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うろな第三世代!  作者: YL
第二話 陰陽師の願い
8/14

第二話 その1 ライバルの変化

うろな2周年記念!第二話ボチボチ更新していきたいと思います。

2027年4月24日(土)

AM11:00


魚沼剣道場。

土瓶眼鏡の気難しそうな風貌でありながら、

うろなの人達からは

「カッパ先生」「コロッケ先生」と親しまれ、

またいざという時にはとても頼りにされている

弁護士魚沼鉄太うおぬまてった

そこは彼が2回り以上年の離れた妻、

さえを娶った後に

事務所のあったビルを買い取って、

開設した剣道場である。

道場主である魚沼は依然弁護士としての業務が

忙しいため、

うろな内外の彼の知己達が師範や師範代として

入れ替わりやってきており、

今日の朝稽古の師範、

梅原賢治うめはらけんじもそんな一人である。


彼の旧姓は河中といい、

師匠である魚沼の旧友、

梅原勝也の推薦や

勝也と清水渉の決闘時の審判を

魚沼と共に務めた縁もあり、

魚沼剣道場開設時から

臨時の師範代として毎週通ってきている。

ちなみに現在の苗字が梅原となっているのは、

梅原勝也から人柄と指導手腕を高く評価され、

彼の養子となると共に梅原家の遠縁の女性と結婚して、

梅原道場を引き継いだためである。

決して全国の舞台において華々しい戦績を残した

訳ではない彼が、剣神梅原勝也の後継者となったこと

については各方面から異論もあったが、

夫婦二人三脚で梅原道場を盛り上げると共に、

魚沼剣道場等の出張先も含めて

指導した剣士たちが各地で

目覚ましい活躍を果たしたことで、

徐々に剣道界でも認められるようになると共に、

指導者としての勝也についても再評価がなされている。

その点については勝也の妻、あずさ

「ふふふ、娘夫婦から色々学んだのかもね♪」

と夫の変化を微笑ましそうに語っているが、

いずれにせようろなでの縁が

現在の自分に繋がっていることを

深く賢治は感謝しており、

週末は梅原道場を弟子や妻に任せ、

魚沼剣道場での指導を今も続けているのである。




すでに朝稽古の時間は終わり、

殆どの参加者や清水司をはじめとする指導者陣も

家路についていた。

そんな中、剣道場には賢治を含めた三人だけが

防具をつけたまま残っており、

賢治の目の前では小柄な二人の剣士が

審判を務める彼の合図を今か今かと待っていた。




「始め!」

「いくぞ、ヘタレ桜也!!」

「うるさい、チビ銀!!」



賢治の声が剣道場に響いた瞬間、

少年二人の掛け声が重なり、

疾風のような鍔競り合いが開始されたのだった。



「どうしたのさ、桜也!

唯一の自慢の逃げ足が今日は

不調じゃん!!

稽古で俺以外に何本も取られるなんて、

中学入って気が緩んでるんじゃない?」

「中学生には色々あるんだよ!

だいたいそっちこそ、

打ち込みのキレが今いちだったけど、

また弓姫ゆみちゃんと喧嘩でも

したんじゃないか?

