第一話 その6 謎の剣士、丁丁宗推参!!
遅くなってすいません!
2027年4月23日(金)
PM6:05
「助けて・・・、桜也おにいちゃーん!!!」
「無駄さ。誰も助けになど。」
「桃香ーーー!!!」
「えっ!!」
「なんだい!!
・・・”巣”の入り口の
”印”が破られた!?
こいつはいったい?」
桃香に妖怪の魔の手が迫る中、
妖怪の巣に飛び込んでいった桜也。
”巣”の入り口には遮断の”印”が
触手女によってかけられており、
本来は外からは中の様子が
一切分からない上に、
一度獲物が入ってからは
一切の出入りが出来ないように
なっていたはずである。
しかしながら桜也は
外から桃香が危機にあることを感知し、
”印”を破って巣に侵入してきたのである。
一体どうしてそんなことができたのか、
触手女も測り兼ねていたが、
当の桜也本人も良く分かってはいなかった。
「はあ、はあ、はあ、はあ。」
「お、おにいちゃん!?」
「ほお、このメスガキの兄妹かい?
こっちの方が断然可愛いじゃないか♪
坊や、お姉さんといいことしないかい?」
「はあ、はあ、はあ、はあ。」
桜也の登場に驚く桃香と、
”印”が破られてしまったことよりも、
自分好みの少年が現れたことに興奮し、
甘い声をかけて誘う触手女。
それに対して桜也は荒い息を吐きながら、
ただ立ちすくんでいるだけである。
身体が”内側”から焼け付くように熱い。
手足が”自分のものでない”ようであり、
気を抜くと”頭が変に”なりそうである。
いったいここがどこなのか、
自分は何をしに来たのかさえ、
あやふやになってしまいそうである。
そんな異常な状態の桜也を
どこか”懐かしい”声が諭し宥める。
『力に飲まれちゃ、だめにゃ!
深呼吸して、両足を踏みしめ、前を向くにゃ!!』
誰の声だか覚えてはいないのに、
どうしてなのか胸にスッと入ってくる。
言うとおりに呼吸を落ち着け、
姿勢を正すと、
目の前にこちらを見つめる桃香と触手女の姿、
そして”触手女から出る赤い線”が見て取れた。
「・・・あの”赤い線”は?」
『”妖気の道筋”が見えるようになってるのかにゃ~?
あんまり”良いこと”とは言えないが、
今はしょうがないにゃ。
あれはあの妖怪、
少愛女がかつて襲った被害者から
その後も継続して生気を吸い取るための
”管”みたいなもんにゃ。
あれを断ち切らないと被害者は目覚めたとしても、
生気を吸われ続けて”まともに成長できない”にゃ!!』
「そんな!!
どうすればいいの!?」
『孝人から頼まれていることだし、
さっさとここから逃げてほしいんだけど、
”管”を切ってアイツを弱らせないことには、
あの娘を助けられないしにゃ・・・
しょうがない、”あの刀”を使うにゃ!』
「あの刀って・・・、あんな所に愛護丸が!!
でもあれってバケモノのすぐ側だけど・・・」
『怖いかにゃ?
それも当然だけど、
逃げるなら、今すぐ逃げ出した方がいいにゃ。
アイツも妹さんを殺すまではしないとは思うにゃ。』
謎の声のアドバイスに従い、
状況を把握し、
対処策を考える桜也。
ただし恐ろしいバケモノと向かい合っている
恐怖心が消えた訳ではない。
でも・・・
「おにいちゃん、
わたしのことはいいから早くにげて!!」
「助けてと言ったり、
逃げてと言ったり、
これだからメスガキはいやだねえ。
ホラホラ、こんなガキの言うことは
無視してこっちにおいで♪」
妹の涙声が耳に入ると同時に、
カチリとスイッチが切り替わるのを
感じる。
ゆっくりとした足取りで前に進む桜也。
「それでいいんだよ。
”優しく”可愛がってあげるからね。」
「おにいちゃん、危ない!!」
触手女が近づいてくる桜也に
触手を伸ばす。
その様子に桃香が悲鳴を上げた次の瞬間、
桜也が二人の視界から”消えた”。
シュ!!
