悪役令嬢とは何ですか?【短編】
悪役令嬢に転生した乙女ゲーム知識ゼロの令嬢のよくある転生婚約破棄の小説のプロローグ。
処女作だから、短編で。
少し経ったら連載予定。
どうやら私は転生したらしい。
「………だ、」
「………わ!」
んんん?あれ目をあけたらドアップに誰かいる。
なんというか…まさに悪役そうな顔の男女。が、デレデレとしながら私を見ている。
ええ、私の今の両親…らしい。
なんというか、眠っている間に私は前世の記憶を思い出したらしい。なにそれ、夢小説的展開じゃんとか親友言いそうだなぁ…
たしか、私はJKという名の青春を楽しんでいたはず…時にいじめられたりいじったりしながら親友と楽しく過ごしていたはずなのに、どうして私は4歳になっているんだろう。
「ああ…愛は本当に可愛いなぁ…」
「ほんと、あれとは大違い!ほら、愛の為にオーダーメイドでふりふりの服をつくったのよ。」
ひっ………袖にも裾にもフリルたっぷりとか、今時そんなの着る人いるのかな。いや、いたんだけど。私だけど。
このどっぷり溺愛してくる両親に甘やかされて、我が儘に育ちそうだった時に前世の記憶というやらを思い出したんだけど。
このまま育っていたらどうなってたんだろ……考えたくない。
とにかく、その服はいやだ。
「や、もっと、フリルないのが、いい」
「あ、愛…?どうしたの?貴女の好きな服でしょう?」
「誰かそんな事いたっのか!?この服を作った奴か?だったら首にするしかないな…」
あれ、なんか可笑しくない!?
つくった人は悪くないからね。誰もそんな事言ってないからね!?でも、それを言葉にすることが出来ないのが4歳時。結局泣き落としで何とか宥めました。
少し経ってからやっと部屋から出れる様になった。なぜか、部屋に監禁っぽい感じに出させてくれなかったんだよね。泣き落としもきかないし。それが、やっと今日!部屋から出ていいとお許しが出ました!
なんというか、両親は怖いんだよね。私にはデレデレってしているんだけど、私の世話をしてくれる人には冷たいし、直ぐに首だとか使えないとか言うし。
なんか、やだなぁ………。
とにかく、私はこの部屋から出る。ぶっちゃけ毎日つらかったのだ。フリルたっぷりレースつきのベッドとか、真っ白の家具たちとか、そしてそこに埋め込まれている宝石とか……
前世の記憶を取り戻してから冷静に話を聞いたりしていると、私の家…藤咲家は資産家で代々受け継がれている名家らしい。
詳しい話は知らないけれど、まだその実権を握っているのは会ったことのない祖父で両親がその実権が欲しいということは分かった。
前世は普通に一般家庭だったのに…何が起きるか分からないものだね。
にしても、遅い。
いいや。許可は貰っているんだしさっさと部屋から出よう。
愛が部屋から出ると、まあある程度予想が出来た光景が広がる。というのも、高級そうな壺とか絵とかを飾りまくっているという光景だが。
一体そのお金はどこからくるのだろうか。
「あらあら?お嬢様、いかがなさいました?」
「あ、みーちゃん!」
光代さん、通称みーちゃん。
優しげな笑顔を見せる少しふっくらとした体型の優しい女性。
私が幼い頃からの私の専属メイドで、成人した息子2人がいる主婦でもある。みーちゃんの夫が父親が運営している会社の社員で、その繋がりでメイドとして働いている。
「みーちゃん、きょう、へやからでていいっていわれたの!」
「ふふ、旦那様から伺っています。お嬢様が嬉しそうで本当に良かったです。」
「うん!あのね、ほーる?に行きたいんだけど、みーちゃんわかる?」
「ホール……でも、いいえ。お嬢様はとても優しい人ですもの。こちらですよ。」
何か考え込むような素振りをしたが、直ぐに愛に笑顔をみせるみーちゃん。
とても、優しいみーちゃん。
けれど、私は知っている。みーちゃんが両親の事をどれだけ嫌いだか。
両親は隠しているけど、部屋にずっといる私でも聞こえてきた。
みーちゃんの夫が父親によってリストラされた事。大学に行っている息子2人を育てるにはお金が必要だったこと。だから、上目線から言われた私の世話を無理矢理やらされていること。
私が前世の記憶を思い出す前、あんなに甘やかされてもまだ我儘に育たなかったのは両親にはばれないようにだけど、叱ってくれたりしていたみーちゃんがいたから。
だから、我儘に育つ前に前世の記憶も思い出してよかったって本当に思う。
殆どの使用人は私を見たことがない。
だから、一度、私の部屋の前で若いメイドだと思われる女性達が両親がいないのを見計らって愚痴を大声でいった。
まあ、それで両親が悪役顔でまじな悪だって知ったんだけど。けれど、ぶっちゃけそんなのどうでもいい。
4歳なんて、両親の庇護下じゃないと生きていけないし。
