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魔王の剣VS勇者の剣

 

「俺は勇者ハミルトン! 悪しき魔王よ、貴様の命貰いに来た!」


 それは良く晴れた真昼の出来事。

 背中に大剣を背負い、青銅の鎧を纏った青年が現れた。仲間も連れず単身で魔王城に乗り込むとは、腕も去ることながら度胸もある。

 事前に勇者が来る事はわかっていた為、魔王達は謁見の間で待ち構えていた。魔王の気迫に臆する事なく、堂々と前に進む姿に魔王は心踊らせる。


「この聖なる剣『エクスカリバー』で貴様を倒す!」


 そう言うと背中に背負っていた大剣を抜く。大剣からは白く輝く聖なる光が発し、普通の魔物であればその光を浴びるだけで苦しむであろう。そう……普通の魔物ならの話で。


「うむ、綺麗な剣だな」


 聖なる光も何のその。にこやかに勇者に近付く魔王に、流石の勇者も顔を引きつらせる。しかしすぐに引き締め、威嚇するかのように大剣を振り落とす。

 するとどうだろう。斬撃の風圧と共に聖なる光が魔王のマントを掠める。光に触れた部分が塵となり、ヴォスカとハーベニーは目を見開く。


「魔王様のマントを汚すとは何と愚かな」

「あ、そっち? 魔王様のマントを塵と化すなんて凄いとかじゃないんだ」

「はあ? 貴方は馬鹿なのですか? 魔王様より凄い方などいません」

「……ですよねー」



 相変わらず魔王崇拝のハーベニーに脱力し、ヴォスカは勇者に視線を戻す。

 魔王の着ている服は全て特殊な物である。切るのではなく、塵とさせたのはエクスカリバーの力が本物であり、その所有者の勇者はかなり魔力が高い証拠。光の勇者とでも言うのだろうか、単身で乗り込んで来るだけの実力はある。


「ほう……やるな」

「さあ、貴様も武器を取れ!」

「「え」」


 何を言ってるんだこの阿呆は。とでも言いたそうなヴォスカとハーベニーの顔に気付きもせず、魔王に武器を持つように催促する勇者。


「余が武器を?」

「そうだ。丸腰相手に剣を向ける事ど出来るか。魔王なんだ、御自慢の武器の1つや2つぐらいあるだろう」



 ヴォスカが止めようとする間もなく、魔王の顔は見る見る笑顔になっていく。ああなると止められない事はわかっているので、口を挟む事はせず黙って見守る事にした。


「馬鹿がいる。修理費がどれだけになんだろうな」

「やはり人間は愚かですね。魔王様に武器を取らせようとは」

「あ、ずるっ! 自分だけ結界貼るなよ」

「自分の身ぐらい自分で守りなさい。それともなんですか? 女に守って貰わなければならないような弱者なのですか?」

「……自分でやります」


 そんな2人がやり取りしてる中、魔王は目の前にいる勇者に感動していた。今まで誰1人として、魔王に武器を持てと言った者はいなかったからだ。勝手に滲み出る威圧に動じる事なく、正々堂々と勝負を挑む姿に涙が出そうだった。


「良いだろう。御前を真の勇者と認め敬意を称し、余の自慢のコレクションを披露しようではないか」

「あー……」


 ヴォスカの嘆きの溜め息も虚しく、魔王が左手を横にかざした部分が亜空間となり、そこに手を突っ込む。何かを探しているような素振りを見せ、勇者は警戒を強めた。


「ん、これだ」


 目当ての物を見つけたようで、左手を亜空間から引き抜く。そして現れたのは何とも禍々しいオーラと剣から聞こえる悲鳴のような雄叫び。思わず耳を塞ぎたくなるその声に、勇者は顔を歪める。


 魔王は取り出された剣を構えると、嬉しそうに説明し出す。


「良い声であろう? この剣は『死霊の剣』と言ってな、周りの命を吸い取り力を高めると言うものだ。余はその能力よりも、この剣の声が好きなのだ」


 笑顔で説明するが内容は笑えない。軽くひと降りすれば、剣から禍々しいオーラが飛び出し、謁見の間の見張りをしていた魔物を襲う。逃げる隙もなく、オーラに当たった魔物はあっという間に骨と化し、その場に倒れた。

 生唾を飲む音が聞こえる。骨となった魔物を自分と重ねたのだろうか、手が震えだした。あの剣に勝てるのだろうか? そんな不安が勇者の頭に過った時、救いの声が上がる。


「魔王様ー。そんな剣使われたら城の者が皆スケルトンになっちゃうんで止めてくださーい」


 部屋の片隅で結界を貼り、見守っていたヴォスカが止めに入ったのだ。その言葉に魔王も少しの間考え込み、


「ふむ、それは困るな。これを使うのは止めるか」


 再び死霊の剣を亜空間に戻し別の剣を探し出す。勇者の口から安堵の溜め息が出た事など知るよしもなく、次に取り出した剣はこれまたとんでもないものだった。


「これは『黄泉の剣』と言って、あの世の門や異界の門を開き悪霊を呼び出すだけではないのだ。あの世や異界にしか生息しない、珍しい魔物を呼び出せるのだ。依然にこの剣を使った時は、ウロボロスと言った蛇竜を呼び出し余のペットとなった。会ってみるか? 可愛いぞ」

