第二話 その5 出撃、高原ファイブ!
2027年4月26日(月)
AM8:00
平日は毎日剣道部の朝練に参加していることから、
いつもなら桜也はすでに学校にいるはずのこの時間。
日曜の夜、渉は研修先に戻っており、
司はぐずる桃香を引きずって朝練に連行、
美咲も名残惜しげながら生徒会の用事で早めに
家を出ていたため、まだ清水家にいるのは
刹那を”みんな”に紹介するために朝練を休んだ桜也と
家猫梅雨、そして今週いっぱいを清水家で
過ごすこととなった芦屋刹那だけだった。
「んなーー♪」
「うん、梅雨姉行ってくるよ。
刹那ちゃん、忘れ物はない?」
「・・・大丈夫。
・・・猫さん、行ってきます。」
「んななーー♪」
梅雨に見送られ、
清水家を出発する二人。
自分が伊織のケガの
大本の原因になってしまったことに
責任を感じていた桜也は
刹那が清水家に滞在している間、
南小への送り迎えを担当する
ことにしたのである。
最初の目的地は商店街や海岸線、
各方面から登校してくる生徒が
合流する地点にある小さな公園である。
南小へのルートはついこの間まで
毎日通っていた道であるため
案内するのは簡単なのだが、
折角なので一緒に通っていた
馴染みの子たちにも声をかけて
そこで落ち合うことにしたのである。
「刹那ちゃん、商店街の子たちは知ってるかな?」
「・・・高原さん所の5人組とミニカッパ君は一応。」
「乙見達は煩いもんね。
銀は同級生からそんな風に呼ばれてるの?」
「・・・(首横振り)
・・・『怖い』って思われてるから、直接はないと思う。
・・・うちはおとーはんがあんな感じだから別に。」
「ああ、伊織さんも結構厳しそうだしね。
でも梨桜さんからも話を聞いたことあったけど、
家族は大事にしている人みたいだし。
銀もそういう感じだから仲良くしてあげて。」
「・・・(こくり)」
ワンテンポ遅れ気味ながらも
しっかりと桜也の問いかけに応答してくれる刹那。
土日一緒に過ごしたことで結構仲良くなれた気が
桜也はしていた。
最初はもっと大人しい子なのかと思っていたけど、
そういう訳でもなさそうだ。
これから一週間一緒に暮らすわけだし、
彼女のこと色々分かっていけたらいいな。
桜也がそんなことを思いながら和んでいると、
目的地の公園が近づいてきていた。
公園の方から甲高い声が聞こえてくる。
「あ、桜也にいが来た!」
「例の不思議系美少女も一緒だ!」
「桜也にー久しぶり♪」
「元気にしてた?」
公園に入るなり、桜也たちの元に
駆け寄ってくる4人の少女。
清水家とは生まれる前からの付き合いの
高原家の4姉妹は
今日も元気いっぱいのようである。
「相変わらず元気だね、
乙見、双見、
始会、呼会。」
「元気すぎて俺は大変だけどね。
まあ、桜也兄に比べればましなのかもしれないけど。」
「山歩も久しぶり。
みんなを集めてくれてありがとう。」
「他の連中は主に深理兄が
集めてくれたから礼はそっちに言ってよ。」
遅れて近づいてきた少年に声をかける桜也。
彼は高原家の長男であり、
4姉妹の間に挟まれた苦労人、
高原山歩である。
共に女性陣に振り回される身の上であることから、
気の合う二人は桜也が小学生の頃はよくつるんで
一緒に遊んでいたものである。
ちなみに以上一男四女の高原兄妹について、
あまりに行動力・連携性・統率力が高すぎるため、
南小の教員からは「高原ファイブ」と呼ばれて、
近年稀にみるトラブルメーカー集団として恐れられている。
幸いにも彼女たちとは家ぐるみの付き合いをしている
小林果穂が南小には学年主任として在籍しているため、
ギリギリのブレーキはかかってはいるのだが、
その果穂も果穂で高原ファイブの存在を
若手教師たちを育てるための試練として活用しようと
色々企んでいるため、
彼女たちの学年に配置された教員は
胃の痛くなる日々を送っているとかいないとか。
「深理くんも来てくれてありがとう。
みんな元気にしてる?」
「だいたい元気だよ、桜也にーちゃん。
父さんは真理と森理に
振り回されているけど、母さんがフォローしてるし。
千秋君もアデルちゃんに振り回されたりしてたけど、
たぶん大丈夫。
りゅー君も体調良さそうだし、
りょー君やレン君は忙しそうだけど、
ミアちゃんがサポートするだろうし。」
「みんな忙しそうだけど、元気なら良かったよ。
鎮さんと空さんの熱々っぷりは相変わらずなんだね。」
「桜也にーちゃんとこの渉さんや司さんも
同じようなもんじゃない?」
「・・・否定はできない。
まあ、それは置いておいて、
しばらく刹那ちゃん、
集団登校の列に入れてあげてね。」
「多分乙見ちゃんたちが仕切っちゃうと思うけど、
一応気にかけておくよ。」
「ありがとう。」
そう請け負ってくれたのは旧水族館の長男、
日生深理くん。
かなりの大家族で暮らしていて、
海外からも親戚っぽい人が良く来るから、
誰が誰なのか時々分からなくなるけど、
振り回されながらも色々気を回してくれる子だから、
こういう時には頼りにしている。
小さい下の弟さんたちの面倒もよく見ているしね。
他にも妹さんがいるって話も聞いたことがあるけど、
親戚の子も含めて色んな子が出入りしているから
正確な所は分かんないな。
「敬信くんたちも待たせちゃってごめんね。」
「大丈夫だよ、さくらにーさん。
うちのグループは乙見ちゃんたちが
班長みたいなものだから。」
「迷惑かけているようだったら言ってね。
僕から注意しておくから。」
「ねー、さくらちゃん!
