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迷宮の魔王さま 改訂版  作者: 井戸端 康成
第三章 開催、闘神祭
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第四十三話 ユリアスの謎

第四十三話 ユリアスの謎


 第二試合にともなう舞台の破壊により、大会は三十分間の休憩となった。さきほどまで沸騰していたような観客席もいまは落ち着いて、観客たちはしばしの休息をとっている。それは魔王たちとて例外ではなく、彼らは深く椅子に座ってほっと息をついていた。さらに試合中の緊張感から解放されたためか、女の子四人はいずれもうとうととしていた。


 シェリカはそのアンティーク人形のように気品にあふれた顔を、あたたかな日差しに照らされていた。彼女はまばゆい太陽にその紅い瞳を細めながらも、実に心地良さそうである。するとそれを見た魔王は、小さな声で彼女に耳打ちした。


「すまぬが起きてくれんか?」


「ふぇ、なんで……?」


「試合前にも言ったであろう。聞きたいことがあるとな」


「……そうだったわね。うー、ふわあぁ」


 シェリカは両腕を伸ばして背伸びをすると、そのあとで口を抑えて大きなあくびをした。基本的には荒くれ者の多いシーカーだからかも知れないが、女の子としては少々がさつな行動だ。だが、魔王はそんなことには頓着せずにさっそく話をはじめた。


「実は聞きたいことというのはユリアスについてなのだ。知っていることを余に話してくれないか」


「いいけど、どうしてユリアスのことなんて聞きたいの?」


「さきほどな……」


 魔王は試合前のアイリスとの出来事をシェリカに伝えていった。するとシェリカの額にどんどんしわが刻まれていって、顔つきも険しくなっていく。そうして魔王が話を終える頃には、シェリカはすっかり渋い顔をしていた。彼女は俯き加減になるとフウッと息をつき、魔王に話を始める。


「そうね、あいつならどれだけ怪しい物を持っててもおかしくはないわね……。あいつ自身が謎の塊だし」


「謎の塊? どういうことだ?」


「……いやさ、あいつに関しての情報は驚くほど少ないのよ。今の歳とか経歴とかでさえ、知ってるって人をあいつ以外に聞いたことがないわ」


「歳はともかく経歴を知らない? あれだけのギルドを率いているようなシーカーなら知られていると思うが」


 シェリカは魔王の疑問に対して両手を上げて、顔を横に振った。彼女は魔王に、わかってないと言わんばかりに疲れたような顔をする。


「それが聖銀騎士団の団長になる前のユリアスのことは誰も知らないの。前の団長が死んだ時、どこからともなく現れたのよ。それで何故かすんなりと跡をついで、団長をやってるわ」


「面妖な話だな」


「ええ、さらにそれだけじゃないわ。ユリアスについての記録は神殿やギルドにさえもまったくないのよ。ギルドはなんだかんだいっても営利組織だから何とかなるかも知れないけど、さすがに神殿は無理よね?」


 シェリカは横に座っているシアをわずかに疑わしげな目で見た。--シアならお金を渡されれば記録をごまかすかもしれない……。悲しいことにシェリカは仲間のシアを完全には信用しきれていなかった。


 疑いの目を向けられたシアは、ビクッと身体を起こした。彼女は顔をぶんぶんと振ったあとで、少し向きになってシェリカに反論する。


「私は違反スレスレのセコいはやるわ。でも違反はしないの。それに神殿のシステム上、記録をごまかすのは神官長でも無理」


「違反スレスレのセコいことってそれはそれで……。いいわ、今は置いときましょ。疑って悪かったわねシア。……あれ、でもそうなるとユリアスは洗礼を受けてないことになるわ……。洗礼を受けたら記録に残るはずだもの」


「ううむ、しかし神の加護がなければ迷宮には入れぬぞ。それは余自らが体験済みだ。さすがにギルドの代表が迷宮に入れぬというのは無理があるぞ」


「そうよね。第一、ユリアスが迷宮に入るのを見たことあるわ。……ねえシア、あの神殿で洗礼を受けないと絶対に加護は得られないのかしら?」


 シェリカがそういうと、シアの顔が曇った。彼女は額に手を当てて何やら考え込み始める。そうしてしばらくシアはうんうんと唸りながら、足をパタパタとさせて考え事をしていた。そしてそのあと、俯き加減になっていた顔を上げるとゆっくりと小さく口を開ける。


「……他の街にある神殿でも加護を受けられることはあるわ。でもすごく低確率な上に年数もかかる。それこそ信仰熱心な神官が生涯をかけて授かるといったレベルよ。ユリアスの見た目から考えるとまずありえないわね」


「他に方法はないの?」


「すごく眉唾ものの話になるけど……。神の加護は人の魂に与えられるの。だから位の高い神の加護を受けた人間は、生まれ変わっても加護を受けたままになるって話は聞いたことがあるわ。でも生まれ変わりなんて荒唐無稽で非現実的」


 シアはきっぱりと断言した。シェリカはその様子にため息をついて頭を抱える。魔王もまた、上を向いて何か思案を巡らせはじめた。


 ちょうどその時、舞台の上での修復作業が終わった。立ち去っていく作業員たちと入れ代わりに、選手二人と司会の男が現れる。それを目にしたシアは、いまだに悩み続けているシェリカたちに声をかけた。


「試合が始まるわ、集中するべき。……気になるなら、闘神祭が終わったあとに神殿の地下図書館にでも行きましょう。あそこならたいがいのことはわかるわ」


「……わかったわ。そうしましょ」


「余もそれに賛成だ」


 魔王やシェリカたちはシアの意見に賛成すると、まだうとうとしていたサクラとエルマを起こした。起こされた二人は慌てて姿勢を正すと舞台の上に真剣な眼差しを送る。


 こうして五人が集中したところで第三試合が始まったのであった。



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