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あの日から数週間。なかなか時間が取れなくて、文字の勉強はまだだったりする。

今日も朝から、この広い後宮をお掃除するのが、私の仕事の一つだ。

「ふんふーん」

鼻歌交じりにモップ掛け。

元の世界では、ただの大学生だったから、ここで働き始めた時は、失敗ばかりだったな。

でも、人間やれば出来るものだ。今では、掃除が楽しくなっているし。

「おはよう、シオちゃん。今日も、元気だねぇ」

「おはようございます、ジルエスさん」

ジルエスさんは、ラシル様の後宮の庭師さんだ。彼は、魔力の無い黒髪さんだ。この間習うまでは知らなかった。その事をジルエスさんに言ったら、少し困った顔で笑って教えてくれた。この世界、魔力の無い人は少なくて、無いと魔法が使えないからという理由で、なかなか仕事に就けないらしい。でも、ラシル様はそんな事で差別はしない人で。技術があるなら、当たり前だと言って、雇ってくれたようだ。それまでは、安い賃金で城下にある公園の植木の手入れをしてたらしい。

「ジルエスさん、それは?」

「リーフォン様の故郷の花の苗だよ」

「リーフォン様の?」

「リーフォン様が嫁いで来られてから、ラシル様は笑顔が増えられたし、後宮のみんなも、笑顔が増えたからね。何か恩返しをしたいと思って、取り寄せたんだよ」

「リーフォン様、驚きますね。その花が咲くの、私も楽しみにしてます!」

ジルエスさんは、満面の笑みで頷いて、苗を大事そうに抱えて、歩いて行った。






その日の夕方、時間があるならとリーフォンの文字の授業が始まった。

「はい、これ」

「なに?これ??」

「基本の文字の表よ!」

五十音みたいな物かな?でも、わかんないんだけど??

「シオの故郷の文字は書ける?」

「当たり前だよ」

言って、紙の上に自分の名前を書いた。

黄河紫折、と書いてみた。その文字をジッと見つめるリーフォンは、不思議な形の文字ね、と言う。私からしたら、この世界の文字の方が不思議な形だけど?書ける気がしないもん。地球に存在するどの文字とも似つかない、文字。もしかしたら、地球上に似た文字もあるかもしれないけど、私の知ってる文字の中には無い。

「じゃあ、この読み方を言うから、その下にシオの故郷の言葉を書いていってね」

そうか。

言葉はわかって、通じてるんだから、この文字は日本語ではこの文字になるってわかれば、覚えやすい!!リーフォン、天才。

「よろしくお願いします、先生」

「じゃあ、この文字から」












「どう?出来たかしら??」

「出来たー!リーフォン、ありがとう!これで、自分でも文字の勉強出来るよ!」

文字表を掲げて、達成感を感じる。

「ふふふ。まずは、読めないと困るものね」

「うん。でも、この世界、漢字は無いの?」

「カンジ?」

「えーっと、週間って言葉があるじゃない?それを、この表でいえば、5文字必要でしょう?それを、こう、2文字で表現する方法なんだけど」

日本語で週間と書いてみた。文字は理解したないようだったけど、リーフォンは、納得した顔をして笑った。

「あるわ。でも、まずは基本文字を覚えてからの方がいいと思うのだけれど?」

「もちろん!それは、分かってます。ただ、無いのかな?って思っただけだよ!?」

「シオったら」

リーフォンがクスクスと笑う。

それにつられて、私も笑った。

この世界は、私には優しく平和だ。

そう。日本の方が多分、危険な事はいっぱいあると思う。

そう思うのは、私がまだ、この世界をしらないからかもしれない。


夕食の時間になって、文字の授業は終わりになった。

夕食後に、自分の部屋で文字表を見ながら、読み方の復習。それと、書き取りも!

「魔王様って、勤勉ね〜」

「そんな事ないよ、覚えなきゃ生きてくのに困るからだよ」

「ふーん。そんなの、この世界ぶっ壊して、魔王様の好きな文字に変えればいいだけじゃない〜??」

「そんな物騒な事、出来な………。え?」

私、誰と会話してるの??

勢いよく振り返ったら、窓に女の子が座っていた。黒に見えるけど、違う。濃い青??

そんな髪色の女の子が、首を傾げながら私を見ている。

「あの、どちら様ですか?」

「あ。そっか、自己紹介必要なのか〜。言葉の通じる魔王様は初めてだからなぁ〜」

魔王様??

「初めまして、魔王様〜。魔王様の、右腕!魔族のトト。得意なのは〜斬り刻む感じの魔法です〜」

「は、はぁ。あの、トトさんは私になんのご用ですか?」

「だから〜。魔王様のお迎えに来たの〜」

「すみません。意味が分かりません。お引き取り願います」

「え〜。まあ、今日はいいかな〜。じゃあ、魔王様。魔王様の力が解放されたら、また来ますね〜」

それまでは、他の魔族達にも行動は控えるように言っておきます〜と言って、トトさんは真っ黒なコウモリの羽みたいなのを広げて、飛んで行った。漫画みたいな特徴の、魔族さんに、頭が痛くなった。

トトさんは、きっとなにか勘違いをしてるんだな。面倒臭い。

大きく溜息をついて、寝る支度を始めた。

こんな時は寝るに限る。

「おやすみなさい」










あれから、トトさんは来ないし、ドラナ様も来ないし。平和だ。

「ねえ」

「はい?」

まさか、トトさん?と振り向いたら、へっぽこ皇子と同じ顔の銀髪の人。同じ顔なのに、へっぽこ皇子よりカッコイイ。

「君が、レキの召喚で喚ばれた子?」

レキ?ああ、そういえば、へっぽこ皇子の名前がそんな名前だったな。

「は、はぁ。多分そうですが、貴方は?」

「名乗らずにゴメン。初めまして、僕は第3皇子のルカ。レキとは双子なんだ」

双子か。だから、そっくりなのか。

「えっと、黄河紫折です。ルカ様、私に何かご用でしょうか?」

「ううん。君に会ってみたかっただけ」

それじゃあ、とルカ様は行ってしまった。物静かな方だな。ラシル様のように聡明で社交的ではないし、へっぽこ皇子みたいにチャラいわけでもない。物静かだけど、多分、彼はラシル様より頭がいいだろうな、と感じた。

なんていうのかな?勉強好き!みたいな?

