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暫くして、キッタさんがルカ様と戻って来た。

「状況は聞いたよ。とりあえず、ドラナ嬢はシオに殴られて気絶した事にしよう」

「え!?私のせいにするんですか!?」

「それ以外、いい案がないんだ。ドラナ嬢は記憶操作されて、覚えてないのだろう?」

「はい。私が現れた所から、記憶は無いはずですわ」

「リーフォン義姉さんは、魔力の使い過ぎで倒れてるし。使い過ぎで倒れたら半日は目を覚まさない。ここで、何が起こったかシオとキッタだけが知ってる事になる。魔族の侵入を許した事がバレたら、なぜシオは魔族に守られたのか?となるけど」

それでもいいの?とルカ様に聞かれ、良くない!と勢いで返事をしてしまった。

魔族に守られるなんて、人間ではおかしいもんね。

淡々と決めて行くルカ様の後ろで、ドラナさんが小さく唸った。

目を覚ますのかもしれない、と思った途端エインが、では失礼しますわ、と言い残し、消えてしまった。

ストラさんといい、エインといい。魔族さんは自由だな。

「あれ?……私、どうしたのかしら?」

「ドラナ様!」

キッタさんが駆け寄ると、ドラナさんはキッタさんを突き飛ばし、激しく拒絶した。

「隷属の輪が外れたあんたなんて、ただの獣よ!近寄らないで!!」

「ドラナ様……」

キッタさんの頭の上の耳が、ペタンと垂れた。ピンと立っていた尻尾もしゅんと垂れ下がるし。犬の典型的なしょんぼりが現れてる。あ、狼だっけ?

それにしても、相変わらず酷いなこの人。

「隷属の輪が外れたのは、僕も知っていた。最近、この城に入り込んでる魔族が外したんだろうね。でも、キッタの意思を尊重して、君の傍に帰したんだけど」

間違いだったな。とルカ様が呟くと、ドラナさんはルカ様を睨みつけた。

怖いなぁ。

「知っていて放置なさったのですか!?皇子ともあろう方が!!隷属の輪が外れた獣人は、ただの野蛮な獣ですわ!ご存知のはずでしょう!?」

「そうかも知れない。でも、キッタは違う。隷属の輪が外れた後も、君に尽くしていた。それは、彼女の忠誠心の現れだと思うけど?」

キッタさんを庇うルカ様。ルカ様って、無表情な感じだけど、優しいんだね。それに、ストラさんとエインに頭を下げてたのを見てて、思った。ルカ様は、誠実な方なんだろうなって。

「私は、こんな獣要りませんわ!!」

傷ついた顔で俯くキッタさん。

「あんたなんかに、キッタさんは勿体無いよ!」

思わず口を出したら、ドラナさんに睨まれたけど、怖くなんかない。

「ルカ様、キッタさんを部族に帰すことは出来るんですよね?でしたら、すぐそうしましょう!こんな人のとこに居るのは、キッタさんの為になりません!」

「え」

大切に思われているのに、気がつかないなら。1度、離れれば良い。

よく、言うじゃん?

失って初めて、大切なものに気がつくって。

歌詞とかにあるし!

「キッタさん!行こう」

キッタさんの手を引いてリーフォンのとこへ。抱きかかえられるかな?と思ってたら、ルカ様が抱きかかえてくれた。

そのまま、キャンキャン喚くドラナさんをほっといて、帰る。






とりあえず、リーフォンを部屋に寝かせてから、私の部屋にキッタさんとルカ様で集まった。

「シオ、ずいぶん、思いきったね」

「腹が立ったんです!キッタさんは、こんなにドラナさんの事が大切なのに」

「紫折様、ありがとうございます」

キッタさんは、頭を下げる。

ルカ様は、部族へ帰すとは言うけど、それは国外追放なのだと教えてくれた。

自力で部族へ帰れって事らしい。酷いな。

「狼族って、群れで生活してるの?」

「はい。私が奴隷にする為にさらわれたのは、ペムトボル王国より、ずっと北のほうです。そっちに向かえば、群れに会えるかもしれません」

すごい賭けだな。

ぽーいって、放り投げるのはなにか違う気がする。

でも、私が付いて行っても、足手まといだし。

どうしたらいいんだろう?

「北にある街に、魔法石の輸送の馬車が出る。それに、一緒に乗っていけばいい」

え?