梅雨ちゃん、まだうちに来ないの?」
「こら、子音!
さくらにーさんはもう中学生なんだから
その呼び方はやめなよ。」
「えー、かわいいのに。」
「べつにさくらちゃんでいいよ。
最近体調良いから連れて行ってないけど、
今度検査も兼ねてクリニックに行くよ。」
「わーい♪」
「ごめんなさい、さくらにーさん。」
「いいよいいよ。戸津先生たちによろしくね。」
梅雨姉の話で盛り上がったのは
戸津アニマルクリニックのお子さん、
戸津敬信くんと子音ちゃん兄妹。
仲の良い兄妹ではあるんだけど、
自由人の妹さんに振り回されてお兄ちゃんはちょっとお疲れ気味。
・・・僕も小学生の頃は桃香に散々振り回されたから
全然他人事の気がしないな。
そんなこんなで集まってくれた子たちへの挨拶を
していると刹那ちゃんが年の近い女子陣に囲まれていることに気づく。
別に嫌そうではないけど一応声をかけておくか。
「咲耶ちゃんも久しぶり。
刹那ちゃんと仲良くしてあげてね。」
「おはよー、桜にー。
もちろん!
美少女は大好物よ♪
あーもう、この黒髪もつやつやで素敵♪」
「・・・スキンシップはほどほどにしてあげてね。」
「なにー、やきもち?
桜にーのこともすきだよ!
ごはんもおやつもおいしいもん!!」
「ちょ、咲耶、なにどさくさまぎれに
告ってるのよ!」
「桜也にいは高原家へ婿に来ることが
決定してるんだからね!!」
「私たちも桜にーのごはん大好き♪」
「今度またつくりに来てねー♪」
女の子大好きな元気娘、
山辺咲耶の発言に
ヒートアップする高原4姉妹。
その状況を見た山歩が
「桜也兄モテモテだな。」とからかってきたので、
「代わろうか?」と言うと、
「・・・絶対勘弁。」と舌を出していた。
まあ、刹那ちゃんが輪に入れてもらえそうなら、
それでいいんだけど。
そう言えば何で”アイツ”はいないんだろう?
もしかしてまだ”アレ”続けてるのか?
「ねえ、山歩、銀は一緒じゃないの?
集団登校のグループ一緒だからと思って
特段声はかけてなかったんだけど。」
「何言ってるの、桜也兄?
