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うろな第三世代!  作者: YL
第一話 犬耳侍、うろなに参上!
4/14

第一話 その3 妹の切なる願い

これはif未来ですので、ご注意を♪

2027年4月23日(金)

PM4:00


「では、みなさん、

来週からゴールデンウィークに入りますが、

無理しないようにしてくださいね。

清水君、号令をお願いします。」

「は、はい、鹿島先生。

起立!きよつけ!礼!」

「「「「さようなら!!」」」」

「さようなら。」


週末のホームルーム終わり。

兄桜也の添い寝が利いたのか、

何事もなかったかのように

金曜日の授業を受け終えた桃香は、

担任である鹿島萌かしまもえの指示に、

意気込んで号令をかける兄の姿を

冷ややかな目で見つめていた。


さらに他の生徒たちが教室を出た後も

前の担任席で作業をしている鹿島先生に近づき、

何か手伝うことがないか

熱心に聞いている兄の緩み顔に

流石に我慢が出来なくなり、

必死で顔がこわばるのを抑えながら、

そちらへと近づいていったのだった。




「あれ?清水さん、

何か気になることでもありましたか?」

「先生、いつになったら

ヤス兄さんと結婚するんですか?」

「おい、桃香、教室でなに言ってるんだよ!」

「だって、いい加減、

鼻の下伸ばしている”桜也さん”の

淡い希望を打ち砕いてほしいんですもの。」

「そ、そんなことないから!」

「ふふふ、ヤスお兄ちゃんも忙しいからね。

ゴールデンウィークにはどこかに行こうねって

話はしてるんだけど、

向こうには連携担当の仕事もあるし、

私も美月義姉さんの具合が心配だから、

遠出は難しいかも。」

「予定日は来月でしたっけ?」

「そうよ。

甥っ子か姪っ子かは

生まれてからのお楽しみってことで

聞いてないけど、

どちらにしても本当に待ち遠しいな。」

「(チッ。あの”種馬”、

弟分に仕事押し付けるだけじゃなくて、

そっちの方も教育しときなさいよ!)

