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「やっと、この城の主が戻りましたね」

「いやいや。ここどこ!?」

「魔王様のお城〜」

魔王城!?

驚いたけど、私の想像する魔王城とは全然違う。さっきまで居た、ペムトボル王国城と変わらない、綺麗な城内。

暗く湿った感じが、私の魔王城のイメージなんだけどな。

花瓶に花とかいけてあるよ?

「魔王様、とりあえずティールームへ行きますよ」

ティールーム!?

驚きながらも、とりあえずストラさんに着いて行く。トトさんは、お茶をお願いしてくるね〜!と飛んで行った。

城内は静かで。城の薄青の壁も柔らかいクリーム色の天井も、掃除が行き届いている。

「ストラ様、おかえりなさいませ」

歩いていたら、前から黒髪の綺麗な女性が同じく来て、ストラさんに挨拶をした。

この人は、人間?

「あら?どなたかしら??」

「魔王様です。ご挨拶なさい、エイン」

ストラさんに言われて、女性はキラキラした顔になって。

がしっ!と手を握ってきた。

「おかえりなさいませ!魔王様!!私は、この城の維持管理を任されてます、エインと申します」

「え、エインさん?」

「どうぞ、エインとお呼びください」

エインは、ニコニコしている。

このままでは、私は逃げられない。魔王なんて、悪役、やりたくなんかないよ!?

「エイン、先程トトが向かったと思うのですが、お茶の用意をお願いします」

「まあ、トト様が?厨房を荒らされる前に、止めてきますわね」

では、後ほど。とエインは優雅にスカートの裾を摘んで会釈した。

同じように会釈だけ返して、歩き出したストラさんの後を追った。

「エインはああ見えて、魔族ですからね」

「魔力ないのに?」

黒髪は、魔力の無い人の証だ。

ストラさんは、クスリと笑った。その意味を聞こうとした時には、ティールームに着いて。中に促され、席に座った。

「人間の間では、黒髪は魔力の無い証なのですよね。魔族では、黒髪は魔力の多い者の証なのですよ」

「え!?」

ストラさんの説明だと。銀、金の次に魔力の多い者を示すのが、黒らしい。でも、人間では、魔力の無い証なのは、なぜ?

「人間と魔族では、魔力を使用する方法が違いますからね」

「杖?」

ストラさんは、にっこり微笑んで頷いた。

「さて。その辺も含めて、魔王様のお仕事について、説明しなくてはいけませんね」

「あの。私、魔王になるなんて、言ってませんけど?」

「魔王様は魔王様なんだよ〜」

突然トトさんの声がして、ビックリして椅子から転げ落ちてしまった。

そんな様子を見て、笑ってるトトさんと呆れてるストラさんと、お茶の用意を持ちながら、トトさんに怒っているエインさん。

なんだろう、この人達。全然、悪い人に見えないんだけど。ラシル様やリーフォン、ピオナさんから聞いた、魔族とか魔物とかの話しとは真逆なんだよね。どうして?

「魔王様、お茶の用意が出来ましたわ。アールグレイはお好きですか?」

アールグレイ!地球にもあるよね!?

「好き!……でも、なんで、そんな茶葉があるの?」

ペムトボル王国には、無かった。

「初代魔王様がお好きでして。この茶葉じゃなきゃ飲まない!とおっしゃられ、無理矢理召喚して。それから、ずっと城内の植物園で栽培しているのですわ」

懐かしい香りを漂わせ、お茶をいれているエイン。そっとテーブルに置かれて、慌てて椅子に座り直した。

「美味しい」

口に運んだお茶は、本当にいい香りで。懐かしくて、ちょっと泣きそうになった。

「初代魔王様以来ですね。こうして、会話の出来る、ちゃんとした魔王様が喚ばれたのは。今までの魔王様は皆、本能のままに動く獣でしたからね」

「ええ。それもこれも、ペムトボル王家が勝手に召喚していたからですわ」

え?

