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「さてと。銀色の皇子、何を知りたいのですか?」

お茶を飲みながら、ストラさんはルカ様に尋ねる。

そういえば、ルカ様は真実が知りたいとかなんとか?言ってたよね。

そっとルカ様を横目で見たら、考えているようで。

「さっき、魔王の右腕が言っていた、魔王像だが。ペムトボル王家に限らず、この世界の国々では魔王は残虐で異形の生き物。世界を滅ぼすために存在する」

あー。それ、私の中の魔王像と一緒だわ。

一人で納得してしまう。

「でも、王と第1王位継承者だけが立ち入ることの出来る地下の書庫で、僕はある本を読んだ。そこには、魔王はこの世界を守る為に存在する事が書かれていたんだ。初代魔王以外は、全て、出来損ないの魔王で。しかも、それを喚んだのは、ペムトボル王だと書かれていた」

え?

ルカ様はテーブルの上で強く握った拳を震わせている。俯いていて、顔は良く見えないけど、きっと怒ってる?

「初代の魔王、秋桐を罠にハメ、殺害したのはペムトボル王家の第2皇子だとも書いてあった」

!?

そうか。だから、エインはペムトボル王家に恨みがあるんだね。

「これは、真実なのか?魔王の右腕」

それにしても、さっきから魔王の右腕って呼び方、嫌いなんだよね。

「ルカ様!ストラさんは魔王の右腕って名前じゃありません!ストラって素敵な名前があるんです」

思わず言ったら、ストラさんが嬉しそうに微笑んだ。

「紫折様らしいですね、名を尊重するなんて。では、私もきちんと名を呼びましょうか」

ルカ皇子、とストラさんが呼びかけると、私の発言に驚いていたルカ様がストラさんの方を見た。

「貴方が言ったことは、全て真実ですよ。ペムトボル王家は英雄であるために、魔王が必要だった。当初の目的は、新たなる魔王を支配する事でしたが、彼らが喚べるのは出来損ないだけですから」

「やはり。では、レキが行った召喚術は」

「魔王召喚ですよ」

ストラさんが言うと、成功したのか、とルカ様が呟いた。

成功?

そうか、私が魔王だから、成功なのか。

「成功ではありませんよ。金色の皇子が喚んだのは、紛れもなく出来損ないです。今回の召喚は、貴方達ペムトボル王家が魔王召喚を長年行ってなかったゆえに、やっと本当の魔王召喚がこの世界の意思によって行われたのと同じタイミングでなされた。その同時召喚のせいで、本来はこの城にある魔王召喚の陣に現れるはずだった紫折様がそちらに、出来損ないがこちらにきてしまっただけですよ」

え。出来損ないの魔王って、凶暴なんだよね?大丈夫だったのかな??

心配そうにストラさんをみたら、にっこりと微笑まれた。

「出来損ないでしたら、処分しましたから、ご安心くださいね?紫折様」

処分!?

さらっと怖いこと言うんだね、ストラさん。

「ストラ様、物騒な事おっしゃらないでください。紫折様が引いてますわ」

ねえ?紫折様、と私の顔を覗き込むエイン。笑っているエインが見えて、嬉しくなった。

「エイン、もう平気なの?」

「はい。ご心配おかけしました。あら?焼き菓子があったはずですけれど?」

「食べちゃったよ〜!」

トトさんの元気な声に、エインは呆れたようにため息をついて。私の隣に座った。

「貴方達ペムトボル王家が欲しかったのは、これですわ。ご存知ですよね?」

エインがポケットから出したのは、玉。魔玉に似てるけど、大きさが違う。私が取った?魔玉は私の手のひらに収まる程度だったから。

「それは、魔塊という物です。魔物や魔族が死んだ時に残る、魔力の塊です」

「……王が使う杖に埋め込まれているのと同じだ」

悲しそうな顔のルカ様。深く息を吐くと、立ち上がった。何をするのかと思ったら、ストラさんとエインに深く深く頭を下げた。

皇子なのに!?

「ル、ルカ様!?」

「秋桐王を殺害し、それだけでは飽き足らず、世界の秩序を狂わすような行い、本当にすまない。謝ったところで、君達の気は済まないかもしれないが、真実を知り、王族として謝りたいんだ」

絞り出すように言うルカ様に、胸がギュッと苦しくなった。

ルカ様は、何も悪くないのに。

「謝らないでください。貴方は何もしてないわ。秋桐様を殺したのは、貴方じゃない」

「秩序を乱す行為は、もう行えません。正規の方法で喚ばれた紫折様が居ますから。ルカ皇子、貴方にはこれから紫折様を守っていただきます。それで、もういいでしょう?」

ストラさんの言葉に、エインは同意を示すように頷いた。

ルカ様がありがとう、と言ったが、私から見えるトトさんは不満気だ。なんで?