銀兄は今も北小の弓姫姉ちゃんと
一緒に登校だよ。
北小まで送り届けたらダッシュで
南小まで来ているって奴。」
本当に”お姫様”の送迎、
今も続けてたんだ。
・・・銀、お前本当によくやるよな。
「・・・アイツも大変だよな、ホント。」
「えー、『これも修業のうちだし』みたいに
むすっとしながら言ってたけど、
単に弓姫ちゃんと一緒にいたいだけじゃない?」
「弓姫ちゃんと喧嘩しちゃった後は
微妙にしょんぼりしてるからバレバレだよね。
気難しい顔して結構ガキっぽい所あるのよね、銀にいは。」
「カッパのじゅんあい♪」
「キャー、ロマンティック♪」
桜也「・・・頑張れ、銀。
でもそうか、『修業』か・・・」
年下女子達に好き放題言われている親友、
魚沼銀之助に心でエールを送りながら、
桜也はこの前の伊織との戦いを思い返していた。
確かにあの時は愛護丸も持っていなかったし、
伊織さんほどの結界術の遣い手はそうそう
いないはずだけど、
今のままでは戦い方の上手い、
防御の固い相手には簡単に
主導権を握られてしまうだろう。
またいつ妖怪が襲ってくるか分からないわけだし、
何か手を考えないと・・・。
「・・・どうしたの、桜也くん?」
「ああ、ごめんね、刹那ちゃん。
じゃあ、そろそろ学校に行こうか?」
「りょーかい!全員整列!!」
「深理にいを先頭に出発進行!!!」
「じゃあ、行こうか。
桜也にーちゃん、
後ろから見といて。」
「分かったよ。」
「ゴー♪」
「レッツゴー♪」
「じゃあ行くよ、子音。」
「うん、おにーちゃん。」
「刹那ちゃん、一緒にいこー♪」
「・・・うん。」
すぐさま整列して南小へ向けて歩き出す一団。
刹那も自然の列に組み込まれているのを見て、
安心して後ろからついていく桜也。
流石の統率力だな、乙見たちは。
・・・責任者は上手く深理くんに押し付けてるし。
この分なら明日から任せても大丈夫なんだろうけど、
自分の責任はしっかり果たさないとな。
後は放課後刹那ちゃんを南小まで迎えに行って、
総合病院の伊織さんの病室まで案内、
夕食時に迎えに行く感じかな。
それまではどこで時間を潰そうか?
部活の練習を1週間休むことになるから、
どこかで体を動かしておきたいんだけど・・・。
あ、そうだ!
病院から”あそこ”なら近いし、
亨さん辺りに頼めば
練習に参加させてもらえるかもしれない。
ダメもとで聞いてみよう。
「桜也にい!遅れてるよ!!」
「ボーっとしてると置いていくからね!!!」
「ハリー♪」
「アップ♪」
「・・・はいはい、ちょっと待ってね。」
今後の予定について考えていて
列から遅れてしまったらしい。
もう中学生になったのだから、
別に列に従う必要はないのだが、
まだ仲間に入れてもらえるのが
どこか懐かしくて嬉しくて、
桜也は可愛い”弟妹たち”の元へ
駆け足で追いついていったのだった。
登校シーンで噂の高原ファイブ初登場です。
中々楽しく書けたので、
また出てきてもらってかき回してもらおうかななんて
考えております。
ちなみに乙見と双見が双子で3年生、山歩が2年生、
始会と呼会も双子で1年生となっております。
その他のキャラはとにあさんから色々お借りしております。
日生深理くんは5年生で小学生グループとしては一番の
お兄さんですが、高原ファイブ辺りには振り回されていると
思います。その辺り、昨年までの桜也のポジションを
そのまま引き継いでいる感じな気も(苦笑)
ちょっとこの後の振りなんかもいれておきました。
戸津敬信くんの妹に振り回されて苦労性な感じは
桜也が深く同情してそうです。
本来は結構明るい子のようです。
・・・お父さん戸津先生ですしね。
妹の子音ちゃんは本人自身が
動物っぽい感じなんですかね?
ママの宇美さんや尋歌ちゃんも振り回されていそう。
山辺咲耶ちゃんは宗くんのコスプレ時人格?的な感じ。
あんなこと言っちゃってますがとにあさんによると
恋愛要素は0らしいです(苦笑)
両親ゲーマーだし、ゲーム好きだったりするんですかね?
彼女もかき回し役になってくれそうですね。
最後唐突に風峰亨さんの名前が出た理由が分かった人は
かなりのうろな&とにあマニアだ(笑)
とにあさんからは北小の子たちについても
情報をいただいております。
そちらは第3話をお楽しみに。
待ちきれない方はとにあさんの『仮定の未来』
を読み返してレッツ妄想(笑)
また話題として桜月りまさんより『ちょっと緩い水神の悪戯』
にも登場した魚沼銀之助くんと
彼が守るべき対象とする弓姫ちゃんを話題に出させてもらいました。
銀くん、弄り倒してごめんなさい。
でも一途な愛に生きる君は
フラフラした桜也よりよっぽど真っ当な気がします(おい)
弓姫ちゃんについては皆さん色々妄想していただければ。
また引き続き寺町朱穂さんより芦屋刹那ちゃんをお借りしております。
伊織さんを弄りながらも桜也にフォローさせときました(笑)
積極的なボディタッチ(苦笑)とかがあったかもしれませんが、
お友達との絡みなんかから
さらに彼女の魅力を引き出していければと思います。
それでは次は徐々にバトルの気配が近づいてくる予定です。
ついでにあの”へたれオブうろな”もついに登場?
どうぞお楽しみに♪