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リーフォン殺人未遂事件から、1週間。

私は、今まで通り、仕事をして居た。

掃除や洗濯。その合間に、リーフォンから文字を教わる。魔王なんて関係ないような、元の生活。

でも、引き出しの中の魔玉は、返せないままだ。

メイド達の噂では、ドラナさんは、何も喋らない人形のようになってらしまったらしい。

プライドの高過ぎるお嬢様の心は、完璧に壊れてしまったのかもしれない。

なぜなら、へっぽこのレキ皇子が、魔力は無くなったけど可哀想だから第2夫人のままにしてあげるね、とか言ったらしい。これもまた、メイド達の噂で聞いたんだけど。

まあ、あのへっぽこ皇子なら言いそうだ。

「最低な皇子だな」

「誰が?」

突然、後ろから声がして、ビックリした。

振り向いたら、へっぽこ皇子が居て。

「久しぶり、シオ!」

「お久しぶりです。失礼します」

「そんなつれないこと言わないでよ。君を召喚したのは僕なんだよ?」

「違いますよね?失敗で、間違って喚ばれたんです。皇子が喚ぼうとしてたのは、龍だと聞きました」

ラシル様に以前聞いたんだ。

バレちゃってるのか〜、とかヘラヘラして言う。

「ねえ?ドラナはなんで魔力が無くなったのかな?」

「その事でしたら、ラシル様にもルカ様にもお話ししましたが、存じ上げません」

「ふーん?魔王が来たのかもね」

ドキリとした。

「魔王?」

「あれ?知らない??僕のご先祖様が討伐した魔王。討伐しても、結局は何度も現れてるんだよ。その魔王しか持たない特殊能力に、魔力剥奪があるんだ。だから、魔王が来たのかもって!」

なんで、そんなに詳しいの!?

「そういえば、ルカ様が最近城内に魔族が侵って来ているとおっしゃってましたから、そうなんじゃないですか?」

動揺を悟られることの無いように、淡々と言う。へっぽこ皇子はニコニコしていて、気味が悪い。

「ふーん。シオが魔王だと思ったのにな」

「ただの一般人です!失礼な!!」

怒ったら、ゴメンゴメン!と笑いながら言う。この謝り方、召喚された時と同じで、ムカつく。

仕事に戻ります!と苛立ちを隠すことなく言い放ち、その場を後にする。

あの、へっぽこ皇子め!!!

ズンズンと歩いていたら、リーフォンの部屋の前に誰かいる。しかも、なんかリーフォンに詰め寄ってる?困り顔のリーフォンが見えたので、走った。

「リーフォン様!どうしました!?」

「シオ。ちょっと、ね」

リーフォンになんの用!?と、揉めてる相手を見たら。耳が。顔の両側じゃなくて、頭の上についてる。

猫みたいな耳が。

「ね、猫耳」

「猫ではありません!私は、狼族です!!猫族と同じにしないでください!!」

「す、すみません」

勢いで謝っちゃった。

よく見れば、尻尾もある。その尻尾は、猫ではないのが分かる。フサフサだもん。

「あの、その狼族さん?がリーフォン様に何か用ですか?」

「そうだった!リーフォン様!どうか、ドラナ様に会ってください!!」

ドラナさんの関係者?そもそも、狼族って何?獣耳つけた、コスプレ好きな人みたいだけど?

「ドラナ様は、貴女に謝りたいと泣きながらおっしゃってました!だから、どうか!!」

必死な狼族さんは、ついには土下座まで始めてしまって。私もリーフォンも慌てるしかなくて。

「キッタさん。立って。服が汚れるわ」

そっと狼族さんの手を取って、立たせてあげてるリーフォン。ホント、素敵なお姫様だよね!映画とかドラマのヒロインみたい!!

と、感動してる場合ではない。

「お願いします。お願いします」

リーフォンの手を握って、祈るように何度も言う狼族さん。

「私もお見舞いに行きたいって思っていたの。ラシル様に許可をもらうから、少し時間はかかるのだけれど、必ず行くわ」

「本当ですか!?ありがとうございます!ありがとうございます!!」

狼族の彼女は、満面の笑みで何度も何度も頭を下げた。この子は、ドラナさんとどう言う関係なんだろう?

リーフォンの手を放してからも、何度も何度も頭を下げながら、帰って行った彼女。

メイド服じゃなかったから、メイドじゃないのかな?でも、ドラナさんの関係者。姉妹じゃないだろうし、親戚?の筋もない気がする。あのプライド高いお嬢様が、獣耳つけた人間を親類縁者に置くわけない。

「あの。リーフォン様」

「ふふふ。誰も居ないのだから、いつもどおりでいいわよ?」

「ありがとう。じゃあさ、リーフォン。あの子はドラナさんの何?」

聞くと、少し困った顔をした。

それから、中で話しましょうと部屋の中に促された。

並んで座って、小さなため息をついたリーフォンは、また少し考えてから口を開いた。

「彼女は、獣人族なの。元からこの世界に居る種族で、魔族と同じで魔力量も多いし、身体能力もその動物によって様々だけれど、高いの。だから、子供の獣人を攫って、奴隷にしているのよ」

は?

