一
燃えろ。
燃えろ、燃えろ、燃えろ。
私は校庭の向こう側に、林檎の樹が真っ赤に燃え上がる幻想を見ていた。ぼうぼうと立つ暗色の煙、オレンジが散らす火花、鳴り響く消防のサイレン。赤く実を光らせる林檎がふつふつと熟していく。
しかしそこに生を求めて逃げまどう人々はおらず、生活の糧を失う悲痛に喚く農家と、出歯亀根性丸出しの田舎者が押しのけ押しのけ、他人の不幸を貪るだけ。間の抜けた顔を照らしてのさばるその様は、大地を這う根に生かされるが故か。
なんて夢のない幻想なのだ。なんとつまらない夢想であろう。
南向きの校舎、中学三年の冬、三年一組の三号車、最後尾。ヒーターで熱せられた歪む窓辺で揺れる防火カーテン……その奥に張り付く冬に包まれた真っ白な雪景色ごとぐしゃりと一枚、ルーズリーフを握り潰す。しかしそれも、文字の表面をなぞる能面のような音読と室内に染み渡る不干渉の静寂にかき消された。
私が嫌いなものは山のようにある。田舎、訛り、馬鹿、出歯亀、くだらない噂、「いつも幸せそうだよね」の一言。幸せへの道筋など到底見えるものではないというのに、突きつけられる白紙の進路用紙。
同級生の感傷やら恋愛やら、友情、家族、裏切り、美への執着、流行への遜り……すべて、くだらない。
だが、そのように切り捨てようとも、同時にそれが私から私自身への自己評価だった。くだらないものに囲まれ、くだらないと息巻く私こそが誰からも相手にされぬつまらないものであることなどとうにわかりきっていた。
世の中は私以外の楽しいことで溢れ返っていた。




