第一話 その4 ”兄”の懸念と母の勘
これはif未来ですので、ご注意を♪
2027年4月23日(金)
PM5:30
「なあ、桜也。
結局桃香は何で朝も放課後も練習欠席なんだ?」
「高原コーチ!えっ、だから
”体調不良”ですって。」
「もう部活は終了。
今の俺はコーチじゃなくて、お前の兄貴分の一人。
で、本当の所はなんなんだ?
お前の”ブラ妹”の本当の欠席理由。」
「澄兄・・・。ちなみに”ブラ妹”ってなんなの?」
「ああ、”ブラックなほど病的なブラコン妹”の略。
兄に近づく他の女を排除するためならば、
どんなどす黒い手を使うことも
厭わないっていうことで、
”ブラック”と”ブラコン”をかけてる、俺の自身作♪
そんなアイツが多少の体調不良くらいで、
”最愛”の兄を一人で練習に行かせる
なんて考えられなくてな。」
「・・・兄としてその表現は頭が痛いんだけど、
否定できないのが何とも。
朝は澄兄の言う通りの”ビョーキ”だよ。
また夜更かしして”おかしく”なってたみたいで、
とても人前に出せそうな状態じゃなかったから。」
「なるほど、朝は二人で”いちゃついていて”来れなかったと。」
「いやいや、どうしてそんな表現に!?」
「もっと直接的に”兄妹で抱き合っていた”と言った方がいいか?」
「な、なんでそれを!!」
「・・・マジなのか。
お前らなら”ありえる”と
思ってカマかけたんだが。」
「・・・」
剣道部の放課後練習後、
着替えて家路につこうとしていた桜也を
コーチの高原直澄が
呼び止めた。
彼は元々桜也の母司の教え子であり、
さらに連携担当時代の父渉と意気投合したことで、
清水夫婦と家族ぐるみの付き合いを
その後も続けており、
桜也にとっては気さくな若い叔父さんといった存在である。
本業はうろな町商店街で
「ホビー高原」という玩具屋を営んでいるが、
司が桜也達を妊娠して以降、
うろな中学校で剣道部コーチも務めており、
自らも高校時代にインターハイ出場を
なしとげた経験も生かして、
就任直後の芦屋・稲荷山・吉祥寺世代を
含めて何度か剣道部を全国大会に導いている
優秀な若手指導者でもある。
そのためうろな中学校は近年
剣道の強豪校として近隣に知られており、
町外から引っ越して来たりする生徒もいて、
なかなか部内での競争は激しいのである。
その中で入学直後、
いきなり試合メンバーに選ばれた
桃香が勝手に練習を休んだりしたので、
桜也は直澄がそのことを
気にしているのかと思いきや、
どうやら「どんな面白いことが起こっているのか?」
気になっているだけのようである。
剣士として直澄の回避を基本にした戦法を
桜也は非常に参考にしており、
個人的にもいろいろ面倒を見て
もらっていることを感謝し、
もちろん尊敬もしているのだが、
父渉に通じる”お祭り好き””いたずら好き”な
面については閉口させられることも
少なくないのである。
ただし今回に関しては言い出した方も驚いてしまったようで・・・
「なあ、お前ら、マジで”間違い”起こしてないよな。
そんなことになったら、小梅センセ怒り狂う、
前に多分泡吹いて倒れるぞ。」
「何言ってるんだよ、澄兄!!