「ぎあ!!」
「きゃあ!!」
そして一拍の間を置いて、
風切り音が巣に響いた直後、
触手女が苦悶の声を上げ始める。
桃香を持ち上げていた触手から力が抜け、
放り出された彼女を抱き留めたのは、
愛護丸を掴んだ桜也だった。
「だ、誰だ、アタイの大事な”管”を
切った奴は!!」
「・・・お、おにいちゃん?」
「大丈夫か、桃香?」
触手女から距離をとって、
優しく桃香を地面に降し、
愛護丸を構え直す桜也。
「ご、ごめんなさい、わたしのせいで。」
「・・・帰ったらお説教な。
今はとりあえずここから出ることを考えよう。
とはいってもまだ”赤い線”は何本もあるし、
あれを放っておくのもな。」
「・・・」
「本当に大丈夫か?
ケガとかしてないか?」
「う、うん、大丈夫だよ。」
桃香がぼーっとしていたのは、
ずっと触手に掴みあげられていたせいで、
頭がくらくらしていたのもあったが、
それ以上にいつもとは違う兄の凛々しさ、
そしていつもと変わらない優しさに、
戸惑いながらも
胸がいっぱいになっていた。
これが彼女が見たかった、
兄の”真の姿”であるような気がして。
とはいえ、
状況はそれほど良くなってはいない。
「貴様ら!
アタイをコケにしてくれたね!!
もう、許さないよ!
二人とも死ぬまで生気を吸い尽くして
やるからね!!
喰らいな!!!」
激怒した様子の触手女が
何本もの触手を束ねて、
巨大な触手を作り出していく。
そして作り出された4本の大触手は
同時に桜也たちのいる場所に向けて
猛スピードで放たれていったのだった。
前後左右から襲ってくる巨大な触手。
”封印”が緩み、
内なる力の一部が解放された今の桜也なら
自分一人であれば
避けることも出来るだろうが、
背後の桃香を抱き上げては不可能だ。
今のままでは”力が足りない”。
聞こえてくるいつもの囁き。
『そいつが憎いか?
力が欲しくないか?』
・・・恐らくこれ以上の力を
欲すれば自分はもう
”人間ではいられなくなる”。
でも仮にそうなったとしても。
「お、おにいちゃん。」
自分の背後でじっと身を固めている
妹を守れるのならそれでも構わない。
多くのものを失うことになるかもしれない。
それでも自分にとって一番大切なことは
家族を、大好きな人達を守ることだから。
それが、それこそが、
全ての争いから撤退してきた中でも
決して譲ることのできない、
「・・・僕の覚悟だ。」
『ああ、もう!
やっぱりアンタは
マゾ清水と鬼小梅の息子なんだにゃ。
しょうがない、あっしも
”ひと肌ぬぐ”しかないにゃ!!』
「えっ?」
もう一度、あの懐かしい声が聞こえたその瞬間、
桜也の周囲の全ての時が停止した。
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オレンジ色の光に包まれた空間の中で
誰かが倒れた桜也に声をかける。
『桜也、桜也!
起きるにゃ!!』
「・・・あれ、触手女は?
桃香は大丈夫なの?」
桜也が目を覚ますと
そこには”子犬のぬいぐるみのような生き物”が
ぷかぷか浮いていた。
『まだ何も起こってないにゃ。
ただしこのままでは二人とも死ぬか、
妹を見殺しにするしかないにゃ。』
「そんなことできるわけないだろう!
・・・というか、君なんで、
犬っぽいのに語尾が猫語なの?」
『こんな緊急事態にそんなどうでもいいこと
突っ込むんじゃないにゃ!
そもそもあっしは”狼”にゃ!!
・・・ああ、ホント、余計な所ばかり
父親にそっくりにゃ。
それは後に置いておくとして、
もう一度確認するけど、
妹を見捨てるのは絶対に嫌なんだにゃ?』
「当たり前だよ!
家族なんだから!!」
『・・・”家族だから”かにゃ。
家族のためなら本当に
”人間じゃなくなっても”いいのかにゃ?
その家族とも一緒に
暮らせなくなるかもしれないにゃ。
うろなは人外に優しい町だけど、
梨桜っちのような陰陽師に追いかけまわされ、
最悪の場合”存在ごと消される”ことだって
ありうるにゃ。
それでもいいのかにゃ?』
桜也の反論に、
真剣な顔で聞き返してくる”狼さん”。
まるで”自分のような目にあってもいいのか”と
桜也の決意を試すように。
それに対して桜也は即座に言い返した。
「良い訳ないじゃないか!
