第二話 その3 ダメ、幼女虐待!?
お待たせしました。いよいよ陰陽師達と絡んでいくその3です!
2027年4月24日(土)
PM2:00
冴のお昼ご飯の片づけ、
そして銀之助との道場の清掃を
痛む身体を酷使して終えた桜也は
魚沼一家や賢治師範に挨拶して
魚沼家を後にしたのだった。
いつもならもう少し魚沼家に滞在して
銀之助と学校の宿題をやったりするのだが、
流石に『昨日のこと』もあり
疲れてしまっていたので、
早めに家に帰って休むことにしたのである。
「こんな時間に帰ると
父さん達が『イチャイチャ』しているのに
出くわしかねないんだけど、仕方ないか。
・・・正直母さんに『体操服』を着せて
『踏みつけられ』たりして何が楽しいのか、
父さんの趣味は全く理解できないけど、
週末くらい家でリラックスできているなら、
それでいいのかな。
邪魔しないようにさっさと部屋に
入って寝てしまおう。」
『・・・マゾ清水は相変わらずというか、
鬼小梅も含めて、子供が中学生になっているのに
なんちゅうアホなことしているにゃ。
本当に成長してないんだにゃ、あの夫婦。』
「あ、サッキーどうしたの?」
昨日少愛女を退けて以来、
イアリングの中に戻って
黙っていたサッキーが声をかけてきたので、
桜也は周りに不自然に思われないように
静かに聞き返した。
『別に何でもないにゃ。
アンタは決して好きな子に
マゾ清水みたいな迫り方しちゃダメにゃよ。』
「そんなことしないよ。
だいたい別に好きな子なんて今はいないし。」
『・・・基本鈍感なのは母親似なのかにゃ。
ただし鬼小梅も途中から一気に主導権を
握ってたみたいだし、
ああ、アンタが将来変身したときみたいな
女たらしになるかと思うとすごく心配にゃ。』
「だ、大丈夫だよ。」
まるで姉か何かのようなサッキーの
ズケズケとした発言に
桜也は動揺を隠せないが、
不思議と嫌な気はしない。
正式に出会ったのは昨日だとはいえ、
本当はイアリングの中で
ずっと見守ってくれていたのであろうし、
何故か『それよりずっと前から』
一緒にいたような気もしているのである。
彼女が一体何者なのかについても
まだちゃんと聞けてはいないが、
だからといって彼女への信頼感が
損なわれることはなさそうな、
変な確信が桜也にはあったのだった。
『あとやっぱりあのカッパ、
妖怪の仲間だったんだにゃ。
ずっと怪しいと思ってたけど、
今日確信したにゃ。』
「『カッパ』って魚沼先生のこと?
なんで先生が妖怪になるんだよ!
スゴイ人ではあるけど、
それでいきなり妖怪は
飛躍しすぎじゃない?」
『本人も怪しいけどそれ以上に
あの息子の発言が決定的にゃ。
”耳が生えてる”とか確かに
妖力の残滓が桜也の頭に
残っているはずだけど、
普通の人間には見えるわけないにゃ。
息子が妖怪なら親も妖怪に決まっているにゃ。』
「・・・どう考えても無茶苦茶な理屈な気がするけど。
まあ、銀の眼鏡をとった後の動きは人間離れしてたし、
何か僕らと同じ『人ならざる力』を持っているのかも
しれないけど、それなら陰陽師の芦屋さんとかだって
同じじゃないか?」
『あれと一緒にするんじゃないにゃ!
あんな極悪非道な連中と一緒にしたら
妖怪に失礼にゃ!!』
「・・・もう訳わかんないよ。
とりあえずサッキーが陰陽師さんたちを
苦手なのは分かったけど。
何か嫌なことされたの?」
『・・・まあ、色々あったにゃ。
とりあえず出来るだけ関わり合いに
ならないほうがいいにゃ。』
「別に芦屋さん以外の陰陽師の
知り合いなんていないからいい」
話が魚沼家の人々について、
そしてサッキーと陰陽師との因縁に及んだ頃、
桜也が家への近道として
中央公園を歩いていた時だった。
”おい、刹那!
