺したくはない…殺したくない、殺したくない、殺したくない、殺したくない……!」

 紅月は怯えるように震え、目には大粒の涙を浮かべていた……。振り払われた自分の手を見つめ、リャンはゆっくりと紅月へ視線を移す。そして見つめた腕を再びその震える肩に、そっ…と手を置いた。今回は振り払われなかった。

「……お名前をお伺いしてもいいですか?」

「……私に関わるな…!」

 紅月は目も合わせずに拒絶した。けれどリャンは穏やかな眼差しで紅月を見つめ、やがて一言。

「私が去る時は、あなたの傷が癒えた時です。あなたには、なすべき事があるのでしょう?だから戦場に立っては、こうして傷を負うのですよね……。そんな体では、動くことすら辛そうです。目的は達成できなければ、意味をなしませんよ?どんな手段を使ってでも、達成すると言う鋼の心を持たなくては……。ご理解頂けましたら、治療を受けてください」

 リャンの言葉は紅月の心に、強く響いた。今まで一歩踏み込めていた足が、感情の揺らぎによって、いつの間にか引っ込んでいた。

 そんな繰り返しでこの争いが終わるとでも?違うだろう!この子の言う通り、私は鋼の心を持たなければならない。

「!」

 リャンは紅月の震えが治まって行くのを見て、途端に目を見開いた。

「……私の名は紅月。治療を…頼む」

 ポツリと自分の名を口にし、見上げた顔に涙は無かった。リャンは驚いていたが、紅月が素直に治療を受けてくれるようになった。その事が、何よりも嬉しかった。

「で、では!始めますね!ふぅー……。その身に宿りし魂は闇を纏い…加護ある光が心を照らす。マルルーモアニムズ・ルーモプロテクション!」

 抱えている杖を高く掲げて詠唱を唱え始める。現れたのは細長く帯状に輝く光が、紅月の周りに渦を巻くようにして包み込む。紅月はその光に目を奪われ、目を見開き驚嘆した。

「この光を纏えば、肉体の治癒と精神の安定を、並行して治癒できます。魔力の量はそれなりに使いますが、紅月さんの場合は精神力と生命力が酷く、傷自体は大したことはありません。生命力は精神力の一種です。さっき私を拒絶したのは、心のどこかで生きていたくないと、思っていたのでしょう」

 紅月は目を瞑り、リャンの考えを否定した。今までの心境を、少しずつ語りだした。

「リャン、それは違う。私は仲間を殺そうとし、愛する者を殺めかけた……。今でもその光景は目に焼き付いている……。今までの私は命の尊さと、戦争の空しさに葛藤していた。助けたい人々が死んでいく世界に…葛藤していた……。私が拒絶したのは理解したくもない現実と向き合っていたから。ただ…それだけだ……。だがリャンの先程の言葉で、私の決意は固まった…。今度こそ…本当に……。だから私はリャンに感謝してる」

 感謝の言葉を述べられ、照れながらも喜びを隠せないリャンは袖で顔を隠した。紅月は自分の体を確認してみた。傷の殆どが完治していた。精神状態もかなり安定している。

 空を仰ぐと未だに暗く、陽が昇るにはかなり早い頃合いだった。リャンに目をやると、未だに顔を隠していた。

「リャン」

 そう一言呼んだだけでリャンは、大きく体を跳ねさせた。

「陽が昇った頃に起こして欲しい」

「……はい、わかりました」

 こうして二班はそれぞれの任務を遂行し、多くの者が助かった。

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