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24 勇者さまと付き人

※方言が入ります。ガッツリ入れてしまうと理解不能かと思われますので和らげて表現しておりますのでご了承ください。同じ県でも地方によって変わると思って見て頂けましたら幸いです。

「方言が入っちょっで、そげん入れたらあんたにゃ分からんから、分かりやすくやるからねー」的な。そんな感じで、はい。


 ごっつい客人は体を屈め、炬燵に入ると嬉しそうに目を細めて溜息を吐いた。


「これが、コタツ。本物はこういうものなのか」

「ああ、北の寒村にも似たようなの作ったもんね」


 あの時は……と懐かしそうに仕事の話を始めた二人。夏帆は温かい緑茶をそっと出す。


「ああ、すまない」


 リアムの礼に夏帆もぺこりと頭を下げる。盆を下げようとすると父が呼び止めた。

 

「夏帆、何か食べるものなかった?」

「え? 朝ごはん食べてないの?」

「いや、食べたんだけど…」


 父の返事の代わりに、リアムの腹からすごい轟音がして夏帆は目を丸くする。


「…すまない」


 深々と頭を下げるリアムに夏帆は我に返って笑い出す。こんな腹の音は聞いたことがない。


「ふふふっ、お腹が空いたんですね。何かあったかなあ」


 豚汁はもう食べてしまったし、母は着替えをしている最中だ。何か簡単にできる物……そう思って台所へ行って冷蔵庫を漁る。ここは実家だけれど、夏帆の知っている台所とは少し配置が変わってしまっていて物を探すのに少し手間取る。


「お父さん、袋麺と……少し待てるならパスタか、チャーハンかな」

 

 すぐ食べたいと言わんばかりにリアムの腹の虫が返事をした。


「リアムの腹は待てないってさー!」


 お客さんにインスタント麺ってと思いつつも、これくらいしか無いのだから仕方ない。さすがにお茶漬けじゃお腹に溜まらないだろうし、お茶漬けだってどうなんだろうと思うけど。


(日本が誇るインスタント麺にお願いしよう)


 冷蔵庫からウィンナーと、母が見逃していたであろう隅っこにころんと転がる半分サイズのラップに包まれた玉ねぎを発見したのでそれと、レタスと卵を取り出して準備をする。


 お湯を沸かしながら野菜を切っていると、やっぱり父も食べたいという声が上がった。夏帆は苦笑いを零して卵と麺を二つに増やす。野菜とウィンナーを煮込み、火が通ったら麺を入れる。

 麺がふやけた頃に卵を落として蓋をして少しだけ煮込み、その間に丼に開けておいた粉末スープにポットからお湯を注いで溶かす。


 ラーメンを丼に移して二つに盛り付けているところで、おめかしを済ませた母が寝室から出てきた。


「ああ、リアムはまたお腹空いたの」

「そうみたい。お父さんもつられてお腹空いたんだって」


 お父さんはもっと食べたほうがいいわねと母は真顔で頷き、食器棚からご飯茶碗を取り出してよそう。


「あ、小夜子さよこさん。僕のご飯は要らないよ」

「あら。じゃあリアムのに入れておくわ」


 母が多めに入っていたリアムのご飯茶碗に父の分を移す。茶碗は日本昔話のような状態になって夏帆は顔を引き攣らせる。旧知の仲とはいえ、母は容赦がない。


「はい、インスタント麺で申し訳ないんですけど」

「あら! お母さんがおひとり様100円戦争から勝ち取ってきたのに」

「え、そんなに安いことがあるの」


 品質が心配になったが、いつも見慣れたパッケージだし、リアムは美味しそうに啜っているので大丈夫そうだ。


「じゃあ、私たちは出かけてくるわね」

「気を付けて行っておいで」


 炬燵でラーメンを食べながらまたもや仕事の話らしきことを相談し始めた二人に手を振って夏帆は母と出かけることにした。


◇◇◇


「…ジロキッサン。荷物は後ろでいいんですか」

「よかよー! 荷台に積み上げてくいやん」


 野菜の肥料袋を持つ青年は言われたままに白い軽トラックの荷台へと積み上げていく。

 アッシュグレーの髪の毛が人目を引く。彼は日本人ではない。


「おいはカートを戻してくっから、あんた」

「テオドールです」

「テオダール」

「…テオでいいです」


 譲歩した青年に老人は満足げに頷いた。


「テオくんは、助手席に座っちょっていいから」

「あ、オレが“かーと”戻してきますよ」

「よかよか! あんたが戻すと場所分からんから、余計に時間かかる」

「…あ、そうですね。じゃお願いします」


 がっははと上機嫌に笑う老人にテオは苦笑いを浮かべて助手席に乗り込む。シンプルな濃いグレーのニット、下はいつもの制服の黒いボトムだ。


 エンジンがかかっているので車内は聞いたことのない曲調の歌が流れている。こぶしの効いた力強い歌声を聴き流しながらテオは首を竦めた。


(ロディもカティ殿もちゃんと仕事してるかな…)


 次いでお腹を押さえて溜息を吐いた。こちらの世界へ来てから髪に刻まれていたロディとの契約の証である青い髪はほとんど目立たない。元々の色であるアッシュグレーの髪の毛にしか見えないだろう。彼の相棒の魔力が影響しない程に遠く隔たれたということなのだろう。


(竜の力はほぼ使えない、ロディにも乗れない。なのに腹は減るっておかしくないかなあ)


 竜騎士って……と少し遠い目をしたテオの視界に、のっしのっしと歩いてくる老人――花田はなだ次郎吉じろうきちの姿が入る。

 御年七十歳となるとっても元気な老人であり、二十七年前の魔王騒動の時に世界を救った“勇者さま”である。

まさかの袋麺登場でした。実家の食料庫って何にもないのになぜか袋麺だけはたくさんありました。

お待たせしました。腹ペコヒーロー登場です。


文章にすると途端にリアリティなくなりますね。次郎吉さんボイス再生ボタンはどこですか……。

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