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男子と女子

作者: どくた23

 とある小学校の5年1組。5年生でクラス替えがあり、新しいメンバーとなったこのクラスではある大問題が発生していた。


男女の仲が非常に悪いということである。


男女とも意地っ張りの性格の子が多いのか、班決めでも、クラスのお楽しみ会で何をするかも、果ては給食のとりわけかたに至るまで、事あるごとに男子と女子が真っ二つにパックリと割れて対立していた。

担任の先生も学級会を開いて話し合いをするなど何とかしようとはしてくれていたが、水と油のような2勢力を和睦させることなどできはしなかった。


そのまま男女がいがみ合ったままの関係を続けていたある日のこと・・・


「ほんとにさー。マジ男子どもムカつくんだけど!」

発言したのは女子達のリーダー格の一人である亜里沙という女の子だ。非常に気が強いタイプで、男子を口撃する際にはいつも先頭に立つ。

「まーねー。もうちょっと男子が私達に気を使うことしてくれたら、私達も少しは大目に見てあげてもいいんだけどねー。」

そう言うのは同じくリーダー格のひとり、美春だ。成績もよくまじめで、学級委員も勤めている。

「そうだよねー。でも、あたし達からは当然譲歩なんてしない。そうだよね?」

もうひとりのリーダー格、加代子。スポーツ大好きの元気いっぱいな女の子だ。


加代子の呼びかけに、集まった女子達は次々にうなずく。ここは放課後の教室。男子達が帰宅するのを見計らって、女子達が作戦会議をしているのだ。


「でもさあ。佐藤君がいる限り、男子の結束は固そうだよねえ?」

「そうそう。佐藤君さえいなけりゃ、男子なんてあとはゴミみたいなもんなんだけどなあ。」

女子達の中から、そんな声が出る。


そうなのだ。男子のリーダー。佐藤君こと、佐藤伊織。彼が男子達を取りまとめ、強固な集団を作り上げている張本人なのだった。勉強もスポーツもできる彼は男子からも先生からの信頼も厚く、女子達の男子制圧の大きな障壁となっていた。


「うん。でも佐藤君、足も速いし、テストもいつも100点だし、頭の回転も速いし、かっこいいよねえ。」

「なによ加代子。あんた裏切る気?」

「え、ううん。そんなことしないよ。でも、佐藤君が私達の味方についてくれたら、すごくいい戦力になってくれそうなんだけどなあ。」


「そうだよねえ。」

女子達のあちこちからため息が出る。それほどに伊織の存在感はずば抜けていた。


「佐藤君、私達の味方になってくれないかなあ?」

「まだ言うの?加代子。無理だって。佐藤君は男の子なんだよ?あたし達の味方になんかなってくれるわけないじゃん。」

亜里沙がピシャリと言い放つ。

「そうだよねー。」

加代子が首をすくめる。


そのとき、今まで黙って話を聞いていた女子の一人がおずおずと口を開いた。

「え、っと。あの、さ。その。方法、あるかもよ?」

「なによ玲奈。あんた、何か秘策でもあるの?」

彼女の名前は玲奈。この近くの神社の神主の娘で、巫女をしていた。性格は物静かでどこかひょうひょうとしている雰囲気があった。

「うん。美春ちゃん。あのね・・・」

そういうと玲奈はその秘策を話し始めた。


「すごーい!」

「えー、そんなことほんとにできるのー?」

聞き終わった女子達からは、歓声と疑念、両方の声が上がった。


「でも、やってみる価値はありそうね。どうせこのままじゃずっとこう着状態が続くだけだろうし。」

美春が言った。

「そうね。まあ、出来たらもうけもんってことで。」

亜里沙もまだ半信半疑そうだ。

「やったー。これで佐藤君が味方になってくれたらいいなー。」

加代子はとてもうれしそうだ。


「じゃあ作戦決行は明日の放課後。佐藤君の下校途中をねらうわよ。」

「OKー!!」

美春が最後にまとめて、この日は解散となった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


次の日の放課後。渦中の人物、佐藤伊織は、いつものように親友である渡辺京と下校していた。

「じゃーな、イオリ。」

「おう、じゃーな。キョウ」

いつもの角で京と別れ、伊織はひとり家までの道のりを進む。なにげなく道路を見ると、道を横断するようにロープが横たわっていた。なんだこれ?そう思いながらまたごうとすると、いきなりロープがピーンの張られた。

「うわあっ!!」

避けきれずに足をつられて転ぶ。


「それっ、今よ!」

その号令に合わせて路地に隠れていた女子達がいっせいに伊織に飛び掛る。

「うわっ。なんだお前ら!」

「うっさい!問答無用!!」

女子達は伊織を縛り上げ、ガムテープで口に蓋をしてタオルで目隠しをし、あっという間に運び去っていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


視界が戻ったのは、それからしばらくしてからだった。同時にガムテープもはずされる。縄は解かれない。縛られたままだ。

「はー。はー。あー苦しかったー。」

肺が満足するまでいっぱいに酸素を吸ったあと、俺は周りの状況を確認した。


どうやらここはお堂の中らしい。板張りの床に壁、そして俺が座らされている場所の正面には祭壇のようなものがあって、ろうそくの明かりが揺れている。その祭壇の前には巫女装束を着た玲奈が正座して座っていた。そういえばコイツのうち、神社だったよな。ということはここは玲奈の家の神社ってことか。他には・・・?