それと、銀髪にビックリした。この世界で一番魔力量の多い事を示す髪色だから。

「へっぽこ皇子と違って、綺麗だったな」

ドキドキしたわ。

早鐘を打つ胸に手を当て、深呼吸。

さあ、仕事に戻ろう。


「あの娘が……。でも、本当に事故か失敗で喚ばれたのかもしれないし」

柱の陰から、ルカはそっと紫折を見つめた。

手に持っていた古代魔法の本を開き、あるページをじっと見る。それから、小さく溜息をついて本を閉じた。

「魔族の侵入も許してしまったし。結界の補強に行くか」

本をどこかにしまうと、ルカは結界房へと歩き出した。










今日はメイドのお仕事がお休みの日で。だからリーフォンにまた、文字の授業をしてもらうのだ。勉強道具を抱えて、リーフォンの部屋に急いだ。

お昼ゴハンが終わったら来てね、とリーフォンに言われてる。ついつい、後宮で働く人専用の食堂で長居をしてしまった。あそこのゴハンは美味しいし、仲良くしてくれてる人達とも会うから、話が弾んでしまうのだ。

「リーフォン!おまた……せ……」

ノックもせずに勢いよくリーフォンの部屋のドアを開けたら、そこにはドラナ様が。

ドサドサっと音を立てて荷物が手から滑り落ちた。

「リーフォン!」

首を絞められている。

「放して!リーフォンを放して!!」

「煩いメイドね。メイドの分際で私に対等に口を聞くなんて。リーフォン姫の品のなさが現れてますわね」

ドラナ様は私を睨みつけると、片手に持った杖を振った。

その瞬間、見えない壁が現れて、2人に近づけなくなってしまった。

「リーフォン!」

片手でリーフォンの首を絞めながら持ち上げるドラナ様。なんて力持ち!じゃなくて、きっとなんか魔法を使ってるんだ。

リーフォンも抵抗しようとしてるけど、杖をは床に落ちたままだし、抵抗出来ないみたいで。それに、思い出した。赤髪は、リーフォンより魔力量の多い色。魔力が多いほど、強い魔法が使えるって教わった。

だから、きっとリーフォンじゃ敵わない。

「誰か……誰か来て!!リーフォンが!」

「無駄よ?防音結界と侵入不可結界を張ってあるわ。あなたが来なければ、リーフォン姫は暴漢に襲われて亡くなっただけだったのに。可哀想に、あなたには精神崩壊の魔法をかけて、あなたがリーフォン姫を殺害したことにするわ」

叫んでも無駄?私がリーフォン殺害の犯人?

この人の方が頭おかしいよ!

「リーフォン姫、貴女が居なければ、こんな事しなくて済んだんですけれどね。私、ずっとラシル様のお妃になる為に育てられてきましたの。なのに、後から来て私のラシル様を奪ったりなさるから」

「そんなのリーフォンが悪いわけじゃない!」

ドラナ様はにっこり笑った。

「ラシル様がお好きになったのが、平民や私より身分の低い娘だったら良かったのよ」

え?リーフォンよりドラナ様のが偉いんじゃないの?それに、リーフォンより先にへっぽこ皇子に嫁いだって。

疑問を浮かべていたら、ドラナ様はふふふと笑いをこぼす。

「確かに、この世界の中心国であるペムボトル王国の大臣の娘の方が、小国の姫より身分としては上だわ。でもね、メイドさん。あなたは知らないでしょうけど、貴族の娘と王家の娘では、全然違うのよ?」

違う?

「シ、オ、逃げ、て」

苦しそうに言って、震える手で出入り口を指差す。そうしたら、ドアの向こうが結界とやらのせいで歪んでいたはずなのに、綺麗になった。人が1人分通れるくらいの穴だったけど。

「王家の者だけが、杖を使用しないで、魔法が使えるのよ。だから、小国の姫の分際で、私のラシル様と婚姻が結べたの」

逃げるなら今よ?とか笑いながら言う。

簡単に言うなら、身分とかはドラナ様のが上でも、王家の者が持つ特殊能力のため、反対される事なく結婚出来たってことでしょ?

そんなの、言いがかりだ!

ラシル様はきっとリーフォンが平民だったとしても、結婚した。それから、側室も要らないって言ってた!絶対に!!

「そんな自分勝手な理由でリーフォンに酷いことしないで」

「え、ちょっと、あなた」

私の手は、リーフォンの首を絞めてるドラナ様の腕を掴んでいる。

「あなたなんか、自分の欲しいものが手に入らなくて駄々をこねている子供と一緒よ!」

思いっきり睨み付けた時だった。

私の手とドラナ様の身体が紫に光る。

「なによ、これ!嫌っ!!」

こんな人、大嫌いだ!!

凄まじい光が溢れて、私の意識はそこで途切れた。

お約束的展開かと、思われます。

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