ストラさんとエインの会話に顔を上げたら、2人はニコリと微笑んだ。

「魔王様の存在について、ご説明してもよろしいですか?」

嫌だと言ったら、きっとストラさんは説明しない。なんとなく分かる。

覚悟を決めて、説明を聞かなきゃならないんだろう。私は。

「その前に。魔王様って呼ばないで欲しいの。私の名前は、紫折。名前で呼んで」

「紫折様ですわね。ふふふ。初代の秋桐様と同じですわね」

《俺にはちゃんと親からもらった大事な名前がある!魔王様なんて、へんな名前で呼ぶな!!秋桐と呼べ》

そう言ったのだとエインは懐かしそうに話してくれた。

秋桐?初代の魔王も日本人だったのかな?

小さく深呼吸。それから、3人を見る。

「ストラさん、エイン。それから、トトさん。魔王が何か、どうして私が喚ばれたのか。知っているなら、教えてください」

ペコっと頭を下げる。

「はーい!魔王様はね〜、ドカーン!ズゴーン!!って世界を壊すの〜!!」

え!?

「違います!」

「トトは秋桐様を知りませんからね。黙っていなさい」

エインとストラさんに言われ、む〜!とふくれっ面でテーブルに突っ伏してしまうトトさん。彼女は、秋桐さんを知らないのか。

「魔王様とは、魔法と魔力の王で魔王なのです」

え?

「この世界の魔力が澄んだ状態で、正しく世界に巡るようにするのが、魔王様のお仕事でございます」

ストラさんが、テーブルの上を軽く撫でる。するとリーフォンが出してくれたみたいに、地図が現れた。でも、それはリーフォンが出してくれた地図とは全く違っていて。

以前に見た地図には、大きな大陸が一つと、それを取り巻く小さな島国。有人だったり無人だったりすると聞いた。

なのに、この地図には、ペムトボル王国のある大きな大陸が左に。右には同じサイズの大陸が、描かれている。

「こっちが、ペムトボル王国だよね?じゃあ、こっちは何?」

「こちらが、今いる場所ですわ」

は?

「ペムトボル王国のある大陸名は、カサビノと言います。今いる大陸は、桐葉と言います。秋桐様に名付けていただきました」

ストラさんが言うと、地図に文字が浮かび上がった。

桐葉、と。漢字で。

「漢字!?」

「秋桐様の故郷の文字だそうです。桐葉では、こちらの文字を使用しています。カサビノでは、違う文字ですね」

秋桐さんは、やっぱり日本人なんだ。

でも、桐葉がペムトボル王国にある地図には載っていないのは、なんで?

「秋桐様を殺したのは、ペムトボル王家の者です。亡くなる間際に、最後の力で桐葉を切り離すような結界を張ってくださいました。魔族と魔物だけが行き来できるような結界です。」

「じゃあ、カサビノからこっちは見えないの?」

はい、と言われてしまい、驚きで何も言えなくなった。

とりあえず、落ち着こう。

紅茶を飲んで、深呼吸。

「ストラ様。もう遅いですから、紫折様にはお休みいただいて、明日またお話しいたしませんか?」

明日か。……ん?明日??

