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1040km/s

作者: 紅月

「対象、東経百三十五度、北緯三十五度を通過、南に移動しています!」

「次の予測通過位置を早く出せ!!」

「はい。次は……北緯六十度! 経度に変更はありません!」

「いいか。今のうちに今年の出現予測を立てろ。勝負は西経に入ってからだ! 機動班は予定通り目標の進路を絞るように飛び回れ!」

「ラジャー!!」

 ここはMMSL(Magic Material Science Laboratory)、魔法物質科学研究所と呼ばれる、世界最高峰の魔法研究機関だ。一年に一度、すべての研究の手を止めて研究所の所長から入所したばかりの新人まで全員が駆り出される日がある。それが今日、クリスマスだ。

 百十数年の研究により、魔法物質で成り立つ生物がいることがわかっている。有名なのは魔力を含有する鉱物で体を成している魔鉱生物だ。見た目は普通の動物とかわらないが、爪が特殊な鉱物でできていたりする。マテリアルグラフィー(サーモグラフィーのようなもの。魔力含有量がわかる)を通して見ればその違いは一目瞭然だ。

 そして、その研究は幽霊などの身近なオカルトから、仙人などのファンタジーな存在が理論的に存在しうることを証明した。

 幽霊は、霊体。仙人は変性体|(本来魔力を持たない肉体が魔力を含んでいる肉体)。吸血鬼は魔法体|(肉体の大部分が魔力で構成されている)という分類も生まれた。

 MMSLの研究は、魔力を含む物質に限らず、より効率よく魔法を使用することも含まれる。

 話はそれたが、今MMSLの最大目標は『サンタクロースの捕獲』である。鬼も、なまはげも、イエティも発見し、MMSLはその存在を分類したのだが、数十年前からその存在を確認しているサンタクロースだけは捕獲ができない。姿は映像記録にあるのだが、いかんせん捕獲できない。

 捕獲しないことにはその存在証明ができないのだ。

 そしてMMSLは躍起になった。それこそ、世界最高峰の知能を集結させ、一年かけてサンタクロース捕獲プロジェクトが準備される。そして、クリスマスに万全の準備を整えてサンタクロースの捕獲に乗り出すのだ。

「目標、西経に入ります。出現位置予測も済んでいます」

「よし、各地の捕獲班。これより、目標の出現位置、および出現予想を配る。現場指揮の指示に従い捕獲魔法を発動、目標を捕獲しろ!」

 この様子は世界中に配信されていて、世界中の人が望めばその様子を見ることができる。

 子供たちは無邪気にサンタクロースを応援し、いつの間にか届くプレゼントをみてはしゃぐ。大人たちはサンタクロースを見たいと、捕獲の瞬間を逃すまいと見守っている。

『こちら第一ポイント準備完了です』

「うむ。こちらからの指示では若干のタイムラグが生じるからな。タイミングはそちらに任せる」

『承知しました』

 第一ポイント出現までおそらく、あと十秒。

 本部の全員が固唾を飲んで見守る中、現場の指示が飛ぶ。

『――第一ポイント、捕獲失敗。予想通過位置より三百メートル東を通過しました。捕獲魔法がかすった程度です』

「了解した。計算班!」

「はい。今の通過位置から進路再計算。修正データをアップします。確認してください」

 素早い仕事に満足することはあっても、ほめることはない。今はまだその時ではない。

「第二ポイント以降はすぐに位置を調整。次の準備に備えろ。第一班は可能ならば移動して、次の準備に備えてほしい」

『第一班、問題ありません。移動します!』

 作業は全員が交代で休憩をとりながら、ほぼ不眠不休で行われる。

 なにせ、サンタクロースが現れるのはほんのわずかな時間しかない。普段は人の中で生活していると予想しているが、人の中に紛れ込まれると発見できないのだ。

 そうこうしているうちに次々とサンタクロースは捕獲ポイントを突破していく。

 結局、今年もサンタクロースを捕まえることはできなかった。


◆◇◆◇◆◇◆


「えー、今年もお疲れ様でした」

「「「おつかれさまでしたぁ!!」」」

 サンタクロース捕獲作戦お疲れ様会という名の反省会。

 飲み物と食べ物が用意され、互いの疲れをねぎらいながらもどこが悪かったかを振り返るのが主な目的だ。

「だからさー。ルート算出方法は今のでいいでしょ。やっぱり捕獲魔法が悪いんだって」

「いやいや。タイミングでしょ」

「でも、今年はついにどんぴしゃのタイミングで発動できたじゃん」

「いや、去年もどんぴしゃはあったよ」

「てか、サンタクロースって何に分類されるの? 霊体?」

「お前、新人か? なら説明してやるよ。はじめは移動速度に対して風圧を一切感じていないような映像が取れたから、物理的な干渉を受けないイコール霊体だっていう予測を立てたんだよな」

「うんうん。当時はまだ、霊体用の捕獲魔法がなかったから数年かけて、霊体専用の強力な捕獲魔法をつくったんだよねー」

「その結果は惨敗。あの頃ってまだルート算出が甘かったんだもの」

「んで、その次は魔法を使用しないと出せない速度、風圧を無視できるだけの防御魔法、それらを長時間維持することができるってことから、魔法体だと判断されたんだよなー」

「霊体用のよりは短い時間で魔法体用の捕獲魔法を作ったのよね。並行してルート算出用の演算魔法と演算に耐えうるサーバも作って行った」

「まあそれも失敗したな。ルート算出がだいぶまともにできるようになって、数年かけて霊体用、魔法体用を試したが、すり抜けたんだよ」

「すり抜けると言うことは、変性体ってことですか? でも、変性体にはあそこまでの魔法出力はできないはずですよ?」

「お前、変性体がその時々によって、魔力含有量が違うことは知ってるだろ」

「ええ。でも上限があります。変性体は魔力体よりも多くの魔力を持つことはありません」

「でも、サンタクロースは普段は人だ。魔力を一年に一日のクリスマスの日のために溜め込み、クリスマスにドカッと使うことができるはずなんだよ。変性体には魔力をため込むってことができる性質があるからな」