僕ってそんなに信用ない?」
「いや、お前のことは信用している。
危ないのはブラ妹の方だよ。
お前が美咲ちゃんとかと
話している時のアイツの目、
時々末恐ろしいもん。」
「いくら桃香でもそこまでは。」
「・・・俺も兄貴が蒼華に
”手を出してしまう”までは
そう思っていた。
”出来ちゃった”報告をうちにしにきた時の
兄貴の虚ろな目と蒼華の喜びに溢れた目の
コントラストを俺は多分一生忘れられない。」
「・・・正直その話を出されると。
蒼華姉、直樹兄に一体何をやった、
いや、何があったんだろうって。」
「そこは多分知っても誰も幸せにはなれない。
・・・少なくとも俺たち男は。」
「・・・うん、そうだよね。」
直澄のいくら何でもな追及に
桜也は気色ばんで反論したが、
すでに存在する身近な”先例”を
出されると何も言えなくなってしまった。
直樹兄とは直澄の兄、
高原直樹のことであり、
彼をあんまり顔を出さない
うろなスーパーの店長代理としか思ってない
町民は多いが、
実際はすでにその親会社の社長に就任して
うろなと首都圏を往復しながら
全国に指示を飛ばしている、
経済界の次世代リーダー候補なのである。
そう言うと一足飛びの変化のようだが、
元々彼は首都圏の日本一と言われる
超難関大学に進学しながら、
実家のある商店街を守るため
あえてうろな町のスーパーに
副店長として出向してきていたのである。
その後桜也の父渉やそのライバルで
ショッピングモール営業担当だった鹿島茂との交流、
直澄の玩具屋店主・商店街のリーダーとしての
成長を見届けて、
同居人であった従妹、高原蒼華の
自分の母校である大学への進学を機に
首都圏へと移り住み、
本社において猛スピードで出世していたのであった。
そんな最中、うろな町の高原家に
もたらされた蒼華妊娠のニュース。
店番をしていた直澄は飲んでいたお茶を吹き出し、
すでに直澄と結婚して
子育ての真っ最中だった妻倫子も
電話口で蒼華本人からそのことを聞かされて大混乱、
二人の5人の子供たちは何故か一斉に泣きわめき、
直樹たちの父直人に至っては真っ青になって卒倒と、
その日ホビー高原は臨時休業を余儀なくされたのであった。
その後、「相手を連れていくね。」と言った蒼華が
直樹と一緒にうろなに帰ってきた際、
家族全員、直樹は保護者として
付き添いで来たのだとしか考えなかったため、
「で、相手はどこ?」と普通に聞いてしまい、
きょとんとした蒼華が笑いながら、
いつも以上にぶすっとした直樹の方を指さした瞬間、
再び高原家に大混乱が訪れたのだった。
その後も海外在住の蒼華の両親は
「直樹君がもらってくれるなんて♪」と歓迎ムードだった一方で、
可愛い姪っ子に一回り以上年上の
長男が手を出したことに高原父が激高し、
第二次高原家親子大戦が勃発しかけたりもしたが、
蒼華の長年の想いを知っていた鹿島萌達の説得もあり、
二人は無事に結婚。
その後誕生した長女朱葉を育てながら
首都圏で大学に通っていた蒼華であったが、
卒業とほぼ同時に長男直枝を出産したこともあり、
直樹と共に再びうろなに戻り、
現在は子育てをしながら、
直樹の社長業をサポートしている。
・・・しかも魚沼冴の指導を受け、
株取引もマスターして、
すでに直樹の会社の大株主になってるなんて噂まで。
恋する少女の成長は留まる所を知らない。
ちなみにこの蒼華の妊娠騒動があるまでは
うろなの子供・若者に
「ロリと言えば?」と聞くと
「マゾ清水とカッパ先生!」と、
年上合法ロリ上司たる司をゲットした清水渉と
年の差元社長嫁たる冴を娶った魚沼鉄太の二人が
ネタにされていたのだが、
この事件以降その答えは
「スーパーの陰気店長!」
に代わったということを
蛇足ではあるが付け加えておく。
うろな町民ノリ良すぎである。
そういった経緯もあって、
二人に事件前から可愛がってもらっており、
現在は逆に子供たちの子守を
時々任されている桜也としては、
”女性の怖さ”などと言われると
全く他人事に思えないのである。
「ま、まあでもあの鹿島でさえ、
真っ当に結婚できた訳だし、
桃香にも今後いい出会いがあるかもな。」
「そ、そうだよね。
茂さん、昔は萌姉、
じゃなくて鹿島先生ベッタリだったって
父さんから聞いてるけど、
今は美月さんとすごくお似合いだもの。」
「だな。
とりあえずもうしばらく、
絡めとられない範囲で、
妹の面倒見てやるこった。
来週の練習にはちゃんと来るように
伝えといてくれ。」
「分かりました。
それでは失礼します。」
「ほい、気付けて帰れよ。」
二人ともあまり真剣に考えすぎても
怖いだけだと悟ったのであろうか、
かつての病的シスコンにして、
もうすぐ一児の父となる鹿島茂を
ダシにしてお開きとなったのだった。
結局放課後の練習欠席については
うやむやになってしまったのだが、
その点については桜也も心当たりが
ないため正直助かった。
とはいえ桃香は一体何を調べていたのだろう?
