三
宣戦布告をするように校庭の真ん中、白い免罪符を被る仇敵を背に大仰に振り返る。
私の目前には小柄な男が一人。見慣れた仏頂面は、学生鞄のショルダーに手を掛けながら立ち止まっていた。まるで児童のような低身長が生まれ持った幼き顔と年頃の青年に似合わぬ野暮ったい黒髪をひとつの作品のように丁寧に纏め上げている。しかし、杜撰だと私は思った。そしてこの男、私の一つ下の後輩のこの男にとっては、その造形こそが真っ赤な林檎であろうとも思っていた。
「今晩、燃やすよ」
鬱陶しい地吹雪に遊ばれる髪がどうにも好かず、一度顔を左右に振って後方へと流す。依然止まぬ北風に纏うコートを上からぎゅうと抱き締めた。
体を這い回る冷めぬ熱が寒さに麻痺することもなく流暢に言葉を撃ち出させる。
「……あの林檎畑が、将来を見通すにはとてもじゃないけれど、邪魔だから」
「…………」
「この手にライターだけがあればいい。たかだか五センチの火種とこの心があれば私にも出来る日常破壊……。くだらねえと思う?」
「…………」
「だけど、今この現状だってくだらねえからつまらんのでしょう」
「…………」
「捕まったらどうするかなんて、後で考えたらいい。後のことなんか、知るものか。私には知る余裕だってない。……知るためにやらなくちゃ」
「…………」
「知るためにやらなくちゃ」
「…………」
「あんたは、どうするの?」
「…………」
白紙の進路希望用紙を糧に燃やせ、燃やせ、燃やせ――そうざわつく心は、誰のものか。
吹き荒ぶ冷気、無言の合間に不安が差した。
「集合は五時半、ライターは家のものを持ってくるから」
「…………」
足早に話を区切り、再び雪を踏み締めた。軋むように沈む音に後続する二足のリズムが私を孤独ではないと知らしめさせた。
黙す口から漏れた声にもならぬ微かな息遣いが白い熱と共に外気に溶けていく。