「トトは嫌だ〜。人間なんて嫌い〜。特に、王族〜!!」

ルカ様にあっかんべー!と舌を出すトトさん。

そのまま、私の隣に来て腕にしがみついた。

「魔王様は人間の味方じゃないんどからね〜!」

「トトさん?」

「魔王様は、トトの父様と母様の仇をとってくれるんでしょ〜?」

お父さんとお母さんの仇?

訳がわからないでいると、ストラさんがトトさんを叱るように呼んだ。

「魔王様は好きだけど、人間なんて大嫌いなんだから〜!!」

叫ぶと、びゅーん!って飛んで行っちゃった。大丈夫かな?トトさん。

飛んで行った方向を見て居たら、ルカ様がトトさんは龍族なのかとストラさんに聞いていた。龍族?

あ、獣人の種族の事かな?キッタさんは狼族だって言ってたしな。

「トトは純粋な龍族ではありませんわ。人間とのハーフですの。ですから、人間が嫌いなのですわ」

ハーフなのに?

どっちかの親が人間なのに、なんで嫌いなの?

疑問が浮かぶが、それは多分、トトさん自身に聞かなきゃなんだろうな。他人から聞いちゃダメな事ってあるよね。

「さて。そろそろ帰らなくてはですね」

壁の時計を見てゾッとする。飛び出して来ちゃったから、リーフォンはきっと心配してるよね。しかも、姿が見えないっておかしいよね!?

「紫折様、これをお持ちになってくださいませ」

手鏡?

エインが渡して来たのは二つ折りの手鏡。コンパクトミラーとも言う。小鳥の装飾が施された可愛い物だ。

「ストラ様から通話用の魔具を渡されていますでしょう?それを、蓋の窪みに嵌めてくださいませ。鏡に相手の名と接続を命じれば、通話用の魔具を持っている相手でしたら繋がりますわ」

私とは顔を見て話せますのよ!手鏡を出した。それは、私が渡された手鏡と対になっているそうで。

スマホのテレビ電話みたいな感じだな。

「今回は向こうに送るだけにしましょう。私が一緒に行くと、紫折様にご迷惑がかかりますからね」

ストラさんがトンと床を踏み鳴らすと、そこに模様が現れた。

「転移魔法陣か。見たことのないものだな」

「そちらには伝わってないですからね。さあ、紫折様。中へ」

はい!と返事をして、魔法陣とやらの中に。ルカ様も一緒に入って、ストラさん達の方を向いたら、足元が光り出して。

2人にまたね、と言う前に目の前は真っ白に。

次に目を開けた場所は、知らない場所で。

「え?どこですかね??」

「僕の部屋だ」

ああ、ルカ様の部屋。

………え?ルカ様の部屋!?

「都合がいいな。シオには王宮医院で会って、僕の趣味に付き合ってもらっていた事にしよう」

「あ、はい!ありがとうございます」

頭を下げた時、部屋にノック音が響いて、思わず肩が跳ねた。心臓がドキドキする。

「はい」

「ルカ、シオを知らないか?昼過ぎに飛び出したきり、帰ってこないそうなんだ」

ラシル様の声だ。

ルカ様は、ドアを開けて私を呼んだ。

「シオ!?ルカと居たのかい?リーフォンがいたく心配していたよ。王宮医院のドラナ嬢も君は来ていないって言うし」

「キ、キッタさんに用があったのですが、ドラナ様の病室に行く前に会いまして」

「用が済んで帰る途中のシオに、僕が声をかけたんだ。シオのいた世界について聞きたくて。こんな時間まで拘束してしまって、申し訳ない」

謝られて慌てると、ラシル様がクスクスと笑った。ルカは勉強熱心だからなぁ、と。

なんとか誤魔化せて、良かった。

ルカ様にお辞儀をして、ラシル様と戻る。その帰り道、ルカ様は昔から好奇心旺盛で、危ない事もよくやっていて、王様と王妃様とラシル様に心配をかけていたと聞いた。

「ルカが7歳の時、一緒に小国に視察に行った時なんか、行方不明になってね」

え!?

「捜索隊も出て探したけど、見つからなくて。どうしようかと思ったら、その国の書庫の奥に居たんだよ」

思い出して微笑むラシル様。私もなんとなく、その光景が目に浮かぶ。

それからラシル様は、ルカ様自慢ともとれるような話をしてくれた。新しい魔法を編み出した、とか、新しい薬を使ったとか。ラシル様はルカ様が本当に好きなんだな、と分かる表情で。少し、家族に会いたくなった。言ったら、ラシル様やリーフォンに心配をかけるから言わないけど。

夜空に浮かぶ月や星は変わらないのに、本当に私は遠いところに来たんだな。まだ中学生の弟や、単身赴任の父、いつも忙しくしてた母。元気でいるかな?

慌ただしい毎日に忘れがちだった家族。

それを、思い出す夜だった。


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