「その剣を使ったらこの世界のバランスが崩れちゃまいすよ!」

「えー」


 不満そうにまた剣を戻す魔王に恐怖を隠せなくなった勇者。魔剣は持ち主の魔力や生命力を吸う為、強力な力を持っていればいる程持ち主の負担も大きくなる。


「待て、もっと普通の剣はないのか!?」

「普通の剣など詰まらぬではないか」

「そういう問題ではない。俺のエクスカリバーのような属性持ちの剣はないのか?」

「ふむ、属性持ちか」


 属性持ちの言葉に何か思い出したのか、まるで子供のようにウキウキとした表情で異空間の中を探す。 何時も退屈そうに欠伸をしていた魔王が、あんなに楽しそうな表情をしたのを見たのは久しぶりで、 ハーベニーはハンカチで涙を拭んだ。隣でヴォイスが引いていたのは言うまでもない。


「これならばどうだ! 『氷結の(やいば)』と呼ばれる魔剣だ」


 氷の刃で出来た長剣。見た目は先程とうって変わって、見惚れる程の美しさだった。

 確かに強い魔力が隠った魔剣ではあるが、先程のような禍々しさはかんじられない。これならばと勤しむ勇者だったが、ヴォスカが氷結の刃を見て首を傾げる。


「氷結の刃……あれ、確か別名があったような……?」

「いくぞっ!!」


 難しげに考えるヴォスカを他所に、勇者が魔王目掛け切りかかる。敢えて避けず剣を交り合わせ、戦いを楽しむ魔王。当然本気で戦っている訳ではないが、此処まで魔王と戦えた者は珍しく簡単に終わらすのが勿体なかった。

 勇者は攻撃を受けるのが精一杯なのに対し、魔物は平然とした顔……否、楽しそうな顔をしている。手を抜かれているのは一目瞭然。痺れを切らした勇者は、魔王から1度距離を取り力を溜め込る。


「食らうがいいっ!! 奥義、シャイニングブレードっ!!」


 天空より降り注がれた聖なる光を受け、エクスカリバーに大量の魔力が宿る。生半可な魔物が食らえば跡形もなく塵と化すだろう。 魔王目掛け放たれた聖なる光の攻撃。一瞬視界は白く染まり、ヴォスカ達も目が眩んだ。

 再び目を開ければ、瓦礫と砂埃が舞い、謁見の間は半壊状態だった。流石の魔王も無傷ではないだろうと、乱れた呼吸を整え目を凝らす。砂埃から現れたのは、


「あ、そんな……」

「良い攻撃であった。今度は余からいくぞっ!」


 氷結の刃を盾にし、全くの無傷で微笑む魔王。自分が持てる力を全て注ぎ込んだ渾身の一撃。その一撃を何事もなかったかのように、魔王は氷結の刃を高く掲げた。

 辺りの空気が冷たさを帯び、急激に気温が下がっていく。吐く息が白くなり、魔王の足下が凍っていき壁や天井も氷で覆われる。


「氷結の刃、氷結の刃………あっ! 魔王様! その剣を使ってはいけません!」

「氷河陣空斬」


 魔王が発した瞬間、謁見の間全体が凍りつく。謁見の間だけではない、魔王城が凍りついていた。まるでどこぞの雪の女王が作ったかのような、魔王城が氷の城となってしまったのだ。

 ただ凍っただけではなく、魔王の攻撃に耐えきれなかった者は凍りついてしまった。


「あー……氷結の刃、別名零死の刃。触れた物全てを凍らせる魔剣。この氷を溶かすのにどれだけの時間が掛かるんだろうか、さむっ」

「流石魔王様。今日のデザートはかき氷にしましょう」

「この極寒の中かき氷食べるの!?」

「誰が貴方に食べさせると言ったのですか?」

「はいはい、魔王様お疲れ様でーす。後片付けしますので後はお任せ下さい」


 結界を解き、魔王に近付けば眉を寄せる。


「なんだヴォスカ。邪魔をするな、戦いはこれからだ」

「でも勇者もう死んじゃってますけど」

「なに!?」


 慌てて目を向ければ勇者は氷の石像になっていた。近付き手をかざしてみるも、心音は止まっており凍死したようだ。何とも哀れな最後だろうか。


「ふむ、残念だ。これからだったというのに」

「これ以上やられたら城が持ちません」

「まあ良いだろう。なかなか楽しかったぞ。そうだ、余にこの剣を使わせた事を称して勇者をこのまま飾ってやろう。楽しめた戦いをを忘れたくはないからな。そうだな、玄関にでも飾っておいてくれ、頼んだぞ」

「え、本気ですか?」


 ヴォスカの問いは聞こえず、魔王は亜空間を開くと魔剣と共に自身も亜空間に入る。


「久しぶりにコレクションの整理をする。懐かしい武器が見つかるかもしれないからな」


 戦いの余韻からか、目のギラ付きが治まらないようだ。そのまま亜空間を閉じ、いつの間にかハーベニーはいなくなっていた為、謁見の間はヴォスカだけとなる。


「魔王城の玄関に倒された勇者を飾る、ね。屈辱も良いとこだよな」


 そんな事を魔王は微塵も考えてはいない事をわかっている為、ヴォスカは勇者の氷の石像に哀れみの目を向ける。本当に楽しかっただけで、勇者との戦いを忘れたくないから飾るだけなのだが、勇者にしてみれば屈辱以外何ものでもないだろう。深い溜め息と共に、石像を持ち上げ玄関へと移転する。




 後に語られたのは、魔王は倒した勇者を石像にし、それを飾り楽しむという残虐な趣味を持っていると噂されるのだった。ある意味外れてはいない、彼は魔王なのだから。その意味は間違っているとしても、石像を前に笑顔でいる魔王を見れば、恐ろしくなるのも当然である。


斯くして、魔王の非道さは人間に広まっていくのだった。

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