まだ何かあるかとあたりを見回すと、玲奈の左側、お堂の端っこに俺の黒いランドセルが置いてあった。その隣には、ここの飼い猫だろうか。白い猫が眠たそうにうずくまっている。


そのまま視線を背後に持ってくると、

「うわっ!!」

おそらく全員だろう。うちのクラスの女子達が仲良く正座して座っていた。

その中には亜里沙、美春、加代子の姿もある。

「なんだなんだ!?お前ら。いったい俺をどうする気だ?」

そうすると美春が彼女達を代表して答えた。

「クラスでの男子と女子の争いを終わらせるためよ。佐藤君。いまから佐藤君は私達の仲間になってもらうわ。」

「は?何いってんだ?俺は男だぜ?そんなことできるわけないだろ?」

「できるわ。だって、佐藤君は今から私達と同じ女の子になるんだもん。」

「え、えええええーーーーー!?!?」

「さあ、玲奈。はじめましょう。」


「はい。」そういうと玲奈は立ち上がり、俺の前に鏡を置いた。

「佐藤君。自分の変化する姿を自らよく確認していてください。」

「おい待てよ玲奈!女の子って・・・」

「始めます。」

玲奈は祭壇の前に座ると、なにやら言葉を唱えながら祈祷を始めた。後ろを振り返ると、女子達はみんな一斉に眼を閉じ、手を合わせて祈りをささげている。


変化はすぐに現れた。

鏡の中の自分の体形がどんどん変わってきた。小学5年生ともなれば多少は男女に体形の違いが出てくるものだが、俺の肩幅はきゅっと狭まり、逆におしりの辺りがむくむくと大きくなっていった。

「え、えええーーー!?ちょ、やめろよおい!」

しかし女子達は一切反応せず、一心不乱に祈り続けている。そうしている間にも次の変化が起こってきた。髪の毛が伸び、最終的に肩につくくらいの長さまで伸びる。同時に顔も変わり、睫毛の長い女の子の顔になった。

「な、なんだよー。」

俺は声変わりはまだだったが、明らかに女の子のような高い声になったことが自覚できる。

しゅるしゅるしゅる。衣擦れの音がするので下を向くと、ちょうどむくむくと、縛られた縄のうえに女の子のおっぱいが育っていく。

「うわああああーーー。」

着ていたジーンズの丈が短くなり、女の子らしい赤いチェックのプリーツスカートに変わる。Tシャツは、白いナイキのものだったが、薄ピンク地に可愛いハートマークの入った小学生らしいらしいものに変わった。ふと部屋のすみを見ると、黒かったはずの俺のランドセルは、いつの間にか赤い女の子のものに変わっていた。


そうして、変化はすべて終了した。


それを見て取ると、玲奈は祈祷を終了し、こちらに歩み寄って縄を解いてくれた。

「さあ、皆さんも目を開けていいですよ。新しいお友達を歓迎しましょう。」

そういうと、今まで我慢してしっかりと眼を閉じて祈っていた女の子達は待ってましたとばかりに眼を開け、こちらに駆け寄ってくる。


「すごーーーい!!本当に女の子になってるー。」

「わー、佐藤君。かーわいー!!」

「ちがうよ。もう『君』じゃだめだよー!」

女子達にもみくちゃにされて俺は軽くパニックに陥る。ようやく騒ぎもひと段落したときに、美春が口を開いた。

「これで佐藤君も女の子。私達の仲間よ?私達の味方、してくれるわよね?」

「女の子って・・・。どーしてくれんだよ。これじゃあ家に帰れねえよ!!はやく元に戻せ!」

「大丈夫。あなたはもう生まれたときから女の子ってことになってるわ。名前ももう伊織じゃない。佐藤詩織っていうのよ?戻すのは無理。あなたはもう、一生女として過ごすの。ね?詩織?」

「そんな。そんなことって。」

「大丈夫。女の子の生活ってすっごく楽しいのよ。あなたもすぐ心から女の子になれるわ。さあみんな!詩織がちゃんと女の子になれるように教育するわよ!!」


「はーーい!!」

女子達はそういうと俺を引っ張って外へと連れ出していった。



・・・・・・・・・・・・・・・・1ヵ月後。



今日もまた、女子と男子の口論が些細なことから始まっていた。しかし、このところ男子の旗色は明らかに悪かった。女子の意見に押し切られてしまうことが多く連戦連敗だった。

それはある一人の男子の消失と、時を同じくして加入した一人の女子によるところが大きい。

「詩織ー!来てよ。まーた男子がさあ。」

そう言われて私は立ち上がる。あのあと女子達にたっぷりと教育を受け、私は完全な女の子として生まれ変わった。でも、悪かったとは思っていない。だって、女の子のほうが男より断然楽しいんだもん。いままで男子側にいたなんて、バカみたい。あの男どももみんな女の子にしてもらえばいいんだ。心からそう思っていた。

「待っててー、亜里沙。すぐ行くー!」

スカートをひるがえして私は、男子との戦場におもむくのだった。


~END~


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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーのてんぽが良く、ほどよく一気に読める。 [気になる点] 女の子の生活がどう楽しいと感じたのかが分かりません。その点がちょっと残念に思いました。 [一言] 上記の部分はあるものの、…
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