第二話 その2 家族の情景
2027年4月24日(土)
AM12:30
「桜也ちゃん、ひじきの炊き込みごはん、
おかわりいかが?」
「さ、冴さん、ありがとうございま、
いてて!・・・お、お願いします。」
「おいおい、桜也大丈夫かよ。
茶碗出す手がプルプル震えてるぞ。」
「全身筋肉痛なんだから
しょうがないだろ、銀。」
「修業不足なんだよ!
まあ、今日のお前は
何かすごかったけどな。」
銀之助との追加稽古の後、
お風呂を借りた上で、
梅原師範と共に魚沼家のお昼ご飯に
御呼ばれした桜也。
遠慮はあるものの、
今家に帰っても
桃香も美咲も生徒会の仕事で
学校に行っており、
きっと両親の週末イチャラブの
邪魔にしかならないことから、
有り難く銀之助の母、
魚沼冴の手料理を堪能する
ことにしたのだった。
「はい、桜也ちゃん、どうぞ。
身体はもう大丈夫なの?
無理しちゃだめよ。」
「あ、ありがとうございます。
大丈夫ですから、はい。」
「桜也、何赤くなってるんだよ。
つうか、風呂でも完全にのびてたし、
その後服着るにも苦労して、
かーさんに手伝ってもらうなんて
全く情けねえ。
それじゃ巴恵と変わんねえじゃねえか。
なあ、巴恵♪」
「きゃきゃ♪」
未だ完成されていない中学生の肉体で
秘剣雨狼名を放とうとした
代償は大きく、
その後桜也は今まで体験したことの
無いような強烈筋肉痛に苦しめられて
いたのであった。
しかも何とか身体を洗って
風呂場からはい出たところで力尽きかけて、
心配した冴に服を着るのも手伝って
もらうことになってしまい、
非常に恥ずかしい思いをしたのである。
何とかパンツは自分で履いていたものの、
2児の母とはいえ、まだまだ色褪せない
たおやかな美人に手ずから服を着せてもらう
と言うのは中々クルものがあったが、
親友の母親にして恩師の奥さんに変な「反応」
したりしたらそれこそ自殺ものであるため、
妙に緊張してしまっており、
それがその後の食卓にも続いてしまっているのである。
加えて今も魚沼の目が妙に鋭くなっている気がしており、
桜也はさらに身体を固くしてしまうのであった。
「桜也。」
「は、はい、魚沼先生!なんでしょうか!!」
「何を力んでおるんだ。
賢治くんから聞いたが
随分と腕を上げたようだな。」
「いやいや、今日の桜也くんは
すごかったですよ。
『本気』の銀之助くんを
もう少しで打ち倒してしまう
ところでしたから。」
「ほう、なるほど。
・・・銀の、
また勝手に『外した』のか?」
「いや、だって、・・・ごめんなさい。
でも今日の桜也には『全力で』立ち向かわなきゃ
いけない、そんな気がしたんだよ、とーさん。
それでもやられかけちゃって、
やっぱもっと修業頑張らなくっちゃって思えたし。」
「・・・確かに以前とは『気』の張り具合が段違いだな。
今日のところは不問にしておくか。
桜也、今度久しぶりに一本どうだ。」
「私も手合せしてみたいですね。」
「魚沼先生、賢治先生!是非お願いします!!」
「桜也ばっかりずりーぞ!俺も俺も!!」
「ふふふ、男の子ねえ。」
恩師たちに認められたことに胸が熱くなる桜也。
今まで全力で『戦えない』ことで
二人の顔に泥を塗っていたのではないかと
ずっと気が重かった。
これからは少しでも恩返しが出来ればと思う。
勿論魚沼家や賢治先生達を自分に降りかかる災厄に
巻き込むわけには決していかないが・・・
「ぎぃにぃー、ぎぃにぃー」
「ん、巴恵、全部食べ終わったのか?
なんだ、ニンジンのピューレ残してるじゃないか。
ほらほら、好き嫌いしたら大きくなれないぞ。」
「うーうー。・・・もぐもぐ。」
「よしよし、いい子だぁ♪」
「銀もすっかりいいおにいちゃんだな。
巴恵ちゃんが生まれる前は
『桜也と桃香の関係見てたら
妹なんてめんどくせえだけじゃん』
とか言ってたくせに。」
「うるせえし!
桜也だって桃香だけじゃなくて
高原ファイブの子守の愚痴まで
良く言ってたじゃんか。」
「・・・昔は乙見たちも素直で
可愛かったんだけど、
なんであんなにかしましくなっちゃったのか。
今では始会たちまで影響受けてるし。
せめて朱葉ぐらいはおしとやかな
ままでいてくれると助かるんだけど。」
「・・・この前
双見と話してたら、
『あの娘が一番ヤバい。
流石蒼華さんの娘だ。』みたいなこと言ってたな。
よく分かんないけど、頑張れ。」
「・・・誰か一人くらい
引き受けてくれないか?」
「俺には巴恵がいるからな♪」
「僕だって桃香の世話だけで十分大変だよ!」
甲斐甲斐しくまだ1歳になるかならないかの
妹の世話をする銀之助をからかった桜也であったが、
見事に逆襲されてしまった。
試合でやられた分を口でやり返してきたらしい。
とはいえ黒髪縦ロールの可愛らしいふわふわの巴恵に対し、
熱心に食事の介助をする銀之助の姿を見ていると
昨日命を懸けて妹を守ったことが決して間違いでは
なかったと改めて確認できる。
今日の稽古では鬼の力をコントロールできるように
なったことがプラスに働いたが、
決して良いことばかりが待ち受けているとは思えない。
しかしそれでも目の前の兄妹たちのような、
そしてこの団欒の食事風景のような、
家族の情景を守ることができるなら
それで構わない。
それだけの覚悟を決めて『力』を得たのだから。
桜也は自分の分の最後のコロッケを口に入れると
冴がよそってくれたおかわりの炊き込みご飯をかきこんだ。
自分の守るべき日常の価値を今一度噛みしめながら。
清水夫婦がイチャイチャするために、
子どもたちは気を使っています(汗)
ちなみ掲示板をご覧になってない方に補足しておくと
乙見、双見、始会というのは高原直澄と倫子の娘、
朱葉というのは高原直樹と蒼華の娘となっております。
高原ファイブというのは12年後のうろな南小学校を
席巻している(苦笑)直澄と倫子の子どもたち5人組の通称です。
前話に引き続き桜月りまさんの「ちょっと緩い水神の悪戯」より銀之助くんと
未来の魚沼先生、冴ちゃん、そして銀之助くんの妹巴恵ちゃんをお借りしています。魚沼家の未来に幸あれ♪
それでは次の話からいよいよ陰陽師さんたちと
絡んでいきたいと思います。
更新は明日以降になるかもしれませんが、
気長にお待ちください。
寺町さんよろしくお願いします。
それでは新ヒロインの登場にご期待を♪