・・・でも自分の大事な人達がひどい目に
あうのを黙って見過ごすくらいなら、
自分がひどい目にあったほうが全然ましだよ。
昔も桃香を守るために
おんなじようなことがあったが気がするけど、
僕は全く後悔はしていない。
そりゃ、周りから色々言われて、
嫌な気分に一切ならないって言ったら
嘘になるけど、
でも自分の”覚悟”が揺らぐことはないよ。
だって僕はアイツの”おにいちゃん”なんだから。
父さんや母さんが先生として、親として、
覚悟を持って”戦っている”のを
僕はずっと見てきたんだ。
あの人たちの息子として、
周りからなんと言われようとも、
自分の本当の想いだけには
嘘をつきたくない。
一番大事な願いだけは何があろうと
絶対に譲ることは出来ない。
それが弱虫で、
優柔不断な僕の唯一の”覚悟”であり、
”誇り”なんだから。」
『・・・頑固なところは母親似だにゃ。
それにそもそも”家族”のために
命を懸ける奴をあっしは見捨てられないにゃ。』
桜也の反論に呆れたような、
同時に少し嬉しそうな表情して、
押し黙る”狼さん”
「狼さん?」
『ああ、あっしのことは、
・・・そうだ、”サッキー”って呼ぶにゃ!』
「サッキー?」
『そうだにゃ!
それじゃあ、桜也。
あの触手女を倒して、
妹を助けるために
手を貸してやるにゃ!!
あっしに続いて復唱するにゃ!!!』
「う、うん、サッキー!」
桜也に背を向けて、
何やら唱え始めるサッキー。
桜也は戸惑いながらも
その言葉に続いていった。
『ではいくにゃ!
封印されし、炎鬼の力!』
「ふ、封印されし、炎鬼の力!」
『人狼の加護の元、今解き放たん!!』
「人狼の加護の元、今解き放たん!!」
『人妖一体!!!』
「人妖・・・一体!!!」
桜也が最後の言葉を復唱し終えたその瞬間、
世界が再び動き始め、
そして・・・
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桜也が立っていた場所から
膨大なエネルギーの奔流が巻き上がる。
「きゃあ!!」
「な、何をしたのさ!!」
桃香は何らかの力が働いたのか、
そっと壁際まで運ばれ、
触手女は驚いて触手の動きを止めていた。
そして暫くして光が収まった直後、
「桜花乱舞!」の掛け声と共に
”巣”全体を温かい”風”が吹き抜けた。
その結果・・・
「ぎゃ、ぎあああーーーーーー!!
あ、アタイの、”管”、大事な管が全部!!!」
「まったくうっせえな。
自業自得だろうが。」
触手女の口から発せられる、
先ほど一本”管”を斬られた時とは
比べものにならない断末魔にも似た叫び声。
桃香も何が起こったのか分からないでいると、
そんな姿を冷やかな目で見ている
”見たこともない大男”が目に入った。
「き、貴様は誰なのさ!
どっから出てきた!!」
「別にそんなんどうでもいいだろ。
とにかくこれで被害者達から
生気を吸い取ることも出来なくなったわけだ。
残念だったな。」
非常に高圧的な態度で
触手女の疑問を切り捨てる大男。
その恰好はなんというか・・・、
時代劇とかで時々目にする「町を歩く侍」そのものであったが、
彼の着ている羽織袴の色は
満開の桜が咲き誇っているかのような、
綺麗な桜色であった。
しかしそれ以上に目立っているのは彼の頭の上の・・・
「・・・”犬耳侍”?」
「おい、サッキー!
これ、どうにかならないのか!!
いくら何でもかっこ悪すぎるぞ!!!」
『ごちゃごちゃ言うんじゃないにゃ!!
あっしと一体になっているから、
こうしてアンタの中の鬼の力を
制御できているんで、
これはその証にゃ!!!
というかアンタ、
さっきから口調変わりすぎじゃないにゃ?』
「俺だって知らねえよ!
普通にしゃべってたら
こういう口調になってるんだよ。
こっちも副作用かなんかだっつうことで
勘弁してくれ。」
『・・・鬼の力と一緒に
日頃の生活で抑えられていた色々が
解放されてしまっているのかもしれないにゃ。
可哀想といえば可哀想なんだがにゃ。』
何故か急に独り言を
大声で言い始める犬耳侍の様子を
桃香は壁際から戸惑いながら観察していた。
一体彼は何者なのだろうか?
手に持っているのは愛護丸のようだし、
さっき触手女にダメージを与えたのは、
もしかしておじい様の得意技、”桜花乱舞”?
確かに彼自身、おじい様に
似てないこともないかもしれないけど、
でも剣筋さえ全く見えなかったなんて、
そんなことを出来る人がこの世にいるのだろうか?