「なるほど……。一年に一回しか使わないのなら魔力体と同等、それ以上の出力が可能かもしれませんね」

「そうなのよねー。それで今度は変性体用の捕獲魔法を組んだんだけど、それもすり抜けちゃったのよ」

「ええ!?」

「驚くよなー」

「でも事実なんだよねー」

 新人一人を囲んでの、説明はまだ続く。

「そもそも、捕獲魔法って『百パーセント』その物質で構成されてるものにのみ有効なんだよな。というか、俺らもその前提だったんだよ。でも全部すり抜けられた」

 ここで、ちらりと新人を見る。新人は自分に答えを求めているのだと気づきしばし考えるが、思いつかなかったようだ。しかし、とりあえず思いついたことを言ってみることにした。

「もしかして、サンタクロースは霊体、変性体、魔力体の複合体だとでも?」

 それこそありえないと言う口調だったが、先輩たちは大真面目に頷いた。

「結果、これまでの捕獲魔法よりかなり複雑な捕獲魔法を作ることになったわけだ」

「捕獲魔法って正しく相手の構成割合を把握してないと意味ないのよね。どのくらいの誤差が許されるのかわからないけれど、こればっかりは試すしかないのよね」

「ほんと、サンタクロース以外に複合体がいねーかなー」

「複合体って今のところまだ幻の存在じゃないですかーやだー」

「魔鉱生物は駄目なんですか?」

「あれは複合じゃなくて、普通の肉体に魔法鉱石が埋まってるだけだからねー。やっぱちょっと違うんだよねー」

 そこまで盛り上がり、最後には盛大にため息をついた。

「でも、サンタクロースはいっつも最後には消えちゃいますよね。どこに行ってるんでしょう」

「知るか。サンタクロースは事前準備なしで転移魔法でも使えるのか? だとしたらますます捕獲したいところだ」

 年末まではこのまま休みで、年始からまた彼らの研究が始まる。

 もっとも、研究の虫である彼らは休みであってもついつい自分の研究課題に手を伸ばしてしまうのだったが、それはまた別の話。


◆◇◆◇◆◇◆


「ふいー。今年もなかなか壮絶だったな」

「いや、ほんとだよ。捕獲魔法の構成比率を相手に悟られないように改変するってなかなか重労働」

「それをまた元に戻すってんだからなー。さりげなく失敗させるとかなー」

「いやー、二週間の対策でよくできたもんだよ。先人のマニュアルに感謝だな」

 ピザを片手にこちらは『サンタクロース捕獲失敗を祝う会』を開いている。

「のんきだなあ、お前らは」

「お、サンタクロースさん、ちーっす」

「いやーそりゃあ、ダレますって。俺らみたいな新人にはなかなかきつい業務でしたよ」

「世界最高峰の知能を出し抜く新人ってほんとすごいよな。しかもたった二人」

 サンタクロースと呼ばれた青年も宴に加わった。

「すごいっしょー。ほめてもいいんすよ?」

「調子に乗るなよー。あんまり調子に乗ってっと地獄任務が回ってくるぞ」

「それは勘弁」

 一人がぶるりと体を震わせた。

「まあ、感謝しとくよ。しかし、本当に礼はしなくていいのか?」

「いいっていいって。この仕事、結構上からお金が出るんで」

「俺らとつながってるってどこから漏れるかわかんないですしね」

「そーそー。異世界を知らないやつは自力で知らない限り関わっちゃいけないことになってるんでね」

 MMSLの連中もまさか、異世界の組織がサンタクロースの捕獲阻止に協力しているとは思っていないだろう。

「そうかい。そうなると本気でうちの先祖はどうやって知ったんだか」

「幹部の誰かが協力を申し出たのがきっかけだって聞いてるぜ?」

「まあ、誰かわかりきってるんですけどね」

「その幹部って人に一度お礼を言いたいが、さすがにもう死んでるだろうなあ。俺の先祖ってのも、相当昔の話だしなあ」

 サンタクロースのため息に、二人はあいまいな笑いを浮かべて見せた。

 もとより、サンタクロースはこの部屋にしか入ることを許されていない。その幹部の墓とやらにも行くことは許されていないのだ。

「ま、今年もありがとな。俺はそろそろ戻りたいんだが」

「ういーっす。じゃあ、これ。今後ともレイゾイール社をどうぞ御贔屓に」

 出されたコップの中の液体を一息に飲み干した。水のようだが、飲んだ直後にすさまじい眠気に襲われてサンタクロースは眠ってしまった。

「おーっし、じゃああとは任せたぞー」

「はいはいっと」

 指を鳴らしただけでサンタクロースの体は消えた。

 今頃、彼は彼の幻影と入れ替わるようにしてベッドの中に入っていることだろう。

 こうして今年も無事にクリスマスが終了した。

クリスマスだよ!!(遅刻)

そんなこんなで今年もクリスマスネタとなります。

まあ、何番煎じかもわからないネタですが楽しんでいただければ嬉しいです。

みんなはクリスマス楽しかったかい?

ではでは。

2013/12/26 紅月

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