あんまりムキになって

叔父さんに突っかかったりしてると

本気で嫌われるぞ。」

「う、うっせえし!」



小学生と中学生になったばかりの

少年の動きとは思えない

猛烈な速度での打ち合いでありながら、

二人とも口喧嘩をしつつも

まるでじゃれあっているかのようである。

通常の稽古では二人とも真面目にかつ、

他の参加者に『合わせた』動きをしているのだが、

この二人だけの追加稽古の時は、

遠慮も手抜きもなく、

全力でその天性の技を互いにぶつけ合っている。


攻めるのはこの道場の主、

魚沼鉄太の息子、

魚沼銀之助うおぬまぎんのすけ

小学4年生とは思えないほど小柄な少年ではあるが、

父に仕込まれた流れるような

打ち込みの速さ、正確さと、

母譲りの天才的な読みの深さを武器に、

同年代では彼の攻めに耐えられるものは殆どおらず、

『本気』を出せば大人の剣士ですら簡単に打ち倒す、

未来の剣豪候補である。

いつもは底瓶眼鏡の下で

不機嫌そうな表情を崩さない彼であるが、

今の相手に対しては年相応の子どもっぽさと

内に秘めた情熱を素直に吐き出すように、

圧倒的な手数で攻め立てている。




しかしそんな攻めをしっかりと

受け流しているのが

剣神梅原勝也の孫にして、

彼を僅か1か月程の特訓で打ち倒した

驚異の変態、清水渉を父に持つ、

清水桜也である。

彼も銀之助と同様に

同年代の他の少年たちと比べて小柄であり、

普段の稽古では非常に控えめで

殆ど存在感がない程であるが、

賢治は『あえて消している』のだと考えている。

そうでなければ銀之助の非常に正確で、

素早い打ち込みを逸らし続けながら、

なおかつ追い詰められないように

道場全体を上手く使って

立ち回ることなど不可能なはずであり、

彼が普段の稽古では自分の実力をほんの一部しか

発揮していないことは明白である。


その点について周囲からの彼の評価が

芳しくないことも知っている賢治は

何度か桜也に

「もう少しだけ積極的にやってみないか」

と声をかけたことがあった。

しかしその度に「賢治先生、本当にすいません。」と

毎回丁寧すぎるぐらいに頭を下げられ、

なおかつその決意が固いことを

確認させられるだけだった。

そのため賢治は桜也が気兼ねなく

相手が出来る幼馴染、魚沼銀之助との二人だけの

稽古の時間を可能な限り設けるようにしたのだった。


その甲斐もあって桜也は防御・回避に関しては

実は同年代でもトップクラスの水準に達しており、

時々うろなに現れては彼に苛烈な稽古をつけていく、

祖父勝也との稽古にすら、

かなりの時間耐えられるようになっているのである。

そんな桜也と稽古をしているためか、

銀之助の攻めの鋭さも更に高いレベルに

引き上げられている。

二人の相乗効果について

桜也の母である司、

銀之助の父である鉄太からも

感謝の言葉を貰っており、

恩ある二人に少しでも恩返しが出来たならと

賢治としては嬉しく思っていた。


ただ一つ残念なのは桜也が攻めることは

殆どないことだった。

それも決して攻められない訳ではないようで、

時々『反応で』反撃してしまったときには、

打たれた銀之助も驚くような

鋭い打ち込みを見せるのである。

これがもう少し出てくるようだと

桜也本人の成長だけでなく、

銀之助にとっても普段あまりの攻めの強さから

鍛える機会の少ない守備・回避を向上させる

絶好の機会となるのだが・・・




そんな風に常々思っていた賢治であったため、

今日の桜也の打たれることの多さに対して、

銀之助とは少し違う見方をしていた。


確かにどうやら身体に疲れが残っていたようであり、

そのために回避が遅れた部分はあるのだろうが、

桜也はそれを逆に利用して

”隙を見て打ち込もうとする相手に反撃する”、

そんなタイミングを図っていたように見えたのだ。

実際には反撃出来なかった、

あるいは”反撃しなかった”ため

珍しく何本もまともに打ち込まれていたが、

彼の目はいつものように

諦めてルーチンを淡々とこなすようなものではなく、

必死に戦う”戦士”のそれだったように

感じていたのである。



その真価が見られるかという矢先に

一瞬桜也がよろめき、

打ち込む隙が出来た。

その機を銀之助が逃すはずはなく、

「まずは一本貰い!!」

桜也の面を瞬時に打った、


かに見えたが竹刀の音は聞こえず、

その先に桜也は『いなかった』。



「えっ!」

パン!!



「ど、胴あり!!」

「う、嘘だろ!

今確かにそこにいたはずなのに!!」


一瞬銀之助が桜也の動きを

見失っていた刹那、

桜也は銀之助の胴を抜き、

残心の構えをとっていた。


賢治も一瞬目の前で起きたことが

信じられず、反応が遅れてしまったが、

十分な打突がなされていたことから

桜也の一本目を認めた。

銀之助はまだ自分がされたことが

何なのか理解できていないようである。



桜也のやったこと自体は

それほど特異なことではなく、

よろめいた身体をそのまま沈ませ、

銀之助の打ち込みを回避しながら、

低い姿勢のまま相手の懐に飛び込み

胴を抜いたのである。


勿論中学生になったばかりの少年が

やる技としては高難度であるが、

桜也が本来有しているはずの技量から

考えれば”偶然”できたとしてもおかしくはない。

しかし今のは明らかに”狙って”やったものであり、

その証拠に桜也は打ち込んだ後

「・・・まだ遅い。」と呟いていたのである。




「桜也ズリーし、

そんな技隠し持っていたなんて!!」

「い、いや、ちょっと出来るかな?