というか、おにいちゃんはどこいったの?
いきなり現れた傍若無人な犬耳侍の正体と
いなくなった兄の居場所について考えていると
頭が完全に混乱してくる桃香であったが、
その中で二人の人物が同一人物であるという
真実にまでは全く近づくことができていなかった。
そう、目の前の大男こそ、
身体に封印されていた鬼の力を
サッキーのコントロールの元解放した
清水桜也の姿であり、
これはもし彼が鬼を体に封印されず、
順調に成長していた場合の姿なのである。
母司は小柄であるとはいえ、
父渉、祖父勝也共に大柄であり、
加えて目の前の犬耳侍は
自身の体内に封印されていた鬼の力により
18歳頃の姿となって現れているが、
清水桜也は本来このような
長身剣士となっていたはずなのである。
・・・ちなみに性格・口調等については
それがサッキーの言うように
抑えられていたものが爆発した結果なのか、
本来桜也はこういう傍若無人な性格に
なるはずだったのか、
その辺りについて謎と言うほかない。
「このクソ野郎!
このままじゃ、”巣”を維持する
ことすらできなくなるじゃないさ!!
い、今すぐ生気を吸い尽くして
ぶっ殺してやる!!!」
「やれるもんならやってみな。」
「ほざくな!!」
「あ、あぶない!」
妖気の補給を絶たれ、
半狂乱となった触手女は
生き延びるため残された
先ほどの巨大な触手で
四方から犬耳侍を襲った。
その様子に壁際から見ていた桃香も
悲鳴をあげてしまったが、
本人は余裕綽々。
巨大触手をギリギリまで引きつけた後
「桃華翔閃!」の掛け声を放つと、
いつの間にか別の場所に移動、
彼の元居た場所では巨大触手が
「ああ、あ、アタイの手足まで!!」
「いい加減、力の差を理解しろって。」
4本とも綺麗に”真っ二つ”に両断されており、
直後にまた触手女の悲鳴が巣に木霊した。
「す、すごい。
あれも梅原流の”桃華翔閃”そっくりだけど、
あんな風に斬れるなんて・・・」
目の前で起こった神業に
一人の剣士として感激を抑えられない桃香。
その一方でやった本人は至極つまらなさそうな
様子であったが。
「うあ、が、ああ。」
「そろそろ止めを刺してやるか。
何か言い残すことはあるか?」
「あ、アンタ、その”力”は
”あの御方”の・・・
そうか、アタイがこの町に
引き寄せられたのも全て
”計画通り”というわけね・・・
フフフ、・・・あんまり、
アタイを舐めるんじゃないよ!!」
「ちょっと、後ろ!
・・・あれ?」
半死半生の触手女に
ゆっくりと近づいていく犬耳侍。
触手女は絶望的な表情の中で、
”何か”に気づいたのかぶつぶつ
独り言を言い始めたと思った刹那、
まるで”最後の意地”であるかのように、
男の背後から残った触手を突き立てようとした。
触手の動きを壁際から見て気づいた桃香は
犬耳侍に叫んで伝えようとしたが、
その声が届く前に、
彼の姿は触手女の目の前から消え、
そして・・・
「最後まで諦めなかったことだけは褒めてやる。
冥途の土産に見せてやる。
これが”雨狼名”だ!!」
いつの間にか触手女の背後に移動しており、
一言声をかけた後、
その本体を一挙に両断したのだった。
直後にその身体も触手の残骸も消失し、
妖気の立ち込めていた”巣”は
ただの廃工場の一区画に戻ったのだった。
相手の攻撃を逸らしながら、
そのまま必殺の一撃を放った!
あれはパパがおじい様との決闘で使ったっていう、
雨狼名!?
でもあの技はパパが決闘専用に開発した
オリジナル技で、
今ではパパ本人さえ使うことが出来ない
秘剣なのに・・・
本当に彼は一体何者なの?
目の前で起こったことについて
理解できないことが多すぎた桃香であったが、
その混乱に加えて、
命の危機から解放され、
また長時間妖気の充満した空間に
いたことも重なって、
徐々に意識が朦朧としてきていた。
そんな桃香に犬耳侍が
先ほどまでとは打って変わって
優しげな表情で近づいてくる。
「おい、大丈夫か?」
「・・・あなた、誰なの?」
「えっ、俺?
ああ、何て言えば良いんだ?
・・・そうだ!
俺の名前は”丁丁宗”!
