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第一話

Q:何故、分割するのですか?

A:作者は基本的レイアウトを黒地に白文字にしたいのです。というか、画面で見る時、この組み合わせでないと耐えられません。ところが、短編はこの設定変更が効きません。しかたなく分割版としました。ご了承下さい。

 短編はすぐに削除します。

 桜井美奈子の日記より


 おつかいに行ったら、くじ引きの券をもらった。

 商店街のイベントで、一等は温泉旅行ペアで二泊三日だそうだ。

 この商店街にしては太っ腹だ。

 商店街の真ん中の広場がくじ引き会場。末等はお定まりのテッシュペーパー。

 まぁいいか。と思って、一緒に連れてきた葉子に券を渡してあげた。

 初めて見るらしく、葉子はガラガラ(ガラポン福引抽選器というそうだ)に興味津々。

「お姉ちゃん!」

「なぁに?」

「私、あれ回していいの!?」

 そんなに楽しいのかな?あんなの。どうせテッシュしかもらえないのに。

 ま、葉子が楽しいなら、それはそれでいいけど……。

「いいわよ?ただし」

 私は条件を付けた。

「回すだけよ?何もらっても文句いっちゃだめ」

「はぁい!」


 そして、私達の番。

「お願いしまぁす!」

 葉子が背伸びして会場のおじさんに券を手渡す。

「はぁい!お嬢ちゃんお行儀良いねぇ!」

 商店街の名前の入った半被姿のおじさんが笑顔で葉子から券を受け取った。

「じゃ、1回ね!」

 私は賞品を見た。

 一等が温泉旅行 ペア二泊三日

 二等がお米、三等がビール、四等が商品券 五等がテッシュ……まぁ、こんなもんだろう。

「お姉ちゃん!」

 葉子が私の裾をひっぱった。

「……届かない」

 困った顔の葉子は、一生懸命背伸びをするのだが、どうしてもガラガラのレバーに手が届かない。

 しまった。忘れていた。

 仕方ないので、葉子を抱きかかえてガラガラを回させる。

 

 ガラガラ……


 ポトンッ


 出てきたのは金色の玉。


 ……えっ?


 ガランガラン!

 おじさんが興奮気味に鐘鳴らした。


 ……えっ?


「おめでとうございまぁす!」


 ま、まさか!?


「一等!温泉旅行でぇす!」


 葉子!あなたはスゴイ!



「……たいしたものよねぇ」

 お母さんも感心したように旅行券を見つめている。その前にいる葉子は得意満面だ。

「本当に、葉子ってクジ運いいのよねぇ」

「そうなの?」

「年末の宝くじ、10万円当ててるのよ?この子。……でも、困ったわねぇ」

「えっ?」

「これ、期日指定なのよ。この日って、連休は連休なんだけど、お父さんとお母さん、法事があって行かれないのよ」

「私、行ってもいい?」

「後一人は?―――あの水瀬君?」

「なっ!?」

「お母さん、ちょっと感心しないかな?そういうのは」

 冗談なのか本気なのかわからないけど、お母さんはそう言ってクギを刺す。

「し、しないわよ!」

 私はムキになって言った。

「じゃ、他のオトコ?」

「いない!」

「じゃあ誰?未亜ちゃん?」

「よ、葉子に決まってるじゃない!」

 私は葉子を抱きしめながら言った。

「お父さん達法事じゃ、葉子がひとりぼっちでしょう?だったら、連れて行ってあげるわよ!」

「―――よろしい」



 はめられた。


 そう、気づいたのは電車に乗ってからだ。

 法事になるといろいろ忙しい。だから、葉子を体よく私に押しつけた。それに気づいた時には遅かった。

 目的地は長野県S市。

 戦前は大きな湖と温泉が楽しめる観光地として、戦後は、戦争有数の激戦が行われた場所として知られている。

 何万人の単位で人が死んだ戦い。参加したルシフェルさんは語る。

「敗退する国連軍が湖岸に追いつめられてね。目を覆いたくなるような光景が繰り広げられたんだと思う……私達が救援に到着した時は、あの大きな湖が真っ赤になっていた」

 私が向かうのは、そんな所だ。

 慰霊ではない。

 遊ぶために―――。


 帰ろうか。

 一瞬、そう思った。

 そんな所でのんびりしていいとは、とても思えないから……。


「お姉ちゃん。」

 葉子が窓の外を指さしながら訊ねてくる。

 荷物を棚の上に載せ終わった私は、葉子の指さす先を見た。

 駅の広告だ。


「長野の復興にご協力を!」

「長野は安全です!」

「酒と海の幸、新潟に是非!」


 美人のモデルさんが微笑む新製品の広告とは全く違う。何か、血を吐くような願い、というより懇願に近い言葉が並ぶ。


 だめだな。

 私は首を強く振った。


 私は報道を志す者!

 

 現地の人達のこと、きちんと、正しく報じてあげなくちゃ。

 ―――そうだ!

 復興の様子、現地レポートとして校内新聞に載せよう!

 うん!我ながらいいこと思いついた!