誰が”炎界術”で焼き殺して
いいなどと言った!!
これは結界術を妖怪の四肢に打ち込むことで
相手の自由を奪うための修行だと
何度言ったら分かるんだ!!!”
””えー、そんなんうち、めんどくさいわ。
どうやったって倒せたんやから、
それでええやん。
おとーはん、もうお腹減ったし、
クトゥルフにお昼食べにいこうや。””
”ならん!
今日こそはこの修行を終えるまで
ご飯抜きだ!!
・・・よし、この量なら一気に
焼き殺す訳にもいくまい。
小鬼ども、行け!”
何故か『微妙にくぐもった』声が
聞こえてきて、
気になってそちらを『凝視』してみるとと
男性が小さな女の子に対して
何か言ったと同時に、
女の子の周りになんと
多数の妖怪が出現したではないか!
「サッキー、女の子が妖怪に襲われてるよ!
助けないと!!」
『ちょ、待つにゃ!
あれは梨桜っちの・・・!!
大丈夫だから放っておくにゃ!!!』
「大丈夫な訳ないだろ!
行くよ、人妖・・・一体!!」
『あー、もう言ってる側から!
なんで陰陽師、
よりによって”アイツ”に関わることに・・・』
サッキーのボヤキ声が聞こえてくるが
事は一刻を争う。
桜也は胸のイヤリングに力を込めると
変身のための言葉を叫んだ。
全身が光に包まれると同時に
身体を駆け巡る内なる鬼の妖力。
それが四肢に満ちた瞬間、
オレンジ色の光の中から、
桜色の羽織袴を身に付けた
偉大丈夫(犬耳付)が出現し、
そのまま少女を取り囲んでいた
妖怪の群れに突っ込んだ。
「丁丁宗、推参!」
『ああ、もう勝手に変身して。
愛護丸も持ってないのにどうするにゃ!』
「そんなもん、コイツら相手ならこれで十分だ。
喰らえ、天狗流改・昇天連脚!!」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
”””””ギャーーーー!!!!”””””
丁丁宗の嵐のような連続回転回し蹴りによって
次々に消滅させられていく小鬼達。
かつて桜也の父、渉が天狗仮面に習い、
対勝也戦において披露した卑怯技も、
丁丁宗の身体能力を持ってすれば
対集団戦用の殲滅技に早変わり。
「ふー、ざっとこんなもんか。
大丈夫か、お嬢ちゃん?」
「あー、・・・はい。」
「おい、何てことしてくれたんだ!
人払いの陣を無理やり突破して来た上に、
修行用の低級妖怪を全滅させやがって!!
それにその技は天狗の・・・
貴様、琴科一派の刺客か!!」
丁丁宗は一仕事終えて、
少女の無事を確認するが
反応はぼんやりしたものである。
怖い思いをしたから、
という風ではなさそうだが、
とろんとした穏やかな目に
何か引き込まれそうな魅力をもった
なかなかの美少女である。
その少女に妖怪をけしかけた男は
何やら勘違いして激高しているようだが、
こいつは一体・・・?
「琴科?なんだ、それ?
俺はこの子を妖怪から守った通りすがりの侍だ。
お前こそ、こんな小さな女の子に
妖怪をけしかけるなんてどこのロリコンだ?」
「誰がロリコンだと・・・
だいたい現代に通りすがりの侍なんているか、
この変態コスプレ野郎!
いったいなんだそのけったいな犬耳は!!
ええい、とにかくその子から
早く離れろ!!!」
「ったく、こっちが気にしていることを。
勝手についちまうんだからしょうがねえじゃねえか。
それに言われてはいそうですかと従う奴が
どこにいるってんだ。
どいて欲しいなら力づくでやるんだな。」
「貴様・・・死にたいようだな。」
「上等だ。ほえ面かくなよ。」
『やめるにゃ!
そいつは今のアンタが勝てる相手じゃないにゃ!!』
「んなもん、やってみないと分かんないだろ。」
「何をブツブツ言っている!
