表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/59

1 穴が開いていました

お腹が少し空いてきました。

 お気に入りのグラスに、カラコロと氷を入れる。このグラスは結構な大きさで分厚いのに持ちやすい。透明の分厚いガラスの中にうっすらと青い色が流し込まれたこのグラスは、幼い頃に大切に集めていたビー玉に少し似ている。


 氷の上からペシェを適当に注いで、その上からどぼどぼとウーロン茶を注げば週末にいつも飲むペシェウーロンの完成だ。今日のおつまみはさつま揚げを切ってフライパンでサッと焼いたもので、これにマヨネーズを付けて食べるのが彼女は大好きだ。


 しかし、今日の晩御飯がこれだけとは悲しすぎる。クッションから彼女は立ち上がりキッチンの方へと移動した。


 冷蔵庫に転がるレタスを取って一口大にちぎる。その上に角切りトマトを乗せて、同じく角切りクリームチーズを乗せ、冷蔵庫で眠っていた生ハムをひょいひょいと乗せたら、今度は彩りが気になったので冷凍庫からコーンを取り出してぱらぱらと散らした。


「わーお。なにこれ超おいしそう。天才なんじゃないの」


 予想以上に美味しそうにできて満足したらしく、サラダボウルを持って鼻歌交じりに部屋に戻る。お昼にパン屋さんで晩御飯用にバゲットを購入してきてある。スライスしてもらったのでそのまま食べれば大丈夫だけれど、一応トースターに乗っけて温める。


 秋もだいぶ深まってきたので足元が冷えてきたのに気が付いて、トースターの前から離れて部屋に戻る。若草色のラグの上にあるクッションを飛び越えて、奥にあるクロゼットを開けた。結構広いこのクロゼットは彼女がこの部屋にした決め手だった。


 日々に追われているせいでまだ衣替えはしていない。奥の方にあるであろうひざ掛けを取るべく中へと体を滑らせた。奥に毛布類は圧縮袋にまとめて入れてあるのだが、なかなか手が届かない。原因は、ベッドを買う前に使用していた布団が重ねてあるからだ。これも処分しなくてはいけないのだが、いかんせん面倒臭い。


「…ん? あ、あれれ?」


 彼女は戸惑いの声を上げた。壁に大きな穴が開いているのに気付いたのだ。

 結構大きな穴で、仕事が決まって引っ越してきて五年暮らしていたが全然気づかなかった。


「っていうか、これって…私が開けちゃったのかな」


 (ヤバいヤバい。出て行く時にどれくらいお金を取られるのコレって!!)


 彼女は震えあがった。楽しい金曜日の夜の晩酌はほったらかしてクロゼットの布団を外に出す。その次は縦長の洋服入れだ。これがなかなか場所を取るのだけれど、これがないと片付かないのだから仕方ない。仕上げにポールにかけてあったワンピースやらジャケットやらを取り払うとクロゼットの中が見渡せるようになった。


「うあー。結構大きい穴開いてるなあ。これやばいよ」


 確認すると奥の箇所に彼女の頭がぎりぎり通らないくらいの大きな穴が開いていた。しかも、しかもだ。


「ううう…これって、隣の部屋に貫通してるっぽいんだけど」


 何故、今まで気付かなかったのだろうと泣きたくなる。あっちも洋服が見えることからクロゼットの中ではなかろうかと予測されるが…そもそもこんなに壁が薄かったっけと思うが、現実に大きな穴は広がっている。


 ---ガタン。


 思えば彼女はいつも運が悪かった。今日だって、お客さんに電話を貰って折り返し電話をすると出ないし、その折り返しの折り返しの連絡を貰っても丁度別の電話に出ていたので結局連絡が取れたのはなんと驚き! 二時間後という結果だった。


 去年のお正月におみくじを引いたら、まさかの大凶が出て。友人に「引き直そうよ」と勧められて気を取り直してもう一度チャレンジしたら…二度目の大凶を引き当てた。これに関して言えば運が良いのかもしれないけれど。


 そう。持ち前の運の悪さがここで発揮されたのだ。そんな能力いらない! と心の中で叫ぶ彼女には関係なく、確実に隣人は帰宅した。


 パチン、と手を叩く様な音がして部屋が明るくなってあちらの様子が少し分かるようになった。やっぱり向こう側はクロゼットらしい。かけられていた服らしきものは黒い制服のようなジャケットだった。


 どうしよう、彼女は悩んだ。今までばれていなかったのだ。こちら側から段ボールで塞いでおいて後日、お伺いに行こうかな…。そう思ったものの、ここで彼女の間の悪さが再び発揮される。向こうの部屋の光が一際明るくなった。クロゼットの扉が開かれたのだ。


 (わー!! ごめんなさい! でもできれば気付かないでー!!)


 彼女の祈りは届かなかった。彼は手前に掛けてあったハンガーらしきものに手を伸ばして…呟いた。


「え? こんな所に穴なんてあったっけ?」



退去時にいくら払わないといけないんですかね。とっても恐ろしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