表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

7

困っていたら、ストラさんがわざとらしいくらいの、大きなため息をした。

「わかりきっている事を、わざわざ証明する必要はないでしょう?」

「分かりません!」

「はぁ……。それ以上、バカな事を言うのでしたら、お仕置きしますよ?」

お仕置き!?なんか、危険な感じなんだけど!!

分かりません!と首を振るキッタさん。これは、ストラさんの言う通り、分かってるけど分かりたくない感じかな?

「キッタさんは、ドラナさんが好きなんだね」

「え?」

キョトンとする。

「だって、ドラナさんの為に、何かしたいんでしょ?私がリーフォンの為に何かしたくて、ドラナさんに向かっていったのと同じだよね?」

何も出来ないけど、何かしたい。それは、多分、相手を好きだから。

私はそう思う。

「だから魔王としてじゃなく。キッタさんにお願いします。リーフォンを傷つけるような事しないで。リーフォンは私がこの世界に来て、初めて優しくしてくれた女の子なの。友達なの」

頭を下げたら、ストラさんが慌ててる。

でも、人にお願いするのに、頭を下げないわけにはいかない。このお願いは、大切なお願いだから。

暫くして、キッタさんが小さな声で、ごめんなさいと言った。

顔を上げると、泣きそうなキッタさん。

「私も、そんな事、したくないです!でも……」

でも、と言い淀むキッタさんは、首元に触れた。そこには、首輪があった。気がつかなかった。

「悪趣味な魔法ですね」

忌々しい、とストラさんは呟いて。首輪に手を伸ばすと、掴んで外そうとし始めた。

でも、首輪とストラさんの手がなんかバチバチいうだけで、外れる気配がない。

それどころか、ストラさんの手から血が。

「ストラさん!手、血が!!」

腕を掴んだら、首輪から手を離してくれた。

慌ててハンカチを出して手当をする。手のひらが真横に爛れていた。痛そう。

「紫折様、わざわざありがとうございます」

「痛くないですか?」

「大丈夫ですよ。しかし、外れませんね」

やれやれ、と言うストラさんの目は首輪を見つめている。あの、首輪、魔法なんだね。知らなかった。

この魔法は、なんなんだろう?

「この首輪、なんて魔法なんですか?」

「隷属の輪です。奴隷に着ける魔法の首輪で、この首輪を着けた主人の命令に背くと、全身に痛みが走る仕組みです。主人の言葉1つで命を奪う事も出来ます」

はぁ!?なにそれ!!

あんまりな魔法に言葉がなにも出てこない。

説明してくれたキッタさんも、俯いたままだ。

そんな時、リーフォンの言葉が思い出された。

【私の故郷のラビス国では獣人族は友人だったから、とても、辛かったわ】

そう言っていたリーフォンは、この国に嫁いできて、この現状を知った時、今の私よりきっと辛い気持ちだったんだろう。

そう思ったら、腹が立ってきた。

「こんなの、やっぱりおかしいよ!」

叫んだ時、キッタさんの首輪が裂けた。

え?

「く、首輪が!」

縦に一筋裂けた首輪は、左右に分かれて床に落ちた。

「ふふふ。さすが紫折様」

首輪を拾い上げ、ストラさんは手の中で燃やしてしまった。

なんの魔法もないただの首輪になった物は、簡単に処分出来ますねぇ、とか言ってる。

「紫折様は、本当にお優しい。そうは思いませんか?銀色の皇子」

え?

振り返ったら、ゆらりと空気が揺れて人が現れた。それは、第3皇子のルカ様で。

いつからいたのか、どこまで聞かれてのか。

恐怖と不安で喉がカラカラになってきた。

「いつから気づいていた、魔王の右腕」

「最初から?」

首を傾げて言うストラさんは、可愛い。

って、そんな事考えてる場合じゃない!!

「ル、ルカ様!あの!!」

「シオ、怯えなくていい。君が魔王だろう、とは思っていたから。ただ、魔力は感じられないし、魔法も使えないみたいだから、推測の域を出なかったけど」

カツカツと靴音を響かせて歩いて来たルカ様は、ストラさんに剣を向けた。

なにをしてるの〜!!?