ってやってみただけなんだけど。」

「嘘つけ、さっきのお前の”目”いつもの

フニャフニャしてんのと全然違ったじゃん!

ああ、もうこうなったら

俺だって『本気』出させてもらうし!!

賢治先生!ちょっと、時間もらっていいですか!?」

「いいよ。桜也くんはちょっと休んでなさい。」

「は、はい。」



まるで”嬉しくて”居てもたっても

居られなくなったように

もう防具を脱いで”眼鏡”を外そうとしていた

銀之助に賢治は一声かけ、

技の後かなり”消耗”している風の

桜也にも指示をだした。




恐らく銀之助は『高すぎる視力を抑える』ために

いつもつけている眼鏡を外すことで

より一層速度と読みを増して桜也を

打ち倒しにくることだろう。

これまで何度か桜也に手痛い反撃を食らった直後に

銀之助はこの行動を見せており、

瞬く間に桜也を倒してしまっていた。

その度毎に彼はどうしてかひどく落ち込み、

さらに父親からもこっぴどく叱られていたのだが、

それでも桜也に対してまるで

『ずっと待っていた』かのように

負けた時ほど本気になっていたのだった。


もしかしたら彼は心の奥底で

信じていたのかもしれない。

剣道を始めた直後、天狗になっていた自分を

瞬時に倒した年上の少年が

もう一度”本気”になってくれるのを。

何故かあるときから一切攻めることを

”やめてしまった”彼ともう一度真剣に戦える

日が来るのを。

もしかしたら今日こそは・・・





「賢治先生、準備できました!

本気でいくぞ、桜也!!」

「・・・分かったよ、銀!

賢治先生、お願いします!!」

「分かった。二本目・・・始め!!」



ダダン!!



桜也の方にまるで矢のように

ぶつかっていく銀之助。

その速度は先ほどの比ではなく、

本当に風になったかのようである。

打ち込みも面、小手、胴に

凄まじい数が飛んでおり、

正直師範の自分が相手をしたとしても

十分にさばき切るのは困難な程である。

いつもの桜也なら既に勢いに押されて

闘志を削がれてしまっただろう。

しかし・・・



パンパンパンパン、パパン!!



道場には小気味良い竹刀同士が

ぶつかり合う音が響き続けている。

そう、銀之助の万雷の打ち込みに全く怯むことなく、

桜也が全て受け流しているのである。

今の彼の目に恐怖の色は見当たらない。

その眼はどこか『赤く輝いて』いるようにさえ見え、

ただ真摯に目の前の嵐に対応することに専念している。

・・・いや、もしかしたらすでに『反撃の糸口』を

探し始めているのかもしれない。



二人のさらに強度を増した立ち合いを見て、

賢治は驚きを超えて徐々に感動すら感じ始めていた。


実際のレベルは別としても

その激しさはまるであの師梅原勝也と

その婿清水渉との決戦の時を

彷彿とさせるものであった。

あるいは場の空気からいくと、

その後一度見る機会があった

渉と銀之助の叔父らしき青年の

稽古風景の方がより近いかもしれない。

とにかく全国の舞台ですら

中々見ることが出来ない好勝負が

目の前で展開されており、

それが自身が長く指導してきた

愛弟子ともいうべき少年同士に

よるものなのである。

賢治の感慨は一塩であった。



ダン!



「おい、桜也。

久しぶりにやる気を出してくれて

すっげー嬉しいけど、

何か『憑りついている』んじゃないよな。

俺にはまるでお前の頭に”耳”みたいな

ものが生えているみたいに見えるんだけど。」

「・・・多分、”気のせい”だよ。

お前こそ、”見える”ようになって

分かったけど、どうやったらそんな数の

打ち込みが放てるんだよ。

人間業じゃないって。」




そこまで無言で打ち合っていた二人であったが、

互いの一撃の反動により

距離が空いたことで、

お互い興奮が抑えられないかのように

まくしたてたのだった。

賢治には二人の言っている内容が

いまいち理解できないが、

二人が互いを認め合い、

この戦いを心から楽しんでいること

だけは理解できた。



「とーさんの修業マジでキツイから。

弓姫のためなら仕方ないけど。」

「お姫様のためのカッパ親子の特訓ってわけか。

そりゃスゴイはずだ。」

「そっちだって鬼二人にいつも

ボコボコにされててよく続けてられるよ。」

「母さんもじーちゃんも、

”俺”好きだから。

あの二人に認めてもらえるなら

多少の無茶は承知の上さ。

・・・そろそろ決着をつけようか。

身体がぶっちゃけ限界だ。」

「同感だ。

俺もこの状態であんまり長くやるなって

とーさんに言われてるし。

それじゃ、行くぜ!!!」

「おう!!!」



二人が口を閉じた次の瞬間、

今度は両者ともに攻め込み、

道場の中央で凄まじい、

打ち合い、弾き合いが展開され始めた。



ダダダダダダダダダダダダダダダダ!!



