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25 穏やかな人が怒ると怖い

途中から説明回です。少し長め。

飛ばす場合はテオめっちゃ怒ったと思っていて下されば大丈夫です。

 年の差44歳の二人は軽トラックに揺られて進む。周りを走る車は後ろが荷台になっているものはほとんどない。リアムが乗って行った乗用車がほとんどだ。

 後ろが荷台になっている方が便利なのにと思ったが、大きなバスを見て荷台を設置したら乗れる人数が減ってしまうのだと思い至り納得した。


 ビルやスーパー、コンビニがそこそこ立ち並ぶ街を抜けて軽トラックはひたすら進む。オーディオからは相変わらず力強い歌声と、それに合わせて歌う次郎吉のしゃがれ声。


「ジロキッサン、パストーリ団長はもう先に着いてるんですか」

「おう。そろそろ着いちょっ頃じゃっど」


 不可思議なことに、勇者と賢者の言葉は自動で翻訳される。それはとても便利だが、勇者の訛りまで丁寧に翻訳されてちょっとよく分からないことも多々ある。


(なんでパストーリ団長は自然に理解できるんだろう…)


「はんも仕事とは言っても、てそかね」

「テソカネ?」


 テオの疑問には答えず、次郎吉は「分からんよね」と笑いながら車を左へと曲がらせた。

 おとなしく周囲を観察することにしたテオはきょろきょろと見渡す。先程よりも明らかに田畑の面積が増えてきている。どうやら、勇者様はだいぶ田舎にお住まいのようだ。残念ながら特に驚きを感じる様なものが無かったので、窓を流れる景色を見ながらぼんやりと思い返す。


(啖呵切っちゃったからなー。がんばるしかないけど)


◇◇◇


 緊急招集の内容は、魔物の上に立つ生き物である魔族が要求を出してきたことだった。

 魔物というものは基本的に獣の姿をしており人語を解することはない。だが、魔族という生き物は違う。人語を理解して人の姿を取ることもできる。だが、ほとんどの場合が片言で話し人の姿を取ってもどこかしら異形のままで人とは違うことがはっきりと分かるものだ。


 しかし、辺境伯に伝言を依頼しに来た魔族は違ったという。黒い長髪を上品なシルクのリボンで結び、上等なコートに身を包んだ男性の姿に、誰も魔族だとは気付かずに通してしまったというのだ。もっとも、玄関から堂々と魔族が訪ねてくるなどとは思わないだろうが。

 

 彼の要求はただひとつ。


--魔王様を返せ、と伝えろ--


 その言葉を聞いた辺境伯は驚き、「魔王は二十七年前に消滅した」と彼の知っている情報を告げると魔族は愉快そうに笑みをうかべた。彼の瞳の白目であるべき部分まで全て黒目になり、次いで真っ赤な色に染まったのだという。


--交換だ。返しさえすれば無事に渡す--


 そう言って、魔族は辺境伯の一人娘……亡き妻の忘れ形見を連れ攫ってしまったのだという。


「この報せは正しいと思われる」


 報告書が声高らかに読み上げられ緊張した場に口を開いたのは、ヴァレール騎士団長だった。彼は先の魔王討伐の一行の一人だ。


「瞳の赤い、ほぼ人型の魔族は魔王の元側近、柘榴ざくろと推測される」


 ざわつく場。魔王の側近を取り逃がしていたのかという声もちらほら聞こえてくる。自然ともう一人の同行者、竜騎士団長であるリアムにも視線が寄せられる。


「ああ。柘榴で間違いないだろう。魔王への執着心と人を真似るやりかたは完全にあいつだな」


 リアムが肯定するとますます場がざわついた。


「なぜ、魔王の側近を取り逃がした」

「そうだ! 確実に仕留めておけばこんなことにはならなかったのでは」


 リアムは面倒くさそうに溜息を吐き、ヴァレール騎士団は冷たく場を見つめる。


「何のために竜を連れて行ったのだと思っている」


 竜への野次の言葉を聞き逃せなかったテオは思わず立ち上がってしまった。

 九つの騎士団の団長、副団長の視線が一気にテオへと集まる。


(あ、しまった。つい……)


 上司リアムをちらりと見やると面白そうな顔で見ている。こうなっては仕方ない。テオはゆっくりと口を開いた。


「あなた方は魔王討伐に何故行かれなかったのですか」


 副団長たちはテオが最年少で年代には巾がある。当時は幼くて参加できなかっただろうし、彼らにはその答えを求めていない。


 各騎士団長クラスは同世代で、リアムと一緒。テオが答えが欲しいのは彼らだ。団長ひとりひとりの顔をゆっくりと見渡す。


「王都だけを守っていればいい。そういうことなんですか?」


 最初の試験にはそこそこの人数が集まったのだという。しかし、回数を重ねるにつれ選抜試験にはほとんど人が集まらなくなった。

 それもそうだ、誰が好き好んで死ににいくのだろうか。来たのは物好きと、国が出すまとまった支度金目当ての貧しい者だけだったと聞く。


 当時の勇者召喚は各国で頻繁に行われ、様々な異世界の人々が勇者となり魔王城を探しに送り出された。しかし誰も帰らず3年。魔王の侵攻は止まらず農村は奪われ、資源も取られてしまっている有様だったのだ。


 いつものように召喚された勇者第何号かの二人組に期待など持てるはずもない。しかし、何故か今回は王子みずから行くと主張し、王子の護衛にと付けられたのがヴァレール。そして物好きにも選抜試験に出たのが辺境から戻って来たばかりの竜騎士団副団長リアムだった。


 彼らが魔王を討ち滅ぼした二十七年の間にこの国は栄えた。拍車をかけたのは賢者のもたらした知識だ。作物は豊かに育ち、河川の氾濫もぐっと数が減った。餓死者の数だってだいぶ減り豊かになったが……国の中心は少し腐ってしまったのかもしれない。


 すっかり静まり返ってしまった会議。テオは最後にゆっくりと口を開いた。


「何のために竜を連れて行ったと思っていると言われてましたが」


 ピクリ、と第五騎士団副団長の肩が揺れる。


「竜を連れて行くことはできません。彼らの意志で着いてきてくれているだけですよ。非力な人間を友とし、大切に思ってくれているからこそです」

「テオ、もういい」


 久しく呼ばれていなかった愛称でリアムに呼ばれ、テオははっと我に返る。少し熱くなりすぎてしまったかと心配になり上司の顔を見ると、強面の顔は愉快そうに歪められており、次いで見たヴァレール騎士団長の顔も面白そうなものを見る表情をしていた。

「さあ勇者さま! 魔王を倒すのです!」

「どこにいるんすか」

「知りません」

「!?」

みたいなやりとりが各国で行われたんでしょうね。無責任にも程がある。



次話は日本に戻ります。

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[良い点] お国言葉、わかっちょどー。 あたいな、好っなのは「てげてげ」じゃ!(笑) もしかしてー!と思いましたが、舞台が地元で嬉しいです! [気になる点] 人物描写がもう少し詳しいと、イラスト作成の…
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