私は勢い良く立ち上がった。

「あの!私、帰らなきゃ!!」

「何をおっしゃるのです?紫折様の居るべき場所は、この城ですわ」

「とにかく!それが本当で、居なきゃいけないとしても!帰らなきゃなの!!友達の容態も気になるし、そもそも、コレ!コレはどうしたらいいの!?」

ポケットにしまっておいた赤い球体を取り出し、ずい!と皆の前に突き出した。

ドラナさんの魔力の素。

「だから〜。要らないなら、ちょ〜だ〜い」

「ダメ!!返すの!」

だから、返し方を教えて欲しいんだ。

そういう意味を込めて、ストラさんをジッと見たら。小さくため息をついた。

「紫折様は、秋桐様と同じで優し過ぎます。まあ、ですから魔王様に選ばれるのですけれどね」

それは、褒めてるのか貶してるのか。

「その魔力の素を返すのは簡単です。その魔玉を元の持ち主の心臓の上に置いてください。魔王様が行えば、自然と吸い込まれて持ち主に戻りますよ」

「え〜!!」

「トト、文句を言わない。紫折様の決めた事ですよ」

私が欲しかったのに、とブツブツ言っているトトさんを無視して、ストラさんが立ち上がった。テーブルから少し離れて、私を呼ぶ。

「エイン、紫折様を送ってきます。留守を頼みましたよ」

「はい、ストラ様。紫折様、また帰って来てくださいませね?」

「うん。エインのいれてくれたお茶、美味しかったし、まだ知りたい事はいっぱいあるから。お休みもらって、会いにくるね」

エインは涙を浮かべながら、はい!と笑顔で見送ってくれた。

来た時と同じ様に、ストラさんが手を振ると、足元に模様が浮かんで。

あっという間に、私の部屋に戻っていた。

「紫折様。これをお渡ししておきます」

「これは?」

「ここを押すと、私と会話が出来ます。桐葉に来られるようになったら、お呼びください。お迎えにあがります」

ありがとう、とストラさんに言うと、にっこり微笑まれた。

そのまま、ストラさんは光って消えた。

なんかよく分かんないけど、ストラさん達は敵じゃない。でも、リーフォン達には話しちゃダメなんだね。

この魔力の素、後でこっそり、返そう。

私には、猫に小判だからな。

鍵のかかる引き出しに魔力の素をしまって、ベッドに潜り込む。

おやすみなさい。












「シオ!いつまで寝てるの!!」

ピオナさんの声で目が覚めた。

「ラシル様とルカ様がお呼びよ!さっさと起きなさい!!」

お母さんみたい。

「ああ、もう!昨日はリーフォン様を助けようとしたみたいで、大変だったのはわかるけど、お風呂に入ってないでしょう!?ブランチを持って来たから、さっさと食べて、お風呂に入ってから行くのよ!」

「はぁい」

のそのそと起き上がると、部屋のテーブルに、焼きたてパンにチーズとハムが挟んである、美味しそうな物が見えた。

隣には、コーヒー。

この世界にコーヒーがあって良かったよね。紅茶は、桐葉で飲めたし。

食生活が、あんまり変わらないのは、初代魔王の秋桐さんのおかげだろうな。

席について、いただきますと手を合わせる。この習慣は抜けない。

最初に見たピオナさんは、何をしているのかと不審がった。それすら、もう懐かしい。

未だに、この習慣を初めて見る人は、怪しむけどね。

モグモグと食べながら、鍵をかけた引き出しに目がいく。多分、ドラナさんは投獄か軟禁されてるだろう。そんな人が寝てる時に忍び込むなんて出来ない。どうすればいいんだろう?

部屋に備え付けられてるお風呂に入って、身支度を整える。メイド服にも、慣れたものだ。

きっと、ラシル様とルカ様に、昨日のことを聞かれる。覚えてないけど、私がドラナさんの魔力を奪ったから、リーフォンは助かった。その事には、感謝しかないけど。それを、皇子達には内緒だ。

さあ、どう切り抜けよう?






