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迷宮の魔王さま 改訂版  作者: 井戸端 康成
第三章 開催、闘神祭
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第四十二話 危険、破滅の光

第四十二話 危険、破滅の光


「消えた! フウタロウ選手、完全に消えてしまいましたァ! さらにその足音なども私の耳にはまったく聞こえてきません! これは一体どういうことなのでしょうか、ミスターXさん!」


 司会の男は額の汗を拭いながら絶叫した。彼はそのまま勢い良く司会とかかれた席から立つと、隣のミスターXにマイクを手渡す。マイクを渡されたミスターXは、額のしわを深くするともっともらしい咳ばらいをした。


「ごっほん、これはある種の魔法で光を曲げ、姿を見えにくくしておるのじゃろうな。そしてさらに気配や存在感を完全に消して、その存在すらも認識できんようにしておるのだろう。これならば盲目のクレイルにも有効だ」


「なるほど! それではこの戦いはフウタロウ選手が断絶優勢ということでしょうか?」


「おそらく……」


 ミスターXは深刻な顔をして、わずかばかり自信なさげに言った。彼もこの試合の展開は読みかねていたのだ。司会の男はそんな彼の態度に何も言うことができない。どうにも先の見えない切迫感があたりを包んでいった。


 一方、手裏剣の落下から落ち着いてきた観客席では魔王が笑っていた。声こそださないが、非常に滑稽そうである。その微笑みを近くで見たシェリカたちは、たまらず魔王に笑いの理由を聞いた。


「どうしたのよ、そんなに笑っちゃって」


「なに、これから試合が面白くなりそうなのでな」


「面白くなる? もうすぐに決着がついちゃうわよ」


「そうはならないだろうから面白そうなのだ」


 魔王は体を揺らしていつもの不適な笑いを顔に浮かべた。軽薄そうだが、それでいて深みのあるいつもの得体の知れない笑いだ。それを見たシェリカたちは、なにかあるのだろうと舞台の上に視線を注ぐ。


 そうして彼女たちが熱い視線を注いでいると舞台の上で動きがあった。クレイルが突然、狂ってしまったような高笑いを始めたのだ。彼はそのままどこにしまっていたのだろう、コートの中から大砲を思わせるような魔銃を取り出す。黒い銃身が陽光にきらめき、目が覚めるような冷たい光を放った。さながらそれはフウタロウへの死刑宣告をしているようだ。



「それで見えなくなったつもりか? わしには感じられるぞ、お前のかすかな動きや脈拍さえもな!」


「……はったりだな」


 どこからともなくフウタロウの声が聞こえた。どこから発せられたのかまったくわからないそれは、舞台の上を包み込むかのように重く響く。重い声の響いた舞台は、さながら鉛の布団をかけられたように静まった。


 その声の響きが消えると同時に、クナイがクレイルへと飛んだ。背後から放たれたそれは一切の物音を立てることなく、瞬時にクレイルの背中へと殺到する。クレイルの背中に穴が開くのは観客たちの目には必定のように思われた。だが……。


「甘い!」


「……む」


 クレイルの鋼の右腕が一閃してクナイをはじき返した。紅い火花が散って、クナイがはたりと舞台の石畳に落ちる。それと同時にどこかからフウタロウの悔しげなうなり声が聞こえてきた。物音がしないどころか気配すらないフウタロウの存在を、クレイルはたしかに感知できているようであった。


「どうしてわかるのだ、私の隠密は完璧のはずだ。この術は気配や足音すらも消すから盲目のおぬしにも通用するはずなのだが……」


「わしは視力を失ってから気を感知する技を身につけてな。今のわしにはその程度の術、児戯にも等しいのだ」


「……そうか。ならば!」


 フウタロウは再び舞台の上に姿を現した。それはちょうど、細かい積み木が一瞬でつみあがったようなさまであった。その術の見事さに観客たちは度肝を抜かれて歓声を上げる。闘技場の緊張した雰囲気が一瞬、やわらかいものに変わった。


 しかし、クレイルはそのようなことに興味はないようであった。いや、盲目の彼にはわからなかったのかもしれない。ともかく無関心に見えた彼は、再び姿を現したフウタロウを黒光りする銃口で向かえた。それに対してフウタロウも印を結び、手際よく術を完成させていく。舞台の上の空気がざわめき、にわかに空白の時間ができた。


