表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

箱物語

ライフボックス(箱物語2)

作者: keikato

 病院にいるお母さんからメールが入った。おじいちゃんの容体が急変したと……。

 ボクはすぐさま病院へ向かった。


 ベルトバスで中央ステーションまで行き、そこから地下カプセルカーに乗りかえ、病院の近くのステーションで降りた。

 地上に出るエレベーターに向かって走る。

――あっ!

 だれかとぶつかり尻もちをついてしまった。

 顔を上げると、

「だいじょうぶ?」

 目の前に四本の手を持つ女の人がいた。

 女の人がぶつかったあたりを手でさすりながら、腰にある別の二本の手をさしのべてくれる。

「すみません、急いでいたので……」

 ボクはその手をかりて立ち上がると、ふたたびエレベーターへと走った。


 地下街から地上に出る。

 病院の前で三本足の人とすれちがった。まだ訓練中なのだろう、歩き方がずいぶんぎこちない。

 病院に入ると案内サービスに行き、おじいちゃんの登録ナンバーをインプットした。

 ここからはロボットが案内してくれる。

 案内ロボットに導かれ、ボクは広い病院の中を手術棟へと進んだ。


 手術室前に、お父さんとお母さんの姿が見えた。

 なんとかまにあったみたいだ。

 お父さんがボクに気がついて手招きをした。

 ボクは二人のもとに走った。

「おじいちゃん、手術してるの?」

「ああ、人工心臓が止まってしまったんだ」

「だいじょうぶなんでしょ?」

「ドクターの話じゃ、かなり厳しいみたいだ。せめて命だけでも……」

 お父さんが手術室に目を向ける。

 手術中のランプが消えた。


 手術室のドアが開き、ドクターとナースたちが出てきた。

 お父さんが待ちきれずにかけ寄る。

「どうでした?」

「なんとか命だけは……」

「では……」

 お父さんは言葉をつまらせうなだれた。

 手術室のドアが閉まる。だけど、おじいちゃんが出てこない。

「ねえ。おじいちゃん、どこ?」

「あそこよ」

 お母さんがナースの手にある箱を指さした。

 すぐにわかった。

 箱はライフボックスで、おじいちゃんはあの中にいるのだ。

 ライフボックス。

 それは脳だけになってしまった者が、生きていくことを補助してもらう命の箱。

 おじいちゃんのライフボックスは、これからずっとライフボックスセンターで管理されることになるという。


 雨が降り始めていた。

 お父さんがスカイタクシーをとめる。

 スカイタクシーはボクらを乗せると、高さ三十メートルほどの空の道まで一気に上昇した。

 家へと向かって飛ぶ。

 見下ろす街が雨で白くけむって見えた。

 お父さんもお母さんも、さっきからひとこともしゃべらない。深い悲しみに耐えているのだ。

 おじいちゃんの笑顔が目に浮かんだ。

 おじいちゃんは口をふたつ持っていて、それを使い分けることがじょうずで、お父さんと話しながらボクに本を読んでくれたりした。

 そんなおじいちゃんが大好きだったのに……。

 雨のなか。

 スカイタクシーは、高層ビルの谷間をぬうように飛んでいた。


 管理室のドアの開く音がして、二人のナースが入ってきたことがわかった。

 二人はボクの前で立ち止まった。

「これって、まだ子供みたい」

「交通事故だそうよ、スカイタクシーの。両親も乗ってたんだけど、この子だけ助かったんですって」

「これからずっとここで……」

「気が遠くなるほど永いわ。古いライフボックスの管理室には、二百年以上も生き続けているのがあるそうだから」

 二人の声がむなしくひびく。

 その声を……。

 ボクは真っ暗な箱の中で聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 医療が進化して時代が変わると笑えなくなる話だと思いました。
2018/12/31 01:24 退会済み
管理
[一言] ほのぼの……と思いきや、SF的な結末になり、思わず唸りました。 とても興味深い作品でした。
[良い点] 近未来的な物語でもあり ホラーとも思えるオチでした。 真っ暗な箱の中で目覚めて 何百年も生きていかなくちゃならなかったら う゛~恐ろしい。 [気になる点] 車という…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