先生も”そっち”のご予定は」

「さあ、桃香、朝練さぼってしまったことだし、

道場にさっさと行くとしようか。

それでは鹿島先生、

来週もよろしくお願いします!」

「もお、”桜也”!わたしは先生にまだ話が!!」

「もうこれ以上先生に迷惑をかけるな!!」

「いつも兄妹仲良くて素敵ね。

また来週よろしくね。」



明らかに不満な様子の桃香の手を引っ張って

教室から連れ出し、

鹿島先生へのセクハラ発言を阻止した桜也。



学校では基本的に常に外面モードの桃香であるが、

桜也と二人っきり、あるいは

鹿島萌のようなその本性を知っている人の前では

そのガードが時に緩んだりする。

しかも桃香が見るところ、

鹿島先生は兄の”初恋”相手であり、

そういった点からもどうも妙に子供っぽく

つっかかってしまうのだった。




ちなみに”ヤス兄”とは鹿島萌の彼氏で、

萌と同様に両親の元教え子でもある合田康仁ごうだやすひと

のことであり、

現在うろな総合病院で研修医として働いている。

研修医は安月給な上忙しいのに、

兄貴分である現商店街組合長、

高原直澄にかつて父渉も務めた、

”うろな町の教育を考える会連携担当”を

押し付けられてしまい、

週末も地域のイベント運営等で町中を

走り回る羽目になっており、

中々ゆっくりと彼女との時間を過ごすのも

難しいようである。


康仁と萌は高校生の時から

10年以上の付き合いであり、

すでにうろなの名物カップルとなっているのだが、

未だに康仁がプロポーズをしていないことから、

彼は陰で「ヘタレ・オブ・うろな」として

町民の格好のネタにされている。

桃香としてはさっさと二人が結婚して、

兄に初恋への未練を断ち切ってほしいのだが、

康仁だけでなく、

萌の方もうろな中学校教師としての

忙しい勤務に加えて、

臨月に近い義姉鹿島美月かしまみつきの手伝い等もあるため、

その辺りの話は全然進んでないと聞いている。




「お前、授業中はいつも通り澄ましてると思って

安心してたら、何だよあの先生への絡み方は?」

「・・・別に”桜也さん”には関係のない話ですわ。

あ、それから生徒会の用事で放課後の練習にも

今日は参加できそうにありませんから、

高原コーチにそうお伝えいただけますか?」

「ああもう、都合が悪くなると”外面モード”発動

するんだから・・・

分かったよ、澄兄にはそう伝えておく。

でも桃香、あんまり無理し過ぎんなよ。

”何を頑張ってるのかは分からない”けど、

身体壊しちゃ意味ないんだから。」

「・・・(そういうところだけ敏感なのは

ずるいよ、おにいちゃん。)」

「え?何か言った、桃香?」

「な、なんでもありません!

それじゃあ、

部のみんなによろしくお願いしますね。」



桜也は桃香の鹿島萌への複雑な思いを理解してはいなかったが、

妹の今日の行動のおかしさに

”何か原因がある”ことには感付いたようであった。

そのことが桃香には嬉しくも歯がゆく感じられて、

ごまかすようにその場から走り去ったのであった。






-----------------------------


私、清水桃香と清水桜也は双子の兄妹である。

最近は中学校に入り新たな知り合いが増えたことから、

「桃香さん、本当になんでもできるし、

すごくしっかりしているよね。

あれ、桃香さんの方がお姉さんなんだっけ?」

なんて見当違いなことを言われることも多く、

面倒だから強く否定することはしていないが、

本心では私は「兄より上である」なんて

ただの1度も思ったことはない。

”おにいちゃん”はいついかなる時でも

私にとって無上の、

かけがえのない存在なのである。




私がこんな風に考えるように考えるようになったのには理由がある。

私たち兄妹は同じときに生を受けた双子であり、

ずっと二人一緒で仲良かったのだが、

昔はこんなに周囲からの扱いが

違うことなどなかった。

確かに私は昔から過激なぐらいに行動的であり、

それに比べれば兄は

元々慎重な方ではあったのだが、

決して現在のように”消極的”と評されるような

子どもではなかったのである。

兄は敏感でよく泣いてはいたが、

決して”臆病”ではなく、

私が無理をして危ない時には

身を挺してでも守ってくれていた。

剣道も実は始めの頃は兄の方が

明らかに上達が早く、

私は試合形式の練習では”一本も”兄から

取ることができなかったのである。


それが変わったのは・・・

その件について、私はよく覚えてはいない。

いや、覚えてはいるのだ。

恐ろしい”炎のバケモノ”が私に迫ってきて、

それをかばった兄は・・・

ダメだ。

いつもこれ以上思い出そうとすると

”誰か”が邪魔をしてくる。


覚えているのは次の日の稽古で、

私が兄に初めて面を決めたことである。

その時私は飛び上がって喜び、

魚沼先生に叱られてしまったのだが、

ふと兄の顔を見た瞬間、

”何かにじっと耐えている”その表情を見て、

私はそれが自分の力による勝利でないことを

気づかされたのだった。

その日から兄は私から逆に一本もとれなくなった、

・・・いや、恐らく

”とらなくなった”のではないかと

私は考えている。

何故なら今でも私の打ち込みは

基本兄に殆ど完全に捌かれているのに、

私が隙を見せた瞬間、

どうしてなのか逆に兄は

”固まって”しまうのである。

この件について何度も兄に

問いただしているのだが、

返ってくる答えはいつも

「僕が弱いからだよ。」

「桃香が強くなったんだよ。」

というものばかりである。


他の人にも同じ調子であることから、

周りの多くの人も兄が言う通りであると

勘違いしているがそれは間違いである。

それは魚沼先生や梅原師範が兄を注意することが

殆どないことからも伺えるし、

何よりおじい様、

剣道界の生きる伝説、

剣神、梅原勝也うめはらかつや

唯一”本気”で稽古を付けているのが兄なのである。

おじい様との稽古後、

兄はまるで”ぼろ雑巾”のように

いつもボロボロになっているが、

逆に言うと兄は”ボロボロにされるまで”

