表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/59

38 頭が三つあったそうです

◇◇◇

 

 次郎吉と母が実の兄妹であったこと、昔起きたこと……色々なことに驚きすぎて何から聞けばいいか分からない夏帆の肩を父である稔はポン、と叩く。


「魔王城の中では半年しか経過していなかったんだって」

「しかしな、実際には小夜子が消えてから10年がっちょった」


 稔が成長して19歳になり、次郎吉も歳をそれなりに年を取ってしまった。そんな頃だったのだという。


「忘れもしない、ジロキッサンちに母さんからツワの煮つけを持って行った時だったよ」


 縁側に腰掛けて他愛ない話をしていた二人は立ち上がった時にどこかに落ちてしまったのだという。そして落ちた先は、見たことのない豪華なお城だったという。


「偶然なのか必然なのか。彼女を養う為に柘榴が広げていた軍勢の対抗策で始まっていた勇者召喚大作戦に、僕とジロキッサンがかかったんだよね」


 勇者とか賢者とか意味が分からないと戸惑う稔だったが、小夜子が消えた瞬間を見ていた次郎吉はピンと来たそうだ。もしかしたら、この世界に妹がいるかもしれないと。


「な、なるほど……それで勇者と賢者に。でも、どうやって連れ帰ったの?」


 そんなに執着されていたら絶対に連れて帰れないんじゃないんだろうか……。夏帆の疑問に次郎吉が笑う。


「こんな姿じいさんになっちょっても、小夜子・・・は分かったみたいでな」

「そう。そしてそれを感じ取った魔王……彼女も気づいてね。帰ってきてくれたんだよ」


 そういう二人にリアムだけが溜息をついた。


「そこに至るまでが恐ろしく大変だったがな……」


 血沸き肉躍る戦いなどもあったようだが、あんまり聞きたくはないかなと夏帆は苦笑いを零した。


「そこの犬だって、元はと言えば柘榴の飼い犬だぞ」

「えっ!?」


 足元でのんびりとくつろいでいるクロを見て夏帆は驚きの声を上げる。後ろ足で耳の後ろをバリバリと掻いているクロはどう見ても普通の犬だ。


「三つ首の魔獣、ケルベロスと呼ばれた黒き獣だったのだが……な」


 城へと押し入った際に襲い掛かって来たので二つの首を切り落としたのだと、リアムは平然と言って夏帆はポカンと口を開く。


「柘榴は眠り、一人残され死にゆくはずだったクロだったんだけど。もう魔力も無いからと小夜子さんが連れてきたんだよ」


 稔が苦笑いを浮かべる。魔王に懐いていたクロをせめて塚の近くに居させてあげようと思ったそうだ。そして祖母はそれを受け入れてくれたのだと。


「ク、クロ? おいで……」


 きゅうん、と鳴いて夏帆へと首を差し出すクロ。首の両脇を注意深く触ってみると……確かに、分厚い毛皮の下に何か傷跡のようなものがある。


「……ク、クロはクロだから……ね」


 しばし考えたが、きゅんきゅんと鳴き声を上げて尻尾を振るかわいい姿に白旗を振る。うちの子は世界で一番かわいいと思うのは愛犬家なら当然だ。


「でも、その……柘榴だっけ? どうやって置いてきたの?」

「本当に。逆上して襲い掛かって来てもおかしくなさそうですけど」


 夏帆とテオは顔を見合わせて頷く。話を聞いただけでも相当執着していそうだったのだ。帰ると言ってもおとなしく返してくれるとは思えない。


「ああ、魔族に名前を与えた段階でね。強制力が働くようになるんだよ」


 普段呼ぶ分や、主従にない者が呼ぶ分には全く働かないそうだが、名を与えた者が意志を込めて命じると逆らうことができない。帰る際に彼女は『しばし眠れ、柘榴』と優しく言ったのだという。


「しばし眠れ、だったからね」

「ああ、あれは本当に不安材料だったが……」

「うんにゃ。案外たくさん眠っちょったんじゃないか」


 何はともあれ、命じられた柘榴は二十七年間、穏やかに……かどうかは分からないが眠り続けたのだという。


「……ね、おじちゃん。お母さんて、本当に妹だったんだ」

「正真正銘の妹よ。だがな、ちょっとばっかし時が経ちすぎちょった上に、年をっちょらんかったからね」


 面識のあった近しい者たちは、神隠しにあった彼女が無事に帰ってきたことを涙を流して喜び受け入れてくれた。

 しかし、彼女の姿は当時の少女のままで。これでは問題があったので……魔王を塚へと戻したのち、養女として迎え入れたのだという。


 もちろん、小夜子の知っている時代と戻って来た時代では何もかもが変わりすぎていた。そんな彼女に優しく接し、色々なことを親身になって教えたのは他ならない稔だ。真実を知る年の近い稔に惹かれたのは、ごく自然なことだったという。


「小夜子はな、少しだけど覚えちょるんだと」


 次郎吉はしゃがみ込み、塚にポンと手を乗せた。それは得体の知れない怨霊に対するものではなくて、まるで妹に対するようなそんな優しいものだった。


「あんたのことは、いい人だって言っとったよ。小夜子が戻った時に困らない様にちゃんと体を守ってくれちょったって」


 テオがようやく分かったと呟く。


「……なるほど。柘榴は彼女が嫌がることをしない、人間らしくあることに拘っているから辺境伯の娘には危害を加えない、と。そういうことか……」


 何故もっと早く教えてくれないのかと思ったが、あちらの世界では魔王は打ち滅ぼされたことになっていてあの場では言えなかったのだろう。


「でね、柘榴の件を彼女に聞きたかったんだけど……」

「……どうやって?」


 言葉を止めてしまった稔に夏帆も首を傾げる。残念ながら霊感があるわけではないし、そこにあるのはただの塚だ。ただ、話を聞いてからはさほど不気味に思わなくなったけれど。


「うーん……まあ、また考えるとして。一旦帰ろうか」


 塚から離れ、坂を下り始めた稔。その後を一行が続く。


「やはり、サヨコさんの力を借りるしかあるまい」

「でもなー。過去は仕方ないけどさ。小夜子さんがあの男にべたべたされるのは嫌だなあ」


 リアムの言葉に稔が嫌そうに顔を顰めた。

 さすが熟年らぶらぶカップルだと夏帆は苦笑いを零した。


 ちらりと視線を塚の方へと向け、次いで墓へと視線を走らせる。

 祖母が毎日欠かさず墓参りをしていた理由は、もちろん祖父の為が一番だろう。でも、それと同じくらいこの塚を大切にしていたのもあるのだろうと思う。


(私も、今度来るときには何かお供え物もってこよう)

帰るまでに、魔王さんと対話できるといいですね。っていうかできないと大事件ですね。


次話、お母さん、テオにずばり聞いてみるの巻。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