・・・行け、刃鬼ども!!」
丁丁宗と謎の男はよほど相性が悪いのだろうか、
口論が一気にヒートアップし、
サッキーの制止も虚しく、
直接対決の流れとなってしまった。
男が何か叫んで投げつけてきたかと思うと
丁丁宗の周りには先ほどの小鬼とよく似た大きさながら、
しかし全身が刃物に覆われ、
より凶悪そうな気配のする妖怪が多数出現していた。
「ちっ。今度は全身刃物の小鬼かよ。
自分の拳で何とかするっていう漢気はねえのか!」
「こいつらを突破出来たら直接相手をしてやるさ。
その前に膾に切り刻まれるのがお前にはお似合いだがな。」
「糞が!
とはいえ刃物相手に得物なしじゃ、分が悪い。
・・・よっしゃ、あれを使うか!!」
『ちょ、トラックによじ登って何する気にゃ!』
サッキーのツッコミをスルーして、
公園のトイレを立て直した際に出た廃材であろうか、
公園内に止められていたトラックの荷台から、
長さ1メートル四方近くあるコンクリートの塊を
見つけた丁丁宗は
「伏見流改、金剛撃破!」
と叫んだかと思うとその塊を両手で持ち上げ、
刃鬼達に向かって突撃していった。
ドカンドカンドカンドカン!!
””””ギャウ、ギャウ、ギャウ、ギャウ!!””””
コンクリートブロックによるぶちかましを受け、
ぶっ飛ばされていく刃鬼達。
しかもどうやら一か所に集められているようで・・・
「貴様、何を!」
「仕上げはコイツだ!
藤堂流改、岩龍!!
ぶっつぶれろ!!!」
ガシンガシンガシンガシン!!!
””””グギャゴギャガーーーーーーー!!!””””
最後はそのコンクリートの塊をハンマーのようにして
何度も刃鬼の集団に上から叩きつける丁丁宗。
暫くすると押しつぶされた鬼たちは全て消滅してしまった。
『なんて無茶苦茶な・・・
コンクリートブロックを振り回す
剣士なんて聞いたことがないにゃ。』
「現代の剣士なんだから使えるものは
なんだって使えばいいんだよ。
さて、もう手下はいないが、
観念するか、ロリコン野郎・・・
って、何だ、これ!
足が動かねえ!!」
「ふっ、愚か者め、
俺がただ傍観しているかとでも思ったか。
芦屋流結界術”縛界”。
貴様の自慢のスピードも足を封じられては
発揮できま」
「この野郎、これでも喰らえ!!」
ボウッ、・・・ドーーーーン!!!
男が喋るのをさえぎり、
怒りに任せて、
先ほど刃鬼達を押しつぶした
コンクリートブロックを男に向かって
投げつける丁丁宗。
巨大な塊は一直線に男を襲い、
”破壊音”と共に辺りに砂煙が舞った。
『ちょ、いくら何でもやりすぎにゃ!
陰陽師って言っても相手は人間にゃ!!』
「・・・少しくらいは効いてくれるかと
思ったけど、やっぱりダメか。」
『えっ!
・・・そうか、アイツの得意技は!!』
砂煙が風に流された後に現れたのは
傷一つどころか、
『一歩も動いていない』男の姿。
壊れたのは男ではなく
コンクリートの塊の方だったのである。
「これが”絶対防壁の術”の力だ。
ふん、その程度の攻撃が
俺に通じると思っていたのか。」
『・・・芦屋伊織。芦屋流最強の
結界術の遣い手にゃ。』
「えっ!、もしかして、
梨桜姉ちゃんの・・・」
『・・・実の兄貴だにゃ。
そして多分さっきの女の子は
アイツの娘にゃ。
どことなく梨桜っちに似てたにゃ?』
「・・・雰囲気が全然違っていたから
気が付かなかったけど、
言われてみると確かに。
・・・どうしよう、
謝ったら許してくれるか?」
『今更何を言ってるにゃ。
まあ、昔と変わらなければ
基本防御・サポート役で
相手を一撃で葬り去るような術は
梨桜っちと違ってもってないはずだから、
諦めて向こうの気が済むまでボコられるにゃ。』
「ちょ、サッキー、それはひでーって!」
『人の話を聞かずに突っ込んでいったんだから、
自業自得にゃ。』
「何をごちゃごちゃ言っている。
召喚札を無駄に使わせやがって。
じっくりいたぶってやるから覚悟し、
・・・なに、この気配はまさか!!」
実に”悪い顔”をしてゆっくり
近づいてくる伊織の姿に
流石に強気な丁丁宗も冷や汗をかいたが、
その歩みがいきなりストップしたかと
思うと、伊織の顔に初めて焦りの色が浮かんだ。
同時に周りに立ち込める”きな臭い”匂い。
これは・・・
「・・・おとーはん、うちがお腹すかせて
待ってるって言うのに。」
先ほどから蚊帳の外に置かれていた少女から立ち昇る
恐ろしいまでの霊力。
それは熱を帯びて炎となり、
段々と形を取っていき、
まるで”炎の狼”のように収束していった。
「ちょ、待て、刹那!