ルカ様は、空中で何かを書き始めた。

その書いた文字は、そのまま紙になって。魔法ってすごいな、ホントに。

「これが、僕からの餞別だよ。これを見せれば、怪しまれる事なく、馬車に乗れる」

こんな事しか出来なくて、すまないと謝るルカ様。

こんな事、じゃないよね。ルカ様しか出来ない事だよね。私には何も出来ないし。

「なにからなにまで、ありがとうございます」

馬車は明日の昼ごろに出るというから、今日は私の部屋に泊まってもらうことにした。

ピオナさんへの説明は、ルカ様がしてくれると言ってたし、私はキッタさんの荷物を一緒に取りに行く。

キッタさんの部屋は、ドラナさんの住む後宮の部屋の庭だった。庭に小さな小屋があって、そこがキッタさんの部屋だと言う。

あの人はキッタさんを、本当に家畜扱いしていたのかと思うと、ムカつく。

キッタさんの荷物は、数枚の同じデザインの服と、少ない日用品だけだった。

たった1枚だけ、大事そうに飾られてたのは小さな頃のドラナさんの写真。

この写真を聞いたら、旦那様が「主人の姿を見て覚え、毎日この尊い存在に頭を下げなさい」とくれたのです。とか言う。

なんか、ドラナさんの親は最低だな。でも、そんな最低な親に育てられれば、あんな風になってもしょうがないか。

「何をしているのかしら?」

え!?

2人で同時に振り向いたら、ドラナさんが仁王立ちしてた。腕を組み、ジロリと睨みつけてくる。

この人、なにしてんの!?

「キッタ。今一度、私に忠誠を誓うなら、側に置いてあげてもよくってよ?」

「本当ですか!ドラナ様!!」

「信じちゃダメでしょ、コレ!」

嘘ついてるに決まってるんだよ?そう言ったら、ドラナ様の側に居られるなら!と聞く耳持たない。

そんなキッタさんに、ドラナさんはニヤッと笑うと、私を殺せと命じてきた。

ほーら。結局、ドラナさんはなにも変わらないんだよ?

キッタさんは、それだけは出来ませんと答えると、じゃあ何処へでも好きに行けばいいとか言うし。

「そもそも、ただのメイドが死んだって、誰も困らないわ?ね?キッタ。殺しなさい」

「ただのメイドではないんです。紫折様は」

キッタさん、待って。まさか言うつもり!?

「お前にとって大切なお友達って事かしら?」

「そうでは、なく……その……」

私をちらりと見るから、首を振る。

言ったら最後。私はここに居られなくなる。だから、ダメだよ。

「魔力のない人間なんて、生きてる価値もないわ。だから、キッタ。殺しちゃいなさい」

「貴女も今は魔力のない人間ですけどね!」

何度も何度も、魔力の無い人は価値がないと言うドラナさんに、腹がたつ。

言い返せば、前回同様、火に油なのは分かってたけど。言い返さずにはいられなかった。

「私は大丈夫ですわ。そこのキッタの魔力を私のにする事になりましたの」

は?

キッタさんも、え?と戸惑っている。

「お父様とレキ皇子が、獣人の魔魂を己の魂に取り込んで、魔力を増強する禁術があると調べてくださいましたの。だから、魔力は取り戻せるのですわ」

へっぽこ皇子が余計なことを!!

多分、お父さんとへっぽこ皇子からその話を聞いて、キッタさんを取り戻しにきたんだろう。

「喜びなさいキッタ。あなたは私の一部となって生きていくのよ!!」

「喜べるか!?バカじゃないの、あんた!!」

ポケットの中の魔玉。お見舞いに行くからって、朝からポケットに入ってる。今これを返せば、魔王だってバレるけど、キッタさんは助かるかもしれない。でも、それでも。

「その禁術は使わせないよ。そもそも、禁術という言葉の意味は分かってるのかい?禁止された魔法術だから禁術なんだよ?」

ルカ皇子!?

ドラナさんの後ろから現れたルカ皇子は、ドラナさんを追い越し私達の前に立った。

「ドラナ嬢が病院から居なくなったから、追いかけてきたら。呆れたよ。君はまだ改心しないんだな」

大丈夫?シオ。と声をかけられ、ハッとする。

大丈夫。バラしてない。大丈夫。

大きく深呼吸をしてから、大丈夫だと返事をした。

「シオ、キッタ。帰るよ。彼女と話していても、何も変わらないからね」

言うや否や、足元に光る円形の光り。ストラさんが使う移動魔法と似てるから、多分、移動するんだろうな。

案の定、目の前が光ったと思ったら、違う場所に居た。ここは、多分、ルカ様の部屋??

「キッタ、悪いけど今夜はここで過ごしてくれ。僕の部屋なら、入室制限魔法をかけられるから、安全は保障される」

え、でも!と戸惑うキッタさん。たしかに、こまるよね。皇子の部屋に泊まるなんて。

「他の部屋だと、危険なんだ。レキと彼女達に禁術を使わせたくない。君だって、彼女を犯罪者にはしたくないだろう?」

大きく頷いたキッタさん。キッタさんの性格を考えると、ドラナさんの為なら!って言い出しそうだけど。その禁術を使ったら、ドラナさんが犯罪者になるって聞いたら、さすがに大丈夫でしょう。

「シオを部屋まで送って行くから。その後は、僕は執務室で一晩過ごすから。ゆっくりして」

行こうか、と促され部屋を出ると。ルカ様は扉に手をかざす。扉が銀色に光ると、これで大丈夫だと言った。

「キッタには悪いけど。今夜はここに閉じこめた」

へ?