今、なんて言った??

衝撃的な言葉に、心臓が煩く鳴り始めた。このドキドキは、甘いものでもなんでもない。怒りとかの感情からくるドキドキだ。

「キッタさんも、幼い時にドラナ様のお父様がドラナ様の為に買って来たそうよ」

奴隷。買う。

「そんなの、変だよ!!」

「私もそう思うわ。でも、ペムトボル王国内の貴族の間では、当たり前なの。私の故郷のラビス国では獣人族は友人だったから、とても、辛かったわ」

ぎゅっと両手を握るリーフォンは、悲しそうに目を伏せた。

「ちょっと私、キッタさんと話してくる!」

「え?あ、シオ!!」

待ってと言うリーフォンの声を無視して、走り出す。キッタさんがいる場所なんて、知らないけど。でも、多分、ドラナさんの所だ。

だから、王宮医院だろう。

しかし、こういう時、メイド服は便利。しかも、ラシル様の宮殿の人間だと一目瞭然なので、だいたいの場所に入る事が出来るから。

会釈をしながら入り口を通過。ドラナさんの病室は分からないけど。

貴族だし!多分、なんか特別室みたいな所だと思う。

院内地図を見て、特別室へ向かう。

最上階にあった特別室。

部屋までは分からないから、ウロウロしてたら、声が聞こえて来た。


「ドラナ様!リーフォン様がお見舞いに来てくださるそうです!!良かったですね!」

「誰が頼んだの?私はあんな女、会いたくないのよ。分からないの?」

ドラナさんの声とともに、何かが割れる音が。

水音もしたから、なんか水分の入った物を投げつけたんだろう。キッタさん、大丈夫かな?

音の方へそっと歩いていくと、部屋の中にびしょ濡れなキッタさんが見えた。

これ以上行くと、向こうから見えちゃうね。

コソコソと、壁に張り付いて見つめた。

「ですが、ドラナ様。この間は、謝りたいと」

「ラシル様が居たからよ。本当に馬鹿なのね」

あれ?何も喋らない人形みたいになったんじゃないの??噂と真逆なんだけど?

「まあ、いいわ。キッタ、リーフォン姫が来たら、必ず抹殺するのよ。いいわね!」

!?

「で、出来ません!」

「出来る出来ないなんて、聞いていないわ。お前は私の道具なのよ。お父様に買われなければ、狼族のお前は、魔物狩りの兵として使い捨てされてたのよ?おわかり?まともな暮らしが出来てるのは、私のおかげなの。私の命令は絶対よ」

沈黙の後、分かりましたご主人様、と小さく聞こえて来て。

呆れる他ない。

「紫折様、本当にあのような愚か者に魔力をお返しになるのですか?」

「っ!?」

真後ろから聞こえた声に驚いて、叫びそうになるが、手で口を塞がれた。

そう。

ストラさんに。

「驚かせてしまいましたね。申し訳ありません」

私が落ち着いたのを確認したのか、手を離してくれた。本当にびっくりした。

「ストラさん、何してるんですか?」

「紫折様が中々ご連絡くださらないから、様子を見に行って欲しいとエインに頼まれまして」

まだ、1週間しか経ってないのに。

でも、連絡くらいすればよかった。せっかく、連絡手段をもらってるんだから。

「ごめんなさい。心配かけちゃったんだよね?」

「エインが心配性なだけです」

あ、わかるかも。

エインの姿を思い浮かべ、笑った。たった一度しか会ってないのに。彼女の印象は強かった。

心の中でそっと思って、ストラさんに向き直る。

「ストラさんは、ドラナさんに魔力を返すべきじゃないって、思うんですか?」

「はい。あのような、愚か者に魔力は必要ありません。己の力のみで生きて行くべきです」

そうかもしれないけど、それは、私が彼女から持っていた物を奪う理由には、ならないと思う。

小さなため息をついた時だった。

後ろから、声をかけられた。

「!?」

「あ、やっぱり。リーフォン様の所のメイドさんですよね?なんで、こんな所に?」

キッタさんだった。

キッタさんは、私の隣のストラさんを見て、首を傾げる。魔族だって、バレないかな?