凄まじい打突の応酬、

そして恐らくは実際の手数以上の

読み合いが展開されているのであろう。

打ち合っている二人は汗びっしょりだが、

見ている賢治の額にも緊張の汗が浮き出ていた。


両者互角、といいたい所だが、

やはり『昨日何かあった』のか、

体力面に不安があった桜也が

押され始めていた。

しかし桜也がここまで”攻め”に

転じることなど賢治はほぼ初めて目にしており、

仮にこのまま銀之助が押し切ったとしても、

両者がまた新たな段階に進むことは明白だろう。

そうであるなら指導者としては十分に満足、

いや心から祝福したい結果である。




そんな風に緊張の中に充実感を賢治は

感じ始めていたが、

目の前の戦いはそんな彼の予想すら

超える方向に向かい始めていたのだった。





確かに銀之助が押しているのであるが、

何故か桜也の方がいつまでも根を上げない。

相手はもう限界のようであり、

もう少しで一本入りそうなのに、

そのもう少しが変に遠い。

このまま打ち合っていれば大丈夫なはずではあるのに、

何故か不安になる。


銀之助の動きに迷いが混じり始める。


このままでも勝てるはずだけど、

念のために少し強い打ち込みを一本いれておくか。

そうすれば向こうはバランスを崩して、

それで終了だ。

これ以上やってお互いケガしちゃ元も子もないし、

よしそうしよう。


そう思って少しだけ高く竹刀を振り上げた瞬間、

桜也の動きが一瞬止まる。

少し前傾姿勢のその状態はまるで

こちらに首を差し出しているようである。

よしよし、これで安心・・・

あれ、さっきもこれに似たようなこと

なかったっけ?



そう思ってもすでに振り下ろした

竹刀は止まらない。

その竹刀が桜也の面をとらえようとした刹那、

何ということだろう。

相手と自分の竹刀の距離がスルスルっと

まるで『誘導された』かのように離れていき、

そのまま竹刀は床に到達した。

驚いた銀之助が顔を上げると、

そこには竹刀を振り上げた桜也が立っていて、

そして、



「う、雨狼名、いけ、あっ」



桜也が竹刀を振り下ろそうとした瞬間、

彼の身体から力が抜け、

そのまま後ろに倒れこんだのだった。



カランカラン



道場に床に転がった桜也の竹刀の音がこだました。



「お、桜也!

おいって、

いきなりどうしたんだ!!」

「桜也くん!大丈夫か?」

「う、うう。

やっぱり”今はまだ”無理みたい・・・」




丁丁宗となった際、

再現した父の秘剣、

雨狼名うろな

無数の見えない攻撃を

繰り出しながら

相手の攻撃を誘導して回避、

無防備状態となったところで

致命的な一撃を与える。

その技を桜也は元の状態でも

再現しようとしたのだが、

あと一歩の所で体力が限界を迎え、

”無茶な動き”に対する脳と体へのダメージが

襲ってきたようである。


雨狼名は清水渉に毎日修業をつけてくれた、

多くのうろなの絆による素地があってこそ

放てた危険な技である。

桜也は己の修業不足を

その激烈な”返し”と共に

痛感するしかなかったのだった。

先月中ごろから書き始めており、第二話がまとまった段階で投稿をと思っていたのですが、今日まで中々進まず(汗)とりあえずうろな町企画2周年である今日からボチボチ更新していきたいと思いますので、桜月りまさん、寺町朱穂さんを中心にうろな町企画参加者の皆様よろしくお願いします。


まずは桜月りまさんのエイプリルフール企画「ちょっと緩い水神の悪戯」より弁護士魚沼鉄太先生と冴さんの間に生まれる予定の魚沼銀之助くんの登場です。主人公桜也のライバルというか同性の友人も欲しいなということで桜月りまさんのキャラを使わせていただきました。以前お見せした時にいただいた修正はしてあるはずですが、その他お気づきの点がありましたらどうぞよろしくお願いします。


それではif未来企画第2話。しばしの間お楽しみください。

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