丁丁宗だ!!」
「ちょうちょうしゅう?」
「おう!!もうすぐお前のにいちゃんが
迎えに来てくれるからな。
・・・だからあんまりもう無理はするなよ。」
「うん。
・・・おにいちゃん、
早く家に帰りたいよう。」
「・・・ああ、早く帰ろう、桃香。」
「(すーすー)」
「寝ちまったか。
悪夢でも見たと思った方が
いいのかもしれないな。
良い夢見ろよ、桃香。」
命を懸けて守り抜いた妹の寝顔に
軽い口づけを落とす丁丁宗。
その行動に色々モノ申したかったのだろうか、
変身を解いて分離したサッキーが
元の小柄な状態になった桜也に話しかけてきた。
『何で丁丁宗なんて名乗ったんにゃ?
普通に”名乗る名などない”みたいで
良かったのにゃ。』
「・・・父さんがいつも
”町長さんはスゴイ!”って言ってたから、
それをもじったら面白いなと、
あの状態の時は思ったんだ。」
『・・・なんて適当なんだにゃ。
まあ、今の桜也に文句を言っても仕方ないにゃ。
はあ、でも”今回”は
助けるのが妹相手だったから
まだ良かったのかもしれないにゃ。
さっきの状態だとどんな”罪作り”な
ことをするかすごく心配にゃ。』
変身後の桜也の変わりようは予想外だったのか、
”今後”について心配するサッキー。
その言葉に桜也は心配げに聞き返した。
「ねえ、サッキー。
あの妖怪も何か言ってたし、
”今回”ってこれで終わりじゃないの?」
『・・・元々桜也に封印されていた
鬼の力は何故か最近になって、
徐々に漏れ出ていたのにゃ。
偶然なのか、誰かが裏で手を引いているのかは
分からないけど、
今回封印が解けてしまったことで、
同じような輩がうろなに、
そしてアンタの周囲に現れる危険性は
とても高くなっていまったのにゃ。
アンタは今、元に戻ったようで、
実際は妖気を身にまとった”半妖”に
近い存在になってしまっているんだにゃ。』
「・・・そうなんだ。
僕はこのまま、この町で暮らしていていいの?」
『それはアンタ自身が決めることにゃ。
とはいえすでに漏れ出てしまった鬼の力は
この町に拡散してしまっているし、
何よりアンタがどっか行ったりしたら、
この娘を始めとして追っかけてくるのが
少なからずいるんじゃないかにゃ?
結局この町にいてみんなを守っていくのが
一番手っ取り早い気がするにゃ。
そのためにあっしがついているんだしにゃ。』
「・・・ありがとう、サッキー。
これからもよろしくね。」
『礼はいらないにゃ。
・・・あっしはもう約束を破るのは
沢山なだけにゃ。』
そう言うとサッキーは
すっと姿を消してしまった。
ただしその気配は首からかけている
イアリングに残っており、
また何か事件が起こるまで、
そこで休んでいるのだろう。
とにかく寝ている桃香を背負って、
家に帰るとしますか。
母さんや美咲ちゃんが心配するといけないし。
桜也は寝入った妹を慣れた様子で背負うと
廃工場を静かに後にしたのだった。
その背後で彼をその場所に導いた不思議な光が
どこかに飛び立っていくのを
見届けることなく。
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光はうろなの”ある場所”に飛んでいき、
蝶の羽が生えた妖精のような姿をとった。
彼女は”誰か”に先ほどまでの出来事を
報告しているようである。
「夢子境誘、
ただいま戻りました☆」
暗闇の中で誰かが彼女の労を労う。
「ありがとうございます☆
でも桜也きゅんがあんなことになるなんて、
ご存じだったのですか?」
誰かは想定の範囲内だったことを伝える。
「流石です☆とりあえずこんな感じで
また桜也きゅんをサポートすれば
よろしいんですね?」
誰かは首肯する。
「了解しました☆ではまた何かありましたらご報告しますね。
失礼します★」
そう言って、また光に戻った夢子境誘が
飛び立ったのを見送りながら、
誰かは微笑む。
予想通り面白いことになってきたと。
どうやら12年後のうろなは中々騒がしくなりそうである。
22:00投稿といいながら、4月1日ギリギリになってしまい申し訳ありません。
この後の展開等についてはまた掲示板等でご相談させていただきます。
ご協力いただいたみなさん、本当にありがとうございました。
このその6でも寺町朱穂さん、小藍さん、
キャラ提供ありがとうございました。
今年度もどうぞよろしくお願いします!