「狼族の娘。お前には誇りはないのか?」

ストラさんの鋭い視線と言葉に、キッタさんの尻尾がピンっと立つ。毛も逆立ってる。

「魔力や身体能力は、あの人間より上であるはずの獣人族。その中でも誇り高き狼族が、あんな小娘の言いなりとは。無様だな」

「うるさい!お前のような人間に何が分かる!!」

魔族だってバレてないみたいだけど。怒らせたよね。そっとストラさんを見ると、冷たい目でキッタさんを見下ろしている。怖いな。

2人の会話に口を挟めないでいるが、こんな大声出してて、なんで誰もこないんだろ?

「狼族の名が泣きますね。私が誰であるかも分からないなんて」

やれやれ、という風に言うストラさん。

「お前なんか知らなっ……!!」

キッタさんは、突然に目を見開き、ストラさんを凝視している。

その内、青ざめてガタガタと震え出した。

「ま、魔王城の金髪の魔族……。魔王様の、右腕、悠久の時を生きる原初の魔族!?」

「おや、やっと分かりましたか?人間の中で生き過ぎですね。相手の魔力の質量を測れず、さらには読み取る事も出来ないなんて」

読み取る?

「も、申し訳ございません!」

土下座をするキッタさん。この人、土下座し過ぎじゃない!?

「キッタさん、服、汚れるってリーフォンにも言われたでしょ!!」

ほら立って!と、無理矢理立たせた。

「紫折様、そんな娘に慈悲など必要ありません」

「ストラさんも言い過ぎ!」

叱ったら、シュンとしてしまうストラさん。美形さんがシュンとすると可愛いのは何故だろう?

「とりあえず。ストラさん、キッタさん。人が来る前に、ちょっとここから離れましょう?」

「人払いはしてありますよ?」

へ?と間抜けな返しをしたら、ストラさんは当たり前のように、人避けの結界と防音壁を張ってありますと言った。凄い《仕事の出来る人》なストラさんに、何も言えない。こんな部下が居たら、上司が喜ぶってやつだな。バイトしかした事ないから、オフィスの上司と部下の関係性はテレビでしか知らないけどね。

「あの」

「はい?」

「メイドさん、ストラ様とどのような関係ですか?」

あ、そっか。魔王だなんて、思わないよね。

どう答えようか迷った時。

「紫折様は、我が主です」

「えっ!?では、魔王様なのですか!?」

なんで、あっさりと言っちゃうの!!

違うと言う前に、ストラさんはキッタさんに口外しないように口止めをしていた。

「ま、魔王様とは知らず、ご無礼お許しください!」

またしても土下座しようとするから、キッタさんの肩を掴んで止めた。

「キッタさん、とりあえず土下座はやめてくれないかな?なんか、嫌だ」

「ですが、ドラナ様が謝るときは土下座が当たり前だと。私はドラナ様の奴隷ですから」

奴隷。そんなの、日本でも過去だし、外国でも過去だ。奴隷なんて制度は、よくない事だ。

「ドラナさん相手だけでしょ、奴隷とかいうのは。私はキッタさんと対等だと思ってるよ。奴隷っていうのだって、変だからね!よくない事だよ!!だから、土下座なんかしないで!」

「は、はい!」

ピシッと姿勢を正して返事をするキッタさん。

キッタさんは多分、いい子の部類なんだね。そんな子がなんで奴隷なんかに。

家に帰りたいとか、思わなかったのかな?

なんか、悲しいよ。

「キッタさん、1つ聞いていい?」

「はい!」

「あなたは、ドラナさんのいうこと聞いて、リーフォンを殺すの?」

キッタさんが息を飲んだのが分かった。

硬直したまま、目を泳がせていて。迷っているのが、見て取れる。

しばらくして、キッタさんは震ながら口を開いた。

「わ、私はドラナ様の奴隷で。で、ですから、命令は絶対で!………」

そっか。

私はストラさんを仰ぎ見た。目が合うと、微かに首を傾げるストラさんに、これから嫌な質問をしなくちゃいけない。

「ストラさん。獣人族の人達にとって、魔王ってどんな存在なの?」

「獣人族に限らず、魔王様は、この世界の王ですから。そこの狼族の娘の飼い主よりも、当たり前に上の存在ですよ」

遠回しな質問なのに、ストラさんは私が聞きたいことが分かったらしい。凄いな。さすが、出来る人。

ありがとう、と返事をしてからキッタさんを見た。

ごめんね、キッタさん。

「じゃあ、魔王としてキッタさんにお願いする。リーフォンを殺さないで」

「!?」

ずるいお願いなのは、分かってる。

でも、止められるなら、なんだってする。

友達も目の前にいる困ってる人も、助けられるんでしょ?なら、今だけでも魔王にだってなってやる!

「し、紫折様が魔王様であるという証拠は!……証拠はないですよね?そ、それが証明出来ないのなら、私は命令を実行します!!」

ええー!?なんて事を言うんだ!!

しょ、証明なんてどうすればいいの?私は魔法も使えないし、証明書もないし、分かんないんだけど!?


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