「死ねい、ジェノサイドカノォーン!」


「陰影流・豪炎滅波!」


 青い極彩色の閃光と紅く燃えたぎる炎の塊が真正面からぶつかりあった。雷が落ちたような衝撃音が闘技場を揺らして、観客や司会の耳を直撃する。彼らはたまらず耳を押さえて身を小さくした。さらに砂漠の熱波のような風が吹き荒れて闘技場はさながら熱の海とかす。


「粘るな! だがこれならどうだァ!」


 クレイルはコートを熱風にはためかせながら、魔力をその身体に満たしていった。膨れ上がった魔力はほのかな炎のようになり、銃へと注がれていく。銃口から放たれる閃光が急速に太さを増して、炎を押しはじめた。


「くっ……あああ!」


 身体にかかる膨大な圧力に、フウタロウが押され出した。彼は顔をしかめながら、ギシギシという音とともに舞台を滑っていく。鉄の入った足袋が火花を散らして、石畳がわずかづつではあるが削られていった。


「ぬおお! まずいっ!」


 とうとう、フウタロウは舞台の端にまで来てしまった。彼は端にある石のわずかな出っ張りを足場にして、なんとかクレイルの攻撃に耐える。顔から汗を吹き出している彼には余裕が一切なく、限界は間近であった。さらに彼が足場にしている石も、いつ剥がれ落ちてもおかしくない状況だ。


「もう限界のようだなァ! はははっ、消えろォ!」


「……もはや、これまで!」


 フウタロウはもはや抵抗することを諦めた。彼はすばやく懐から黒い球を取り出すと、地面に向かってたたき付ける。すぐさま球が炸裂して白煙が沸き上がった。フウタロウの姿は白煙の内に消えて、閃光は虚しく彼の影だけを貫く。


 妨げるもののなくなった光線は、金属的な音を轟かせながらそのまま観客席へと直進した。光は石畳の石や地面の砂を吹き飛ばしながら、距離をまたたく間に詰めてくる。くしくもそのあたりの席にはシェリカたちも座っていた。


「ひえぇ! あかァア~ん!」


「これはだ、だめだわ……!」


「今から防ぐのは無理!」


「くっ、もう私たちは終わりなのか……」


「……仕方ないな」


 シェリカたちがにわかに絶望したり悲鳴を上げたりする中、魔王は目の前の手すりに飛び乗った。銀色の髪と深紅のマントをたなびかせながら、彼は眼下に迫る青い光を確認した。そして薄い唇を震わせるように素早く動かし、息もつかせぬうちに魔法陣を編む。


「守護陣二式!」


 魔王が叫びを上げると、深い闇色の杖から紫と紅の混じったような魔力が放たれた。それはすぐさま薄い銀色の鏡のような膜を造る。蝙蝠傘のごとく一瞬で広がったそれは光の前にふさがり、そのつややかに輝く表面をもって光を上へと弾いた。


 ほぼ直角に打ち上げられる格好となった光は、周囲を太陽のように照らしながら空の青の深くへと消えていった。その光がさながら流れ星のように完全に消えたところで、遥か彼方より音だけが闘技場に届く。その腹を打たれたような音の衝撃は、遠くで起きた爆発の規模を物語っていた。


 そうして光が消えた時、舞台の上にはクレイル以外には誰もいなかった。その代わり、舞台の下に黒い影が見える。その痩せぎすな後ろ姿は間違いなく、逃亡するフウタロウのものであった。


「どうやら逃げたようだな。情けないやつだ」


 クレイルはそう言い残すと、魔銃を担いで舞台から去っていった。彼の厭味な高笑いだけがこだまして、観客や司会の耳に残る。その残響があらかた消えたところで、司会の男が舞台に上がった。


「……しょ、衝撃の結末です!フウタロウ選手の逃亡によりクレイル選手の勝利です!」


 観客席を襲った攻撃により今だ衝撃を受けている観客たち。その半ば呆然としている彼らの間を少し戸惑ったような司会の声が抜けていったのだった……。



 この小説もだいぶ話数が増えてきたなぁ……。私が目標にしてたとある迷宮物の小説の話数を今回で越えました。これは私的には結構感慨深いものがありましたよ。なのでこれを機会に、そろそろ設定をまとめたものを作ろうかと思います。かなりいろいろと増えてきましたからね。


 ただ、設定集を別に作るとパソコンが壊れているためシリーズ機能が使えないので、読者の皆さんが読んでくれるか不安です……。かといって本編に挟むとそれを嫌がる方もいるんですよね。結構なボリュームになりそうですし……。


 本気でどうしたものか……。もし読者の方で意見のある人は感想やメッセで送ってくださるとありがたいです。どうしようか本当に迷っているので……。



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