その術はまだお前ではコントロールしきれな」
「うちを放ったらかしにして遊んでるおとーはんなんか」
暴走する霊力は力量以上の術を暴発させる。
彼女が発動させた術は芦屋流炎術の奥義の一つ。
「”灰燼狼”やめろ!
その子はまだお前の主人としては未熟すぎる!!」
「大嫌-------い!!!」
ワオーーーーーーーン!!!
全てを灰燼に帰す、
爆炎の獣が雄たけびを上げる。
その瞬間から、中央公園に張られた結界の中は
”彼女”の狩場となった。
その気配を”彼女”と縁が深いサッキーは
いち早く察知し、
瞬時に丁丁宗の変身を解いた。
『まずいにゃ!強制変身解除!!
今すぐ結界の外に脱出するにゃ!!!』
「えっ、ちょっと!」
『これでさっきの結界術からは
解放されているにゃ。
死にたくなかったら全力で逃げ出すにゃ。
アイツは攻撃対象を焼き殺すまで止まらないし、
今は暴走しているから結界内の全ての
存在が攻撃対象になってる可能性が
あるにゃ!!』
「じゃあ、あの二人も!!」
『人の心配する前に自分の心配にゃ!
あの二人なら父親の方がきっと何とか
するにゃ!!
とにもかくにも、エスケープにゃ!!!』
「わ、分かったよ!!」
いきなり変身を解除されて混乱しながらも、
サッキーに無理やり説得され、
外に向かって走り出す桜也。
背後の陰陽師父娘への心配が
胸にひっかかりながらも、
まずは必死にその場から逃げだすしか
なかったのである。
勘違いに勘違いが重なり、
大騒動となった陰陽師父娘との出会いであったが、
実は本当に大変なのはここからであることを、
命からがら逃げている桜也は知る由もなかった。
ついに出せました、うろな町企画の参加者の皆様が提供してくださった
ヒロイン一人目は寺町朱穂さん提供の芦屋刹那ちゃんです!
めんどくさがり系和風年下ヒロインの活躍をどうぞお楽しみに♪
その3では寺町朱穂さんの『人間どもに不幸を!』から
性悪シスコンから娘loveに進化?芦屋伊織さんをお借りすると共にとその娘(お母さんは誰かはその4で出しますが、皆さん分かりますか?)の刹那ちゃんを新キャラとして提供していただいております。また寺町さんの監修の元、”あの術”のルーツに迫る展開なんかも予定しておりますので、どうぞお楽しみに。
またその2に引き続き桜月りまさんの『ちょっと緩い水神の悪戯』より魚沼親子を話題として出させていただいております。ネタにさせていただいておりますが大丈夫でしょうか?
また丁丁宗の技として三衣千月さんの『うろな天狗の仮面の秘密』、綺羅ケンイチさんの『うろなの雪の里』をイメージしての、天狗流改、伏見流改、藤堂流改なんてのを勝手に作ってしまっておりますが、こうしてほしいとか、こんなのどうだ?とかありましたら、ご意見いただけたら幸いです。
それでは次はヒロインがどんな子なのかもっと語っていく展開になるかと思いますので、ゆるりとお待ちください。