しかもあの感じだと今日中に何か
”動き”がありそうだけど・・・
「桜也、もう稽古は終わったのか?
済まないな、急な会議が入って結局
朝も放課後も出られなくて。」
「母さん!じゃなくて清水先生!!」
「別に他の生徒はいないし、大丈夫だよ。
・・・桃香はどうしたんだ?
稽古後一緒じゃないなんて珍しいな。」
校門へと歩き出しながら、
桜也が妹の不審な挙動について
改めて考えていると、
背後から母司に声をかけられた。
どうやら会議の合間らしく、
沢山の資料を持って移動中のようである。
「えっと、ちょっと今日は”体調が悪い”
みたいで早めに帰ったよ。」
「そうなのか。
それはそれで心配だが、
あの子最近妙じゃなかったか?
昨日も遅くまで何かしていたみたいだし。
一番心配なのは何故か神棚の
愛護丸を
じーっと見つめていたことだな。」
「愛護丸って、
じいちゃんが父さんを襲った時に使ったっていう
”いわく付き”の?」
「ハハハ。一応あれでも梅原家の家宝なんだぞ。
あれが本当に霊験あらかたなものでなかったら、
渉はあの時切り殺されてたかもしれないし。
まあ、それはいいとして、
今まで桃香があれに興味を持ったことなんて
一度もなかったから、
それが変に気にかかってな。
取り越し苦労であればいいんだが。」
「・・・やっぱり。」
忙しい母に心配をかけぬよう、
桃香の練習欠席については
お茶を濁した桜也であったが、
母の言葉を聞いて自分の懸念に
確信めいたものを感じたのだった。
”こういう時の”母親の勘は
非常に正確だ。
「どうしたんだ?
色々お前に頼ってしまっているけど、
あんまり無理はするなよ。
剣道も私や直澄に遠慮せずに
お前がやりたい範囲で
やればいいんだからな。」
「大丈夫だよ、好きでやってるんだし。
というか、母さん、
ここ学校だから、
頭撫でないでよ!」
「ふふふ、今日はお前と
立ち会えていないから、
スキンシップ不足な気がしてな。
明日は魚沼先生の所に行かせてもらおうか?」
「そうだね。
久し振りに銀ともやりたいし。
今日は何時くらいに帰れそう?」
「19時くらいには大丈夫そうだ。
朝はバラバラだったから、
夕ご飯はみんなで一緒に食べよう。」
「うん、当番の美咲ちゃんに伝えておくよ。
それまでに桃香”確保”してくるから。」
「ああ、頼りにしてるよ。」
母の一言で妹を見つけ出す決意を
固める桜也。
このときはまだ、
自分が死地に飛び込むことになるなど、
想像もしていなかったのだった。
直澄は五児の父になっても多分あんまりかわらないと思います。彼がちゃんと倫子をゲットするときを書けるのはいつか(汗)
直樹と蒼華は完全なif未来です。こうなるかどうかは蒼華の成長次第ですが、結構ハードルは高いかと。でもこうなるためになら彼女は必死になる気もしますが。
梅原は大分甘め成分多めかなと。もちろん怒らせると相変わらず鬼小梅でしょうが、桜也が怒らせることはあまりないかと。
それでは桜也、いよいよ出撃します。
緊迫の展開は20:00から。