「遅くなりまして申し訳ございません」

ラシル様の執務室に行くように言われ、尋ねた。丁寧語も、メイドの仕事をするうちに覚えたのと、ピオナさんに叩き込まれた。多分、友達の中で就職してる人を除けば、こんなに丁寧語を喋れる人は居ないだろう。

テンプレートな挨拶をして、顔を上げたら。

「シオ」

「リーフォン!もう、平気なの?」

ラシル様とルカ様しかいないと思ってたのに、リーフォンが居て。思わず駆け寄り、手を握った。

「心配かけてごめんなさいね。私はもう、平気。でも、ドラナ様が……」

「ドラナさんがどうかしたの?」

「魔力を失っているのは、昨日話したよね?自暴自棄になって」

「自ら命を絶とうとしてしまったのだよ。今は、王宮医院に入院しているから、命の心配はないのだけどね」

プライドの高そうなお嬢様の、末路。

よく、漫画とかドラマとかではあったけど。実際に目の当たりにすると、しんどい。

しかもそれが、私のせいなんだから。

多分、エインに言ったら、ドラナさんが悪いって言いそうだけど。

「シオ、右手は開いたみたいだね」

「あ、はい!」

ルカ様がジッと右手を見る。

「中には何か入ってた?」

ドキッとした。

「いえ。何も」

「本当に?」

なんだろう、怖い。

「ルカ様、シオが怯えてますわ」

「シオ、すまないね。ルカは、愛想がないから。怒ってるわけではないんだよ」

リーフォンとラシル様に言われ、ルカ様はバツの悪い顔をした。

本当に、疑ってるわけじゃないの?

「あの。魔力って、自然に戻らないんですか?体力が寝たら回復するみたいに」

「無理だよ。魔力量は生まれながらに決まっている。許容量の範囲で魔法は使える。枯渇する事はないんだ。でも、彼女の場合はその魔力自体が枯渇している」

だから、髪色が黒になったんだよ、と。

知ってる。だって、奪ったの私だから。

そうなんですか、としょぼんとしたら、リーフォンはシオのせいじゃないわ、と慰めてくれた。なんか、罪悪感。

「闇魔法のせいで、何があったか過去視では見えなかったんだ。本当に何か覚えてる事があったら教えて欲しい」

真剣な目。でも、言えない。

「本当に、何も、覚えてないんです」

「リーフォンも同じだからね。シオが気に病むことはないよ」

ラシル様に言われて、すみませんと謝った。なんとかして、ドラナさんに返すから。だから、ごめんなさい。

心の中で、もう一度謝った。

「そういえば、闇魔法ってなんですか?」

「ああ、そうだわ。魔力や文字の勉強はしていたけど、魔法が使えないから魔法の勉強はしてなかったわね」

リーフォンに言われて、頷いた。

「魔法には属性があってね。光、火、水、風、大地、治癒と大きな括りでは6種。闇属性は、魔族だけが使う事の出来るものなんだよ。だから、多分。最近入り込んでる魔族が関係しているんだろうね」

ラシル様が困ったように言った。

「結界をさらに強化する。レキにも手伝わせるから、大丈夫だと思う」

へっぽこ皇子にやらせて大丈夫かな?召喚術失敗してるのに。

そう思っていたら、ラシル様がにっこり笑って、もうこの話しは終わりだね、と言う。

そのままラシル様とルカ様は執務に戻られて、残されたリーフォンと私は、笑い合う。

「リーフォンが元気そうで、良かった」

「私もシオが無事で、本当に良かったわ」

「ねえ、リーフォン。ドラナさんに会えないかな?」

「無理だと思うわ。でも、なんで会いたいの?あんな事されたのよ?」

リーフォンには、全部話してしまいたい。でも、ダメ。私を見る目が変わるのは、嫌だ。

「なんでだろ。ドラナさんも被害者だからかもしれない」

そう言ったら。リーフォンは、そうね、と悲しそうに呟いた。

それっきり、なんとなく会話がなくなって。とりあえず、仕事に戻る事にした。

もう、午後だから。そんなにお仕事はないはず。

案の定、ピオナさんに聞いたら、特にないから今日はもう1日ゆっくりしなさい!と言われてしまった。仕方がないから、部屋に戻って。魔力の素がしまってある引き出しを見つめる。

夜なら、忍び込めるかな?

無理だろうな。

そう考えて、大きなため息が出た。

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