おじい様の打ち込みに耐えているのである。

私との明らかに”加減”した稽古であっても、

背筋が凍るほどおじい様の打ち込みは

強く、恐ろしい。

ましてや、本気のおじい様に相対して、

並の剣士であればその圧倒的な覇気の前に

まともに剣を構えることさえ難しいのである。

そのおじい様との稽古を兄は

一度として逃げたことはない。

そんな兄が”弱い”なんてありえないのである。


やはり兄が剣道で勝てなくなった、

そしてその後何に関しても

他人と争うことを”やめてしまった”のは

恐らく私をバケモノからかばったことが

影響しているのだと思う。

それを解決する方法を探すため、

私は今まで必死に勉強し、

情報を得るための色々な伝手を

構築してきたが、

未だに糸口すら掴めていない。


でも絶対に諦めない。

必ず昔みたいな”かっこいいおにいちゃん”に

戻ってもらいたいし、

仮にそれが出来ないのだとしたら、

私は生涯兄を全ての害悪から守り抜くつもりだ。

それが私を命がけで守ってくれた兄への

当然の恩返しであるし、

そもそも私は

”おにいちゃんが世界で一番大好き”

な妹なのだから。

誰に何て言われようとも

この想いがブレルことはないし、

誰にも負けたくない私の根本なのだ。



そんな中で何故私が無理な夜更かしをして、

また兄に迷惑をかけてしまったのかというと、

それが兄の安全に関わる問題であるからだ。

この前拓人さん、

両親の友人で今は若くしてうろな北小学校の

教頭先生を務めている人なのだが、

彼がママに相談していたのを盗み聞きしたところ、

最近うろなで

「小学校高学年くらいの

男の子ばかりがねらわれる誘拐事件」

が多発しているというのだ。

そんな話全くニュースになっていないので、

ビックリしてしまったのだが、

どうやら被害者の男の子たちは

全員すぐに無事保護されているものの、

”原因不明”の症状により衰弱しており、

学校を休んでいる状態らしく、

被害者に配慮して”インフルエンザの流行”という

ことにして情報規制をしているというのだ。



この話を聞いて私はすぐに兄のことを

思い浮かべた。

兄は身長140cmほど、

童顔で声変わりもしていないし、

実際ついこの間まで小学生だったのである。

醜悪な変質者、いや、

拓人さんの語っていた被害者の状況から考えて、

私の直感では何か”人ならざるもの”の仕業で

ある可能性が高いように思われるこの事件に、

兄が巻き込まれる可能性が高いと

私は判断した。

このうろな町は昔から妖怪が人間に紛れて

暮らしているなんて逸話がいくつも残っており、

パパがこの町にやってきた頃には

”妖怪大戦争”が勃発したなんて

噂すらあるのである。

もしかつて私と兄を襲ったような”バケモノ”が

”戦うことが出来ない”今の兄の

目の前に現れたとしたら・・・

私は居ても立ってもいられなくなり、

夜を徹して様々な情報を分析した結果、

北うろなにあるすでに使われていない廃工場が

”怪しい”ことを発見したのだ。

全ての被害者はこの周辺で行方不明となっており、

普段から北小の男の子たちが隠れ家のように

使っていたという情報もある。

何よりママ譲りの私の勘がその場所が強く

”匂う”と言っていた。



この後私は真相を明らかにするため、

自らを囮としてその廃工場に

突撃するつもりである。


えっ、被害者は「小学校高学年くらいの男の子」

なんじゃ、ないかって?

・・・髪を縛って、

兄が小学生時代に着ていた私服を着れば、

私は「可愛い男の子」に

”見えないこともない”んです!

うう、ママだって私たちを妊娠してから”大きく”なったらしいし、

まだまだ”可能性は無限大”なんだから!!

と、とにかくそれで人間が犯人なら即座に通報、

人ならざるものが犯人なら、

我が家の家宝、

霊験あらかたな”愛護丸”で成敗してやります!

おにいちゃん、私がきっと守ってあげるからね!!



・・・より困ったチャン度合いが増しただけな気がしますが、

兄を思う彼女の誠意は理解してやっていただけると嬉しいです。


桜月りまさんからは引き続き魚沼先生、

そしてバレンタインデー話でも出てきた、

美月さんをお借りしております。

鹿島、結婚出来て本当に良かった(涙)


では少しずつ事態が動き出す

18:00の更新もどうぞよろしくお願いします。

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