「お前の企みはなんだ?」

「企みとは?私は魔王様の側近。魔王様の望む事を手伝うだけですよ」

そう言いながら、ストラさんは私を引き寄せ背中に隠してくれた。

守ろうとしてくれてるんだ。

「ルカ様!ストラさんは、なにもしてないんです!ですから、見逃してください!!」

バッとストラさんの前に出て頭を下げて言った。恐る恐る顔を上げたら、睨まれた。

怖っ!!

「シオ、君はこの世界を滅ぼすつもり?」

「滅ぼす!?なんで!そんな事したら、リーフォンだっていなくなっちゃう!!ヤダよ、そんなの!」

思わずタメ口で言ってしまったが、ルカ様はふと表情を緩め、剣をしまった。

小さなため息のあと、苦笑いをする。

「シオは魔王らしくないな」

「魔王らしいとは?あなた方ペムトボル王家に伝わる魔王像は、残虐なものなんでしょうね」

フン、と鼻で笑うストラさん。

「その事についても、聞きたい事があるんだ。その前に、君の処遇かな」

ルカ様はキッタさんを見た。

今まで黙っていたキッタさんは、泣きそうな顔でルカ様の言葉を待っている。

「君は、彼女のそばに居たいかい?」

「はい。ですが、隷属の輪が外れた今、お側にいるわけには」

ダメなの?どうして??

そう思っていたら、ストラさんは魔法なのかわからないが、空間から首輪を出した。それをキッタさんに差し出して、着けるといい、と言った。

「これは?」

「ただの首輪ですよ。隷属の輪ではないが、あの人間の娘には違いも分からないでしょう。それを着けてれば、隷属の輪が外れた事も誤魔化せるでしょう」

「隷属の輪が外れた今は、君は使う魔力の制限もなくなったし、身体能力も本来のそれに戻っている。だから、本来なら君を部族に帰すのが1番なんだけど」

そう言いながら、ルカ様は苦い顔をした。

少し考えた後、誰かを傷つけたり、何か問題が起こったら、すぐに部族に帰すからと念を押した。

キッタさんは、ありがとうございます!ありがとうございます!と頭を下げているし。

なんか、よく分からないけど。なんとかなったかな!

そう、他人事のように思っていたら。

「では、紫折様。城に戻りましょう?エインに顔を見せてやってください。でないと、私が怒られてしまいます」

ひょいと手を取られ、ニコニコと微笑まれる。

「いやいや。まだ、2つ問題がね、残ってると思うんだけど?」

「ああ。紫折様のご友人に危害を加える問題ですね?大丈夫ですよ。キッタはそんな事しませんから」

ねえ?とストラさんが言うと、キッタさんもハイ!と元気よく返事をしてくれた。

ね?と言いたげに笑顔になるストラさん。

「残る問題は僕かな」

そうです、なんて言えない。

ルカ様が私を魔王だ!って国王様やラシル様、リーフォンに言ってしまったら。

もう、ここには居られなくなる。そんなの嫌だな。

「さっきも言ったけど。シオが魔王だとは思っていたし、僕は真実が知りたいだけだ。だから、魔王の右腕、僕も連れて行ってくれ。魔王城に」

はい!?なに言ってんの、この皇子様!!

「は?嫌ですよ」

ストラさんも!なに言ってんの!!

「ペムトボル王家の者なんて連れて行ったら、大変な事になりますよ?運が良くて、腕か足だけで済むでしょうけど、死にますよ?」

腕か足で済むってナニが!?

もう、パニックになりそうな私は、とりあえず深呼吸をする。

この世界の人達に、私の常識は通用しないんだ。

「それでも構わない。連れて行ってくれ」

「ハァ。あなたは本当に、彼と同じなんですね」

彼?

私と同じ疑問を持ったのか、ルカ様も首を傾げていた。けれど、答えをストラさんはくれないまま。

私の手を握りなおし、ルカ様の襟首を掴んだ。

「キッタ、紫折様のことは他言無用。喋ったら、分かっているな?」

「はい!ストラ様、紫折様、ありがとうございます」

キッタさんが頭を下げたのを見届けると、目の前が光で包まれた。

その光は、前にも見た光で。

真っ白だった視界が、元に戻るとそこは。

「到着しました。さて。エイン!紫折様がお戻りになられましたよ〜!」

叫ぶようにストラさんが言うと、紫折様〜!と声が上から聞こえてきた。

ん?と思って見上げたら、エインが空から降ってくる。このままじゃ、危ないよね!!