「入室制限したんじゃないんですか?」

歩きながら聞いたら、キッタさんの性格だと、気が変わってドラナさんのために犠牲になりそうだから、入室だけでなく退室制限もかけた、と説明してくれた。

あり得るね。

「シオも。早まらなくてよかった」

「え?」

「君のことだから、ドラナ嬢に魔力を返そうとか思ってたんじゃない?」

バレてる!!

小さく頷いたら、ため息つかれた。

「ドラナ嬢に知られたら、レキにも知られてしまう。レキは、魔王というものに魅入られてるから」

知られない方がいい、と言われて。なんだかゾッとした。あのへっぽこ皇子、変態だな。魔王なんかに心酔するなんて。

「明朝、僕も見送りに行く。その時、護りの魔法をキッタにかける」

なぜ?と聞かなくてもなんとなく、分かるよ。

へっぽこ皇子が、捕まえて禁術とかに使いそうだからでしょ、多分。

よろしくお願いします、と言う。私が魔法を使えたら、なんとか出来たのにね。魔王とやらなんだし。

部屋の前まで送ってもらって、今夜は眠りについた。






翌朝。と言っても、まだ夜も明けてない時間。

ルカ様が起こしに来た。

「シオ、こんな時間に訪ねてすまない。馬車の時間を早めた。レキに悟られる前にと思って」

ドア越しなのに、なぜか私の耳まで響いてくる声。これも、魔法なのかな?

「あー………はい」

寝ぼけた頭で起き上がり、すぐに支度しますと返事をした。

ぶっちゃけ、寝てない。

顔を洗って、着替える。メイド服なのは、癖で。

でも、まあ、いいや。

「お待たせしました!」

部屋の外に出ると、ルカ様は眠そうな様子は一切見せず、行こうと言う。クールだ。

一緒にルカ様の部屋に。ドアを開けたらキッタさんが転がった。

「あ!」

「やっぱりね。キッタ、部屋を出てドラナ嬢の所に行こうとしたんだね?」

ハッとするキッタさんは、項垂れて。小さな声でハイと言った。本当にドラナさんが好きだよね。

「何度も言うけど、君は彼女を犯罪者にしたいのか?君の犠牲で得られるものは何もないんだ」

申し訳ございません、と謝るキッタさんの手を取って立たせる。

「過ぎたことはもう終わり!群れに帰れたら、お母さんにも会えるんでしょう?いい事じゃない!!」

親孝行しないと!と言うと、親孝行?と二人に首を傾げられた。そんな概念?風習?が無いのかなこの国。

「とにかく。ご両親に無事に育ちました!今も元気です!って姿を見せてあげなきゃ。きっと、ずっと、心配してるよ?親だもん」

昔、行方不明者のチラシを見て、お母さんが言っていた。親は、ずっと親なんだって。いつまでも、いくつになっても、子供のことは心配なんだよって。

「ドラナさんの魔力なら、ドラナさんが改心したら私から返すから。心配しないで?」

「は、はい!シオ様、よろしくお願いします」

深々と頭を下げられた。

うん!と返事をして、馬車の出発地点に向かう。

馬車の運転手?さんは、感じのいい青年で。どうやらルカ様と知り合いのようだった。

「すまないな。急に代わってもらって」

「ルカ様のご命令なら、いくらでも」

なんだろ、知り合いってより、仕えてる感じ?

「お世話になります」

キッタさんが頭を下げると、青年は爽やかな笑顔で責任を持ってお送りしますね、と。

獣人に偏見ないみたい、この人。

「キッタ。腕を出して」

はい?と言いながら腕を出したキッタさん。その腕を掴むとルカ様の手から銀色の光が。うわっ!と思ったらその銀色が装飾品になった。銀色の腕輪。

「ルカ様、これは?」

「護りの魔法。僕の魔力が結晶化した物だよ。この腕輪が君を護ってくれる。無事に群れに帰れるように」

魔力の結晶化?そんな事出来るの?

ありがとうございます、ありがとうございますとペコペコ頭を下げるキッタさん。キッタさんが馬車に乗ると、軽快に走り出した。

見えなくなるまで見送って、ルカ様を見た。

「ルカ様。ありがとうございます」

「お礼を言われるのような事はしてないよ。レキを犯罪者にはしたくないだけだから」

戻ろう、と歩き出したルカ様の後を追う。

ルカ様って、ツンデレ??

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