だから、私の事を我儘とか傲慢とか言われても何も感じなかった。そう育ちそうだったのは事実だし、彼女達が愚痴るのも仕方ないから。けれど、
「お嬢様?ふふ、とても可愛らしい笑顔ですわ。」
それを止めたみーちゃん。
両親の事を憎んでいるはずなのに、その娘でもある私もきっと嫌いなはずなのに。「お嬢様はとても優しい人ですよ。お嬢様は…あのこは私にとって娘同然なのですから。」そうとっても愛しげに言ってくれた大切なみーちゃん。
「みーちゃん、だいすき。」
私にとっては、みーちゃんが母親みたいな人。
そのみーちゃんは瞬きをした後に、本当に嬉しそうに表情を緩めて私を抱き上げる。そして、耳元で私も大好きですよ。と言って頭を撫でてくれる。
暫く、その状態で歩いていたみーちゃんだけど、少し大きな扉の近くで私を下に下ろした。きっとそこに両親がいるのだろう。
ああ、もっとみーちゃんに抱っこしてもらいたかった。
なんて思いながら扉を開けたその光景に、思わず絶句して固まったのは仕方ないことだった。
「なんで、おまえはそんな事が出来ないんだ!!!」
「本当に駄目な子ね!あなたはこの家を継ぐことしか利用価値はないのだから、もっと真面目に取り組みなさい!」
「……っごめ、なさい…」
この光景は何だろう。
小学生になったらならないか辺りの男の子に対して、両親が冷たい表情で、冷たい視線を向けて、冷たい言葉を投げつける。
男の子の頬を殴ったのだろう。赤くなっている。
両親が酷い人だって分かっていたのに、ああ本当に……
「あら、愛!もう来てたのね!部屋に迎えにこうとしていてのに…こんなに時間がたっていたわ。」
「本当だな。全く手間を掛けやがって…今日はパパとママとピクニックはどうだ?」
下を向く男の子を無視して私に笑顔をみせる両親。
きっと、この男の子は、………気持ち悪い。
もうだめだ。
両親にいこうか、といわれて頷く。右に母親、左に父親が手を繋いでくる。
この人達は気付いていないのか。あの男の子に冷たい言葉を投げつけた両親に軽蔑の表情を浮かべる使用人に。
………私もその対象だけど。
車に入る直前、私はわざとらしくあっと言う。
「やっぱり、いかない。」
「愛!?」
「どうしてそんなこ…」
父親が言い掛けた時、父親の携帯に電話が鳴り響く。顔をしかめた父親が電話を出て、直ぐに顔色を変えて切る。たぶん、仕事関係だろう。二人で行けなくなったとか、何か買ってくるとか言って急いで車で行く。
車が行くのを見届けずに走って、ホールに向かう。
そこには、まだ男の子がいた。
「お、……おにいちゃん…?」
その私の声に振り替える男の子。
涙を流していないし、目が潤んでもないけれど、すごく痛々しく見えたのはきっと頬が赤いだけじゃない。
私と同じキャラメル色のふわふわの髪。色素が薄くて茶色に見える瞳。
その瞳が表情が、悲しそうに綺麗な男の子の…お兄ちゃんの顔を歪めた。
「…そうよんじゃだめだよ。」
「なんで?」
「ぼくは、いらないこだから。おにいちゃんじゃない。」
「やだ。おにいちゃんだもん。わたしにとっておにいちゃんだもん…」
涙が溢れてくる。
私はずっと前世から兄という存在がほしかった。
だから、一目みた時に同じ髪で兄だと直感した。とても嬉しかった。
なのに、両親は酷い扱いで。
兄である、彼はまだ状態でなのに、諦めたような目をしていて凄く悔しい。ずっと部屋にいて兄の存在すら知らなかった私自身が憎い。
「あい、な、なきやんで…」
「やだ、やだ。わたし、おにいちゃんのこと、しらなかった。おにいちゃん、ごめんなさい。ごめんなさ…」
「あい…、ぼくは一樹だよ。あいの、"あに"だ。」
ぎゅっと泣きわめく愛をあやすように抱き締めて、名前を伝える一樹。
その表情は先程までの諦めた様な表情じゃない。
「おにいちゃんってよんで、いい?」
「いいよ…あい。でも、ぼくといっしょにいちゃだめだよ。おやがいるまえでぼくのこと、おにいちゃんってよんでもだめ。」
「…わかった。わたし、パパママきらいだけど、おにいちゃんのこと、大好き!」
「っ……ぼくも、あいがだいすきだよ。」
ぎゅっと泣きそうな声で抱き締めてくるおにいちゃん。
私の大切なお兄ちゃん。今さらだけど、お兄ちゃんの頬にホールに来る前に水で濡らしたハンカチを当てる。
そんな愛にまた一樹が歓喜極まった様子で抱き締めたり、その光景を見ていたみーちゃん率いる兄妹溺愛隊が涙を流していたりするのは数秒後の話。
その時の私はしらない。
この"世界"が親友が大好きだった、…えっと乙女ゲームの世界だという事を。
お兄ちゃんと…やがて出来る限りの義理の弟が極度のシスコンとなる事を。
そのお兄ちゃんと弟がその乙女ゲームの攻略対象で私が悪役令嬢である事を。
そして、私が"あの人"に恋をすることを。
少し無理矢理感はあるけれど、見逃して下さい。