「おかえりなさいませ!紫折様!!」

慌ててる私を他所に、エインはふわりと着地した。

あ、そうか。魔法ね。慣れないな、この世界の常識。

私の両手を握って、嬉しそうに笑うエインに、こっちも自然と笑顔になった。

ふと、ルカ様に目を向けたエインから、笑顔が消えて。睨みつけてる。

「エイン?」

「人間、何をしに来た」

「ち、違うの!エイン、この人はペムトボル王家の第3皇子で!!」

「ペムトボル!」

エインはペムトボルと聞くなり、ルカ様に襲いかかった。

わー!!と慌てる私とは違い、ルカ様は冷静に防御してる。

凄いな。

なんて、思ってる場合じゃない。止めなきゃ!

「ストラさん!止めてください」

ストラさんの腕を掴んで頼んでみた。

「無理です。エインは誰よりペムトボル王家に恨みがありますからね。私の声なんか、もう届きませんよ」

そんな!恨みがなんなのか分からないけど、エインには笑ってて欲しい!

2人のぶつかり合いに、恐怖で足がガクガクするけど、止めなくちゃだ。

「エイン!やめて!!」

「っ!?」

叫ぶように言ったら、エインの動きが止まって。きつく握った手を1度だけ、壁に叩きつける。

ドゴォ!って音がして、壁が1部崩れたんだけど?

エイン怒ってる!?

「エ、エイン。ごめんね?」

「……はぁ。紫折様が謝るような事は何もありませんわ。私の方こそ、申し訳ありませんでした」

何かを堪えるように、小さな溜息をついた後。苦笑いのまま、エインは私に謝った。

怒ってないのかな?

「ペムトボル王家であろうと、憎きアイツではないのですから。憎しみをぶつけるのは、間違いですわね」

エインはルカ様にも、申し訳ありませんでしたと謝っていた。その姿が痛々しくて、そっとエインの手を握った。元の世界で、しんどい時友達がこうして手を握っててくれた。それだけで、私は安心したから。だから、エインも安心してくれるといいなと思って。

「紫折様」

泣きそうな顔のエイン。

エインの過去に何があったか、私は知らない。もしかしたら、ペムトボル王家の者が秋桐さんを殺した事と何か、関係があるのかも。でも、聞けない。聞かれたくない事は、誰にでもあるでしょう?

「エイン、私はエインには笑ってて欲しいの」

そう言ったら、エインは目を見開き、大粒の涙を零し始めた。

ボロボロと泣くエインに、慌ててしまうと、少し失礼します!と走って行ってしまった。

私は何かエインが悲しむような事言ったのかな?

「エインでしたら、落ち着いたら戻ってまいりますよ」

大丈夫です、と言いながらストラさんは私達を、またティールームへ案内してくれた。

中に入ると、トトさんがすでにいて。私を見るなり、魔王様〜!と笑顔で手を振ってきた。見た目年齢は私とあんまり変わらないけど、トトさんの言動は少し幼い。魔族だから?

「トト、エインは少し手が離せないようなので、お茶菓子を持ってきてください」

「はーい!」

片手を上げてピューンと飛んでいくトトさん。座るように促されて座ると、ストラさんがお茶を淹れてくれた。この間と同じアールグレイ。

「どうぞ。エインほど上手くは淹れられないですが」

私とルカ様の前にカップを置いてくれた。それを見つめるルカ様は、怪訝な顔だ。

そういえば、この世界のお茶は煮出したお茶しかないんだった。茶葉の製造方法がないんだろうね。かと言って、私が作れるはずもない。

なので、インドのチャイみたいなミルクティーか日本の煮出し麦茶みたいなのしかない。

「ルカ様、これは私の世界のお茶なんです。美味しいですし、毒は入ってないですから」

恐る恐るといった感じで、口に運んだルカ様は、パッと明るい顔になった。

「美味しいな、これ」

「ですよね!」

「はーい、魔王様〜!お菓子〜」

トトさんがフヨフヨと浮かびながら持ってきたのは、お煎餅。

お煎餅がある事にも驚きだけど、紅茶にお煎餅か!とツッコミ入れたくなった。

「トト、焼き菓子があったはずですが?」

「食べちゃったよ?」

「はぁ……またですか」

呆れながらストラさんは自分の分とトトさんの分のお茶を、テーブルに置いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