 私がジャーナリストとしての熱意を沸き立てていると、葉子が不思議そうな顔で訊ねてきた。

「お姉ちゃん」

「ん?どうしたの?トイレ?」

「ううん?あのね?オトコはどこにいるの?」

「はぁ?」

 静かな車内。葉子の声だけがやたらと大きく車内に響く。

 車内が、しんと静まりかえったのがわかった。

「お母さんが言ってたもん!どうせお姉ちゃんは、オトコと一緒に行くから、マチガイのないように、しっかり見張ってなさいって!」

「なっ!?」

「お姉ちゃん、オトコヲクワエコムってどういう意味!?」

 私はとっさに葉子の口を塞いだ。

 車内のあちこちからクスクス笑う声がして、私は内心、泣きたくなった。



 目指す温泉は、半分くらいは露天ホームがあるだけの質素すぎる駅からタクシーで30分位の場所にある。

 湖周辺のホテルはほとんどが復興途中だと、タクシーの運転手さんが話してくれた。

 運転手さんも、戦争中は身一つで家族と難民になったという。

 かつての観光地として、ここを復活させるのが夢だし、義務なんだと、戦争の時の話しと一緒に、熱っぽく語ってくれた。


 「到着!」

 葉子が元気よくタクシーから飛び降りる。

 ずっと座りっぱなしだったから退屈してたんだろう。

 私は荷物を持って料金を支払う。

 ついた温泉は簡素だけど、昔ながらの民宿という風情。

 二階建てのこぢんまりとした作りが、むしろ好印象だ。

 「いらっしゃいませ!」

 旅館の人達が並んで出迎えてくれた。子供連れの高校生にここまでしてくれなくてもいいのに。と思うけど、これはこれで旅館の熱意の現れなんだろう。

 

 サービスはいたれりつくせり。

 おばさん達が温泉旅行に熱をあげる理由が、なんとなくわかった気がした。

 とはいえ、それも荷物を置いて一息つくまで。

 仲居さんにお茶をいただき、少しだけ世間話。

 その間も、葉子は外に出たくてウズウズしている。

 ……しかたない。葉子?いい子にしないとダメよ?


 ロビーに出た。

 何だかかなりにぎわっている様子。家族連れになんだか訳ありみたいなカップルまでいろいろ……部屋数からして、40人近くが泊まっているはずだ。


 ただ……気になったことがある。


 それは、ほとんどの宿泊客にいえることだけど、雰囲気が、何かヘン。

 何がって言われても困るけど……どうも普通じゃない気がする。

 きっと会社の慰問旅行だと思うけど、全員が瓜実顔で色白、そして細い目をしている。

 なにより……

 葉子に対する態度だ。

 葉子がテクテク歩いていくと、全員が道をあけてお辞儀だ。

 みんな、大のオトナなのに……4歳児に頭を下げるなんて絶対ヘンだ。


「……」

 葉子の手をとりつつ、私はただの旅行では済まない気がヒシヒシと感じていた。


 外。

 といっても、別に遊園地があるわけじゃない。

 それでも葉子にとっては珍しいものばかり。

 あっちでフラフラこっちでフラフラ……葉子!転ばないでね!?

 あら?キノコ?へぇ。でもこれ、食べられるのかしら。


 そして―――

「お姉ちゃん」

 後ろ手に何かを隠す葉子が、私の鼻先に突きだしたのは―――。


 ゲコッ


「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 思わず私は悲鳴をあげた。


 葉子!そんなの手にするんじゃありません!


「ガマガエルっていうんだよ?先生に教えてらったの」

 わかった!わかったから!せめて私に近づけないでぇ!


 この後も散々。

 ガマガエルを手放してくれたかと思ったら、藪の中から太いヘビを捕まえてくるし……。

「葉子は動物好きだからなぁ」

 お父さんはそういうけど、そんなレベルじゃない!

 育て方、もう一度見直す必要ありそうだ。



 なんか、散々だったけど、夕食は最高に美味しかった!

 水瀬君に高級ホテルのディナーとかランチを片っ端からおごってもらっているから、都内の有名ホテルの食事はほとんど知っているけど、それに負けないほどおいしい!

 しかも上げ膳据え膳!

 これぞ醍醐味だ!

 ……私、本当にオバさん化してるなぁ……。


 ご飯の後、不思議と葉子はおねむモード。

 いつもより早いけど、疲れているのかな。

「葉子、疲れた?」

 そう、訊ねたら、葉子は首を横に振った。

「ちょっと、早く休まないといけないの」

 お母さんから何か言われたのかな?

 まぁ、いいや。

 葉子か寝たら、私もお風呂に入ろう。



 ふうっ。


 カポーン。


 憧れの露天風呂。


 しかも貸し切り状態。


 湯気で何もわかんないけど、多分、そうなんだろう。

 温度も丁度良いし、満天の星空の下、体を伸ばしてお湯につかれるこの醍醐味!

 あーっ。

 やっぱり、日本に生まれて良かった!

 極楽極楽……。


 そう、思っていたら……。


 あれ?という、どこかで聞いたような声がした。

 ……まさか。

 思わずタオルで前を隠してしまう。

 だって……

 この声の主って……


フワッ


 一陣の風が湯気を吹き飛ばしてくれた。


 その先にいたのは―――


 間違いない。


 水瀬君!?


「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 思わず湯船に体を沈めてしまう。


「あれ?桜井さん?」

「な、なななななっ!」

 顔から火が出そうになった。

 な、なんで!?どうして!?

 たまらず叫んだ。

「なんで女湯にいるのよぉ!」

「え?ここ、混浴だよ?」

「こん!?」

 つまり、男女が仲良くはいるっていう、あれ!?

 私、なんて所に!

「いいから出ていってよぉ!」

 私は涙声になって怒鳴った。

「乱暴されそうになったって、大声出すからぁ!」

「え?……あ、ご、ごめんね?」

 水瀬君は慌てて立ち上がった。

 立ち上がった。

 つまり―――。


「せめて前を隠してぇ!!」


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