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Cシリーズ  作者: 三谷尾だま
Marguerite’s memories
1/7

マーガリート幻想・前編

 この作品は、PG12程度です、約3,700字。あらすじ:私は、戻ってこない夫を待ち、日に日にやつれていくマギィを心配していた。買い物の帰りに、ある男性にぶつかり……。キーワード:殺人事件

 私は、庭弄りの手を止め、額の汗を拭った。花壇の雑草を引き抜いたときにかかったであろう土を、白い花びらから払った。たくさんのマーガリートが、花壇には咲いている。


 ゆっくりと立ち上がり、抜いた雑草を入れていたバキットを隅に寄せた。花壇は作業を始めるまえよりも明らかに片付き、私は少しの満足感をおぼえる。


 休憩をしようと、作業用の手袋を外してスカートの裾を払う。手を洗っていると背後から人の気配がした。振り向けば、彼女が立っていた。


「わたし、もう駄目だわ! あの人は今日も帰ってこない。きっと、わたしのことが嫌になったのよ」泣きながら彼女は言う。


「そんなことはないわ、マギィ。彼は、きっと帰ってくるわよ」私は、そう言って彼女を慰めた。


「でも……、もう彼が帰ってこなくなって一週間も経つのよ?」


「捜索願は出したのでしょう? 警察が見付けてくれるわ」


 それから、夫が失踪したといって取り乱している彼女の、もう何度目かになる話を聞いて、相槌をついて励ます。どうにか彼女は落ち着きを取り戻し、しきりに涙を拭いていた。


「そんなに落ち込んでばかりでは駄目だわ。そう、これから一緒にお茶の時間にしましょう、ね?」


「でも……、そんな気分じゃないわ。気が気じゃなくて」


「だからよ。一緒にケイクでも焼きましょう。そうしたら、きっと気分も紛れるわ。私、材料を買ってくるから、貴女、準備をしていて頂戴な」


 上手く彼女を宥めると、彼女も少し乗り気になったようで、無言で頷き、準備をするために彼女の家の方に歩いていった。彼女の家には、性能の良いアヴァンがあった。


 私は溜息を一つ吐き、玄関の棚からハサミを取って、花壇に咲いているマーガリートをメインに、いくつかの花を切った。それを持って台所へ行き、花瓶に活けると見栄えをチェックする。上出来だった。


 冷蔵庫の中と棚を見て、在庫を確認して財布の入った小さな鞄を手に取る。買い物が終わったあとでマギィの家に持っていこうと、花瓶は玄関の靴箱の上に置いて家を出た。出がけに彼女の家を見る。この位置からは、彼女の姿は見えなかった。


 どんなケイクを作ろうかと道すがらに考え、やはりここは、気取らずクリームティーが良いかもしれないと思った。クロティッドクリームはある。スコンを作れば良い。


 紅茶は彼女の家にあるだろう。そうだ、そうしよう。


 ほとんどの材料は、既に揃っているようだったので、なにかおいしそうな果物でもないかと、青果売り場を眺めた。赤い、ラーズバリィがとてもおいしそうだ。この間、買ったばかりのおいしいストローバリィジャムを出そう、と考えてはいたが、そのラーズバリィがあまりにもおいしそうだったので一盛り購入した。


 ほかにも夕食用の材料をいくつか購入し、早々に店を出る。


 二人でお茶を飲んだあとに、夕食も一緒にしよう。可哀相なマギィ。あんなにやつれてしまって、ちゃんと食事を摂っていないに違いないだろう。


 私は家路を急いだ。


*補足 アヴァン:オーブン

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